- 幸せって言うのは -
荷物はスラとイムが運んでくれたし、ヤタガラスにはゆっくりしてていいよって言われた。俺の家なんだけど、気遣ってくれてるんだな。
「こんなに人来たの、いつぶりかなぁ」
俺は異世界に来ていいことあったなって思った気がした。
魔王を見つけろという任務から結構経った。うちはともかく、ヤタガラスすら発見出来てない。
そろそろ処刑されるのも時間の問題かも……いや、見つかりにくい魔王が問題だし。
「ケルベロス、最近ぼーっとしてない?」
マーナはウロボロスと違って基本的に声をかけてくれる。こんなボロアパで2人で居るなんて、久しぶりかも。
「……別に。お兄ちゃんは?」
「ウロボロスは魔王の影響で生まれた魔物を洗脳してるよ」
魔王の影響。どこまでが影響なんだろ?
「その魔物を何に使うの?」
「んー、雑用とかは置いといて。僕的に魔王の捜索に使ってほしいけどね」
マーナの表情は基本見えない。仮面なような兜で隠されてたりする。人前に出たりする時は外してるけど。
髪も後ろにちょこっと出てるくらいで黒かな?
「どうやらバルデスの暗殺に使うらしいよ」
「暗殺……」
「意外に根に持つタイプらしい」
バルデスお兄ちゃんはウロボロスに悪い事をしたの? うちの記憶には思い浮かばない。
「酷いよね! 僕には手を出すなとか言っといて! だから死なないように忠告しといたよ」
「ありがと」
「ん? なんでお礼を言うんだい? お礼を言うならこのお財布に言ってくれよ」
無駄に冷たくなったお財布。黒くてところどころ白い部分が見える。
「何かあったの?」
「ウロボロスが……何でもない。ケルベロスには関係ない話」
「変なマーナ〜」
でも、不自然な感じ。うちを傷つけないような、そんな丁寧な扱いで。
「そうだ、特別に僕の秘密を打ち明けよう。代わりにケルベロスの秘密も教えてくれるかな?」
うちの秘密は……ないような気がする。すべて話したと思う。
「うーん。うちの秘密……」
「僕の秘密はね、実は女なんだ」
「え!?」
思ったより衝撃的だった。でも、お風呂は一緒に入ったことない気がする。
「声が中性っぽいから、黙ってたらね。みんな男って思い込んでて言い出せなかったんだよね」
「ウロボロスもヤタガラスも……知らないの?」
「もちろん、魔王も知らないよ。僕とケルベロスだけの秘密」
とても特別な秘密を手に入れた気がして、マーナと仲が良くなった気分。私の秘密は……?
「次はケルベロスの番かな」
「強いて言うなら、お兄ちゃんの事が好き……」
「ウロボロスの事が? そんな」
違う、お兄ちゃんじゃなくて。
「バルデスお兄ちゃん……」
「まさかの勇者!?」
「うん」
「なんで?」
分からないけど、キスした途端世界が変わったんだ〜。そう言っても伝わらないだろうし……。
「お兄ちゃんとキスしたらわかるよ!」
「なんか違うのに目覚めそう」
「本当だし、本当だしぃ……」
こんな時、ちゃんと伝えれないのが悲しくなる。
「肩の鎧を叩くなって。うーん、してみようかな」
「えっ」
他人に奪われる気がして寒気が走る。マーナは強いから奪っちゃいそうだ。
「したらわかるならね、しない試しはない」
「初めてとか……」
「そんなのケルベロスでいいよ」
兜を剥ぐと、マーナは私に近づく。
「た、たんま」
一瞬で終わったキスで、マーナの唇が柔らかい事が印象的だった。
「んー、ケルベロスはいいね」
「何処が!」
「怒らないでね? 女の子だしいいじゃない」
「うー……」
良くないような。
「あれ、ヤタガラスと違ってレズじゃないんだね」
「あんな変態と一緒にしないで」
「まあいいや、ケルベロスは暇?」
どうでも良さげでうちはプクッと頬を膨らます。
「暇だけど……」
「怒るなー。これからバルデスに会いに行く」
兜を置いたまま、うちの手を引っ張って立ち上がると、闇の扉を開く。
「えっちょっと……!」
「1人じゃ襲われるかもしれないし、ヤタガラスもいるから丁度いいね!」
「お風呂入りたい〜」
力で叶わないうちはそのまま引っ張られ、闇の空間に吸い込まれてしまった。
ヤタガラスが着々と料理を味見している中、イムはこっそりつまみ食い。
「イムダメだよー」
「お姉ちゃんもどうですか? こっそりならバレませんよ」
「……仕方ないねー」
ミイラ取りがミイラになるとは、まさにこの事であった。
「俺は見た」
「こうしたら同罪ですね」
バルデスの口に放り込まれる唐揚げ。ミイラを取らなくてもミイラになった感じだ。
「お、割と美味い……じゃなくて!」
「芽以の作る唐揚げとはまた違いますなー」
「ですなー」
「おーーい」
やっぱり発見されてしまうもので、ヤタガラスは軽く注意していた。
「違うよー! りゅうきも食べてた!」
「そうですよ! 僕達だけ悪いわけないです!」
「擦り付けるな……」
『バルデスは悪くありませーん!』
ヤタガラスは違う部分で反論していた。
「そこ!? 俺の事なの!?」
「差別だー!」
「人権……スライムの場合……スライム差別ですよ!」
なんだその差別。
「そもそも唐揚げ食べた2人が悪い!」
突然インターホンが鳴り響く。
「むむ、誰か来たっぽい」
羽耳がみょーんと伸び、アンテナっぽくなった。猫の耳みたいだ。
「器用だな……俺が出てくる」
バルデスは啀み合う3人を宥めて玄関のドアを開く。無意識にのぞき穴を覗かず開いていた。
「誰ですか――あ、新聞だったのかー!」
マーナとケルベロスが見えた時点で誤魔化そうとドアを閉じる。
「ちょお兄ちゃ……」
「残念、鎧着てるからね」
間にマーナの腕が入り、バルデスは悔しそうに舌打ちをかます。
「何の用だよ」
「ケルベロスが君の事好きらしいから、話してみたくてね」
「言わないで!」
その程度なら帰ってくれとドアを閉めようとするが、鎧が嘆くだけだ。
「僕とキスしてくれないか?」
「は?」
『違う、マーナはちょっと恋愛が下手な女の子だから』
ダイレクトアタックを仕掛けるマーナにバルデスも引き気味だ。男だと思っているから尚更。
「男とはちょっとな……」
「僕は女の子なんだ、信じてくれ」
「髪長いけど、エクステしてもなぁ」
そこでケルベロスは提案をする。
『マーナが勝ったらキスしてあげない?』