UMP45と404小隊と、茶トラ猫   作:水崎涼

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 並の人間歩兵では侵入できない場所でも、物資さえあれば頑強な体で長時間活動できる。それが戦術人形だ。

 私達は、山頂を越えてW06エリアに侵入した。ここで11と416とは一旦別れ、まずは私と9で先行偵察に下山していく。観測位置まで遠いと11が駄々をこねたので、道中護衛を兼ねて416におんぶさせて運搬である。

 私は、昨晩学習した知識を引っ張り出す。

 猫はおおむね半径500メートルに渡る自分のテリトリーを持っていて、これを遵守する傾向があるらしい。この数値は市街地の場合であり、山育ちならテリトリーは広がるだろうが、捜索範囲はかなり限定できると見ていい。発見場所から800メートル離れた場所には放棄された飛行場があり、そこが猫の活動拠点と思われた。

 また深夜帯は、猫は起きてこそいるが活動を縮小させるという。明朝になるまでは、変に動き回られないで済むということだ。

 動かないなら動かないで、潜伏する狙撃兵と変わらないわけで、こちらが探知しにくくなるが。あの様子ではタップダンスは踊れないだろう。

 9と二人で安全を確保。ハンドガン戦術人形ほどの偵察能力はないが、鉄血の活動は確認できない。

 

「復路を考えると、捜索可能時間は上限3時間かな。一山を探すには全然足りないかも」

「言ったでしょう。暇つぶしだ、って。もとより期待はしていないわ」

 

 そうだ、私は期待なんてしていない。

 

「でも、見つけたいよね。G11も416も、そう思ってるから参加したんだよきっと」

「姥捨てられるのが嫌だったのよ」

 

 にこやかな9に、ついと返す。私は、期待なんてしていない。

 健脚で戻ってきた416を再編入して、私達は二つ目の山に向けて進軍を再開した。今度は山頂まで行く必要はない。三合目あたりが、前回の遭遇場所。

 発見後の行動を、私はあらかじめ決めている。

 生きていれば、連れて帰る。

 死んでいれば、土に埋める。

 同情とか、悲哀とか、慈悲とか、偽善とか。いかにも人間が出しそうな言葉を持ってやっているわけでは、断じてない。

 今まで何百と戦術人形だったものに変えて、何百と戦術人形だったものを荒らして、何百と野生動物だったものにしてきた。跳弾やら爆片やらで、私の認識外でそうなったモノも当然にある。ここに、馬鹿な猫一匹が増えるだけ。何を恐れる必要があるだろうか。

 全員を救うなんて、所詮無理なのだ。

 あんな場所を怪我していなかったら、ついと無視して立ち去っていた自信がある。だいたい、見つけたからと言って、猫が嫌がって逃げ出す可能性だってある。

 だからこれは、究極の無駄。

 自己満足という。

 それでも私は、これが正しいと信じて進む。

 

「45、45。聞こえる?」

 

 通信で声がやってきた。一つ目の山で、後方監視をさせている11からだ。

 好かれる努力をした覚えはないけど、だから怯えられている私への直接的呼びかけは頻度が低い。あまり苛めるわけにもいかないので、私から話しかけるのも任務に関わるか関わらないかの両極端な場合になりやすい。

 11には観測と、通信傍受による警戒任務も与えている。何かあったのだろうか。

 

「何、G11」

「もう見つけた?」

「いいえ。鹿一匹見当たらないわ」

 

 数日前に戦闘があったのだ。銃声を聞いたらたいていの動物は逃げるだろう。あの猫もいまだに居るのかどうか。

 と、11が弱気な声で続けてくる。

 

「ね、ねぇ。まさかと思うけど、捜索の話は嘘じゃないよね‥‥‥?」

 

 何のことはない。体よく捨てられたのではと不安に思ったらしい。

 黙っていてもネタなのに、しゃべらせてもネタであるこのマスコット性。こいつを9が増幅してやることで、404小隊はいくらかまともな空気になる。11がいない404は、さぞ殺伐としてつまらないだろう。

 嗜虐心がくすぐられる。

 

「フフ‥‥‥どうかしら」

「うぅ。あたしもそっちに行くから迎えに来て、416」

「自分で歩きなさい。その前に、小隊長にお伺いを立てなさい」

「お願い、後で絶対に戻ってきて。忘れられそう」

「大丈夫だって。45姉はちゃんと覚えているから」

「置いてけぼりになりそうになった経験があるから言ってるんだよ」

 

 わざと放置して帰るそぶりを見せた日の事を言っているらしい。11はあまりに弄りやすいもので、つい。

 11がいると416と漫才を始めるし、9が勝手に盛り上げてくれるので退屈はしないで済む。相当に妙ちくりんな土台の上で不安定に積みあがったものだが、人間様が使う家族の定義として、三人は私よりは近い。

 私との間には、ない。

 あるのは、利害関係。

 416を筆頭に、自分達はいつか、依頼を受けたUMP45に始末されると思っている。UMP45の所業を思えば当然の結論。それでも帰る家もないから404にいて、屋台骨だから仕方なく従っている。

 私は、最も近い11達にすら怖れられている。11には怯えられ、9には顔色を窺われ、416にはこいつが今まで何をやってきたか知っているでしょうと、後ろ指をさされる。

 それこそが、404小隊長としての正しさ。

 私は、みんなの汚点。

 みんなは、やり場のない怒りや悲しみを、私と言うゴミ箱に吐き捨てて、だから絶望を抱え込まずに生きられる。私は、UMP45は自分の汚点と言う形で、またドブ仕事の投げ込み場所として存在を認められ、生きられる。

 目的を果たすには生きなければならない。生きられるなら何だっていい。蔑まれるのは、昔から大得意だ。

 

「今はその時ではないもの。回収はしてあげる」

「うん、おうちに帰りたい。冷蔵庫でラムレーズンアイスが待ってる。ファミリーサイズが昨日届いたの」

「へぇ。ところで、G11の首から下を切り落とせば、軽くなって運びやすいと思うのだけど」

「歩きます。ちゃんと歩きます。アイスも少し分けるから」

「四等分という考えはないようね」

「あたしのアイスだよ」

 

 でも結局、9を脇に置いて、11の怠惰を許して、416を誘って。誰彼裏切られては本心で腹を立て、汚れの核心は三人に隠して。

 私は、感情を失くした殺戮兵器ではない。私は、感情だけは残そうと、術を積んだ。

 生きる為に自制し、同類と出会った。

 戦場を共にした同類と、互いに助け合って生き抜いてきた。

 そんな戦友を助ける事は、雑多な任務命令などよりも優先順位が高い事項。

 共に戦い共に生き抜いてきた戦友とは、つまり。

 404小隊員である。

 404小隊員は、雑多な任務よりも大事である。大事であるから、どのような手を使っても守る。

 異物と蔑まれ、排斥され、自分の居場所なんてこの世のどこにもないのだと。その絶望の中で同質の人と出会い、共に居る事で互いが救われる。私は、世界と運命に絶望している同質の者を見つけては、私がそうしてもらったように手を伸ばすようにした。もっとも、絶望だ屈辱だ宿命だと言って、私の敵として死ぬことをを選ぶ馬鹿が大半だったが。

 それでも生きたがった大馬鹿が、こいつらだ。

 私は振り返る。反応して、9と416が怪訝顔を向けた。

 

「どうしたの45姉」

「ん、ちゃんと付いてきてるかなって」

「はぐれるほど間抜けではないわ」

「確認よ。11も、まだ起きているわね」

「早く寝たいよ」

 

 三人を確認して、私は背中を気にすることなく前を向く。

 大馬鹿共は私の後を追う。振り返れば大馬鹿共がいる。それこそが、ささやかな救い。彼女らが居る間は、私は異質な孤独のバケモノにならずに済む。こいつらも、同じだといいのだが。

 私の所まで堕ちて私のようになって欲しいとまでは思っていない。私の理念行動と目的が汚物未満なのは、私が良く知っている。

 私は、私に付き合ってくれる三人を、ぎりぎり限界まで捨てる気がない。いつでも捨てる準備があるとのたまい、覚悟をいつも考えて。でも、捨てる気がない。

 でもいつかは、大事な戦友を助ける以上の、保身という最上位事項の為に殺す日が来る。私は、何が起ころうとも生きなければならない。全員を救うなんて、所詮無理なのだ。宿命から逃れるには、大きな代償を支払わなければならないのだと、学んだのだ。大きな代償とは、私が最も大事にしているものである。だから、いつでも捨てられるよう覚悟をしておく。

 相当に歪なメンタルだと、自覚してはいる。

 

「ねぇ45。聞こえてる?」

「はい、今度は何」

 

 11が声を投げかけてくる。夜の山地で発声は目立つので、無用に話しかけるのはやめていただきたいのだが。

 いや。仕事中に11から切り出す内容なんて、9割方決まっている。

 

「方位173に何かいる」

「ッ!」

 

 数列を耳にして私はすぐさま屈み、最大限素早く音をたてないように、示された方位からの射線を遮る木の幹でカバーを取る。416と9もそれぞれ全周警戒へ。

 戦地で、11からの方位警告。

 鉄血との遭遇戦。

 

「詳細を頂戴、G11」

「45から距離約250、数1、小型、木陰で静止してるのがいる。どう?」

 

 距離も送られる。かなり近い。小型なら、鉄血のダイナゲートシリーズあたりか。

 事前情報からして、お供を連れていても大部隊ではないはずだ。やり過ごす手は、後が面倒。

 私を妨げるすべては、実力を持って排除する。

 銃器安全装置解除。外骨格戦闘機動開始。発煙手榴弾準備。

 クイックピークで確認。稜線の向こうなのか、敵影を認識できない。この山、森林は浅いのだが地形が煩雑で、かつ私達からは標的を見上げる格好になる。

 私を見て遮蔽を取った9と416に、それぞれ包囲機動とバックアップ用意をハンドサインで送り、両名にも標的を確認させる。が、同様に見つけられないと、特に9は微妙に抜けた表情で返してくる。比較的上方から見ている11にしかわからないようだ。ライフルG11でこの距離は厳しそうだが、初手として狙撃させてみるか。

 

「G11、こちらからは捕捉できない。距離があるけど、狙撃をやってみる?」

「え、狙撃? 殺しちゃうの?」

 

 問い合わせに、11はなぜか驚いたような声を出した。あなた、普段は言われる前に敵の四肢を吹っ飛ばすでしょうに。

 

「捜索の障害は排除するわ」

「あの、45」

「何」

「あたしが見つけたのは、小型動物なんだけど‥‥‥」

 

 届いた音声に、私の言語認識機能がビジーになった。

 もう一度情報を電脳に再走させて、理解して、私は9と416に手で警戒体制の解除を指示しながら、UMP45の銃口をだらりと下げる。なるほど。本当に敵発見の至急だったら、11は私の返しを待たず一度に情報を送ってきたはずである。

 戦地で遭遇、イコール敵と単純計算した戦闘兵器の非は認めるが。あぁ、9が背を向けて全身を震わせている。

 湧き上がるこの感情はよく知っている。そう、これは。

 

「敵で、ないなら、前置きと、主語を、付けて、柔らかく、言って、もらいたい、んだけど」

「ひゃ、っく!? だ、だって、猫を探してるって言ったじゃん」

「私のお願いを聞き入れられない、と?」

「あ、あうあううううう。も、申し訳ございません、お許しください、お許しくださ‥‥‥」

 

 怖がっている私からの、地獄の底から響く憎悪の言葉をいただいて、11がしゃっくりをあげて泡を吹く。恐怖に潰されてメンタルが悲鳴を上げたようで、変な言葉まで口走り始めた。相当ビビっている。

 こんな時は。出番よ、介護人形。

 目配せすると、416は息を吐いてから、声を通信に乗せた。

 

「起きなさいG11。発見物の詳細を45に送って」

「あ、416‥‥‥。えと、狐か猫が一匹、332-17-04付近で静止中。そのほかは判別できない。鉄血兵は見えないよ。これでいい‥‥‥?」

 

 一発で11が元に戻った。だからって許さないぞ。後で11のおやつを全部食ってやる。

 冷静に考えれば朗報だ。猫なんて大量にあふれているからターゲットである保証もないのだが、まずは確認をしなければ。

 

「観察眼は褒めておきましょう。G11、私が見えているわね。目標まで誘導して」

「ひゃひ」

 

 11の形容しがたい声が聞こえるが、仕事くらいは果たしてくれる。

 単独で前進を再開する。外骨格補助なら多少の難地は越えられるが、ドサドサ音を立てたら、野良だから驚いて逃げ出すかもしれない。歩行に楽な迂回を選択して、接近を試みる。

 山中での迂回。どうしても位置を見失いそうになるが、その度に11が誘導してくれるので、前に進むことができた。

 

「方位修正左20度、距離15メートル。目標は樹木の影、まだ動きはないよ」

 

 15メートルなら、あの木か。

 でも、この場所は。

 数秒足を止めて、空気を吸い込んでから、踏み出す。

 私からもようやく、その姿が見える。暗視モードのため色の識別が難しいが、それは猫に違いなかった。気を付けていても踏みしめてしまう枝葉の音で接近を理解できるはずだが、逃げるそぶりはない。

 距離、1メートル。

 十分すぎるほど接近した。暗視モードを切り、銃のフラッシュライトで目標を照らす。世界が緑色から一瞬の漆黒を経て、色と姿を得た。一瞬だけ眩しかった。

 浮かび上がる影。

 左前脚を負傷した、茶トラ猫の姿。

 座標を再確認する。現在位置、ポイント332の17-04。寸分違わず、記録通りの場所。そのすべての証拠として、乾ききってしまった魚肉の切り身が傍に転がっていた。軽くでもかじった様子が見られない食品が。

 その傍らで、猫は体を丸めて蹲っている。寝ているわけではなかった。フラッシュライトでさすがに察知して、重々しく首を動かして私に向けてくる。瞼をよく開く余力すらないのだろう。あまりにも緩慢で、ほとんど閉じてはいるが、生きてはいるようだ。

 猫が鳴いた。声だったのだろうが、文字化も困難なほどの、空気の漏れるようなかすれた音だった。

 そこまで弱っていて。

 

「何をしてるの」

 

 食べられないと判断したのか。食べるべきではないと判断したのか。食べる気がなかったのか。

 そこでじっと待っていれば、誰かが助けに来てくれるとでも思っていたのか。

 

「甘えるな」

 

 施してもらえるって。

 楽になれるって。

 

「抗う気がないなら、死ね。死にたがりは助けられないわ」

 

 すべてを恨みながら、みっともなく泣き叫んで死ねばいい。

 猫の喉からまた、空気が漏れてきた。私の言語など通じていないだろうし、猫の訴えている内容なんて知りようもない。でも私は、止めない。

 止められない。

 

「泣くな。泣いたって何にもならないのよ」

 

 腹が立つ。

 これは、憎悪だ。

 昔の自分への。

 非力を揶揄され、無能を誹られ、無知で不幸を招いた。どうしようもなかった馬鹿が、猫の姿になって転がっている。

 だから、捨て置けなかったのだ。

 本当に、腹が立つ。

 憎悪が、喉を焼く。

 

「私はあなたとは違う」

 

 私は違う。

 私はもう、違う。

 

「私は、強くなったのよ」

 

 何もできない弱い自分は、もう死んだ。

 

「選んだのは間違いじゃないって。立って、生きて、戦って、私はこれから先も証明し続けるの。私は必ず目的を果たす。あなたとは、違う!」

 

 自分が正しいと思った事を、遂行し続ける。誰に受け入れられなくても、屍の山を踏みつけてでも。

 あなたが生きているかもしれないから、私はこんな場所までまた来る羽目になった。迷惑だ。死にたいというのなら、さっさと死ね。

 生きたくても生きられなかった人に代わって、さっさと。

 

「っ‥‥‥」

 

 猫を相手に、私は何をやっているんだ。

 顔の左半分を、手のひらで覆う。演算処理能力が、私の感情を急速に冷却させていく。

 できるようになったとも、するようになったとも、するようにしてしまったとも。

 感情を押し留めてしまえば、後に残るのは。

 不安。

 私は、本当に強くなったのだろうか。

 信じられる他者を失くした分、弱い自分に戻ったのではないか。

 だめだ。

 元の自分の弱さが、表に出てしまう。

 

「借り物の力だし、与えられた地位と権限だし。最後は一人で、馬鹿みたいな形で死ぬでしょうけどね」

 

 過去の話と、現在の話と、未来の話。

 誰か。

 誰か。

 

「助けて、欲しいんでしょう?」

 

 もうどうしようもないから、ここに残って待っていたんでしょう。

 私はその場に屈むと、フラッシュライトで手元を照らすように、銃を地面に置いた。

 銃は必要ない。今は、必要ない。

 

「おいで」

 

 猫に向けて、人差し指をそっと突き出す。

 こちらは明るいよ。今なら、助けてあげるよ。あなたを抱きかかえるくらいなら、今の私にはできる。

 でもそれは。あなたが生きたいならの話。

 

「ここよりも、もっといい場所へ行けるって。私を、信じて」

 

 誘うように、指でくるくると小さな円を描く。違う言語で、猫の体調そっちのけで無茶苦茶を言っている自覚はあるが、もう面倒になったので考えないようにした。

 猫は小さく短く呼吸を続けるばかり。でも、顔を逸らすとか、目を閉じるとかはせずに、じっと見返している。

 猫はもう少しだけ目を開くと、のそのそと体を起こし、ずるずると左前脚を引きずるように、ふらふらと歩き始めた。

 50センチが30センチに。

 10センチ。

 ゼロ。

 猫はその鼻先で、私の差し出した人差し指に、弱く挨拶をした。

 

「‥‥‥うん」

 

 生へのみっともない執着を示した猫は、さらに寄ってきた。そして私の足首に顔をひとつこすりつけて。

 いや、違う。

 くたりと、倒れたのだ。力尽きたように。

 動かない。

 数舜、息が止まる。

 猫の内股に手を伸ばす。ひどく弱かったが、まだ暖かく、脈も触れている。

 一時記憶容量から、必要のなくなった情報を順に削除しながら、私は先に自分の銃を拾い上げてフラッシュライトを切る。暗視モードを再起動する。まずは自分の面倒からだ。そしてスリングで肩にかけてから、次こそは両腕で猫を抱きかかえる。

 私は猫を起こさないようにゆっくりと歩き始め、ほんの10メートルほど進んだところで、私は足を止めた。

 

 

 

 木の陰から、9と416の姿が覗いてきた。

 

 

 

 一方はにこにこと、一方はツンとして。

 警戒解除指示後、明確に待機命令を出さなかったからって、こんなに接近しなくてもいいでしょう。そういえば、11との通信も繋げたままである。

 さすがに聞こえていただろう。三名全員に。

 私は傍にいる二名と、遠くにいるもう一名に順繰りに睨みを利かせ、よぉく言葉を選んでから、口にした。

 

「UMP45より小隊各員。目標を確保。みんなの協力に感謝するわ。帰るまでが作戦よ、撤収準備」

 

 感謝の念は返しておいて、それで流そうと。

 だがどうも、許されなかったようだ。

 

「45姉」

 

 呼びかけながら、9が近づいてくる。

 そして、面と向かってくる。

 

「私は、45姉だから付いていくんだよ」

 

 9の強い目があまりにも直視に耐えなくて、そっと視線を外す。

 

「今日の所は、付き合うわ」

 

 逃げた先に416のスカした顔があったから、そっと目を閉じる。

 

「帰って甘いものを食べる楽しみができたのは、45のおかげだね」

 

 目を閉じてもインカムから11の声が届いて、そっと息を吐く。

 普段から見捨てるだ首を捻じるだ始末されるだと、本心からのブラックユーモアばかり使うくせに、どうして今日は三人揃ってこうなのか。

 こんな三人の為ならば、多少は尽くしてやるつもりだ。私にとっても、そんなには悪くもない居場所。

 でも私は、この言葉は返さない。

 私は、救いがあるなんて信じない。私はいつか選択を迫られ、正しさを謳いながら三人を捨てるだろうし、それによって捨てられるだろう。

 だから、言わない。今が、大事だから。

 

「当然よ。隊員なら、隊長を信じて付いてきなさい」

 

 目を閉じてばかりもいられない。精一杯濁して、笑顔を作って、返しておく。

 満足したらしき9は猫の頭をなでているが、猫の状態はあからさまなので、一転不安げな様子だ。

 

「でも、どうするの45姉。私達じゃ治療も面倒もしてあげられないよ。救護室に堂々顔を出すわけにもいかないし」

「もちろん」

 

 私達は、私達が生きるのに忙しい。

 でも、無駄にはしたくない。

 今を無駄にしない方法。

 

「そのくらい、考えてあるわ」

 

 今日は、用意してある。

 現在において託そうと思える場所を持てているというのは、私達の数少ない救いかもしれなかった。

 

 

 

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