この世界がおかしいとスライムだけが知っている   作:ec

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28話

- 幸せって言うのは -

 

 荷物はスラとイムが運んでくれたし、ヤタガラスにはゆっくりしてていいよって言われた。俺の家なんだけど、気遣ってくれてるんだな。

 

「こんなに人来たの、いつぶりかなぁ」

 

 俺は異世界に来ていいことあったなって思った気がした。

 

 

 

 

 魔王を見つけろという任務から結構経った。うちはともかく、ヤタガラスすら発見出来てない。

 

 そろそろ処刑されるのも時間の問題かも……いや、見つかりにくい魔王が問題だし。

 

「ケルベロス、最近ぼーっとしてない?」

 

 マーナはウロボロスと違って基本的に声をかけてくれる。こんなボロアパで2人で居るなんて、久しぶりかも。

 

「……別に。お兄ちゃんは?」

 

「ウロボロスは魔王の影響で生まれた魔物を洗脳してるよ」

 

 魔王の影響。どこまでが影響なんだろ?

 

「その魔物を何に使うの?」

 

「んー、雑用とかは置いといて。僕的に魔王の捜索に使ってほしいけどね」

 

 マーナの表情は基本見えない。仮面なような兜で隠されてたりする。人前に出たりする時は外してるけど。

 

 髪も後ろにちょこっと出てるくらいで黒かな?

 

「どうやらバルデスの暗殺に使うらしいよ」

 

「暗殺……」

 

「意外に根に持つタイプらしい」

 

 バルデスお兄ちゃんはウロボロスに悪い事をしたの? うちの記憶には思い浮かばない。

 

「酷いよね! 僕には手を出すなとか言っといて! だから死なないように忠告しといたよ」

 

「ありがと」

 

「ん? なんでお礼を言うんだい? お礼を言うならこのお財布に言ってくれよ」

 

 無駄に冷たくなったお財布。黒くてところどころ白い部分が見える。

 

「何かあったの?」

 

「ウロボロスが……何でもない。ケルベロスには関係ない話」

 

「変なマーナ〜」

 

 でも、不自然な感じ。うちを傷つけないような、そんな丁寧な扱いで。

 

「そうだ、特別に僕の秘密を打ち明けよう。代わりにケルベロスの秘密も教えてくれるかな?」

 

 うちの秘密は……ないような気がする。すべて話したと思う。

 

「うーん。うちの秘密……」

 

「僕の秘密はね、実は女なんだ」

 

「え!?」

 

 思ったより衝撃的だった。でも、お風呂は一緒に入ったことない気がする。

 

「声が中性っぽいから、黙ってたらね。みんな男って思い込んでて言い出せなかったんだよね」

 

「ウロボロスもヤタガラスも……知らないの?」

 

「もちろん、魔王も知らないよ。僕とケルベロスだけの秘密」

 

 とても特別な秘密を手に入れた気がして、マーナと仲が良くなった気分。私の秘密は……?

 

「次はケルベロスの番かな」

 

「強いて言うなら、お兄ちゃんの事が好き……」

 

「ウロボロスの事が? そんな」

 

 違う、お兄ちゃんじゃなくて。

 

「バルデスお兄ちゃん……」

 

「まさかの勇者!?」

 

「うん」

 

「なんで?」

 

 分からないけど、キスした途端世界が変わったんだ〜。そう言っても伝わらないだろうし……。

 

「お兄ちゃんとキスしたらわかるよ!」

 

「なんか違うのに目覚めそう」

 

「本当だし、本当だしぃ……」

 

 こんな時、ちゃんと伝えれないのが悲しくなる。

 

「肩の鎧を叩くなって。うーん、してみようかな」

 

「えっ」

 

 他人に奪われる気がして寒気が走る。マーナは強いから奪っちゃいそうだ。

 

「したらわかるならね、しない試しはない」

 

「初めてとか……」

 

「そんなのケルベロスでいいよ」

 

 兜を剥ぐと、マーナは私に近づく。

 

「た、たんま」

 

 一瞬で終わったキスで、マーナの唇が柔らかい事が印象的だった。

 

「んー、ケルベロスはいいね」

 

「何処が!」

 

「怒らないでね? 女の子だしいいじゃない」

 

「うー……」

 

 良くないような。

 

「あれ、ヤタガラスと違ってレズじゃないんだね」

 

「あんな変態と一緒にしないで」

 

「まあいいや、ケルベロスは暇?」

 

 どうでも良さげでうちはプクッと頬を膨らます。

 

「暇だけど……」

 

「怒るなー。これからバルデスに会いに行く」

 

 兜を置いたまま、うちの手を引っ張って立ち上がると、闇の扉を開く。

 

「えっちょっと……!」

 

「1人じゃ襲われるかもしれないし、ヤタガラスもいるから丁度いいね!」

 

「お風呂入りたい〜」

 

 力で叶わないうちはそのまま引っ張られ、闇の空間に吸い込まれてしまった。

 

 

 ヤタガラスが着々と料理を味見している中、イムはこっそりつまみ食い。

 

「イムダメだよー」

 

「お姉ちゃんもどうですか? こっそりならバレませんよ」

 

「……仕方ないねー」

 

 ミイラ取りがミイラになるとは、まさにこの事であった。

 

「俺は見た」

 

「こうしたら同罪ですね」

 

 バルデスの口に放り込まれる唐揚げ。ミイラを取らなくてもミイラになった感じだ。

 

「お、割と美味い……じゃなくて!」

 

「芽以の作る唐揚げとはまた違いますなー」

 

「ですなー」

 

「おーーい」

 

 やっぱり発見されてしまうもので、ヤタガラスは軽く注意していた。

 

「違うよー! りゅうきも食べてた!」

 

「そうですよ! 僕達だけ悪いわけないです!」

 

「擦り付けるな……」

 

『バルデスは悪くありませーん!』

 

 ヤタガラスは違う部分で反論していた。

 

「そこ!? 俺の事なの!?」

 

「差別だー!」

 

「人権……スライムの場合……スライム差別ですよ!」

 

 なんだその差別。

 

「そもそも唐揚げ食べた2人が悪い!」

 

 突然インターホンが鳴り響く。

 

「むむ、誰か来たっぽい」

 

 羽耳がみょーんと伸び、アンテナっぽくなった。猫の耳みたいだ。

 

「器用だな……俺が出てくる」

 

 バルデスは啀み合う3人を宥めて玄関のドアを開く。無意識にのぞき穴を覗かず開いていた。

 

「誰ですか――あ、新聞だったのかー!」

 

 マーナとケルベロスが見えた時点で誤魔化そうとドアを閉じる。

 

「ちょお兄ちゃ……」

 

「残念、鎧着てるからね」

 

 間にマーナの腕が入り、バルデスは悔しそうに舌打ちをかます。

 

「何の用だよ」

 

「ケルベロスが君の事好きらしいから、話してみたくてね」

 

「言わないで!」

 

 その程度なら帰ってくれとドアを閉めようとするが、鎧が嘆くだけだ。

 

「僕とキスしてくれないか?」

 

「は?」

 

『違う、マーナはちょっと恋愛が下手な女の子だから』

 

 ダイレクトアタックを仕掛けるマーナにバルデスも引き気味だ。男だと思っているから尚更。

 

「男とはちょっとな……」

 

「僕は女の子なんだ、信じてくれ」

 

「髪長いけど、エクステしてもなぁ」

 

 そこでケルベロスは提案をする。

 

『マーナが勝ったらキスしてあげない?』

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