この世界がおかしいとスライムだけが知っている   作:ec

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21話

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 五匹の雑魚を倒した俺は、鉄パイプを手放す。灰を散らして消え、紋章に吸い込まれる。

 

「幸せ〜」

 

 ヤタガラスは鼻歌を歌いながら、口に弁当の中身を入れていく。急いで食べてるらしい。

 

「けほっけほっ」

 

 あ、噎せた! ベンチに戻ると、背中を摩ってあげる事にした。

 

「大丈夫? 無理しなくていいから、ゆっくり食えよ」

 

「飲み物買ってなかった」

 

「食ったら買うか」

 

 時々俺にキャベツを食わせつつ、なんとか食べ終えた。何故か俺が空になった弁当の袋を持ってる。

 

「満足〜。寝てもいいかな?」

 

「ダメだ、ジュース要るんだろ」

 

「買ってきてよー」

 

「いいから行くぞ。俺はお前の彼氏じゃないし、手下でもない」

 

 ヤタガラスは「そっか……」と少し声を落とした。それに俺は、少しだけ違和感を感じた。

 

「なんだよ、露骨に落ち込むなって」

 

「元々は敵だから、仕方ないな〜って思ったんだよね」

 

「……敵でもいいだろ」

 

 俺は立ち上がりつつ、なるべく笑顔で手を差し出す。

 

「一緒にジュース買おうぜ」

 

 こんなにも自販機でジュース買う行為をかっこよく言ったのは生まれて初めてだな。

 

「一緒……そうだね」

 

 俺の手を強く握ったヤタガラスを引っ張り、自販機に向かう。

 

「自販機デート」

 

「そんなデートあってたまるか」

 

「海を越えた自販機でジュースを買う的な」

 

「お前だけ行ってこい」

 

 お金を入れつつ、どれにするか聞いてみる。

 

「じゃあ、これ!」

 

「分かった」

 

 150円のペットボトルが転がり出てくる。真っ白で四角い……軽ピスだった。スッキリした味が売りだから軽ピスらしい。

 

「バルデスは買わないの?」

 

 ヤタガラスはそう言いつつ、キャップを外してゴクゴク飲んでいた。

 

「俺は……」

 

「なら、一緒に飲も!」

 

 気遣いなのか、俺に飲みかけの軽ピスを差し出してきた。ニコニコしてて、嬉しそう。

 

「別に……え?」

 

「えへへ」

 

 とりあえず受け取り、何も考えずに飲むことにする。やっぱり、美味しく感じた。

 

「ありがとな」

 

「うんうん」

 

 間接キス……か。案外、甘酸っぱい思い出が出来た気がする。

 

「これからどうする?」

 

「私は帰る! 今日はありがとー」

 

「そうか」

 

 絶対元々の目的忘れてるよな。まあ、ケルベロスと合わせる作戦は成功したし、いいか。

 

「今日は楽しかったよ」

 

 なんだかんだ、良かったな。ヤタガラスの良い一面が見えた。

 

「私も〜。あ、軽ピス飲み終えたから捨てといてね!」

 

「俺をなんだと思っている!?」

 

「コジロウ」

 

「誰だそれ」

 

 手を振って互いに別れる。俺はヤタガラスが見えなくなるまで見つめていた。

 

 都合よく芽以から着信が来た、タイミングやばいな。出ながらゴミ箱に軽ピスを放り込む。

 

「芽以? 迎え?」

 

「違う」

 

 この声は……ケルベロス?

 

「え?」

 

「芽以さんが……とにかく来て!」

 

「わかった!……ってどこにだよ!?」

 

「芽以さんの家」

 

 緊急事態なのか分からないが、俺は全力で走る。簡単に歩道橋を渡って、バーガー兵士の看板が大きくなっていく。

 

 スラ達待ってるのにな。

 

 人をすり抜けながら、バーガー兵士を抜けると一軒家がある。芽以の家。

 

 適当にインターホンを連打、誰も出てこない。待ちきれないので柵を飛び越えて勝手に入る事にした。

 

「はぁ……待ちきれるわけないだろうが」

 

 鍵は偶然かかってなく、入ると寒気が走る。そして、ピリピリしていた。

 

「おい! ケルベロス?」

 

 靴を脱いで上がると、無駄に静かだ。キッチンを覗くと寝かせているであろう肉じゃがが待機していた。

 

「わけわかんねぇな……」

 

 リビングに目をやると、カップルの次回予告が始まっていた。

 

「カップルの最新話録画忘れてた……」

 

 そんな感じで抜けた頭に認識させるように呟く。俺は地味に焦っているんだ。

 

『バルデストロン!』

 

 背後から声が聞こえ、話を聞くために声を振り絞る。

 

「ケルベロ……ッ!」

 

 だが、タックルを受けて俺は吹き飛ぶ。気がついたら馬乗り状態だ。

 

「離せ! 芽以は何処に行った?」

 

「離せない……芽以さんは……2階」

 

 強力な力だ、俺が抗えないって事は、本気だろうな。

 

「ぐ、どうしてこんなことを!?」

 

「任務よ……」

 

 ケルベロスは拳を振り上げる。

 

『ヘルノイズ』

 

 間一髪という所で召喚した黒パイプに拳が打ち当たる!

 

「あぶな」

 

 ステータスも上がり、足で吹き飛ばす。女を蹴るのは好きじゃない。

 

「俺の妹だろ? 兄を殺すなんて」

 

「兄は……兄は……違う、ケルベロスの兄は……」

 

「は?」

 

 バグっているのか?

 

「兄は、ウロボロス様…………」

 

 ケルベロスはそんな事を言いながら、俺に雷の弾を撃ち放つ。切り払って打ち消す。

 

「ここは芽以の家だ、壊せれない」

 

『関係ないし……稲妻の加護を』

 

「無いわけないだろ! 俺だって芽以の作った肉じゃが食いたいんだよ!」

 

「肉じゃ、が?」

 

 そうだ、芽以の作る料理は美味しい。上手い理由は多分、俺の好みを1043回も聞いたからだろうな。

 

「あぁ」

 

 こいつの気持ちを無理矢理ねじ曲げる方法は、サタンしかないな。

 

「食べたい……」

 

「拳おろせよ」

 

「食べるために……うわぁぁ!」

 

 俺に詰め寄って容赦なく炸裂するボディブロー。

 

「ぐほぉ!?」

 

「殺したくないよ」

 

 行動と言ってることが真逆だ。どういう事?

 

「ほら、真のお兄ちゃんバルデス様が受け止めてやるぞー」

 

「ミドルキック……ごめんなさい」

 

『ッ! スラの必殺の右ストレートよりマシ』

 

 攻撃を受け止め、時間を稼ぐ。隙をついて抱き、倒れ込んでみる。

 

「辞めてよ変態お兄ちゃん!」

 

「あぁ、膝蹴りが俺のお腹を気持ちよく……痛えわ!」

 

 俺は吹き飛び、壁に打ち当たる。クラクラしててもう発動しないとやばいかもな。

 

「殺したらごめんね……」

 

「俺は、お前なんかに、殺されない」

 

『ワットブースト』

 

 瞬間的に俺の髪の毛が逆立ちになった。そして、ビリビリと音を出す拳が、俺の白と黒のパイプにガツンと当たる。

 

「え?」

 

『加速出来るのは、四天王だけじゃない。異世界で戦ったことないお前は知らないだろ』

 

 引き抜いたパイプで立ち上がると、掲げて擦り合わせる。髪が一気に光を返す銀髪に変わる。

 

『サタンエンヴィ』

 

 真っ白なオーラを纏った真っ黒なパイプが現れ、仮面が備わる。紋章も砕け散って仮面に吸収されていた。

 

「お兄ちゃんと戦いたくない……戦いたくない……」

 

 ケルベロスは怯えながら、俺に拳を振るう。言いたい事が真逆のツンデレだな。

 

『大丈夫、空間殺すから』

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