提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え? 作:夏夜月怪像
ナズェミテルンディスッ⁉
病室に居る筈の少女が消えた―――。
どう考えても、これは只事ではない。
「まさか!?」
名を尋ねたとき、彼女の手は震えていた。
あの震え方は……恐怖から生じたものだ。
かつて、『恐怖』に支配された事のある身だからこそ分かる。
もしかしたら、名を知られてはまずい状況に遭ったというのか……。もしそうなら、うっかり聞かれる事の無いように早まった行為に及ぶ可能性も決して無いとは言い切れない。
(しかし………)
飛び降りたのなら、自分が病室に向かうまでにとっくに騒ぎが起きている筈。
なら、外から身を乗り出して隠れた……?
いや、彼女の衰弱具合を考えると、壁に張り付く体力が保たない筈だ。
「くっそ!」
悔しげに声を荒げると、翔太郎は病室を飛び出した。
………その直後だった。
少女―――漣は、病室のロッカーから姿を現した。
「……まさか、こうも上手くいくとは予想外……でしたわ」
そろりそろりと病室の扉を開けて、漣は部屋を出る。
(あんなカッコつけ野郎だけど………変な奴だけど………)
翔太郎の気取った態度を思い返し、不意にクスッと笑う漣。
「……まあ良いさね。もう、二度と会う事も無いだろうし―――」
「どうやら、そうとも限らねえみたいだぜ?お嬢さん……」
「っ!?」
声のする方へ振り向くと、そこには外へ行った筈の翔太郎が。
「素人にしちゃあ、なかなか悪くないトリックだったぜ。人間心理を突く、的確な仕掛けだ」
そう……
翔太郎の言う通り、漣は
「窓を開け放つことで、相手に『飛び降りた』と思い込ませ…自身は適当に身を隠せる場所で息を潜める。……んで、相手が遠くに行ったところを見計らって、別ルートから脱出する……予定だったんだな?」
漣の脱出計画を推理して、その大まかな内容の確認を漣本人に取る探偵・左 翔太郎。
「…………ッ………」
読みが甘かった……
相手の力量を見誤った……
こんな所、あのクズに見られようものなら、只では済まされない。
酷い罵詈雑言や暴力が振るわれ、仕舞いには周りの艦娘を巻き込もうとするだろう。
「ごめん、なさい………!ごめんなさい………!!」
それを思い出してしまった為、翔太郎に対し、漣は震えながら謝った。
それを目の当たりにした翔太郎は、確信した。
漣の正体……そして、彼女が何故行き倒れていたのか……という、その全ての答えを。
「……そうか………」
漣に歩み寄る翔太郎。
恐怖のあまり、漣はギュッと目を瞑ってしまう。
……しかし。
翔太郎は漣の頭を優しく撫でた。
「ゴメンな……怖かったろ?」
「………え……」
「俺一人が謝ったって、お嬢さんの過去が変わる訳じゃねえけど………でも、せめて今だけは、その怖い気持ちを抑え込まないで、本音を明かして欲しいんだ………」
その言葉が、言葉の温もりが。
今はもう還らない、大好きな『ご主人様』と重なって。
「グス……くすん……ぅう…ふぇぇええ……っ!」
この時……漣は、生まれて初めて、誰かに縋り付いて泣いたのであった……。
ちょっとばかり、強引な展開にしちゃいました(-_-;)
次回、いよいよ事務所に向かいます!!