この世界がおかしいとスライムだけが知っている   作:ec

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22話

- ケルベロス -

 

 私は一体何の為にバルデストロンを殺すの? 私はどうしてこんな事をしているの?

 

 分からない分からない分からない。

 

 何もわからないまま、突っ込む事しか出来ない。

 

「痛くも痒くもないな」

 

 電気を帯びた拳をバルデスの胸に突きつける。でも、一切体が揺れることもなかった。

 

「なんで……なんで……」

 

 私は抵抗してない相手を倒すことすら出来ない。そんな弱さに涙が溢れてくる。

 

「お兄ちゃんを前にして泣くのか?」

 

 自称お兄ちゃんは、私を強く抱き締める様に被さる。もがくと激しい痛みが襲ってきた。

 

「痛い……痛い……痛いよ」

 

「抵抗したら痛いだろ!」

 

 抵抗する事も出来ない。暫くすると手を離され、床に倒れていた。

 

 どうなるんだろう? 私は殺されちゃうの?

 

「ようやく抵抗しなくなったな」

 

 そう言ってお兄ちゃんは額の汗を拭う。

 

「殺される……肉じゃがにされる……お兄ちゃんが居なくなる……ボッチになる?」

 

「頭おかしいな、抵抗しなくなっただけまだアレか」

 

 ボソボソ何か言いながら、お兄ちゃんは私と距離を縮める。顔が近くなってる気もする。

 

「肉じゃか、嫌……!」

 

「泣くな、すぐ終わるから」

 

 お兄ちゃんは泣き虫な私の頭を撫でながら、優しくキスしてくれた。

 

「終わった」

 

 不思議な安心感に、''うちは''お兄ちゃんの背中に手を回す。

 

『お兄ちゃんだっこぉ……』

 

 

 

 

 

 俺は深くため息を吐く。何故なら、ケルベロスが非常にめんどくさい女になったからだ。

 

 俺の背中に手を回し、仕切りにハグを要求してる。体制はケルベロスが横になってて、俺がその上におい被さってる感じ。

 

 つまり、コアラだな!

 

「おーい、帰ってこーい」

 

「帰ってきてるから、甘えるもん」

 

 とりあえず、立ち上がってケルベロスと手を繋ぐ。2階へ行って芽以に会わないとな。

 

「おい、俺は二の腕までくっついていいとは言ってないぞ」

 

「やだ、離さないもん……もんっ!」

 

「は?」

 

 ガチガチに右腕をホールドされたら、芽以に睨まれるじゃん!

 

「もういいや」

 

「しーあーわーせ〜」

 

 気持ち悪いほどベタベタは辛いが、リビングを出て2階に上がる。時々ケルベロスが俺に全体重を乗せてきたり、階段から落ちかけたり、必死にボディタッチを狙ってきてウザかった。

 

 さあ、芽以の部屋の前に来た。ケルベロスを引き剥がして……もう行ける!

 

「あーもうウザいな! 俺のズボンのポケットに手を入れるな!」

 

「触れてたいし……」

 

 気を取り直してドアノブを掴んで覗くと、芽以が居なかった。隠れてるんじゃないかと布団の中を覗いたのに、まるで芽以だけを消した感じだ。

 

「そんな……?」

 

 そりゃそうだ、居るとしたら、ガタガタ音がするのに降りてこないわけないよな。

 

「お兄ちゃん、ごめんなさい」

 

 ケルベロスは申し訳なさそうにペコリと謝る。

 

「なんだ?」

 

「芽以お姉ちゃんの居場所知ってる」

 

 案外、お姉ちゃんって慕われてるんだな。まあ、料理うまいから仕方ない。

 

「教えてくれ」

 

「行ったら殺されちゃうからダメ」

 

「んなわけないだろ? お兄ちゃんは無敵だからな」

 

「ううん、四天王は本当に強いの」

 

 芽以が居ないのか、幸せだが、そんなの幸せじゃない。

 

「は? 早く殺したいわ」

 

「芽以お姉ちゃんに痛い事しないって約束してるから、今頃キッチンでカレー作ってるよ」

 

「それ、四天王的にどうなの?」

 

 ケルベロスを信頼するしかないな。家を出る前に肉じゃがをタッパーに詰めるか。

 

「しばらくは芽以の食えないな」

 

「そうだね」

 

 俺達は階段を降りてキッチンの肉じゃがを再加熱する。サタンには帰ってもらった。

 

「口調おかしいの直してくれない? 俺の調子が狂う」

 

「直せないもん」

 

 タッパーに全部詰め、芽以の家を後にする事にした。

 

「ケルベロスはこれからどうする?」

 

「別れる」

 

「分かった」

 

 帰り道の途中で別れて、ラーオンの所まで戻った時だった。俺はタッパーが一個減ってることに気づく。

 

『元気ないですね、食事に行きませんか』

 

 そして、例の店員に話しかけられた。元魔王の配下って言うのも嘘じゃないかもしれないよな。

 

 カジュアルにジーパンとチェックシャツだから違うかもな。

 

「本当に行くつもり?」

 

「そうです、食事に行くだけです」

 

「家によってもいい? 荷物下ろしたい」

 

「ついていきますよ」

 

 何事もなくマンションについた俺は、待つように言って荷物だけ下ろした。スラとイムに美味しい肉じゃがを預けて。

 

 階段を降りた時、店員さんが待ち望んでいた様に呟く。

 

「私の名前は高咲(こうさき)と言います、ユリウスって呼んでください」

 

「全然、名前と関係ないな!」

 

「あなたもでしょう? バルデスさん」

 

 本当にこの人は女なのか。疑いたくなるくらい鋭い目だし、俺の名前を知っている。

 

「そうだよ、バルデスでいいよ。俺を殺すつもりか」

 

「元魔王の配下は飽きやすいのです、今回は勇者の味方をするんですよ? あの時服を無理矢理、渡したように」

 

「執拗に食事に誘ったのもそれが理由?」

 

「いえ、合コンに道連れしたかっただけです」

 

 合コンかよ! アラサーなの? アラサーなの?

 

「どこ行くの?」

 

「ついてきてのお楽しみです」

 

 ユリウスについていくと、焼肉屋に連れて行かれた。席につくと、俺は蛇に怯えるカエルの様に目を逸らす。

 

「私が奢ります、少しだけ話をしましょう」

 

 話したくないが、適当に牛タンを焼いていく。

 

「どんな話?」

 

「――魔王護衛創破四天王について」

 

 ジューという音が場を濁した。

 

「俺の事は話さなくてもいいな」

 

「ヤタガラスとケルベロスはもういいですが、2人は厄介です」

 

「2人?」

 

 確かに4人居るだろうな。そんなに厄介か? 全員馬鹿じゃない?

 

「2人は男です、キスなんかで倒せませんよ」

 

「俺はホモじゃないから無理だわ」

 

「そんな展開も憧れますけどね!」

 

「お前の頬にレタス貼り付けてパックしてやろうか?」

 

「今度お願いします、美容効果ありそうです」

 

 手遅れだと思います!

 

「1人目はウロボロス。非常に残忍な性格で、妹を人形の様に扱っています」

 

「ふむ?」

 

「2人目はマーナガルム。別名ルシフェルと言われてます、ツッコミ担当としてはそこそこですかね。私の方が上ですけど!」

 

「絶対ユリウスはボケだと思う」

 

 俺はルシフェルについて聞くことにした。

 

「まずは服装から行きましょう。お尻の部分に羽が書かれたトランクス、黒の鎧で身を包み、背中に紫色の羽があります」

 

 

『トランクスダセェ』

 

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