ハリー・ポッターと獣牙の戦士   作:海野波香

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戦士の杖、それとアイス

 マクゴナガルが有無を言わさずに「着せて帰りますので」と支払いをしたので、この夏に入る前にマグルの農家でバイトしてまで買ったメタリカのTシャツとホットパンツは鞄に収納された。

 

 そう、ジュリアは鞄を買った。マクゴナガルは渋い顔をしていたが、ジュリアは機動性と機能性を重視して、ローブの下に隠しても違和感のないウェストポーチをチョイスした。多少小さくとも、検知不可能拡大呪文がかかっていれば安アパートの一室程度のスペースが確保できる。これで安心して大鍋を収納することができた。明らかに収納物と搬入口のサイズが見合っていないが、そこは魔法だ。

 

 

「あとは、杖ですね。オリバンダーの店に向かいましょう」

 

「杖、ね」

 

 

 マクゴナガルはジュリアのホルスターを一瞥して、言葉を続けた。

 

 

「熟達した魔法使いであれば他人の杖を用いて魔法を行使することも可能ですが、まずは自分の杖を持つべきでしょう。たとえ、あなたがその杖にどのような想いを抱いていたとしてもです」

 

「ちぇっ、またあてが外れた」

 

 

 他人の杖なんかじゃない。

 

 ジュリアは内心で小さく呟きながらも、肩をすくめてみせた。厳格な魔女はジュリアのジョークにくすりともしなかったが、少なくとも先導と会計を続ける義務は放棄しないと見えて、静かに、しかし力強く歩き始めた。

 

 オリバンダーの店は狭くて埃臭い、ねぐらには最適の場所だった。無数の杖という爆弾さえ置いていなければ、ここに間借りしたっていいくらいだというのがジュリアの感想だ。

 

 もっとも、薄気味悪い店主の銀色に光る目でじろじろと見つめまわされては、その感想も覆るというものだ。

 

 

「今日は懐かしい顔をよく見る日じゃ、ジュリア・マリアットさん。髪を伸ばせばお母さんにそっくりじゃろう。あの杖はニレ、30センチ、心地よくしなる、静かな湖の妖精を思わせる杖じゃった」

 

「はあ、そいつはどうも」

 

 

 この詩人だか売人だかわからない怪しげな老人が、なんとなくジュリアは苦手だった。しかし、嫌いにもなれなかった。

 

 彼の瞳には知性が輝いていたし、彼の言葉には知識の重みがあった。ジュリアは賢者、隠者の類を比較的好む性質だ。そして、おそらく苦手意識を乗り越えることができれば、オリバンダー氏のことも好きになれそうな気がした。

 

 

「おや、お父さんの杖をお持ちですな。イトスギにユニコーンの毛、28センチ。良質でしなやか。ふむ、大事になさるとよろしい」

 

「よく気づいたな」

 

「わしの店の中にある杖はすべてわしの頭の中にあるのじゃよ、元気なお嬢さん。さて、杖腕をお出しいただいて」

 

 

 オリバンダーが皺の寄った手を叩くと、カウンターのランプが灯った。蛇が這うように巻き尺がすり寄ってくる。これは例の洋装店でも経験済みだから、一般的な魔法なのだろうとジュリアはされるがままにした。ただ、鼻の穴に入ろうとしてきた巻き尺だけは噛みつくふりをして追い払ったが。

 

 

「では、まずこれを。モミの木にドラゴンの心臓の琴線。23センチ。強い意志に応える」

 

 

 ジュリアがやや短いその杖を振ってみると、奥の棚で何かが派手に弾ける音がした。

 

 

「これではない。次はクマシデにユニコーンのたてがみ。28センチ。持ち主に忠実」

 

 

 今度はもっと手前で目に見えない爆発が起こった。

 

 

「ふむ、刺激的ですな。となれば……リンボクにドラゴンの心臓の琴線、25センチ。鞭のようにしなり勇猛な戦士の剣となる」

 

 

 これだ。

 父の杖から出る火花で火おこしをしていたときとはわけが違う。指先に熱を感じる。ジュリアが手首を返すように杖を振ると、冷たい火の粉が雪のように降り注いだ。

 

 この時ばかりはマクゴナガルも拍手をしてくれた。そして、オリバンダー氏は「すばらしい!」と叫ぶと、吹き飛んだ箱を呼び寄せて、銀色の瞳に穏やかな感情を浮かべた。

 

 

「いや、よかった、よかった。ジュリア・マリアットさん。この杖の本質は闘争じゃ。できれば棚で埃を被っていてほしかった。しかし、世に出たということは、その杖がきっと役に立つ時が来るということじゃ」

 

「そいつぁいいや。なんとも、あたしらしい」

 

 

 ジュリアはオリバンダー氏に杖を渡しながら、牙にも見えるその歯を剥き出しにして笑った。闘争の予言に心が躍るのかもしれない。あるいは血なまぐさい自分自身への嘲笑かもしれない。ジュリア・マリアットとはそういう人物だった。

 

 それから、ドラゴン革のホルスターを新しく買って、古いホルスターも調整を入れてもらって、素早く抜き差しができることを確認して、ようやくジュリアとマクゴナガルはオリバンダー氏の店を辞した。

 

 

「ミス・マリアット。ペットを購入していきますか? その程度の余裕はあります」

 

「んあー……非常食」

 

「なんですって?」

 

「なんでもないっす。まあ、世話が大変だし、やめとく」

 

 ジュリアは一度だけ蛇を飼ってみたことがあったが、意思疎通もできないし、噛みつこうとしてくるし、結局串焼きにしてしまった。

 

 

「そうですか。では、買い物はこれですべてです。農家の敷地内に無断で滞在するよりは、漏れ鍋に宿泊することをおすすめします。切符を渡しておきます。キングズ・クロスへの行き方はわかりますね?」

 

「ロンドンからロンドンへ」

 

「わかっているのなら結構。ただし、私の試験でそのような回答をしようものなら容赦なく落第点をつけます。もう一度聞いておきましょう。わかりましたか?」

 

 

 ジュリアは肩をすくめて、漏れ鍋からキングズ・クロスまでの道をざっと口頭で説明してみせた。マクゴナガルは満足げに頷くと、切符と書類の入った封筒をジュリアに手渡した。

 

 

「滞在中にグリンゴッツで杖を登録しておきなさい。奨学金を引き出すための鍵を発行できます。くれぐれも無駄遣いしないこと。エレン・マリアットの賢明さがあなたにも宿っていると信じています。では」

 

 

 マクゴナガルはそれだけ言い残すと、その場で姿くらましした。誰も驚く人はいない。ここは魔法界だ。ジュリアは大きく背伸びをすると、とりあえずアイスを食べようとダイアゴン横丁を引き返した。

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