- ケルベロス -
私は一体何の為にバルデストロンを殺すの? 私はどうしてこんな事をしているの?
分からない分からない分からない。
何もわからないまま、突っ込む事しか出来ない。
「痛くも痒くもないな」
電気を帯びた拳をバルデスの胸に突きつける。でも、一切体が揺れることもなかった。
「なんで……なんで……」
私は抵抗してない相手を倒すことすら出来ない。そんな弱さに涙が溢れてくる。
「お兄ちゃんを前にして泣くのか?」
自称お兄ちゃんは、私を強く抱き締める様に被さる。もがくと激しい痛みが襲ってきた。
「痛い……痛い……痛いよ」
「抵抗したら痛いだろ!」
抵抗する事も出来ない。暫くすると手を離され、床に倒れていた。
どうなるんだろう? 私は殺されちゃうの?
「ようやく抵抗しなくなったな」
そう言ってお兄ちゃんは額の汗を拭う。
「殺される……肉じゃがにされる……お兄ちゃんが居なくなる……ボッチになる?」
「頭おかしいな、抵抗しなくなっただけまだアレか」
ボソボソ何か言いながら、お兄ちゃんは私と距離を縮める。顔が近くなってる気もする。
「肉じゃか、嫌……!」
「泣くな、すぐ終わるから」
お兄ちゃんは泣き虫な私の頭を撫でながら、優しくキスしてくれた。
「終わった」
不思議な安心感に、''うちは''お兄ちゃんの背中に手を回す。
『お兄ちゃんだっこぉ……』
俺は深くため息を吐く。何故なら、ケルベロスが非常にめんどくさい女になったからだ。
俺の背中に手を回し、仕切りにハグを要求してる。体制はケルベロスが横になってて、俺がその上におい被さってる感じ。
つまり、コアラだな!
「おーい、帰ってこーい」
「帰ってきてるから、甘えるもん」
とりあえず、立ち上がってケルベロスと手を繋ぐ。2階へ行って芽以に会わないとな。
「おい、俺は二の腕までくっついていいとは言ってないぞ」
「やだ、離さないもん……もんっ!」
「は?」
ガチガチに右腕をホールドされたら、芽以に睨まれるじゃん!
「もういいや」
「しーあーわーせ〜」
気持ち悪いほどベタベタは辛いが、リビングを出て2階に上がる。時々ケルベロスが俺に全体重を乗せてきたり、階段から落ちかけたり、必死にボディタッチを狙ってきてウザかった。
さあ、芽以の部屋の前に来た。ケルベロスを引き剥がして……もう行ける!
「あーもうウザいな! 俺のズボンのポケットに手を入れるな!」
「触れてたいし……」
気を取り直してドアノブを掴んで覗くと、芽以が居なかった。隠れてるんじゃないかと布団の中を覗いたのに、まるで芽以だけを消した感じだ。
「そんな……?」
そりゃそうだ、居るとしたら、ガタガタ音がするのに降りてこないわけないよな。
「お兄ちゃん、ごめんなさい」
ケルベロスは申し訳なさそうにペコリと謝る。
「なんだ?」
「芽以お姉ちゃんの居場所知ってる」
案外、お姉ちゃんって慕われてるんだな。まあ、料理うまいから仕方ない。
「教えてくれ」
「行ったら殺されちゃうからダメ」
「んなわけないだろ? お兄ちゃんは無敵だからな」
「ううん、四天王は本当に強いの」
芽以が居ないのか、幸せだが、そんなの幸せじゃない。
「は? 早く殺したいわ」
「芽以お姉ちゃんに痛い事しないって約束してるから、今頃キッチンでカレー作ってるよ」
「それ、四天王的にどうなの?」
ケルベロスを信頼するしかないな。家を出る前に肉じゃがをタッパーに詰めるか。
「しばらくは芽以の食えないな」
「そうだね」
俺達は階段を降りてキッチンの肉じゃがを再加熱する。サタンには帰ってもらった。
「口調おかしいの直してくれない? 俺の調子が狂う」
「直せないもん」
タッパーに全部詰め、芽以の家を後にする事にした。
「ケルベロスはこれからどうする?」
「別れる」
「分かった」
帰り道の途中で別れて、ラーオンの所まで戻った時だった。俺はタッパーが一個減ってることに気づく。
『元気ないですね、食事に行きませんか』
そして、例の店員に話しかけられた。元魔王の配下って言うのも嘘じゃないかもしれないよな。
カジュアルにジーパンとチェックシャツだから違うかもな。
「本当に行くつもり?」
「そうです、食事に行くだけです」
「家によってもいい? 荷物下ろしたい」
「ついていきますよ」
何事もなくマンションについた俺は、待つように言って荷物だけ下ろした。スラとイムに美味しい肉じゃがを預けて。
階段を降りた時、店員さんが待ち望んでいた様に呟く。
「私の名前は
「全然、名前と関係ないな!」
「あなたもでしょう? バルデスさん」
本当にこの人は女なのか。疑いたくなるくらい鋭い目だし、俺の名前を知っている。
「そうだよ、バルデスでいいよ。俺を殺すつもりか」
「元魔王の配下は飽きやすいのです、今回は勇者の味方をするんですよ? あの時服を無理矢理、渡したように」
「執拗に食事に誘ったのもそれが理由?」
「いえ、合コンに道連れしたかっただけです」
合コンかよ! アラサーなの? アラサーなの?
「どこ行くの?」
「ついてきてのお楽しみです」
ユリウスについていくと、焼肉屋に連れて行かれた。席につくと、俺は蛇に怯えるカエルの様に目を逸らす。
「私が奢ります、少しだけ話をしましょう」
話したくないが、適当に牛タンを焼いていく。
「どんな話?」
「――魔王護衛創破四天王について」
ジューという音が場を濁した。
「俺の事は話さなくてもいいな」
「ヤタガラスとケルベロスはもういいですが、2人は厄介です」
「2人?」
確かに4人居るだろうな。そんなに厄介か? 全員馬鹿じゃない?
「2人は男です、キスなんかで倒せませんよ」
「俺はホモじゃないから無理だわ」
「そんな展開も憧れますけどね!」
「お前の頬にレタス貼り付けてパックしてやろうか?」
「今度お願いします、美容効果ありそうです」
手遅れだと思います!
「1人目はウロボロス。非常に残忍な性格で、妹を人形の様に扱っています」
「ふむ?」
「2人目はマーナガルム。別名ルシフェルと言われてます、ツッコミ担当としてはそこそこですかね。私の方が上ですけど!」
「絶対ユリウスはボケだと思う」
俺はルシフェルについて聞くことにした。
「まずは服装から行きましょう。お尻の部分に羽が書かれたトランクス、黒の鎧で身を包み、背中に紫色の羽があります」
『トランクスダセェ』