提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え?   作:夏夜月怪像

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守りたいものがある。

だが、時には守るために戦わねばならない場合がある。
戦いは避けたい……

しかし、戦わねば守れない……。


終わりなきジレンマの下、孤独な狼は疾走(はし)り続ける。

己が信ずる道を、貫くために―――。


26話 : JustiΦ's

オルフェノクだった猪宮忠夫の最期を看取った巧と龍田、三日月たちは、残された僅かな灰を集めた後、猪宮の遺品を捜し、妖精さんたちの協力の下、工廠の裏手に小さな墓を作った。

 

 

《誇リ高キ勇将 猪宮忠夫 此処ニ眠ル》と墓標に刻み、猪宮が提督時代に被っていた軍帽と軍刀を飾ると、巧たちは改めて手を合わせた。

 

 

やがて、立ち上がると巧は龍田にこう告げた。

 

「龍田……妖精や文月たちと一緒に鎮守府を出ろ。千歳たちには先に言ってるから、後で合流出来る筈だ」

 

「フミィ…たくみちゃんは?」

「俺は……ちょいとやることが残ってるからな。そうだ……長月、一つ頼みたいんだが」

「?」

 

 

言いたいことだけ伝えると、巧は春島の執務室へと行ってしまった。

 

「長月ちゃん、何頼まれたの?」

「よく分からない……。ただ、巧の部屋に置いてあるアタッシュケースを持って、駐輪場へ行け……としか言われなかったからな」

 

「でもな……駐輪場に行けったって、見慣れない形のバイク1台しか無い筈だろ?アタッシュケースを持っていって、どうしろってんだか……」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

猪宮を屠った後の執務室。

 

春島は深く息を吐き、昂ぶった感情を落ち着かせようと椅子にもたれ掛かった。

 

「ふー………。まったく…どいつもこいつも……使えねえ雑魚ばかりだ……」

 

 

オルフェノクとして覚醒し、組織に迎えられてから、春島は組織の為という名目で様々な手を尽くしてきた。

企業の利益を上げ、要職に就き、名を売り、時には上司や新入りのPRをするなどの、他人の売り込みという一番嫌いな仕事もこなしてきた。

 

それなのに、自分が最後に目指すべき目標は、どこの誰とも知れぬ反逆者たちによって消された。

 

この時の、全身から炎を噴き出すような怒りを春島は一度として忘れたことはない。

 

 

「クソが……王は俺が成ってこそだろうが……あんな裏切り者どもに殺られる程度の奴を……」

 

 

「なるほどな。要するに、テメェは《スマートブレイン》に拾われた身分だが、王に成り代わろうとしたクチって訳か」

「!」

 

 

振り向くと、巧が執務室に入ってきた。

 

「清掃員……いや…乾 巧……だったか」

「ああ。別段、覚えて欲しい訳じゃねえが、一応礼は言っとくぜ?」

 

相変わらずのぶっきらぼうな口調と態度であるが、それまでと唯一違うのは、その眼の奥に覚悟の炎を宿している点だ。

 

一方の春島は、そういった眼をした存在が大嫌いだった。

それらに出会す度に、圧倒的な力で屈服させ、時には絶望を味わわせ、自分に歯向かったことを後悔させながら排除してきた。

 

だから

 

「……なあ、乾。お前は艦娘をどう思う?」

 

今回も、絶望で苦しめながらいたぶるとしよう―――。

 

「?」

「知っての通り、艦娘たちはかの第二次世界大戦などで活躍し、沈んだ軍艦の魂が人の形を生み出した存在であると言われている………つまり、アレらの姿や力は、自ら望んで得たものではないんだ」

 

それまでの冷淡な目つきが消え失せ、穏やかな表情を見せ始めた。

 

「…つまり?」

 

唐突な展開に戸惑いを隠せない巧は聞き返した。

 

 

「周りの人間たちは、勘違いをしているんだよ。俺がやっているのは、艦娘に対する呪縛からの《開放》だ。知っているだろう?艦娘は人間……それも女の姿をしている。故に、下卑た欲望にまみれた蛆虫が集ってくる。結果、それに対して、艦娘に人権を…などとわめき出す連中が出てくる……その繰り返しだ」

 

「それを終わらせる、手っ取り早い方法があるのに、何故みんなやろうとしない?艦娘は軍艦の残りカス……兵器の延長線だろう?だったら、《ヒトの形》に惑わされないように使う。道具として使い、使い物にならなければ処分して代用品を調える……ただそれだけのことを、何故やらない?」

 

 

政治家の演説のように朗々と語る、春島に対し、巧は一言告げた。

 

 

 

「―――言いたい事は、それで(しま)いか?」

「?」

 

静かに、しかしハッキリと問うた巧は、より強く眼をギラつかせた。

 

 

 

「龍田さーん!たくみちゃんの言ってたアタッシュケース、見っけたよぉ〜!」

 

春島が巧に演説をしていた頃、龍田たちは巧の泊まり部屋に放置されたリュックの中に押し込められていたアタッシュケースを発見。

リュックだけ置いていくのも面倒だったので、リュックに突っ込んだまま長月がリュックを背負って駐輪場へと赴いた。

 

「ご苦労さま。重かったでしょ?」

「まぁ、かなりゴツいからそこそこ…な」

 

アタッシュケースを取り出すと、ケースには《SMART BRAIN》のロゴが刻まれており、その上には『俺がいないとき、どーしてもガマンできないことがあったらケータイで5821か5826を押せ』と書かれた1枚のメモが貼り付けられていた。

 

「ケータイって………」

 

不審がりながらも、龍田はアタッシュケースを開け、中身を確認した。

 

 

「……なによ、コレ……」

 

そこに入っていたのは、折り畳み式の携帯電話とトーチライト、ホルダー付きのデジタルカメラ。

 

そして、大型のベルトだった。

 

「巧ちゃん……貴方、いったい………」

 

龍田が思わず呟いた、その時。

執務室の方向からガラスの割れる音が聞こえてきた。

 

 

 

時は少し遡って、春島の演説を聞き終えた直後。

 

「乾……何か言ったか?」

 

春島が聞くと、巧は答えた。

 

 

「だから……言いたい事はそれで終わりかって聞いてんだよ」

 

言うが早いか、巧は春島に向かって殴りかかった。

 

 

「ッ!!(コイツ……なんて速さだ!)」

 

巧の右ストレートが顔面に来る直前、春島は合気道で往なしつつ、態勢を崩そうと後ろへ退がった。

しかし、巧はそのまま膝を着き、跳び上がる勢いを利用して左アッパーを春島の顎に叩き込んだ。

 

「ッが……!」

「どぉした……見せてみろよ、お前の“本当の姿”を」

 

「ッの……ザコがぁ……!!」

 

挑発を返され、春島は苛立ちを露わにした。

そして、レオオルフェノクへと変化すると巧に向かって剣を振り回し、一気に仕留めようと暴れかかった。

 

長年の戦いの経験を活かし、巧はその力任せな剣戟を全て躱していく。

その流れで、執務室の窓が壊れ、両者は外へ。

 

 

「巧ちゃん!」

「たくみちゃーん!!」

「巧!大丈夫か!?」

 

その時。

騒ぎを聞きつけて、龍田や文月らが来てしまった。

 

それは、巧にとって最悪の展開だった。

 

「ひっ!?お…オバケ……!?」

 

レオオルフェノクを見て、文月は恐怖のあまり固まってしまう。

 

レオオルフェノクは、これを好機と見て、春島の影を浮かび上がらせると龍田に呼びかけた。

 

『やあ、龍田。ちょうど良かった、来てくれて助かったよ。ちょっとそこの反逆者(ゴミクズ)を片付けてくれるかな?』

「嫌よ。私は…私たちは、もう貴方の言いなりにはならない」

 

薙刀を振るい、龍田はレオオルフェノクに刃を向けた。

 

しかし、春島はハッハッハとにこやかに笑うのみ。

 

『君がどうしたいかを聞いてるんじゃない。ゴミを処理してくれと言ってるんだ』

「お断りよ」

『お断りするかどうかは聞いて…』

「黙りなさいよ!」

 

拒否権は無いと言い続けた春島に対し、龍田は強い意思を以て命令を拒んだ。

全ては、自分に正直になる生き方をするために……

 

 

その意思を感じ取ったからであろう、春島は本性でもある感情の見えない冷めた表情に変わった。

 

『……駆逐艦ども。そこのゴミを処分しろ。人間のマネをしたがるゴミと、反逆するゴミだ……殺れ』

 

 

その眼と声……春島の存在その物に対し、文月たち艦娘は支配され続けてきた。

拒めば解体処分されるか、娼婦として売り飛ばされるか……逃げることも許されない、文字通りの囚人か奴隷同然の状態にあったのである。

 

 

『壊されたくないんだろう?さっさと殺れ』

 

怖い……

怖い……!

 

単装砲を持った、文月の手が震える。

 

猪宮のおじさんと同じく、自分に優しくしてくれた巧を殺さねばならない……でも、殺したくない。

 

でも、殺さねば自分が殺される……逃げ場が無い。

 

 

『さっさと殺れよ、クズがっ!!』

 

「巧ちゃん……ごめんなさい!!!」

 

 

これ以上、大切な誰かを傷つけるぐらいなら……そう思ったのであろう文月は、単装砲を自身の首元に突きつけた。

 

 

「なっ……!!?」

「フミ、止めろォォッ!!!!」

 

驚愕する巧、大声を張り上げながら止めようと走り出す長月。

 

「ダメェェェェっ!!!!!」

 

 

これ以上、大切なものを喪いたくない―――

その一心で、龍田はアタッシュケースからケータイを取り出し、巧の書き置きにあった番号《5821》を入力。ENTERキーを押した。

 

 

【AUTOVAJIN COME CLOSER】

 

 

コードを入力した瞬間。

 

駐輪場にポツンと置かれていた、1台のオートバイが独りでに起動し、巧たちの下へと向かって走り出した。

 

「ん……?え!?ちょ、えぇっ!!?」

 

鎮守府の門前で待っていた千歳・千代田姉妹らは、その異様な光景を目撃し。

 

 

さらに

 

「………え?」

 

コードを入力した龍田や、文月たちはさらなる光景を目の当たりにした。

 

 

駆けつけたオートバイが人型に変形、自立し。

レオオルフェノクに向かって突撃、パンチやキックを繰り出し始めたのである。

 

「………」

「なに…コレ……」

 

呆然としてしまった艦娘たちの下へ歩み寄ると、巧は文月の頭を軽くゲンコツで叩いた。

 

「ふみゃっ」

「ったく、ヒヤヒヤさせやがって……。家族を泣かすようなマネすんなっつうの」

 

家族……その言葉に、文月は長月たちを見る。

 

「……う……ふぇ……っ……うわあぁ〜〜ああん!!ごめ…ごめんなさぁあああいっ!!」

 

長月に抱きつき、人目も憚らずに大声で泣く文月。

 

それに対し、企みを尽く潰されたレオオルフェノクは怒り心頭といった風で唸り声をあげている。

 

 

ロボットに変形したオートバイ・SB-555V《オートバジン》は文月らの前に立ち、「手出しさせない」といった様子で立ちはだかった。

 

 

「龍田。ケースん中にベルトとかがあったろ、残り全部出せ」

「え?……う、うん…」

 

何をするつもりなのか、ロボットになったバイクは何なのか……聞きたいことを挙げたらキリが無いのだが、今はとにかく現状の打破である。

 

 

巧はベルトを腰に装着すると、トーチライトを右のサイドバックルに、デジタルカメラを収めたホルダーを左のサイドバックルにそれぞれセットした。

 

そして、龍田から携帯電話・SB-555P《ファイズフォン》を受け取ると、開いてテンキーを《5・5・5・ENTER》と入力した。

 

 

【STANDING BY】

 

 

フォンを畳み、右手に持ち替えると空高く掲げ、巧は叫んだ。

 

 

「変 身 !!」

 

 

ベルト・ファイズドライバーのバックルにインサート、右回りに倒すと全てのコード入力が完了した。

 

 

【COMPLETE】

 

 

バックルに備わった装置を起点に、赤いラインが巧の身体を覆い、やがて深紅の輝きを放った。

 

「っ!………えっ」

 

 

 

光が収まると、そこに乾 巧の姿は無く。

 

代わりに、黒と銀の装甲、赤いラインの走るスーツと『Φ(ファイ)』を思わせるマスクで身を包んだ謎の戦士が、右手首を軽くスナップさせながら立っていた。

 

その姿に、レオオルフェノクは初めて驚愕の表情を見せた。

 

 

『3本のベルトの1つ……《ファイズ》!?何故、それを貴様がッ!!?』

 

「ゴチャゴチャうるせえな……。さっさと来やがれ!」




ちょっと、欲張って詰め込み過ぎましたぁ(;´Д`)

ダルかったらスミマセンですm(_ _;)m


次回、ファイズとバジンたん大暴れですぞいっ!!

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