提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え? 作:夏夜月怪像
とゆー訳で、張り切って参ります!
「では、改めまして。私が、所長の鳴海亜樹子です!それから、こっちが……」
「探偵の左 翔太郎です、初めまして」
自己紹介もそこそこに、二人は白川母娘を応接間へ案内する。
「それで……今回は、どういったご要件で?」
亜樹子にお茶を淹れてもらい、差し入れる翔太郎。
しばらく俯いたまま黙り込んでいた白川夫人だったが、やがて口を開いた。
「実は……主人が行方不明になってしまって……。探偵さんに、捜索をお願いしたいのです」
「ご主人の?」
「志穂理ちゃんのお父さん、ですか?」
翔太郎と亜樹子の問いかけに、白川夫人は小さく頷く。
「主人は、都内にある海軍兵学校の教官を勤めておりまして……士官候補生や、艦娘と呼ばれる女の子たちからも大層慕われていたとか」
「フム………」
―――その後、白川夫人からご亭主・「白川
ぱっと見た様子だと、父親の行方不明について何も感じていないのかと思われたが、第一印象で相手の心境を決めつけるなど、ハードボイルドな俺は決してしない。
だから、不安を煽らないように話しかけることにした。
「お父さんの事は心配しないで。俺が……いや、俺たちが必ず君のお父さんを見つけてみせるよ」
すると、翔太郎の言葉が嬉しかったのだろう。
「探偵さん……ありがとう!」
可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「……分かりました。依頼の件、承りましょう!」
「え?い、良いんですか!?その……調査期間とか、前金のお支払いとかの相談は…!?」
慌てふためく白川夫人に対し、翔太郎はそっと語りかけた。
「探偵を頼る依頼人はみんな訳ありだ。細けー事を一々気にしてたら、探偵なんか出来ねぇ……」
「えっ………?」
「ぽい?」
首を傾げる二人に、翔太郎はフッと柔らかな笑みを浮かべる。
「―――俺が尊敬する、先代の受け売りですよ。安心して下さい!必ずご主人を見つけ出して、お二人の下へ連れ戻します!」
「……ありがとうございます……!どうぞ、よろしくお願いいたします……っ!!」
その言葉がよほど嬉しかったのであろう、白川夫人は涙を流しながら深々とお辞儀をした。
情報が集まり次第、改めて連絡をする約束をして、その日は二人を見送った。
「なんか、不思議な感じの娘だったね?志穂理ちゃん」
「確かにな。………けど、ま。しょうがねえんじゃねーかな?大好きな親父さんが、突然居なくなっちまったんだ……行方不明だっていう事実に対して、実感が湧かないのか……それとも………認めたくないから、なのか…………」
「うーん……きっと、すごいショックだったんだろうね……」
「―――実に興味深い」
その時。
カーテンの奥から声がしたと思えば、そこから1冊の本を手にした腕が伸びてきた。
「おっと……悪いな。起こしちまったか?“フィリップ”」
謝る翔太郎に、フィリップと呼ばれた主は朗らかに返した。
「問題無い。僕もちょうど目が覚めた所だからね。それより……君が帰り際に遭遇したという少女……。非常に興味深い存在だ」
「へ?何何、どーゆーコト!?」
話が見えない亜樹子はズズイっと詰め寄る。
「さあな………。いずれにしろ、白川さんたちもあの女の子も、まとめて救って見せるさ」
「えぇ〜……そう言って、まぁた失敗するんじゃないのぉ?」
ジトーっとした目を向ける亜樹子に対し、翔太郎はムスッとした顔になる。
「またとは何だよ、またとは!!―――何度も言ってるだろ?この街は俺の庭だ。行方不明の男一人ぐらい、あっという間に捜し出して見せるさ」
ハッハッハー!と高笑いをするなど、ハードボイルドの欠片も無いような態度に呆れつつ、亜樹子は翔太郎を見送るのだった。
「……どー思う?フィリップくん。あたし、今回もあの半熟男はしくじると思うんだけど……」
「……相棒として、弁護したい気持ちが無い訳でもないが……亜樹ちゃんに同意見だね」
そう。
ハードボイルドを謳っているのは、あくまで形や振りだけ。
実際の左 翔太郎は、些細な事でムキになったり調子に乗ったりと、とてもハードボイルドには程遠い…“ハーフ”ボイルドと言われ続けているのである。
「何か、良からぬことに巻き込まれなければ良いんだが……」
残念ながら、フィリップのささやかな望みは、時を待たずして呆気なく消えてしまうのである……。
次回、翔太郎の探偵業・捜査と漣との再面談が行われる……ハズ。
何か、良からぬことが起きそう?!