提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え?   作:夏夜月怪像

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僕は時雨、世間一般の言葉を借りるならブラック鎮守府と呼ばれる汪曲刻鎮守府に所属する駆逐艦娘だ。

遠征任務から戻る途中、不思議なパスケースを拾ったのだけど、それから鎮守府に戻ってすぐの事。
今度は、自分を未来から来たと言う謎の影《イマジン》と遭遇。彼(口調と声音から察するに、恐らく男性だろうと思われる)が言うには、僕に接触してきたのは僕の『望み』を聞き、契約を交わす事らしいが、果たして………。


54話 : 願い、聞き届けたり!

時雨がイマジンと改めて話をして、モモタロス達がゲンさんから鎮守府周辺の街で起きている問題を聞いていた同じ頃の事。

 

 

「っ!」

 

鎮守府敷地内に、黒塗りの高級車……ロールス・ロイス・ファントムⅦが進入。本部玄関前に停車すると、後部座席から軍服姿に似つかわしくない雰囲気を漂わせた男が姿を現した。

 

執務室の窓から様子を眺めていた陸奥は、苦々しい顔で呟いた。

 

「相変わらず、金使いの荒い男……」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

汪曲刻鎮守府提督・片倉中佐。

 

 

元は大本営政府直属の中堅将校であるのだが、軍営資金の不正受給やそれを利用しての支援を受けている各企業団体への賄賂。さらに艦娘を『密売』するなど、外道極まり無い悪業が次々と露呈。真っ当な人間であれば、軍法会議に架けられ、有無を言わさず軍籍剥奪、厳正な処罰が下されるべきと思うだろう。

 

 

それが、「少将」から「中佐」への二階級降格と左遷のみという、素人目にも「軽過ぎる」罰で済まされた主な理由として、片倉が備えていた『保険』が挙げられる。

 

早い話、連邦政府や各組織の幹部の中に、片倉から賄賂を受け取り、同時に弱みを握られている連中が数多く居たのだ。

 

 

この男、欲に溺れているだけの無能かと思いきや、自身がより多くの利益を得るために必要な最善手は何かを見出す悪知恵だけはあったらしく。連中が『最も困るもの』を奪い、時には脅しの材料として利用し、資金を得るだけでなく、自身が逃れる為の囮に使うなど、文字通りやりたい放題をしていたのである。

 

そして、そんな事にも気付かず、片倉のバラ撒く金という名の餌に食いつき、まんまと私兵に成り下がっているのが、当鎮守府でイナゴかアリの群れのように集っている現在の憲兵達なのだ。

 

 

 

「おい、戻ったぞ」

「お帰りなさい……『ご主人様』」

 

不躾な呼びかけに対し、不快感を抱きつつも堪えながら応じる陸奥。

 

「まったく……酒か茶の準備すらしてないとか、ホンット鈍臭えな?ええ、ムッチリさんよぉ!」

 

ドッカリと執務机の椅子に座ると、わざとらしい言い間違いをしながら、左側に立つ陸奥の尻を叩く。

 

「きゃっ!」

 

「……ったく、資材も全然足りてねえし。こりゃあ遠征部隊24時待った無しだな…つか確定だわ、カクテー」

 

 

「………ッ」

 

まただ……

 

また駆逐艦を始めとした、多くの艦娘を道具のように扱う……

 

「今日は……お、昼間の分、時雨が出てたのか。ラッキー、編成を組む手間が省けたわ」

 

 

艦娘の自主性を尊重する……その一言だけを理由に、片倉は鎮守府内のあらゆる業務を丸投げしていた。

しかし……「自主性を尊重する」と言っておきながら、一度編成した艦隊はどんなに疲労困憊していようと、ボロボロになっていようと入渠や補給は勿論、一時の休息さえ許さなかった。

「一度組んだ艦隊は、出撃したら“最期”まで責務を果たせ。途中で撤退したり、貴重な資材を使うことは許さない」―――

 

艦娘に対する片倉の考えは、他のブラック提督と大して変わらない。『道具』としか見ていなかったのである。

 

 

 

 

『そんな……なんと非道な……っ』

 

一方、時雨から鎮守府内の現状を聞かされたイマジンは、顔を片手で覆いながら嗚咽をあげた。

その様子を見て、この影は悪い人(?)ではないと時雨は確信。

 

話を聞いてもらった以上、こちらも求めに応じなくては筋が通らない。

 

 

「……あのさ。『望みは無いか』って言ってたよね」

『?……シ、シカり』

「一つ……大したことじゃ無いんだけど……」

 

 

 

「時雨ー。お風呂空いたよー?ちゃっちゃと入って……」

 

 

「……え??」

 

 

風呂から上がった白露が目にしたモノ。

 

それは、一言で表現するならば鹿(シカ)だった。

 

だが、鹿と思しきソレは鎧武者のような形をしており。

人相は鹿の頭部を模した兜を被ったドクロの様で、後頭部にはブドウの様な飾りが一房備わっている。

 

肩掛けも左右それぞれがブドウの葉に似た形状で、背中には戦国武将の様に旗を挿して、礼儀正しく正座をしていた。

 

 

「えっと………え??」

 

目の前で何が起こっているのか、戸惑いを隠せない白露を他所に、時雨と出会い、彼女の望みを聞いたイマジンは『契約』を交わし、実体を得た。

 

 

その望みとは

 

 

「僕は今日、死ぬと思う。だから……僕が居なくなった後、僕の代わりにみんなを守ってくれるかな」―――

 

 

自分の為ではなく、自分が守りたい、大切なみんなの為に……

怖くない訳が無いのに、大切なものを守るために自分を犠牲にしようとする時雨の心に、イマジンは深い感銘を受けると同時に、時雨の望みを「破る」と密かに誓った。

 

何故なら、自分が守らねばならない「みんな」の中には

 

 

「“我が主”の願い、聞き届けたり……!!」

 

 

「仕えるべき主」が居るのだから。




ハイ、どうにかギリギリ山場一つ目を書き上げることが出来ました(ヽ´ω`)

構想はボンヤリとあるのに、何度もあーでもないこーでもないと練り直しを繰り返し、やっと年越しの前に出せましたぁ………
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