- マーナは絶望した -
3人はテーブル席で食べることになった。冷たいお水も用意して完璧である。
「頼むから食いすぎるなよ」
『それ振り?』
「押してないんだよ」
スラは玉子を取り、イムはマグロを取る。マーナは……不思議な気分でかっぱ巻きを注文した。
「お姉ちゃん美味しいねー」
嬉しそうに頬杖をつく。
「うん、奢りという調味料が美味しくしてくれるね〜」
「僕って調味料なん? それでいいの?」
『第1次来ます! これは……7番の注文皿!? かっぱ巻き来ました! 来ました!』
全然上手くないのに、誇らしげに口をモグモグ動かす。注文用のモニターが必死にかっぱ巻きが届いた事を知らせていた。
「なんだこのお知らせ」
「お姉ちゃん、厨二病バージョンもあるみたいです」
「してみよ!」
2人はハマチとサーモンを押した。
「1つ聞いていい?」
「どうして僕より速かったの?」
スピードに自信があったマーナは疑問に思った。すぐに追い越され、負けてしまったことに。
『こちら
「届いたー普通ですね」
イムは2つの皿をカチャリとテーブルに置く。
「んー、なんとなく?」
「なんとなくで僕は超えられたのか」
「妹とりゅうきの為なら死ぬ覚悟もあるんだよ? やる時はやる」
さり気なく味噌汁をオーダー。
「仲間に拘りあるのか」
「根本的に仲間が少ない〜」
ハマチがスラの胃の中に消えていき、コップの水が少し減る。
「僕の知り合いとは大違いだ」
「可哀想な知り合いだね」
『右腕が疼く……! 静まれ……ッ! 【暗黒竜】ボルディゲオイズ! まさか、7番の皿に共鳴しているのか!? 早く取るんだ! お熱いから注意してな』
お味噌汁がスラの前で王者の風格を漂わせる。
「実際強いんだけどね、リーダーだから逆らえなくて」
イムは影でこっそり注文もせずにバクバクと食っていく。2人は見向きもしない。
「まあ、洗脳だから仕方ないよ。注意しても止めなかったし、妹を襲う淫乱獣だったし」
「あんなにクズだったのか」
「知らなかったんだ、ユリウスもいつか殺すと計画立ててた」
マーナの肩が一瞬ピクリと動く。
「……あれ、皿が回ってこないぞ」
回転するレーンからお更というお皿が見えない、注文皿しか回っていなかった。
「おいしー」
スラの隣でイムが見せないように皿のタワーを端に寄せ、口にお寿司を運ぶ度にうっとりしている。犯人だった。
「払いきれるかな」
「イム〜、食いすぎたらダメだよー。このマーナさん金欠なんだしー」
「絶対払いきってみせるっ!」
「大金持ちだよ! 沢山食べよ!」
スラも注文モニターで好きな量を注文し始める。
「鯛5と……味噌汁も追加」
「おーーい!! やめろ!」
結局、お会計は1万円を余裕でオーバーしていた。
「僕のお財布が、お金そのもの消えたよ」
「店員さんも驚いてたねー」
「そうですね、でも美味しかったのがいけないんです」
どういう事なのか、マーナは考えることを放棄。
「僕を開放してくれ……」
「いいよー! またお寿司行こ!」
「マーナさんありがとうございました」
『トラウマになりそう』
俺達はスラとイムが帰ってきた時を考え、鍵をかけずにラーオンに向かった。最初の時、ヤタガラスと来るなんて想像もしてねえな。
「何買うんだ?」
「バルデスの為に、ドライバーと電子板を……」
「誰が自販機だコラ」
野菜、魚、肉、冷凍、お菓子。この順番で回っていく。
「野菜はキャベツと人参かなー」
「待てよ? 何日来るかで決めてくれよ」
「ずっと」
俺は気合いでスルーしてもう1度質問。
「何日居座るつもり?」
「……ずっと」
何を思ったのか、小声で呟いた。ギリギリ聞き取れるかだ。
「へぇ、良いんじゃない?」
「やったー」
「でも理由が聞きたいな」
「本来なら私が料理作るのに、芽以さんの方が上手いから居る価値無くなって……」
なかなか女っぽい理由だな。言いながらジャガイモとナスをカゴを載せた車輪に入れていく。
「ヤタガラスのも美味いんだろ」
「違う、私のは普通の味。芽以さんのは好きな人の為に全力を捧げたみたいな、カレーでも私が知らない事を沢山してた」
そりゃ、俺の好み聞きまくってたらそうなるよな。とうとう四天王にさん付けで呼ばすなんて、芽以も流石だ。
「自信無くなってこっそり家出しちゃった、出来上がった見た目もいいなんて勝てないよ」
お前も好きな人出来たらそうなるよ、かっこよく言いたいが、地雷踏みそうなんでやめとく。
ヤタガラスの目がウルウルしてる、涙目だから変に言うと地雷どころか不発弾だわ。
「お、ち、こ、む、な」
俺はそう言ってヤタガラスの頬を摘んでやさしく引っ張る。やっぱり女の子の頬って柔らかいな、スラ程じゃないけどモチモチ。
「だって……」
「あれは好きな人に好みを1000回聞く勇気がないと出来ない事だ、答えてくれる理想の相手も必要な。これテストに出ないけど大事」
1000回だから、1人でも大幅な味を知ることが出来る。些細な変化も分かるから、今日無性に味付けの薄い味噌汁を飲みたいなーって思ったら芽以が水筒に入れて来てたりしてな。
あの時はコイツ予言者じゃねって思った。
「1000回……」
「不可能領域だから諦めろ、料理以外で勝て」
「例えば?」
『芽以の好きな人を奪うくらい魅力的になるとかな』
どうせ知らないだろうけど、まあ知らない方がありがたい。気がついたら肉コーナー回ってる。
「バルデスなら落とせるかな?」
「え、知ってんのか」
「いっつも料理する時、悲しげにイヤホン付けてたから、気になって聞いたんだよね」
俺の蘇った最強無敵の黒歴史。黒すぎて白にもならない。
「そしたら、バルデスの声が」
『あああああああ』
「かっこよくて、少しどきどきしちゃった」
それ、慰めになってないから、なんか抉ってるぞ。
「ちょっと生でしてくれたら料理美味しくなるかも……!」
「なんでだ、耳弱くないのかよ」
料理が美味しくなるだと? 俺頑張る! という訳で、ヤタガラスを抱き寄せた。
「危ないじゃ……」
『俺の為に作ってくれるなんてありがたいな』
「ん、やる気出そう」
そんな俺は、ヤタガラスの普通の耳を唇でハムっとしてみた。
「みーみーぃ……」
へにゃっと俺に全体重を預けきやがった!
「やっぱ、耳弱いんだな。顔真っ赤だぞ」