この世界がおかしいとスライムだけが知っている   作:ec

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34話

- 最後の手段 -

 

「誰だ貴様は!」

 

 ウロボロスは、後ずさりながらスラを警戒する。

 

創破(ソウハ)王魔(オーマ)ノルン』

 

「そんなわけ……」

 

 風でチラリとめくれた白のワンピースの隙間から、紋章が光っているのが見える。

 

『リストレイントブレイク』

 

 服を無視して弾け飛ぶ紋章。

 

 ビギィンッ。

 

 ワンピースが粒子を纏って黒くくすむ。自己拘束魔法陣が反応スキルによって解除され、力を解放した状態だ。

 

「ッ!?」

 

『ウロボロス、お前は私の仲間に手を出しすぎた……』

 

「お前が魔王なはずがない! 液体のはずだ!」

 

 情報が誤りだったのか、ちゃんと伝わっていない。スラはそう確信した。

 

「確かに勇者の魔法によって、スライムになってしまった。だが、スライムは変身ができる、1回限りだが、その変身で靴になる物が多い。私は人間を選ばせてもらった」

 

「本当に魔王だと言うのか……?」

 

「私の靴は水色。これでどう? なんなら液体に戻ってもいい」

 

 ウロボロスの額から汗が滲む。魔王の靴は確かに水色だったのだ、好きな色の水色で一致してしまっている。

 

「この口調飽きた。まだ信じないの?」

 

「偶然だ……」

 

「友達が居なかったお陰で手に入れた能力でも見せようかな」

 

 スラはパチンっと指を弾き、何処からか取り出したスライムを強く握る。

 

「スライムがお友達になったよ?」

 

 ピョコピョコと手のひらから飛び降りて跳ね回るスライム。ポケットに戻っていく。

 

「ぁあっ!?」

 

「ヤタガラスもウロボロスもケルベロスも、みーんな本当は死んでるんだよ。死んだ神に命を吹き込んでね」

 

「知らなかった……ま、マーナはどうなんだ? ユリウスも」

 

 ウロボロスは元が死んでいる事など、どうでも良かった。省かれたマーナとユリウスに違和感を抱いたのだ。

 

『仲良し3人組だよ』

 

 今の幸せを噛み締めるように、スラはニコリと白い歯を見せて笑った。

 

「くっ……ノルン様、俺なりに尽くしているのですが」

 

「悪い方向に尽くし過ぎ! 仲間を利用したらダメだよ? みんな離れていく」

 

「仲間を利用してなんか……」

 

「妹は仲間じゃないと?」

 

 転移よりも早い速度でウロボロスも目の前に佇む。ウロボロスは一瞬言葉を失った。

 

「な、仲間ですとも」

 

『性の捌け口として利用した事を、利用してないと言い切るの?』

 

 スラはガッシリとウロボロスの頭を簡単に掴んで持ち上げる。メキメキという怒りの篭った音が響く。

 

「ッ……!」

 

「残念だ……神の力をそんな使い方するなんて」

 

「バルデス、芽以! 早くノルンを切り捨てろ! 100倍の下僕を持った俺が負ける訳無いんだ……ははっ」

 

『1000倍って弱いのかな?』

 

 バルデスが振り下ろした白と黒の鉄パイプは、白い肌に触れた途端、砕け散る。芽以の武器も3本が折れてしまった。

 

 ドサッ。2人は敗北を表すように膝をつく。

 

「1000倍!? そんな馬鹿な、なら何故負けた!?」

 

「そんなん決まってる。最速でランダム変成魔法【イムラス・チェンジ】を放たれたら負けるじゃん」

 

 バルデスはとてつもなく卑怯な戦術を取っていた。

 

「…………」

 

「お別れだね、元は私なんて信じれないよみんな」

 

『――早く元の世界に帰らないと、この世界がおかしくなるぞ』

 

 殺されるのに、スラを心配しながら呟いた。自分自身に語りかけてる様な忠告だった。

 

『知ってる、ラストリゾート(最後の手段)

 

 ウロボロスの頭から淡い光と共に消え失せていく。残り香の如く残った粒子は風に流されて。

 

「りゅうきとは縁が無いな〜、芽以も担がないと」

 

 スラは2人を担いで、ゆっくり帰ることにした。

 

 

 

 そのころ4人は、りゅうきの財布で回転寿司に来ていた。イムのリクエストらしい。

 

「本当だね、奢りって調味料だ」

 

「でもお兄ちゃん居ないと美味しくない……」

 

「お姉ちゃんがリュウキさんと2人っきりになりたいって言ってましたよ」

 

『なんだって!?』

 

 イムの情報に、ヤタガラスは唐揚げをパクリと口に放り込んでいた。

 

「あっ共食いだ」

 

「そうだね、鳥が鳥を食べてるよ」

 

 ヤタガラスの耳に届くことはなく。

 

「ヤタガラスさん落ち着いてください、お姉ちゃんはまだキスすらしてもらってないんです」

 

「なら仕方ないね」

 

 ヤタガラスにも女心は存在しているらしい。

 

「芽以さんも含んで、プリクラ撮りたいね」

 

「なんだいそれ?」

 

「マーナは知らないんだ……」

 

「うちも知らないよ」

 

 知っているヤタガラスは女子中学生を相手にする高校生の様だった。

 

「なら、イムは知ってるよね!」

 

「無知なので、僕は知りません」

 

 ぱくぱくと消えていくレーン。

 

「なんでみんな知らないのー?」

 

「若いから知らないんだよ?」

 

「うん」

 

『普通逆じゃない!? 私をおばさんにしやがって!』

 

 年齢をいじられることを危惧していたヤタガラスの予想は的中。

 

「ビーチ行ってみたら? そんなに唐揚げ食べてるとお腹出てるかもね」

 

「ちょっと表出る?」

 

「今5皿目じゃないかな?」

 

「太らない体質だもん……」

 

「今フラグ立てたね、ケルベロスは見てた?」

 

 シクシクと消えていく唐揚げは、背徳心から美味しさが倍増していた。

 

「結局魔王は何処なのかな」

 

「話逸らしたね。僕的にスラだと思う」

 

「なんで?」

 

「前にもここに来たんだけど、ユリウス知ってたし、僕が知らないことも知ってたんだよ」

 

 2人は推理をするように話を組む。

 

「でも液体じゃないよ」

 

「液体だった。過去形みたいな?」

 

「液体……魔物? スライムなら1回だけ変身できるけど、その時魔王に変身しないなんておかしい」

 

 またひと皿唐揚げが現れる。

 

「魔王になれない状況だったんだよ、少なくとも能力は使ってたね」

 

 マーナは捕まる時にスラのリストレイントブレイクを見ていた。

 

「あのチート使ってたなら確定かも」

 

「マーナ〜、肉じゃが押して」

 

 ケルベロスは、四天王の中では小さい。注文用スクリーンが、マーナを挟んでいたせいで届かなかった。

 

「分かった」

 

 好きな物しか食べてない3人と、こっそりレーンの皿を減らしているイム。どこが違うのだろうか。

 

「女の子で恋したくない?」

 

「ギトギトな唇とキスしたくないよ」

 

『油も沈み込むような恋をお望みなの』

 

「もしかして鳥類ちえみ?」

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