ハリー・ポッターと獣牙の戦士   作:海野波香

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手紙、透明なハリーの冒険

 クリスマスの夜、ジュリアは談話室のソファに腰かけて手紙を書いていた。ロンの母にあてたセーターのお礼と、ジュリアの母の後輩――セシリー・オニールへの返事だ。セシリーはジュリアの姉を自称し、聖マンゴに勤務する多忙な身ながらジュリアのことを気にかけてくれる貴重な人物だ。法律上はジュリアの後見人でもある。

 

 

「セシリー姉さんへ。今まで連絡しなくて悪かった。薬瓶ありがとな、大事に使う。スネイプのこと、覚えてるか? 母さんの友達だった、鷲鼻で目つきの悪いあいつだ。ホグワーツでは随分世話になってる。母さんの師匠だったマクゴナガル先生にも目をかけてもらってる。ホグワーツはいいとこだな。ジェームズ・ポッターの息子とウィーズリー家の末弟が友達になった。どっちもやんちゃ坊主だ。それから……」

 

 

 一度、羽ペンの動きが止まる。ハーマイオニーのことについてどう書くか、悩ましい。セシリーはジュリアに「体の秘密は信頼した相手、それも口の堅い相手にだけ話すように」と、繰り返し忠告してきた。どのようにしてハーマイオニーに打ち明けることになったか、そのうち話すことになる。

 

 ハロウィーンの事件に関しては会ったときに話せばいいだろう。羽ペンが再び動き出した。

 

 

「マグル生まれで学年一頭のいいハーマイオニー・グレンジャーに訳あって全部話した。それでもあたしのことを好いてくれてる。変わった奴だよ。勉強は時々つまづくが、ハーマイオニーが助けてくれることもあって、まあ大体は順調。モップに床を拭かせる呪文を習ったんだが、手でやったほうが早い気がすんだよなあ。ここは主婦訓練学校かっつの。忙しいだろうから返信はしなくていい。休み取れそうだったら早めに連絡してくれ、今年の夏はどっかに定住しておくからよ。会えるの、楽しみにしてる。ジュリアより。……よし、書けた」

 

 

 蝋を垂らして、スタンプを捺す。紺色の封蝋、それからレターセット、この2つは切らさないようにしていた。

 

 蝋が冷めたのを確認して、満足したジュリアは頷き、それから姿勢を正してもう一枚の便箋に向き合った。今度はウィーズリー家あてだ。あまり野卑な言い回しは使わないほうがいいだろう。さっそくスネイプからのプレゼントが役に立つときがきた。

 

 

「ロンのお母さんへ。はじめまして、ジュリア・マリアットです。最初に。丁寧な言葉を使い慣れていないので――ロンから聞いてるかもしれないけど――変なところがあってもご容赦……ご容赦は違うな……笑ってお許しください。セーター嬉しいです、今これを着て談話室で書いています。とてもあったかいです。感謝……感謝は大げさか。えっと、ありがとう、ございます。……ああもう、頭煮えそうだぜ。あとは、そうだな……ロンは素敵なご家族のお話をよくしてくれます。一度どこかでお会いしたい……お目にかかるなんて言い方があるのか、まあ、いいだろ……お会いしたいです。寒いですから、お体にお気をつけて。ジュリア・マリアット。……っし、書けた書けた。お上品な文章ってのは肩が凝るな」

 

 

 ロンの母への手紙は丁寧すぎないように、かといって粗暴すぎないように、少し緊張しながら書くことになった。あまりに雑すぎると思った表現はスネイプの本を参考に修正し、少なくともジュリアにしてはマシな手紙が完成した。字が少し荒いのはご愛嬌だ。

 

 そんなとき、男子寮のドアが静かに開いて、そして静かに閉じた。

 

 誰もいない。しかし、ハリーの匂いだけが動いている。

 

 

「いい夜だな、ハリー」

 

「うわっ!」

 

 

 ジュリアは封筒に紺色の蝋を捺して伸びをすると、ソファから立ち上がった。ハリーの頭だけが宙に浮いている。ジュリアの母が昔話をするときによく登場した”悪戯仕掛人”たちの必須アイテム、透明マントだ。

 

 

「当ててやろうか。ハリーの父さんが使ってた透明マントだろ」

 

「えっと……なんで気づいたの? なんでわかったの?」

 

「なんでが多いぜ坊や。一歩ずつだ、一歩ずつ」

 

 

 さて、何から話すのがよいか。ジュリアは思案した。ハリーは彼の両親についてほとんど知らない。きっと両親についての話をすれば喜ぶだろう。しかし、ジュリアの母はさほど多くを語らなかったし、ハリーの両親やその友人たちについてはいい話も悪い話も聞いている。話の選別が難しい。

 

 

「まず、1つ目の質問だが、匂いだ。透明マントは匂いまで誤魔化せる代物じゃない」

 

「あー、そっか……じゃあジュリアにはバレるんだね」

 

「風が吹いてなけりゃな。で、2つ目の質問だが、ジェームズ・ポッター、つまりハリーの父さんが使ってたって話を母さんから聞いてる」

 

「父さんのこと知ってるの?」

 

 

 そら、食いついた。ジュリアは慎重に言葉を選ぶ。

 

 

「少しだけな。あたしの母さんはハリーの父さんたちのひとつ上だった。あたしの母さんが魔法の練習や勉強の面倒を見て、その代わりハリーの父さんたちは温室や禁じられた森から魔法薬の材料を頂戴してくる。そんな関係だったそうだ」

 

「そうなんだ。……僕もジュリアに何か取ってきたほうがいい?」

 

「そういうことは気にすんな。強いて言えば肉がほしいが、ここは飯が出てくるし、自分で狩れるしな」

 

 

 ハグリッドからもらったジャーキーを咥える。硬い。そして塩気が強い。口が寂しくなったときにちょうどよさそうだ。ジュリアはハグリッドにもお礼を言いにいくことに決めた。

 

 ハリーのお腹が小さく空腹を主張したので、ジャーキーを一切れ投げて渡す。ハリーは噛みついて、引きちぎるようになんとか一口目を咀嚼した。ハリーには硬すぎたようだ。

 

 

「それで、今夜はどこにお散歩だ?」

 

「うん……ちょっと、図書館の禁書棚に」

 

「ニコラス・フラメルのことか?」

 

「うん」

 

 

 ジュリアは悩んだが、見送ることを選んだ。賢者の石は理論が極めて難解かつ素材の入手も製法も恐ろしく困難だが、危険物でもなければ闇の魔術に分類されるものでもない。ジュリアの母も一度挑戦してすぐに挫折したと言っていた。ということは、禁書棚に行っても別段収穫はない。危険な本や奇妙な本でちょっとしたスリルを味わうのも悪くないだろう。

 

 

「触るだけで呪われる本もある。さすがに死ぬようなやつは置いてねえだろうが……まあ、冒険楽しんでこいよ」

 

 

 ハリーは一瞬不安そうな顔をしたが、笑って頷くと、マントを被りなおして寮を出ていった。ハリーにはきっと、冒険の経験が必要になるだろう。ヴォルデモートがまだ存在しているとわかった以上、ハリーが狙われる危険は常にある。もちろん、ハリーが自ら危険に飛び込んでいく可能性も。だから、ホグワーツで経験を積むのは、きっといいことだ。

 

 

「……学べ、ハリー。学ぶんだ。ここは学び舎なんだからよ」

 

 

 ジュリアは手紙と封蝋の残りやスタンプを手に、寝室へと向かった。今夜は1人で月見だ。

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