- 愛の先進 -
どうしてまずいかと言うと、スマホを確認した時、芽以からの着信が地味にあったのだ。
着信無視で女の子とデート? 許されるわけがない。妹を見捨てたクズだろうな。
つまり、バレないように退散するかやり過ごすか。俺達は、まだ食い終えてないので退散する事は出来ない。
「バルデス? 険しい顔するんだ」
「まぁな。ところで、ゆっくり食べて腕疲れないのか?」
「疲れるけど、どうしようもないもん」
ゆっくりはむはむじゃ進まないぞ!? いや、これは使えるな。
「俺が食べさせてあげるよ」
ようやく半分くらいのハンバーガーをヤタガラスから奪い取る。距離も密着して、背中に手を手を回すスタイル。
「へ?」
「いいだろ?」
「ひゃ……」
どうやら普通の耳も弱いらしいです。耳弱すぎだろ。
「ふーってするぞ」
密着してるので、常に囁いてる感じだろうな。
「いじわる」
「何もしてないんだけど」
「それがいじわるだもん」
「……」
とりあえず、包装を広げて食べやすくした。そんで、俺がハンバーガーを持ってヤタガラスがモグモグしてる。
芽以とケルベロスは、何故か俺達が常に見えるくらい直角的な位置。顔を隠すしかないだろう。
「なんか、暑いよ」
「気のせいだろ」
「離れて欲しい」
「それは無理」
離れたらバレてしまう! なんとかなだめて現状維持。
「なんでそんなに近いのかな」
「好きだから、とか?」
頬が触れ合いそうなくらい近づけたからな。絶対バレたくない!
「やっぱり、卑怯だよ」
「卑怯だけどな。否定はしない」
「いざっていう時は優しいからセーフだよ」
「あれ……?」
なんで理不尽が消えてないんだろう、今更だけど。いざっていう時の記憶まで残ってるのに?
「もう食べ終えちゃった。ポテト食べなきゃ」
「ようやくの方が正解」
亡くなったハンバーガーの抜け殻をクシャッと丸めると、自分の分を食うことにした。ポテトと交互に食って顔を隠す時間を増やす。
「あ、ヤタガラスじゃない? なんでここに」
よく見てなかったが、ケルベロスがヤタガラスの前に来ていた。最悪な展開だ、合わせるつもりがここで起きるとはな。
「ケル、ベロ、ス……?」
「何とぼけてんの? ケルベロスよ?」
おいおい、ケルベロスは名乗ってない。知らないって言うのは嘘なのか?
「私は一体……」
ヤタガラスは唐突に肘をつき、手のひらで顔を隠す。
「バルデストロンを殺すんじゃなかったの〜?」
「そうだった」
ヤバいぞ! 記憶が戻ったらまた戦うパターンに!
ケルベロスはだるそうに腰に手を当て、ヤタガラスを見つめる。
「でも、なんかね」
「なによ?」
「間違ってる気がするんだ、まだ私達に危害を加えてないんじゃないかって」
おい? どうなってるんだコイツの心理状態は!
「まあそうだけど……あんなに殺すって張り切ってたのに、コロコロ変わるのね」
「そんなあなたはどうしてここに?」
「秘密の任務だから言えなーい」
そりゃ、バルデスの妹に成りきってます! なんて言えるわけないよな。
「そうなんだね」
「それでさー……あれ、ヤタガラスってレズじゃなかった? 彼氏作ったの?」
やばい! これはバレるぞ!
なるべくハンバーガーの包装を近づけて誤魔化す。
「彼氏なんかじゃないよ」
「じゃあ何? レズだってバレないようにするためのゲイでも連れてきたわけ?」
噛み付くねー、お前犬かよ……犬だった。
「そんなん関係ないじゃん!」
流石に頭にきたのか、ヤタガラスは机を叩く。今更ながらケルベロスも冷や汗を流していた。
『おいおい、お兄ちゃんにゲイって言う妹はダメだろ』
「うっお兄ちゃん……」
芽以はトイレらしいからな。帰ってきてない時点で明白、この時を狙う!
「へ? どういう事?」
ハンバーガーを食べきり、ポテトをポリポリ齧る。
「このポテト食って頭冷やせ。後はわかるな?」
1本のポテトをケルベロスの口に突き刺す。
「うん……」
「思考が追いつかない」
何故か分からないが、ケルベロスはヤタガラスにぺこりと頭を下げて謝った。
「ごめん、言い過ぎちゃった」
「ならいいよ!」
そうじゃなくて! 元の席に戻れよ!
「芽以が来る前に帰るわ、妹よ、ゆっくり待ってて」
ヤタガラスの手を掴み、立ち上がる。
「ちょ、バルデス……」
「俺にとって都合悪いんだ、頼むよ」
引き留めようとしたケルベロスに、お願いして店を後にした。
……自然な流れでヤタガラスを連れてしてしまったな。一応解いておく。
「手を繋いでてごめんな。感情が元に戻ったんなら、気分悪いだろ」
あんなにベタベタだったのも、サタンのおかげなんだ。本心じゃない。それを喜んでる俺はクズだろう。
「感情はこの店に着いた時点で戻ってたよ」
「どういう事だ?」
「男も案外悪くないんじゃないかなって」
もしかして、ジュースで酔ってる? オレンジで酔ってる?
「答えは見つかったのか」
「うん、私は……バイだよ」
斜め上じゃねえか! ひっそり進化しやがった!
「でも俺は元勇者。魔王を倒した奴に報復したくないのか?」
「この世界じゃまだ危害無いし、バルデスには勝てない。今度、魔王に報復するか相談する事にした」
「ありがとな」
ヤタガラスは俺の手を握って先導するように歩き出す、ボソボソ何か言っている。
『初めておかしな耳を褒めてくれた事が、一番の理由だよ』
スラとイムたちは、録画分のカップルを見ていた。ソファーは相変わらず2人の居場所。
「グミおいしー」
「そうですね。これが同胞ですか……」
龍樹の言葉を鵜呑みにしてしまったスラ。仲間を食べる事に抵抗は無いらしい。
「同胞も食べたり、使ったりして犠牲にして生きてゆくのだ……あぁ、なかまよ……」
「洗顔剤切れちゃった、今度りゅうきに買ってもらお! とか言っていた癖に何言ってるんですか」
「えー! かっこよく言ってみたくない? スライムキング的な」
スラは指で弾いてグミを口に飛ばす。
「せめて使う量を減らしていたら、尊敬してました」
カップルのCM枠が終わり、本題に入った。
『こんな監視カメラ映像を見る必要があるのですか?』
『……おかしいですねぇ噴水の上にあったエロ本が消えてしまいました』
『一体どうして?』
『このエロ本は氷で出来た見せかけだった。とでも言うべきですか』
『まさか、凶器が発見出来なかったのは……』
『このエロ本で川崎さんを殴り、平然とラベリングしてその辺に放置した。というのが筋でしょう』
『この辺のエロ本氷像家を探せ!』
『居るとは思いませんが』