提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え? 作:夏夜月怪像
極めてハードボイルドな私立探偵だ。
街の夜景を美しく照らす満月が、俺を求めるかの様に妖しく輝いていたので思わずふらりと外に出ていたところ……住民の憩いの場である、公園の片隅に置かれたベンチの上で倒れている少女を見つけた。
幸い、救急車を呼ぶのが早かったおかげで大事には至らずに済んだが………
道行く人を振り向かせる桃色のツインテールに、見るものを虜にしてしまう桃色の瞳をしたその小さなレディは、人には決して話せない大きな秘密を抱えていたんだ………。
「―――って、なぁ〜にをカッコつけとんのかオノレはッ!!」
一人回想に浸っていた翔太郎の頭を、『カッコつけんなや!』という文字がプリントされたスリッパで引っ叩いたのは、翔太郎が営む《鳴海探偵事務所》の所長『鳴海亜樹子』。
「あぃっ痛!?何すんだよ亜樹子ォっ!?」
「やっかましい!!散歩してくるとか言って、何処をほっつき歩いとるのかと思えば!こんな可愛らしい女の子が行き倒れてるのを見つけて、病院に運び込んだって!?そーゆーことは帰ってくる前に、事務所の所長であるあたしに報告しなさいっての!!
文句を言おうとする翔太郎に、亜樹子は翔太郎から送られた漣の写真を突き出しながらガツンと説教する。
「し、しょうがねえだろ!俺だって、結構混乱してたし………」
尚も弁解しようとする翔太郎に対し、亜樹子はまるで仁王像の様な形相で睨みつけながら『口答え禁止!!』の文字入りスリッパを追加。スリッパ二刀流で構えた。
これには、流石の翔太郎もおっかなくて堪らない。
「だあぁ!!わかった、悪かったよ!!これ以上引っ叩かれたら、俺の髪が乱れちまうって!」
余談だが、漣は結局その日は病院に預けて、翌日改めて宿探しを行うことになった。
「えっと……それで?その女の子との話は済んだの?」
「いや……とりあえず、昨夜はそのまま病院に預けてきただけだ。今日の昼頃、また改めて相談しに行くって約束してきた」
ふうん、と相槌を打つ亜樹子の横で、事務所のドアをノックする音が鳴る。
「おっ!翔太郎くん、お客さんみたいよ?」
「おっと……。どうぞー!」
先程の騒ぎを悟られないように、翔太郎たちは周りを簡単に整理して、迎える準備を整える。
「お邪魔しまーす!」
「失礼します」
入ってきたのは、亜麻色の長いストレートヘアにクリクリっとした緑の瞳で、小動物的な雰囲気をまとった黒いセーラー服姿の少女と、長い茶髪を首後ろでまとめた、大人びた女性の二人連れだった。
「初めまして……。私、
「ぽい?」
挨拶をしてくれた小百合を他所に、志穂理は奇妙な反応をする。
「いや、ぽいって……」
あまりに予想外な反応だったので、翔太郎と亜樹子は思わず苦笑い。
それに対し、小百合は頭を下げた。
「すみません……志穂理は、その……ちょっと普通の人とは感覚がズレてると言いますか……天然なところがありまして」
「いえいえ、お構い無く!ウチの探偵もかなりの変人なので!」
「ぐっ…」
(納得いかねえ評価だけど……まずは依頼を伺わねえとな)
私立探偵・左 翔太郎、探偵業の開始である。
次回、いよいよ翔太郎の探偵業開始です!!