- すらすらーん -
手を引かれて付いた場所は……弁当屋だった。
「唐揚げ弁当お願いします」
若干人は居るが、ヤタガラスは気にせず注文している。
「少しお待ちくださいね」
店員が見えなくなると、ヤタガラスが鼻歌を歌いつつ帰ってきた。あぁ、とても嬉しいそうだが。
「バルデスが払ってね!」
だろうと思ったよ! なんで俺なの? ねぇ!
「はあ……マジかよ」
「えー、ダメ?」
「ダメっていうか、そんなに食うの? 異世界の時もそんなに食う?」
コイツガツガツ食わないくせにめっちゃ食うのかよ! 俺は腹張ってるのに!
「うん……」
ちょっと頬を赤らめながら、頷いた。何恥ずかしそうにしてんだこいつ。
「で、でも! 運動はしてるもん!」
「本当かよ」
「こう見えてスレンダーボディなんだから」
俺の手首を掴み、お腹を強引に摩らせてくれた。これで細いとかどうなってんだ。
「本当だな」
「よく食べて、よく寝て、よく食べて、よく寝て。この世界はつまらなーい」
「運動してねぇ……」
テニス選手とかが聞いたら、キレそうだな。
「悪い、ちょっと電話していいか?」
「いいよー」
ヤタガラスは、そう言いつつ俺の肩を背もたれにして倒れかかる。
「寝る?」
「ちょっと疲れただけ。気にしないで」
俺は芽以に通話を行使するのだった……!
「あ、もしもし? 芽以?」
「うん。龍樹からなんだね」
「妹はどうだ? 一回着信来てたんだけど」
妹を見捨てたクズ野郎という印象を拭わないとな。
「特に問題は無いよ。料理出来たから、一緒に食べようって思っただけ。心配しないで」
その言い方は心配するんだけど。
「終わったからじゃないのか」
「食べるのは美味しい時にしたくて、寝かせてる!」
クズ野郎じゃなくて良かった。よく考えたらそんなにすぐ料理が出来るわけないよな。
「ありがとな、芽以も頑張れよ」
「うん、あたしがんばる」
スマホをポケットにしまい、ホッと胸を撫で下ろす。
「終わったよ」
「動きたくないな〜」
『えーと、唐揚げ弁当でお待ちの〜』
「行こっ!」
「どうして俺の周りは食欲旺盛なのか」
俺が代金を支払い、唐揚げ弁当の入った袋をヤタガラスが受け取る。当然だよな!
「どこで食うつもりなんだ?」
「立ち食いしたい気分、でもダメだよね」
「……近くの公園に行くか」
俺達はゆっくり歩き始めた。
「そんなんあるんだ」
正直、芽以とも来たことない所だ。スラと行きたいんだけどなー! ……しばらくは無理な話だな。
「人は居ないかな」
「えー、イチャイチャ見せつけれないね〜」
「その羽に息を吹きかけてやろうか? 流石にさせてもらうぜ」
「だ、ダメだって……ひょあえ!」
可愛く唸り、空いている手で耳を摩っていた。ストレス消えたわ!
「顔赤いなー」
「うう……」
涙目でチラッと俺を見ると、すぐ逸らした「いじわるダメだもん」辺りらしい。俺は悪くない!
「まあまあ、手を繋ごうぜ」
ぷくーっと頬を膨らますヤタガラスと手を繋ぎ、横断歩道橋を渡る。
「もう少しで公園つくから、ね?」
「繋ぎ方……」
普通に四本の指を包んで繋いだのがダメだったのか。
「これがいい?」
ヤタガラスの指と指の隙間に、俺の指を絡ませるように手を握り直す。
「うん」
「無駄に女っぽいな、何か変なの食った?」
「食べちゃったのかも」
何を食ったのかは敢えて聞かない事にした。絶対滑りそうだからな。
歩道橋を渡ってしばらく歩き続けると、公園に着いた。人は当然いる訳もなく。
「本当に居ないね」
ヤタガラスに呟かれる始末。そりゃ、遊具とか少しあるけど錆びてるからな。
「ま、そのベンチに座ろう」
急かすように座らせ、弁当を開かせた。
「人が居ない分、らしい事も出来るだろ」
車が通り過ぎる音が心地よく感じるくらい静か。芽以ならつまんないなって言いそう。
「らしい事……」
ヤタガラスは呟きつつ、唐揚げを一口齧ってから放り込む。
「おいしい〜」
頬を手で抑え、羽耳をピコピコして喜びを表現していた。
「美味しそうに食べるよな」
「おいしいもん。1個あげよっか?」
「良いのか」
「バルデスが買ってくれたんだし」
1番大きい唐揚げを割り箸で摘むと、俺の口に入れてくれた。なんだろ、凄く美味しく感じた気がする。
「ありがとな、美味いよ」
パリパリは流石に無いけど、冷めても味付けが濃くない。
「えへへ」
ヤタガラスは嬉しそうに俺との隙間を埋めると、ご飯とキャベツ、唐揚げをバランスよく食べ始めた。そういう時に限って邪魔者が現れるんだが、現れてしまった。
「バルデス、魔力を感じる……」
俺達の目の前には、闇の渦が浮いている。
「どういう事だ?」
「四天王とは違う魔力、多分下っ端の魔物の予兆が」
「俺が倒すから食ってろ」
立ち上がり、渦に警戒しながら歩み寄る。途端に五匹の魔物が抜け落ちると、渦が消えた。
俺の記憶通りだと、猫みたいなサイズと体で緑と黒の体毛。ゴブリンキャットか。
最下級の魔物で、スライムより若干上かもしれないレベル。
「ミャーグー」
『バースト・カラミティ』
俺は何も無い空間から白銀の鉄パイプを引き抜く――
「なんで鉄パイプ!?」
咄嗟にヤタガラスはツッコミを入れる!
「俺が聞きてえわ!」
長さはいつもと変わらない、見た目変わるんだな。紋章も手の甲に引っ付いてるから問題は無い。
20%ダウンのせいで体が少し重いがな!
「ミャー!」
「ミャーー!!」
俺は、遠慮なく一撃で薙ぎ払った。
暗くて、所々ヒビが入っているボロアパートの一室で会議が行われていた。
「俺とお前だけか……」
「ヤタガラスとケルベロスはまだ勇者の討伐任務から帰還してない」
ちゃぶ台を2人の男が囲い、お茶を啜りながら話を弾ませていく。会議というのは2人でも言えるのだろうか。
「勇者はスキルが使えないはず。手間取るのはおかしいな」
「僕達が使えるなら、使えるかもしれないよ? ギルダーも勘ぐるの辞めなよ。疲れるだけ」
ギルダーという男は顔を顰める。
「しかしなぁ……魔王は見つからねえし、どうすんだ」
「僕が聞きたいくらいだよ」
「魔王さえ見つかれば、ここに用はないのにな。もうレウスも出陣で良くね?」
「なんで僕!? 確かに僕より強いギルダーは残るべきだけど、どう転んでも嫌な予感しかしない」
レウスはなるべくお出かけしたくないらしい。
「だが、この世界を考えると早急に魔王見つけないとなあ」
「魔物が出てきた場所を線で繋いだ中心に居ると思ったけど、ハズレだったね」
「うむ。あ、今日はカップルの最新話じゃね?」
「見ないとね」