提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え? 作:夏夜月怪像
そんな6話目です。
行方不明の家族を捜して欲しい―――その依頼を受けた横で、《探偵》左 翔太郎は行き倒れていた《艦娘》の少女・漣を引き取ることにして、一旦鳴海探偵事務所へ戻った。
「此処が、半熟どんの仕事場……」
「半熟どん言うな。仲間に説明してくるから、ちょっと待ってな?」
「説明って……漣のコト、話すの……?」
漣の不安げな顔を、翔太郎は見る。
当然と言えば当然である。
翔太郎も聞いたばかりの話だが、艦娘を指揮する組織《鎮守府》の管理・運営をする提督や、それらを直轄管理する《大本営》と呼ばれる総司令部に居座る上層部の一派が、艦娘の力を怖れるあまりに人外という認識を大衆に植え付け、艦娘に対して非人道的過ぎる行為を重ねているというのだから。
「……大丈夫だ。俺の仲間は、そんなつまらねえ事を気にはしねえさ」
「でも………」
「良いから。いざって時にゃ、俺が体を張ってでも守るさ」
「………うん……」
小さく頷く漣を見て良しとした翔太郎は、事務所のドアを開けた。
「おいフィリップ、亜樹子!ちょっと良いか?」
「何何?今度はどうしたのよ、翔太郎くぅおわあぁあおっ!!?」
何事かと顔を出した亜樹子だったが、チラッと見えた漣を見て面白い声をあげた。
(っ……やっぱり、漣は……)
拒絶される―――
そう思い、ぎゅっと目を閉じた…その時。
「カワイイぃぃ〜っ!!!天使や、天使が降りてきたぁぁあっ!!!!」
黄色い声があがった。
「………ほぇ?」
「ちょっとちょっと、翔太郎くん!!例の美少女を連れてくるとか私、聞いてない!!」
「っ……そういうリアクション取ると思ったから、まず話をしようとだな……」
「よろしい!!所長権限で、その娘の下宿を認めちゃいます!!認めまくりますッ!!!」
心なしか鼻息が荒い気もするが、気のせいだろう。
翔太郎はそう思うことにした。
「い…良いの……?」
「ああ……所長が許可を出したんだ、遠慮は要らねえよ」
「………っ…ありがと…ホントに、ありがとう……!!」
漣は、笑顔になりながらも涙を溢れさせた。
「よし!じゃあ、早速だけど夕飯の買い出しに行かなきゃだね?えっと……そうだ!私は鳴海亜樹子。貴女のお名前は?」
「漣…です、所長サン」
自己紹介をする漣に、翔太郎が一言。
「ああ、漣。そいつは亜樹子って呼び捨てで良いぞ?」
「ちょっ!!漣ちゃんの前で、その態度は無いでしょお!?」
「うるせぇな!ここぞとばかりに威張るなっての!大体なんだよ、所長権限って!?初耳だぞ、んなモン!!」
「なによぉ!!」
「………」
その騒がしさは、かつて漣の過ごした赤塚鎮守府の面影を少しだけ感じさせた。
「…エヘヘ♪漣、着任させていただきますゾイ♪」
そっと呟き、敬礼して見せた。
その後、翔太郎は漣を連れて買い出しに行ったのだが、その帰り……事態は急変する。
「誘っておいてなんだが……ホントに良かったのか?」
「もぉ〜、今更何を言うとですかぃ?ご主人様は漣を迎えたんですから、もっと堂々としていてもらわなきゃ!そんなんじゃ、半熟どん卒業は出来ませんよー?」
「だから半熟言うなッ!!――ん?つかお前、今何つった?」
あまりにさらっと呼ばれたため、翔太郎は耳を疑った。
漣は自分を何と呼んだ?
聞き違いでなければ、彼女は自分を『ご主人様』と呼んだ。
「半熟どん」
「ちげーよ!その前だ!」
そこまで言われて、漣は「あっ…」と思い出し、頬を少しだけ赤らめる。
「ご主人様……そう呼んじゃダメすか?」
メイドでも、主人でもない。ただの行き倒れの艦娘と拾い主の探偵……それだけの関係。
しかし、不思議と悪い気はしなかった。
「……好きにしな」
そう告げた翔太郎は、最初に漣を受け入れた時と同じく微笑んでいた。
『イイな〜』
「えっ…」
「ッ!?」
『にっこり笑顔、イイなぁイイなあ〜〜〜?』
その時。
二人の前に、のっぺらぼうの顔をしたピエロの様な外見の怪人が不気味に頭を揺らしながら現れた。
「な…なに………!?」
明らかに深海棲艦と異なる、その不気味な姿と気配に漣は怯える。
それを庇う翔太郎は目を逸す事無く睨み返す。
「何者だ?テメェ……」
その不気味なピエロは、表情の無い顔でクスクスと笑う。
『さあ、ステキなパーティーを始めましょ?』
いきなりネタバレにしちゃったか……?
だが後悔はしていない(震え)