提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え? 作:夏夜月怪像
探偵事務所に置かれた《風都鎮守府》。
探偵提督、提督に着任して最初の依頼です。
※少し修正しました。
―――その依頼は、これまでに引き受け、扱ってきた様々な事件に引けを取らない……そして、良くも悪くも忘れられない事件の始まりだった。
「初めまして。えっと……
「
訪ねてきたのは一組の男女で、第一印象は、どこにでも居そうな、ごくありふれたカップルといった感じだった。
公衆の面前でありながら、しっかりと手を繋いでいる事からも、依頼人たちの仲の良さを窺い知ることが出来た………かに見えた。
「もしかして、お二人さんは恋人同士っぽい?」
唐突に夕立が尋ねると、返ってきた答えは翔太郎たちを驚かせた。
「いえ……2日前まで、お互いに名前も顔も知らない、赤の他人でした」
「ええぇぇえッ!!?」
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依頼人の名は『津島狩 幹雄』。風都市内にある、数少ない自動車整備を営む会社『風都モータース』に勤務する、入社2年目の若手社員。
連れ添っていた女性『水面川ゆかり』は、1ヶ月ほど前に風都へ引っ越してきた新卒者で、就職活動していた所で今回の事件に巻き込まれたとの事だった。
「それじゃあ……改めて。今の状態に至るまでの出来事について、詳しく聞かせて下さい」
「はい……」
―――事の始まりは、2日前。
いつもの様に仕事を終えた津島狩は、翌日が休みということもあって、ファミレスでのんびりと時間を潰していた。
そして、そろそろ家に帰ろうかと店を後にした……その時。
「キャアアッ!!」
「へ?――うわっ!?」
近くを通りかかった水面川が、いきなり津島狩に『引き寄せられ』て密着。
幸い、どちらにも怪我は無かったのだが、問題はその後だった。
「…ん?あれ……」
「えっ……ちょ、な…何……!?」
……離れられなくなってしまったのだ。接着剤で貼り合わせたかのように。
「嘘ぉ……」
話を聞き終え、瑞鶴は思わず本音を洩らした。
出会い頭にぶつかって、それ以降離れられなくなる……そんな話、聞いたことが無い。
耳を疑っている瑞鶴の反応は当然であるし、こんな冗談みたいな話を信じるものは基本いないだろう。
しかし……どんな悩みであろうと、頼ってきた人の話を聞くのが、この探偵事務所のスタイルだ。
だから、漣と夕立はまず、津島狩と水面川の『繋いだ手』に注目した。
「ぱっと見だと、ただ手を繋いでる風にしか見えないっぽい」
「えっと……。最初にぶつかったときは全身で密着したので?」
漣の質問に、津島狩は「あ…はい」と答える。
「変な誤解を与えるとマズかったし、急いで離れようとはしたんですが…その…右手だけは、どう頑張っても離せなくって……」
「私も、津島狩さんにぶつかる前、左手に妙な違和感があって……くっついてしまったのはそのすぐ後でした」
「フム……」
考え込む翔太郎であったが、津島狩は深く頭を下げた。
「お願いします!!彼女を……水面川さんを助けて下さい!!」
「おぅっ?」
その必死な様子に、思わず驚きの声をあげる亜樹子。
「実は俺、婚約者が居るんですけど……コイツが変な誤解を持ってしまったらしくて、水面川さんに嫌がらせをするようになってしまったんです!いくら話をしても聞く耳を持ってくれないし、このままじゃ、水面川さんが体を壊してしまうかもしれない……!!」
「津島狩さん、私は大丈夫です。むしろ、貴方の方こそ……」
そのやり取りだけでも、二人とも誰かの痛みや苦悩を受け止め、思いやることの出来る優しい人達なのだと理解出来た。
「……分かりました。その依頼、お受けします」
「提督!?」
翔太郎の承諾に、摩耶は驚きの声をあげた。
明らかに普通じゃない、異常な案件に対し、何故受けようと思えるのか。摩耶と瑞鶴には信じられなかった。
「津島狩さん、水面川さん。お二人の手を無理に縛り付ける、その結び目は必ず俺たちが解いて、誤解と苦しみからだなと開放します」
「あ……ありがとう、ございますっ!!」
「よろしくお願いします……!」
《探偵提督》左 翔太郎、捜査開始である。
望まぬ結びつき、果たしてその正体は?