この世界がおかしいとスライムだけが知っている   作:ec

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26話

- 切実な願い -

 

 冷凍物って、そんなに必要なのか?

 

「おいおい……俺の財布もあの冷凍フライドポテトくらい冷たくなるから、もういいだろ? な?」

 

「レンジでチンしたらいいじゃん」

 

『比喩だと気づけ』

 

 適当にガッサガサ拾ってく。払うのが俺のお財布だと思うと、お財布自身が冷えきって見えた。

 

「どういう考えなんだ?」

 

「お弁当を作るのにも使えるし、面倒な時はレンジでいいから、便利じゃない?」

 

 ……ここが芽以とヤタガラスの差じゃないのか。当然口に出せるわけないが。

 

「でもよ? そんなに冷凍に頼るのはダメだと思うぜ」

 

「なんでー?」

「芽以が冷凍物を買っている所は見たことない。少なくとも、俺の冷凍ハッシュドポテトを買う時しか」

 

 さり気なく言うことにした。お財布が可哀想なんだ!

 

「そっか……じゃあ要らないよね、うん」

 

 待て待てーい! あっさり折れるな!

 

「冷凍物は長持ちするからな。多少は必要だろ、全部戻すなよ」

 

「どっちがいいんだろう?」

 

 俺に聞くなよ! だが、俺は芽以とかで学んだかっこいい台詞を頭に残していた。

 

「はあ……要らねえな。戻そうぜ」

 

 俺は全ての冷凍食品を元の位置に戻す。

 

「うん」

 

『超絶美少女が作った卵焼きで満足出来るからな、こんな冷凍食品なんて比じゃねえ』

 

「……うん」

 

 よし、ちょっと頬を赤らめたからセーフだな! ちょこっと撫でて安心させないと。

 

「卵買ってなかったよ」

 

「――買えよ」

 

 その時、耳に響く破裂音が鳴る。スーパーの何処かだ。

 

「何?」

 

「俺にも分からないが、少なくともドッキリとかじゃない」

 

 スピーカーから、本来なら有り得ない声が流れた。

 

『このマイクはジャックした。総員お客さんを締め上げろ!』

 

「「ブラジャー!」」

 

 卑猥な集団だなおい!

 

「どうするっていうか、俺達拘束されるっぽいんだが」

 

「逃げるなら転移するよ」

 

 ……単純にキスしてスラ呼び出したらいいんじゃね?

 

「よし、キスするか」

 

「今!?」

 

 俺はヤタガラスの顎に手を添える。

 

『何してるんだお前ら!』

 

「こんな阻止もあるよな……」

 

 悔しく舌打ちした。目の前に1人の赤い服に赤い覆面を付けた男がいるということは、倒さないとな。

 

「あ、武器貸して」

 

「俺のパイプだけどな」

 

 真っ黒なパイプを裂けた空間から引き抜くと、ヤタガラスに渡す。

 

「こう見えて、槍投げは得意なんだよね」

 

 ヤタガラスはパイプを水平に構え、地面を踏み込むと、大きく体をしならせてぶん投げる。

 

 ……槍じゃないけど、鉄パイプだけど。

 

『お前ら! 残った客を捕まえぐほぁぁあ!!』

 

 お腹にジャストでめり込んだパイプは黒い煙に包まれて消え去り、男は横たわった。

 

「だから俺を殺す時、投げて転移したんだ……」

 

「何か言った?」

 

「なんも言ってねえよ」

 

 男の体を調べてみたが、ナイフ的なものはない。丸腰か?

 

「脱出する? それとも無駄足でバイオなハザードみたいに一掃する?」

 

「何も買えないから助けるに決まってるだろ」

 

 こいつらゾンビじゃないだろ。

 

「確かにそうだね」

 

「ゴミみたいなデートになってごめんな」

 

「……慣れてる」

 

 前に彼女か彼氏居たのか?

 

「どうやって終わらせるか」

 

「突入で」

 

「どこの脳筋だよ」

 

 まあ、それでも勝てるだろうけどな。ステータスという概念で一般人は勝てない。

 

「私が単騎で殲滅してくるから、そのへんで食パン入れといて」

 

 余裕そうに俺に背を向け歩き出す。

 

「何言ってんだ? 今日の献立考えろや」

 

 ヤタガラスの手を掴んで引き寄せる。一応女の子だし……な?

 

「む〜……」

 

 頬を膨らませて不満げに俺を見るな、若干赤いぞ。

 

「お前の戦場はキッチンだろうが!」

 

 美味しくなかったらつまみ出すからな。

 

「こ、壊れないでね……」

 

 俺の唇を撫でると、既に壊れてたのかも。そう呟いた。

 

『だから自販機じゃねえよ!』

 

「もしかしたらケルベロスいるかもしれないから、気をつけて」

 

 俺の背中を押し、ヤタガラスは笑顔で「行ってラッシャー板前」と言った。

 

「死んだら冷凍食品に転生しそう」

 

「寒くないもん……もん……」

 

 途中自身なさげだったな。俺は背を低くして棚に隠れながら進む。

 

 茶番をしていたおかげで、時間はかなり経ってる。全員の客を集めたと思い込んでそうだな。

 

 途中で覆面男が転がってたんだが、ケルベロスかな?

 

『抵抗したら殺すからな、警察は来てないというわけだ!』

 

 スピーカーからの声、警察無能かよ。何のためにこんなことしてんだ、身代金じゃないの?

 

 棚から棚へ飛び移り、姿を表さないようにする。人は居ないが、1箇所に集められてるのか。

 

「やめて下さい!」

 

「うるせえ!」

 

 声のする方向からして、お魚コーナーか! 俺は向かう事にした。

 

「お願いします! それは……」

 

「やっぱりうめえぜ。限定パクリマンチョコは」

 

 チョコなの!? セクハラじゃなくて?

 

「ぁあ……」

 

「おい、お前可哀想だろ。マジで限定品取るなとリーダーがあれほど」

 

 リーダー平和的じゃないか! 本当に何が目的なんだよ。

 

 近づく度に声が大きく聞こえる。見えるような距離になると、ケルベロスが見えた。

 

「お兄ちゃん……ぐすん」

 

 悲しそうにタイルを見つめてるな。さて、こっそりリーダー締め上げたら一気に終わるかな。

 

「あ! お兄ちゃんだ! 助けてー!」

 

 おーーい!!

 

「何やってんだケルベロス! 空気読んで黙っとけや!」

 

「お前ら! 構えろ! こいつは勇者バルデスだ……」

 

 なんで俺の名前知ってんだ? まさか、こいつら魔物か……ケルベロスが捕まるのも頷けるな。

 

「見つかったら仕方ねえな」

 

 俺はスクっと立ち上がり、裂けた空間に手を入れた。引き抜くと、真っ黒なヘルレイジが鉄パイプ姿で現れる。

 

残響(ノイズ)で消してやるから来いよ』

 

 ――このセリフ使おうかなって思いました。

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