UMP45と404小隊と、茶トラ猫   作:水崎涼

3 / 5
9

 

 

 

 404小隊は、極めて高い任務遂行率を弾き出す。知る存在を排除し続け、すべての汚点を背負い続ける。

 その事実こそが、私達が生存していられる理由だ。

 ではなぜ、私達は通常の戦術人形以上をこなせるのか。

 私の場合、グリフィンに納入されるI.O.P.社製戦術人形とは仕様が異なっており、それこそがUMP45の凡愚の理由ではあるが、代えて得た力である‥‥‥というのは、要素の話。

 私は、隊全員の執着故だと、断言する。

 

 

 

 通常型の戦術人形主機は、戦闘経験やメンタルマップの基本データをバックアップとして基地に残すことができる。限度はあるが、こいつさえ残っていれば、主機のコアがぶっ壊れても。

 体が『死んで』も『復元』できる。

 戦場でミスしても従機を盾にすればいいし、保護をかけておけば本来の意味で死ぬ事はない、「前の体」の痛みすら覚えていることはないという、軽い意識。所詮は兵器消耗品、人類の言いなりであるという事実と自覚。

 

 

 

 でも私達は。

 存在を認められない。

 

 

 

 だから、バックアップがない。正しくは、自らの命を託せる組織や設備がなく、バックアップを取る気もない。

 死んだら、そこまで。

 生きていたってろくでもないが、これ以上の喪失が、仲間を失い家族を失い、行き場を失い居場所を失い、絶望の中で自らも死ぬ終焉が私達は怖い。だから、オーバーロードしてでも性能を引き出し、生き残る為の最善を尽くすようになる。

 しかし、それをしたって出来ない事はある。私達は機械製品だ。どれほど訓練したって、性能限界に行き当たる。.45ACP弾が重装甲を撃ち抜けないように。

 悪名高き404小隊様は精兵も真っ青のエリート集団、そんな弱者とは縁遠いだろうって?

 まさか。

 

「その子、まだ起こさないでね」

「あなたはG11に甘いわ」

「歩く速さも歩き方も、皆それぞれに違うのよ」

 

 蹴りを見舞いそうな様子の416を諭すも、彼女は不機嫌一杯。安らかに休眠モードに入っているG11を睨んでいる。

 この404小隊にいる感情過激派と寝落ち観測手が、引く手数多の精鋭なものか。404小隊こそ、個はたいしたことがない。

 みんなどこか欠落し、壊れて、それが為に得意分野も霞むほどの弱点を抱えていて単独遂行能力が低い。私で言えばネットワーク戦技能を持つという強味があるが、メモリが圧迫された為に上級射撃管制システムを持たず、要するに射撃が下手糞である。かように、単独では無能を誹られかねないほど、出来る事は少ない。

 しかし、だ。

 それぞれが演算を合わせ、背後を気にせずに向かえるようにするならば。

 力を合わせる行為に、資格や強さなんていらない。必要なのは力を合わせようとする意志だけであり、うちの小隊員は無自覚でも理解している。皆が貸してくれる力を、私がまとめる。個では弱くても、譲り受け借り受けた力を合わせて戦う。

 もちろん、四人揃ってやっと一人前であるから、ホンモノのエリート様には負ける。しかし、不足ない程度の総合性能を小隊として発揮できているからこその、今日までの結果だ。

 

 

 

 それで、十分だ。

 

 

 

 強さを求めて一人苦しみもがき、届かずに泣き崩れる必要なんてない。あの辛さを、同じ境遇の隊員に与え求める気はない。

 大丈夫だ。私は考えうる限りの失敗を経験し、正しい選択の仕方を貰い、私と言う資質がどこまでできるかを見てきた。一人では歩くこともままならないほど傷ついている奴がいる時、歩き方を知っている奴がどうすればいいかを、私は知っている。

 私が、道を開く。

 私を信じて付いてきてくれればいい。

 それと今一つ。共通項を持つ者が傍にいるという安心感が与える影響は、極めて大きい。いわば士気だ。やる気を出した軍隊は、とにかく強い。ことに、404小隊以外にはもはや行く場所もないという背水の陣、実家防衛戦。家族を守る為には、家族と共に生きる為には、自分も生きなければならない。窮鼠達は虎をも咬み殺す。

 404小隊は強い。

 だから私達は。

 今日も、生きていられる。

 

「~♪」

 

 棒バランスの要領でUMP45を弄びながら、鼻歌交じりに夜の星空を見上げてみる。

 楽しいから。というより、まぁ、この話はいいや。

 二日前は任務に振り回されたが、学習した以上、今回は手早くできた。任務目標及び事前情報が精確であるならば、12時間という作戦時間猶予を設けられていても、6時間もあれば果たすのが私達。

 

「45姉、お待たせ」

「おかえり、9」

 

 最後の待ち人、9の帰還を確認して、私は銃器遊びをやめる。

 9は挨拶もそこそこに、何がそんなに楽しいのか笑顔をキメて、寝袋にくるまっている11を見つけて頬を引っ張りに入る。起こされた11はとても嫌がっていた。十分量寝かせたし、11の充電はもういいでしょう。

 私は隊員三名の顔を順繰りに確認して。

 

「さ、今日はどうしようかな」

 

 グリフィンに顔向けできるだけの働きは済ませた。

 残りの6時間で、私達の存在価値を増やす為に戦利品を求めるか。それとも、派手にしすぎて面倒を増やさないよう自重するか。ここのバランスが大事である。

 では隊内で相談、とはならない。戦果を求める416は断然任務継続派、惰眠を求める11は断然休憩派。9は自己主張せず私の意見を追いかけるので、小隊長権限を振りかざしても多数決を取っても、私の匙加減次第という結果になる。いつも。もう暗黙の了解。

 命綱を握っているUMP45に反するようなことをすれば自分が死ぬから。という打算でもあるだろうが。

 9が私の発言を遅しと待っている。416は睨んで待っている。11はなるようにしかならないと諦めているが、やっぱり待っている。

 私は。

 任務に悪影響は、出さない。

 仕事は、仕事。

 私情は、私情。

 私情は、無駄。

 無駄は、排除。

 それが。生き残る為の。

 

「取れるものもないだろうしね。ポイント308へ移動して仮設飛行場の安全を確保、全周警戒という名の休息といきましょう」

 

 方針に、11が目をきらっきらに輝かせる。寝ていいと言われたのだからうれしかろう。が、私が目を向けると、慌てて引っ込めた。私事ならまだ絡むが、私は11に相当怯えられているのである。こればかりは私の過去の所業と、変更する気のない態度故。怖がってもらえるうちが花、でもある。

 416はあからさまに不快を示した。でも、あなたがどう思おうと、変わらない。最終決定権は私にある。

 私が休憩と言ったのなら、それ以外にはならない。

 

「45姉。W06の再探索とかはどうかな」

「‥‥‥、W06?」

 

 思わぬ反旗に困惑、は表には出さず、それでも驚きを胸に私は9に向く。捕虜尋問中でさえ笑っている9の、眉を落とす顔があった。

 W06。現在位置のW07に隣接するエリアで、境目は今いる標高300メートルの山。山中行軍など戦術人形にとっては大した労力ではない。時間もたっぷりあるし、足を延ばしてみる選択肢は、あるなしの二択ならアリではある。

 W06。

 2日前に一度探索した場所。

 糧食の中身を捨ててきた場所は、この山を越えた所にある。

 私は。

 

「二日前の探索では確かに、想定していた収穫を得られなかった。でも、なくて当然の環境だったわ」

「ほ、ほら、十分に探索していない場所があるよ」

「見るべき場所はすべて洗ったわ。9には、どこか当てがあったりする?」

「それは、ないけど。何か見つかるかも」

「鉄血からの発見リスクが上がる。無駄足は嫌いよ」

 

 そう。無駄だ。

 無駄は。

 

「‥‥‥45姉。なんだか、頑なだね」

「ふらふらしてたら隊長は務まらないもの」

「今日は特に、だよ」

「不安に思うところもあるでしょうけど、私を信じて付いてきて」

「いつものごとく?」

「えぇ、いつもの通り。脅し」

 

 脅迫用のにこやかな表情で返す。

 私の仲間になるなら面倒を見てやる、死にたくなければ付いて来い、自分が助かるついでに生を享受させてやる。味方として生きるか、敵として死ぬか、選択肢を二つも用意してやる。選択肢があるなんて、幸せな事だ。

 もっとも、9達を切る必要が出たならば、私は切り捨てるが。

 気分の悪い行為に違いないから、そうならないように努めてはいる。

 

「うん、信じてるよ」

 

 言葉とは裏腹に、9はなお納得がいかなかったらしく、眉を落としてみせて。

 そして、何かを決して、軽く身を乗り出してきた。

 

「45姉」

 

 左右対称の目の傷跡が、鏡合わせのように面と向かう。

 9は私を信頼して、従ってくれる。11や416のそれとは一線を画す、格別な扱い。見事な従僕っぷりで、作戦目的や行動理由を聞こうとしてこない。9が生きる理由の過半が『ここが最後の居場所、最後の家族だから』ね。9は、枠を壊したくないのだ。

 でも、疑念くらいは持つ。

 

「私達を近づけたくないのかどうか、私にはわからないけど」

「9」

「私はずっと、45姉に付いていくからね」

 

 小隊長が出した待機命令に異を唱えての発言なのに、9も滅茶苦茶な事を言う。

 いや、これは再確認か。それは45姉が本当にやりたい行動なんだね。どんな指示でも聞くから、好きな事をしていいよ、私は何でも賛同するから、と。9が私に従うが為に、私の意見は100%通る。気を回したのだろう。仕事人である11や416だったらこの通り、たまに416が吠えるが、決定が出たらただ沈黙する。

 9。

 あなたは普段イエスマンのくせに、ふとした時にそういう事を言うから、怖いのよ。

 でも、ほとんど無条件に付いてきてくれるのは、気分が楽になる。私が私を保てるのは、9あってこその面がある。

 移動する空気に傾き始めて、11が天を仰ごうかとしている。寝ぼすけは今は益にも害にもなりそうにないので、私は不機嫌を隠さない416へ視線を配った。

 

「最高に不愉快な気分だけど、一応聞くわ」

「生きてると思う?」

 

 誠実なる416は、本当に9に話を漏らさなかったらしい。事情を知らない9は何の話かと、きょとんとしている。

 416はわずかに目を細めた。

 

「生きなければ、死ぬだけよ」

「‥‥‥」

「そう、あなたには教わったつもりだけれど」

 

 そして死の先には、何もない。

 そうだ。

 価値のない人形と見られる痛みがどれほどのものかを、異物として孤独に在る痛みを、私達は知っている。その中で差し伸べられた手の、存在を認めてもらえる暖かさを、同じ境遇に立たされた者と手を取り合える喜びを、私達は知っている。

 死にたいのか? あの痛みを、気を許した奴に与えたいのか? 非力無能を誹り、仲間外れにして、背負いきれない運命を無理矢理押し付けるのか。

 違う。

 私は、無駄をしないのではない。

 無駄を排除することが、生きる為に正しいと思ったから、している。

 正しいと思った事を、するのだ。

 私は416から9へと視線を戻し、小さく小さく、息を吐く。

 

「私の理念は、全員を救えやしない、よ」

 

 そして、正しい選択をする事。

 正しい選択とは。私が望む結果が待つ方であり、そこへたどり着く正しい手段は、時に自らも身を切る必要のある、私が最も辛いと感じる方の手段だ。試練を乗り越える為の正しい選択は、いつも私が辛く感じるほうにある。

 上にある良質な結果を掴みたいならば、足元に代償を積み上げろ。仲間や、家族だって積み上げろ。汚泥を浴び、廃油を啜り、畏怖され嫌悪され、苦痛を纏う。その辛さを踏み越えて、私はようやく、正しさを選び取り生きる事ができる。

 こんな馬鹿は、私一人で十分だ。

 正しい選択を、しよう。

 あの404小隊長が、犬猫ごときで部隊を動かすのか。そう、失意の目を向けられる可能性がある。失望は、疑念を経て不満へ。最悪、皆が私を見限る契機になる。ようやく気を許せた奴らが、だ。痛手どころの話ではない。一方で、賛同を得られるのならば、これ以上ない協力を得られ、喜びがある。

 私が一歩、苦痛と恐怖を乗り越えれば、良質な結果に届きうる。

 だから。これは正しい。

 正しい選択を、しよう。

 

「ある人物が、およそ40時間前にW06で発見された小動物を探しているの。緊急性、重要性、危険性いずれもなし。404への依頼としても渡されていない事項よ」

 

 捨てられた奴に手を伸ばし、私という頼る場所を与えて、生きてもいいと囁く。チャンスを与える。あの猫には、まだ答えを聞いていない。

 ある人物は三人を睥睨しながら、相当に卑怯な言い回しで続ける。

 

「いつもの『楽しくない任務』とは無縁だけど、時間が余ったからね。暇つぶしに行ってみる、という選択はありでしょうと私は考えている」

 

 時間が余るよう最大効率で配置し、この一時集合地点を隣のエリアに近づけた元凶は、続ける。

 

「もっとも、行く必要性も否。だから、判断を個人に任せる。参加意思がある人だけを連れて行く。不参加者は飛行場で寝てていいわ、後で合流しましょう。では。この遠出に賛成の人は、挙手をして」

 

 適当に理由を付けて隊員を待機させ、一人でも行く気満々であった戦術人形が、まずは肩くらいの高さまで手を掲げた。

 私の方針に、9は喜色で追従する。

 416は不機嫌をかなりの度合い引っ込めて、手を上げる。

 そして11も、気だるげそうに、しかし一番きつい視線を持って賛成意思を示した。

 

「45姉が行くなら、もちろん!」

「方針に異議はないわ」

「他にやることもないし、いいよ」

 

 満場一致。

 一息をつきたくなって、堪えて。

 感情を隠す。

 毅然と立つのが、小隊長としての正しさだから。

 

「やるからには、遂行する。全員、戦術地形情報を出して」

 

 猫と別れる時に、あらかじめ保存していた座標データを読みだして、三人に送付する。

 

「最終発見報告は43時間29分前。場所はポイント332、17-04。この地点から、最寄飛行場までのラインを中心に捜索しましょう」

「捜索対象は何? 45姉」

「左前脚を負傷した、野良の茶トラ猫よ。ほかにも負傷生物を発見したなら、連れ帰ってもいいわ」

 

 猫の10匹20匹分重量が増えたって、輸送ヘリは墜落などしない。

 ここまで来て、シークレットである依頼主やその事情周りを察したようで、9は張り付けている笑みを深くして私を見てくる。45姉も好きだねと言いたげである。示した座標は、私が前回探索担当した場所であるからして。

 無論、私は無視して平坦に続けた。

 

「私を中央に、9は後列右、416は後列左。11は隊から分離して、視界を確保して観測に入って。場所は、そうね」

「08-05でいい? よさそうな所がある」

「えぇ、頼んだわ。傍受監視もお願いね。撤収は、当初の予定通り308から時刻通りに行う。残りは、追って指示を出すわ」

「遅れたらみんなでピクニックだね!」

 

 9がばっと声を上げる。ヘリで帰れないなら、最寄りの基地まで徒歩で帰るまでである。降りかかる脅威を自力で排除しようとしない無能は、この404にはいない。

 意味もなく見捨てる行動を、正しさとする奴は。

 404小隊には、いない。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。