この世界がおかしいとスライムだけが知っている   作:ec

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25話

- マーナは絶望した -

 

 3人はテーブル席で食べることになった。冷たいお水も用意して完璧である。

 

「頼むから食いすぎるなよ」

 

『それ振り?』

 

「押してないんだよ」

 

 スラは玉子を取り、イムはマグロを取る。マーナは……不思議な気分でかっぱ巻きを注文した。

 

「お姉ちゃん美味しいねー」

 

 嬉しそうに頬杖をつく。

 

「うん、奢りという調味料が美味しくしてくれるね〜」

 

「僕って調味料なん? それでいいの?」

 

『第1次来ます! これは……7番の注文皿!? かっぱ巻き来ました! 来ました!』

 

 全然上手くないのに、誇らしげに口をモグモグ動かす。注文用のモニターが必死にかっぱ巻きが届いた事を知らせていた。

 

「なんだこのお知らせ」

 

「お姉ちゃん、厨二病バージョンもあるみたいです」

 

「してみよ!」

 

 2人はハマチとサーモンを押した。

 

「1つ聞いていい?」

 

「どうして僕より速かったの?」

 

 スピードに自信があったマーナは疑問に思った。すぐに追い越され、負けてしまったことに。

 

『こちらHQ(調理場)、耐えるんだ、もう少しで7番の注文皿に救援物資が入っている』

 

「届いたー普通ですね」

 

 イムは2つの皿をカチャリとテーブルに置く。

 

「んー、なんとなく?」

 

「なんとなくで僕は超えられたのか」

 

「妹とりゅうきの為なら死ぬ覚悟もあるんだよ? やる時はやる」

 

 さり気なく味噌汁をオーダー。

 

「仲間に拘りあるのか」

 

「根本的に仲間が少ない〜」

 

 ハマチがスラの胃の中に消えていき、コップの水が少し減る。

 

「僕の知り合いとは大違いだ」

 

「可哀想な知り合いだね」

 

『右腕が疼く……! 静まれ……ッ! 【暗黒竜】ボルディゲオイズ! まさか、7番の皿に共鳴しているのか!? 早く取るんだ! お熱いから注意してな』

 

 お味噌汁がスラの前で王者の風格を漂わせる。

 

「実際強いんだけどね、リーダーだから逆らえなくて」

 

 イムは影でこっそり注文もせずにバクバクと食っていく。2人は見向きもしない。

 

「まあ、洗脳だから仕方ないよ。注意しても止めなかったし、妹を襲う淫乱獣だったし」

 

「あんなにクズだったのか」

 

「知らなかったんだ、ユリウスもいつか殺すと計画立ててた」

 

 マーナの肩が一瞬ピクリと動く。

 

「……あれ、皿が回ってこないぞ」

 

 回転するレーンからお更というお皿が見えない、注文皿しか回っていなかった。

 

「おいしー」

 

 スラの隣でイムが見せないように皿のタワーを端に寄せ、口にお寿司を運ぶ度にうっとりしている。犯人だった。

 

「払いきれるかな」

 

「イム〜、食いすぎたらダメだよー。このマーナさん金欠なんだしー」

 

「絶対払いきってみせるっ!」

 

「大金持ちだよ! 沢山食べよ!」

 

 スラも注文モニターで好きな量を注文し始める。

 

「鯛5と……味噌汁も追加」

 

「おーーい!! やめろ!」

 

 結局、お会計は1万円を余裕でオーバーしていた。

 

「僕のお財布が、お金そのもの消えたよ」

 

「店員さんも驚いてたねー」

 

「そうですね、でも美味しかったのがいけないんです」

 

 どういう事なのか、マーナは考えることを放棄。

 

「僕を開放してくれ……」

 

「いいよー! またお寿司行こ!」

 

「マーナさんありがとうございました」

 

『トラウマになりそう』

 

 

 

 俺達はスラとイムが帰ってきた時を考え、鍵をかけずにラーオンに向かった。最初の時、ヤタガラスと来るなんて想像もしてねえな。

 

「何買うんだ?」

 

「バルデスの為に、ドライバーと電子板を……」

 

「誰が自販機だコラ」

 

 野菜、魚、肉、冷凍、お菓子。この順番で回っていく。

 

「野菜はキャベツと人参かなー」

 

「待てよ? 何日来るかで決めてくれよ」

 

「ずっと」

 

 俺は気合いでスルーしてもう1度質問。

 

「何日居座るつもり?」

 

「……ずっと」

 

 何を思ったのか、小声で呟いた。ギリギリ聞き取れるかだ。

 

「へぇ、良いんじゃない?」

 

「やったー」

 

「でも理由が聞きたいな」

 

「本来なら私が料理作るのに、芽以さんの方が上手いから居る価値無くなって……」

 

 なかなか女っぽい理由だな。言いながらジャガイモとナスをカゴを載せた車輪に入れていく。

 

「ヤタガラスのも美味いんだろ」

 

「違う、私のは普通の味。芽以さんのは好きな人の為に全力を捧げたみたいな、カレーでも私が知らない事を沢山してた」

 

 そりゃ、俺の好み聞きまくってたらそうなるよな。とうとう四天王にさん付けで呼ばすなんて、芽以も流石だ。

 

「自信無くなってこっそり家出しちゃった、出来上がった見た目もいいなんて勝てないよ」

 

 お前も好きな人出来たらそうなるよ、かっこよく言いたいが、地雷踏みそうなんでやめとく。

 

 ヤタガラスの目がウルウルしてる、涙目だから変に言うと地雷どころか不発弾だわ。

 

「お、ち、こ、む、な」

 

 俺はそう言ってヤタガラスの頬を摘んでやさしく引っ張る。やっぱり女の子の頬って柔らかいな、スラ程じゃないけどモチモチ。

 

「だって……」

 

「あれは好きな人に好みを1000回聞く勇気がないと出来ない事だ、答えてくれる理想の相手も必要な。これテストに出ないけど大事」

 

 1000回だから、1人でも大幅な味を知ることが出来る。些細な変化も分かるから、今日無性に味付けの薄い味噌汁を飲みたいなーって思ったら芽以が水筒に入れて来てたりしてな。

 

 あの時はコイツ予言者じゃねって思った。

 

「1000回……」

 

「不可能領域だから諦めろ、料理以外で勝て」

 

「例えば?」

 

『芽以の好きな人を奪うくらい魅力的になるとかな』

 

 どうせ知らないだろうけど、まあ知らない方がありがたい。気がついたら肉コーナー回ってる。

 

「バルデスなら落とせるかな?」

 

「え、知ってんのか」

 

「いっつも料理する時、悲しげにイヤホン付けてたから、気になって聞いたんだよね」

 

 俺の蘇った最強無敵の黒歴史。黒すぎて白にもならない。

 

「そしたら、バルデスの声が」

 

『あああああああ』

 

「かっこよくて、少しどきどきしちゃった」

 

 それ、慰めになってないから、なんか抉ってるぞ。

 

「ちょっと生でしてくれたら料理美味しくなるかも……!」

 

「なんでだ、耳弱くないのかよ」

 

 料理が美味しくなるだと? 俺頑張る! という訳で、ヤタガラスを抱き寄せた。

 

「危ないじゃ……」

 

『俺の為に作ってくれるなんてありがたいな』

 

「ん、やる気出そう」

 

 そんな俺は、ヤタガラスの普通の耳を唇でハムっとしてみた。

 

「みーみーぃ……」

 

 へにゃっと俺に全体重を預けきやがった!

 

「やっぱ、耳弱いんだな。顔真っ赤だぞ」

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