- イグニションチェンジ・オーバードライブ -
何も無い空間から剣を引き抜く動作をすると、細かく描かれた赤い紋章が浮かび、白銀の剣が俺の手元に現れる。同時に俺の体が重くなった。
弱点その1、バースト・カラミティを発動した時点で、
武器を持った手の甲に、赤い紋章が疼く様に鈍い光を放ってた。常に俺の身体能力を
次の段階を発動するまで、剣を出す為だけに永遠の縛りプレイを約束したようなもんだ。体が重いし。
『急所外すから』
「ここは私の世界、急所を貰うのは……」
剣を構え、急速に接近した俺は、縦に振り下ろす。当然弾かれ、俺の服が少したなびいた。
「ダメダメ」
勝負にもならないと、軽く弾いて俺の腹にミドルキックが炸裂。容易く吹き飛んでしまう。
思い出した、これがクレイジーワールドだ。正々堂々というのはただの建前。
相手のマイナス効果は倍になり、ヤタガラス自身はプラス効果が倍になる。カラミティのマイナスは高いかもしれない。
とにかく、俺を殺すためだけに用意した異空間魔法だと分かったからいいな。
よろめきながら、ゆっくり立ち上がる。プラス効果とマイナスがやばすぎて頭おかしくなりそうだ。
「この程度?」
場所こそマンションで変わってない、だけど灰色って違和感あるな。
「まだだ」
打開策はないかもしれない。
無惨に突撃する俺を1歩も動かずに、吹き飛ばすヤタガラス。いや、次の段階を発動すれば!
「次は俺に服従する」
「信憑性ないね」
カラミティが20%奪うとしたら、40%奪われてる。それを5倍にして還元するのが次のスキルだ。
『ヘルノイズ』
「早すぎ……」
剣を投げ捨て、同じように剣を引き抜く動作をすると、手に黒い剣を握っていた。みるみる軽くなっていく俺の体。
40%が5倍になって還元は相当だろ。しかし、還元したその状態から40%減るという良く分からない計算が施されてる。
間違いなく言えるのは、とにかく強くなった。
「甘い……ホットケーキより甘い」
「俺が言うのもあれだが、ホットケーキそんなに甘く無くね?」
「うるさい!」
武器を呼び出し、俺に投げつけるヤタガラスを軽く交わしながら走り込む。
『レイズ! レイズ! レイ……あ、グラビティロック』
放たれる魔法を剣で打ち消し、ゼロ距離で剣を振り下ろした時だった。体が硬直する。
「な!? えっちょ……まっ」
空中で固まってるんだ、そりゃ驚く。
『ここで死ぬのも良いじゃない』
ダメに決まってるだろ。動け! 動け!
「やめてくれ、やめてくれよ……」
マイナスが重なるなら、あのスキルはどうだ? とりあえず、泣いた振りで時間を稼ぐ。
「頼むよ……うっ」
「男なのに泣くんだ〜」
――ガチ泣きです。
「まだ死にたくないんだ」
「なんで? 倒せないのに、この空間から出れないよ?」
体が少しだけ動きそうになってる、行けるぞ。こいつ馬鹿じゃね!
「お前の事が好きだから、ずっとこのまま居たい。死んだら会えなくなる」
「何言ってるの……」
「カツラ外せよ、透き通る銀髪が見たい」
ちょっとだけ頬を赤く染めたヤタガラスはやっぱり、女だったみたいだ。
忘れていたとカツラを外し、銀色のポニーテールと猫耳ならぬ、鳥の羽耳がピョコっと現れる。どういう仕組み!?
鳥の羽が猫耳っぽくていいけど、めっちゃユサユサしてる「初めて言われた……」と語ってる。
もうちょいで体が!
「でも、残念だ」
「何が? 俺はヤタガラスとならこのままでいい」
「私、多分レズかもしれない」
「そっちかよおお!!」
体が動いた瞬間、武器を手放してヤタガラスにピッタリと引っ付く。
「何するの? 私は殺せれないよ」
『好きな奴は殺さない、空間を殺す』
フレンチ・ブレイクを覚えてるだろうか、思春期殺しを。
あれはマイナススキル。ここで俺のマイナスが倍になるってことは、理不尽レベルも高まるはず。
「かっこいいこと言うじゃん、でも……」
顎クイをすると、無駄に黙り込む「ここまでやったなら早くしてよね」辺りらしい。なにこいつ? 愛不足なの?
ビッチなの? する気は無い、というか、出来ないな。
ヤタガラスの唇に近づいた瞬間、脆いガラスのようにクレイジーワールドが崩壊していく。真っ黒で明るいカラーのマンションが帰ってきた感を湧かせてくれる。
『りゅうきだめー!!』
「私のクレイジーワールドが……」
既視感しかない声がする方向を見てみると、俺の眼前にスニーカーを履いたスラがワンピで飛び蹴りを放っていて……まさか。
『ぐほぁぁあ!!』
直撃だった。吹き飛んだ俺は、マンションのドアに打ち当たり、視界がぼやけ始める。
やはり、フレンチ・ブレイクは理不尽を極めたスキルだ。ガイルに初めて感謝した。
「バルデス……トロン……」
対峙するスラとヤタガラス。俺の意識は持つことも無く、へにゃりと床に倒れ込んだのだった。
『バルデス! 今助ける……』
「その心配は入らない。俺はコイツを倒すから、ガイルは俺が死なないように祈りつつ、周りを殲滅するほうがいい」
「無茶じゃないか!?」
「仲間連れていくの拒否したお前に言われたくねー!」
「じゃあ、これをやろう」
「なんだこれ」
「魔力を封じ込めた魔力だ」
「……ただの魔力じゃね」
目を開くと、夢を見たと実感する。久々のベッドだ。
だが、枕が異様にふにゃーとしてて柔らかい。冷たくて、隣を見てみるとスラが!
逆を見てみるとイムがいた。あー嬉しいな……じゃなくて。
あれからどうなった? ヤタガラスは?
「りゅうき起きたー?」
目をパチパチするスラと目が合い、気まずくなる。
「あ、あぁ、起きた。どうして俺は寝てるんだ」
「その前に言う事あるでしょ」
そうだな、感謝してなかった。
「ありがとう、助けてくれて」
「違う!」
まさか……!
「腕枕ありがとう」
「うむ」
それでいいのか。腕枕そんなに? ……いや、ヒンヤリとモニモニしてる枕は至高の逸品だな。
「それで、どうなった」
「イムにりゅうき運んでもらって、あの女の人追い出したよ! こう見えて私は強いスライム」
いやぁ、強いのは知ってる。あんなにカップラーメン食べたならそれくらい活躍してくれないと! 助かったけどな。
「俺を蹴る必要はあったか?」
「体が勝手に動いただけだもん」
『リュウキさんの事心配して、八つ当たりの様に半殺しにしてましたよ』
『イムダメだよ! 言っちゃダメ!』
何はともあれ、スラに感謝しつつ風呂に入る事にした。俺って凄く弱かったんだな。