ジュリアは今すぐにでもスネイプの執務室を訪ねて知恵を借りたいと思っていたが、ロンとハーマイオニーに引きずられて、試合直後のハリーとともにハグリッドの小屋にお邪魔していた。燻製肉や血抜きしたキジがぶら下がっていて、暖炉もある。どこかからブランデーの匂いもした。ジュリアはまた今度、厄介事のないときに遊びに来たいと感じた。
ハグリッドは4人に濃い紅茶を淹れてくれた。ジュリアが「ブランデーを少しもらえると嬉しいんだが」とウィンクすると、「どうやって気づいたんだお前さん」とクスクス笑いながら、三分の一ほど残っていたVSOPをボトルから少し垂らしてくれた。いい香りだ。そしていい男だ。
「スネイプだったんだ。僕もハーマイオニーも見た。ハリーの箒に呪いをかけて、殺そうとしてたんだ!」
「馬鹿な。だいたい、なんでそんなことをする必要がある?」
ハリーたちは悩んでいたようだったが、彼らの共有している”秘密”をハグリッドに打ち明けることにしたようだ。
「あいつ、ハロウィーンの日に4階のあの廊下に向かってたんだ。きっと三頭犬が守ってるなにかを狙ってる」
論理の飛躍だ。4階の廊下に何かが守られているとして、そこにスネイプが向かったのなら、守りを固めるためという考え方もできるし、それにハリーを殺そうとしたことと何の関係もない。しかし、ハリーたちのなかでスネイプはすっかり”闇の魔術師”扱いのようだった。
ハグリッドが驚いて紅茶を注いでいたティーポットを落とす。ジュリアは杖を抜いて、ようやく様になってきた浮遊呪文を唱えた。少し紅茶がこぼれたが、なんとかハグリッドの手に戻ったティーポットは、暖炉の上に置かれた。
「ああ、すまんなジュリア。で、なんでフラッフィーを知っとる」
「フラッフィー?」
「あいつの名前だ」
ジュリアはあの血走った目を思い出した。どう考えてもフラッフィーという柄ではない。グランデルとか、ファフニールとか、そんなところがお似合いだ。
そんなことより、どうやらハグリッドはあの三頭犬についてなにかを知っているようだった。
「去年パブでギリシャ人から買ったんだ。俺がダンブルドア先生に貸した。あれを守る……」
「何を守るって?」
「いかん、聞かんでくれ。重大秘密なんだ」
ジュリアメモ。ギリシャには相変わらずケルベロスがいる。ひょっとすると、ギリシャ神話の怪物は全部いる。ヘロドトスが記録したような怪物も全部いるかもしれない。
3人はそんなことを少しも気にしていない様子で、ハグリッドを問い詰めた。
「だけど、スネイプが盗もうとしたんだ。……そうか、あの足の傷は三頭犬にやられたんだよ!」
ジュリアは胸の中で「すまねえ先生、ばれた」と呟いた。まさか自力でそこに辿り着くとは。
しかし、ハグリッドは断固としてその可能性をはねのけるようで、首を横に振った。
「スネイプはホグワーツの教師だ。そんなことをするわけなかろう」
「でも、ハリーを殺そうとしたわ! 呪いをかけてた。目をそらさずに、まばたきせずに、じーっとハリーを見続けてた。私、本で読んだんだから!」
本で読んだ。懐かしい響きだ。しかし、本の虫殿はすっかり反スネイプ派に染まった様子だった。友達を殺されそうになったと思い込んでいるのだから、仕方のない話だろうか。加えて、スネイプにまつわる多くの噂――たとえば、闇の魔術にどっぷりであるとか、そんな噂――がこの憶測に信憑性を持たせてしまっていた。
ハグリッドはあくまで譲らない様子だ。
「箒についてはわからんが、スネイプは生徒を殺したりはせん。お前さんたちは危険なことに首を突っ込んどる。フラッフィーが守っとるもののことも忘れるんだ。あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの――」
「ニコラス・フラメルって人が関係してるんだね?」
ハグリッドはすさまじく怒っている様子だった。それも、自分自身に対して。これ以上長居するのは得策ではないと判断して、ジュリアは紅茶を飲みほした。
「紅茶ごちそうさん、ハグリッド。今度は森を案内してくれ、楽しみにしてる。ほら、帰るぞ」
ハリーたちはまだ聞き足りない様子だったが、ハグリッドがカップを片付けはじめたのを見て、ひとまず諦めてジュリアの後についてきた。ジュリアは冷たい風の吹く校庭を城に向かって歩き、そして考える。どこまでハリーたちに話せばいいのか。どこまでダンブルドアは考えているのか。