この世界がおかしいとスライムだけが知っている   作:ec

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14話

- イグニションチェンジ・オーバードライブ -

 

 何も無い空間から剣を引き抜く動作をすると、細かく描かれた赤い紋章が浮かび、白銀の剣が俺の手元に現れる。同時に俺の体が重くなった。

 

 弱点その1、バースト・カラミティを発動した時点で、疫病神(カラミティ)と契約した事になる。

 

 武器を持った手の甲に、赤い紋章が疼く様に鈍い光を放ってた。常に俺の身体能力を拘束(奪う)するスキルが付属された証拠だな。

 

 次の段階を発動するまで、剣を出す為だけに永遠の縛りプレイを約束したようなもんだ。体が重いし。

 

『急所外すから』

 

「ここは私の世界、急所を貰うのは……」

 

 剣を構え、急速に接近した俺は、縦に振り下ろす。当然弾かれ、俺の服が少したなびいた。

 

「ダメダメ」

 

 勝負にもならないと、軽く弾いて俺の腹にミドルキックが炸裂。容易く吹き飛んでしまう。

 

 思い出した、これがクレイジーワールドだ。正々堂々というのはただの建前。

 

 相手のマイナス効果は倍になり、ヤタガラス自身はプラス効果が倍になる。カラミティのマイナスは高いかもしれない。

 

 とにかく、俺を殺すためだけに用意した異空間魔法だと分かったからいいな。

 

 よろめきながら、ゆっくり立ち上がる。プラス効果とマイナスがやばすぎて頭おかしくなりそうだ。

 

「この程度?」

 

 場所こそマンションで変わってない、だけど灰色って違和感あるな。

 

「まだだ」

 

 打開策はないかもしれない。

 

 無惨に突撃する俺を1歩も動かずに、吹き飛ばすヤタガラス。いや、次の段階を発動すれば!

 

「次は俺に服従する」

 

「信憑性ないね」

 

 カラミティが20%奪うとしたら、40%奪われてる。それを5倍にして還元するのが次のスキルだ。

 

『ヘルノイズ』

 

「早すぎ……」

 

 剣を投げ捨て、同じように剣を引き抜く動作をすると、手に黒い剣を握っていた。みるみる軽くなっていく俺の体。

 

 40%が5倍になって還元は相当だろ。しかし、還元したその状態から40%減るという良く分からない計算が施されてる。

 

 間違いなく言えるのは、とにかく強くなった。

 

「甘い……ホットケーキより甘い」

 

「俺が言うのもあれだが、ホットケーキそんなに甘く無くね?」

 

「うるさい!」

 

 武器を呼び出し、俺に投げつけるヤタガラスを軽く交わしながら走り込む。

 

『レイズ! レイズ! レイ……あ、グラビティロック』

 

 放たれる魔法を剣で打ち消し、ゼロ距離で剣を振り下ろした時だった。体が硬直する。

 

「な!? えっちょ……まっ」

 

 空中で固まってるんだ、そりゃ驚く。

 

『ここで死ぬのも良いじゃない』

 

 ダメに決まってるだろ。動け! 動け!

 

「やめてくれ、やめてくれよ……」

 

 マイナスが重なるなら、あのスキルはどうだ? とりあえず、泣いた振りで時間を稼ぐ。

 

「頼むよ……うっ」

 

「男なのに泣くんだ〜」

 

 ――ガチ泣きです。

 

「まだ死にたくないんだ」

 

「なんで? 倒せないのに、この空間から出れないよ?」

 

 体が少しだけ動きそうになってる、行けるぞ。こいつ馬鹿じゃね!

 

「お前の事が好きだから、ずっとこのまま居たい。死んだら会えなくなる」

 

「何言ってるの……」

 

「カツラ外せよ、透き通る銀髪が見たい」

 

 ちょっとだけ頬を赤く染めたヤタガラスはやっぱり、女だったみたいだ。

 

 

 忘れていたとカツラを外し、銀色のポニーテールと猫耳ならぬ、鳥の羽耳がピョコっと現れる。どういう仕組み!?

 

 鳥の羽が猫耳っぽくていいけど、めっちゃユサユサしてる「初めて言われた……」と語ってる。

 

 もうちょいで体が!

 

「でも、残念だ」

 

「何が? 俺はヤタガラスとならこのままでいい」

 

「私、多分レズかもしれない」

 

「そっちかよおお!!」

 

 体が動いた瞬間、武器を手放してヤタガラスにピッタリと引っ付く。

 

「何するの? 私は殺せれないよ」

 

『好きな奴は殺さない、空間を殺す』

 

 フレンチ・ブレイクを覚えてるだろうか、思春期殺しを。

 

 あれはマイナススキル。ここで俺のマイナスが倍になるってことは、理不尽レベルも高まるはず。

 

「かっこいいこと言うじゃん、でも……」

 

 顎クイをすると、無駄に黙り込む「ここまでやったなら早くしてよね」辺りらしい。なにこいつ? 愛不足なの?

 

 ビッチなの? する気は無い、というか、出来ないな。

 

 ヤタガラスの唇に近づいた瞬間、脆いガラスのようにクレイジーワールドが崩壊していく。真っ黒で明るいカラーのマンションが帰ってきた感を湧かせてくれる。

 

『りゅうきだめー!!』

 

「私のクレイジーワールドが……」

 

 既視感しかない声がする方向を見てみると、俺の眼前にスニーカーを履いたスラがワンピで飛び蹴りを放っていて……まさか。

 

『ぐほぁぁあ!!』

 

 直撃だった。吹き飛んだ俺は、マンションのドアに打ち当たり、視界がぼやけ始める。

 

 やはり、フレンチ・ブレイクは理不尽を極めたスキルだ。ガイルに初めて感謝した。

 

「バルデス……トロン……」

 

 対峙するスラとヤタガラス。俺の意識は持つことも無く、へにゃりと床に倒れ込んだのだった。

 

 

 

 

『バルデス! 今助ける……』

 

「その心配は入らない。俺はコイツを倒すから、ガイルは俺が死なないように祈りつつ、周りを殲滅するほうがいい」

 

「無茶じゃないか!?」

 

「仲間連れていくの拒否したお前に言われたくねー!」

 

「じゃあ、これをやろう」

 

「なんだこれ」

 

「魔力を封じ込めた魔力だ」

 

「……ただの魔力じゃね」

 

 

 

 

 

 

 目を開くと、夢を見たと実感する。久々のベッドだ。

 

 だが、枕が異様にふにゃーとしてて柔らかい。冷たくて、隣を見てみるとスラが!

 

 逆を見てみるとイムがいた。あー嬉しいな……じゃなくて。

 

 あれからどうなった? ヤタガラスは?

 

「りゅうき起きたー?」

 

 目をパチパチするスラと目が合い、気まずくなる。

 

「あ、あぁ、起きた。どうして俺は寝てるんだ」

 

「その前に言う事あるでしょ」

 

 そうだな、感謝してなかった。

 

「ありがとう、助けてくれて」

 

「違う!」

 

 まさか……!

 

「腕枕ありがとう」

 

「うむ」

 

 それでいいのか。腕枕そんなに? ……いや、ヒンヤリとモニモニしてる枕は至高の逸品だな。

 

「それで、どうなった」

 

「イムにりゅうき運んでもらって、あの女の人追い出したよ! こう見えて私は強いスライム」

 

 いやぁ、強いのは知ってる。あんなにカップラーメン食べたならそれくらい活躍してくれないと! 助かったけどな。

 

「俺を蹴る必要はあったか?」

 

「体が勝手に動いただけだもん」

 

『リュウキさんの事心配して、八つ当たりの様に半殺しにしてましたよ』

 

『イムダメだよ! 言っちゃダメ!』

 

 何はともあれ、スラに感謝しつつ風呂に入る事にした。俺って凄く弱かったんだな。

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