- サタン様 -
サタン様、それはバルデスのスキルの最高レベルだ。ヘルの次のスキル。
マイナス効果をプラス変換する……いわゆるチート。そもそもカラミティの40%を100倍に切り替えて還元し、紋章を破壊。40%の重みすら消すのに弱いわけがない。
問題は終わったらカラミティを最初から唱えないといけない点だな。それと武器が壊れたらサタンは消える、ヘルは呼び出したらいいだけ。
『イモータルスレイヴ』
「スレイヴ……そんなのあったか?」
ヤタガラスの槍は砕け、粒子を放って消える。
「あるよ」
弧を描く様に右腕を振り上げると金色の槍が現れる。
「見たことないな……」
バルデスの記憶力が極端に低いだけだった。
「記憶力ないんじゃない?」
「そんな分けないだろ」
ヤタガラスは槍を投げる!
バルデスに詰め寄った槍から、少し遅れて粒子と共にヤタガラスが現れた。力強く槍を振るう姿は四天王の存在感を刻む。
「あぶねぇ」
「手加減はしない」
弾き合う音が炸裂し、2人を衝撃波が包む。受け止めたバルデスは苦く顔を顰める。
「死んでくれよ!」
大振りに線を描く槍と黒剣が交錯する。互いの武器が触れ合う度にバルデスが一方的に傷を負っていく。
「本当に死ぬじゃん!」
「殺さないと……殺さないと」
念じる様にヤタガラスは口ずさむ度、力が強くなる。
「気持ち悪っ」
「負の連鎖を止める……!」
隙を見抜いたヤタガラスは左手に光のオーラを宿らせ、黒剣に触れる。途端に錆びて朽ちていく!
『ライトカース』
「これか……!」
剣を失ったバルデスに金色の槍が降りかかった。
『バースト・カラミティ』
白銀の剣を召喚し、槍を弾くと役目を果たした様に砕ける。この剣では耐えきれない。
『さあ、死の準備だね』
「サタンしかないのか……!」
「猶予は与えない」
続け様に突き出された槍、それはバルデスを貫通すること無く火花を散らして掻き消された。
『ヘルカラミティ』
「もう少し上を狙っていたら……」
再び槍を召喚して投げつけても、バルデスに突き刺さっても、何事も無かった様に粒子に変わる。
バルデスはクロスを描く様に白銀の剣と黒剣を引き抜くと、それを混ぜ合わせるように頭上で擦り合わせた。ヤタガラスは距離を取ることしかもう手段はない。
『サタンエンヴィ』
武器は白と黒のバルデスを超える大剣に姿を変え、髪は黒から銀に。紋章は力強い光を放ちながら『パリンッ』と砕け、仮面の目元に吸収された。
真っ白で半分に割れた仮面がサタンだ。歪な割れ跡、口元に剥き出しの歯茎を黒の模様で描かれている。
紋章はカラミティ、どこまでも疫病神だった。
『俺の出番が来たんだな』
「くっ……」
大剣を軽々と肩にかけ、低く濁った様な声で語りかけるバルデスとも言えない声。ヤタガラスの勝ち目は完全に消失したと言える。
「ライ、ライト……カース」
「効かないな、マイナスはプラスに変わる。武器破損で俺は消えても消せない」
大剣と仮面はサタン。片方が壊された場合、サタンは帰ってしまう弱点がある。
ライトカースはそもそも光に武器を腐らせる効果を付属しただけだ、確定破損ではない。
(サタンの出番はない、申し訳なく発動しただけだからな)
ステータス的に見れば、ヤタガラスの50倍はある。
「また負ける……? また死ぬ……?」
『残念、空間を殺す』
武器を持ってない手を地面を打ち付け、姿を消す。
「私の世界なのに、場所が……?」
サタンのスキル、サタンワープ。ヤタガラスの背後に気づかれず忍び寄ったバルデスは力加減をして拘束する。
「ぐぇっ」
無理矢理、腕を背後に回された反動で、小さく唸った。
「空間を殺せるといいな」
「何をされても、揺るが、ない」
前を向かせ、バルデスは阻止される前提でヤタガラスとキスを交わす。何の反動が来ない事に、絶望しながら。
「俺の……」
「私の……」
「「初めてが!!」」
俺は同様が隠せず手が震える。くっついていた唇を恐る恐る離しても震えてる、唇が柔らかい四天王!
本当に殺さないと出れないのか……? もしや、サタンのマイナスをプラスにするスキルが影響してる?
しかし、ヤタガラスは俺の肩を離さなかった。というか、顔赤くね?
「おい、拘束してないのに何故逃げなかった?」
「早く……もう1回しなさいよ……」
マイナスがプラスになるとすれば、性的な理不尽が巻き起こるようになるよな。
恥ずかしそうに顔を紅く染め、視線を逸らすバカにもう1回する訳もなかった。
「まだ……? 舌の奴やってないよね?」
舌を無駄に出して、息を荒らげて誘われても困るし、サタンはどうなってんだ。
「やらねえよ、バカ」
軽くビンタで頬を叩くと、涙目になった。
「してくれないと拗ねるよ」
「勝手に拗ねろよ、鳥類め」
「拗ねちゃうもん」
すると、ヤタガラスは後ろを向いてしゃがみ込んだ。俺は仕方なく肩をポンポン。
「なにかな?」
振り向いたヤタガラスの頬に、俺の人差し指がグサッと刺さった。ちょっと怒って可愛い気もする。
「振り向かないもん」
頭の羽耳をバッサバサ鳴らし、羽根を撒き散らして怒りアピール。可愛いじゃん!
まあいい、俺はその間にすることをする。
「絶対に振り向くなよ」
「うん」
「良いって言うまで振り向かなかったら、もう1回してあげてもいい」
「約束だね」
俺は
「手下がサタンを破壊するなんて、思いもよらないだろうなっと」
仮面を覆うように一筋の閃光が走ると、紋章が膨張して消えた途端に仮面も後を追って消えた。剣は役目を終えた様にキラキラと白と黒の粒子に変わる。
俺の予想だと、ヤタガラスにサタンのあれも意味なく俺に敵対してるはず。そう思って振り向く。
「まだかな……」
イジイジと地面に指をツンツンしていた――
この世界のルール忘れてない? 俺殺すか殺されないとこの世界出れないよな?
どうなってんだ! この世界どうなってんだ!
「終わったよ」
「でも良いとは言われてない、引っ掛けかも」
「振り向いて良いよ、これでどうだ?」
「じゃあ……」
俺をキラキラとした目で見るヤタガラスが居た。立ち上がるや否、俺の側に駆け寄る始末。
あぁ、解除されてないよな。サタン様の嫌がらせ?
「バルデスからして欲しいよ……」
嬉しいのか知らないけど、背伸びを繰り返してリズム取ってるって相当だよな。人差し指同士でツンツン、俺から目を逸らす。
めっちゃ可愛いじゃん!
「バルデスじゃなくて、龍樹っていう名前があるんだが」
「ダメ、私はバルデスが好きなの」
「あ、うん」
「男を好きになるなんてね……早くしてよ」
するしかないだろうけど、阻止されるのは聡明だ。悲しい未来である。
いや、最速なら?
「急かすなって、するから」
「待ってるから急かすんだよ?」
出来れば、叶えてあげたい。
――俺はヤタガラスと唇を重ね、強引に舌を入れてみた。背景の様に静かだった向こう側がガラスのように崩壊した。
『りゅうきダメだよー!』