ハグリッドの小屋はパッチワークのカーテンがすべて閉ざされ、汗ばむ陽気だというのに煙突から煙が上がっていた。明らかに怪しい。4人は頷きあった。ジュリアの予想が正しければ、あの少し抜けた大男は、重大な法律違反を犯している。
「ロン、なんつったか、あの法律」
「ワーロック法だよ、1709年。チャーリーに教え込まれたんだ。これさえなかったら自分もドラゴンを飼ってたって。でも、そんなことしたら、隠れ穴が吹き飛んじゃう」
「ハグリッドの小屋だって吹き飛んじゃうわ……。とにかく、まずは石について。次に、ドラゴンについて。いいわね?」
ハリーがドアをノックした。ハグリッドは明らかに警戒した声で「誰だ?」と確認し、ハリーたちだと声でわかると素早くドアを開いて、そして4人を引っ張り込むと素早くドアを閉じた。
相変わらず色々な匂いが充満していたが、それでもジュリアはその卵に気がついた。地上で――正確には空も含めて――最も凶暴な爬虫類、おそらくマグルが一番よく知る魔法生物。ドラゴンだ。間違いない。
ジュリアが顔を引きつらせているうちに、ハーマイオニーはどこで学んだのか、ハグリッドを優しく追い詰めて、とうとう口を割らせてしまった。
「まあ、誰が守っとるくらいは言っても構わんだろう。そのほうが安心するってもんだ。俺からフラッフィーを借りて、スプラウト先生、フリットウィック先生、マクゴナガル先生、クィレル先生、もちろんダンブルドア先生も。ああ、それから、そうそう、スネイプ先生」
「スネイプだって?」
ハリーは素っ頓狂な声を上げた。ハリーたちの中でスネイプは”先生”ではないらしい。スネイプとダンブルドアの作戦は上手くいっている。上手くいきすぎなくらいだ。
「まだ疑っとるのか。スネイプ先生は石を守る側だぞ」
「でも……うん。ところで、フラッフィーをおとなしくさせる方法はハグリッドしか知らないんだよね?」
「俺とダンブルドア先生以外は誰一人として知らん」
答えはノーだ。
ジュリアは埃臭い古書店で店番をしていたころに読んだオルフェウスの冥界下りを思い出す。オルフェウスの竪琴でたちまちケルベロスは眠りについてしまった。そうしてオルフェウスは愛する人を取り返すために冥界へと進んだのだ。あのバイト先は悪くなかった。店主の老人は無口で詮索しない人物だったし、客も知的で本にしか興味のない人たちだった。もっとも、人狼狩りの魔法使いに見つかって大慌てで辞することになったが。
しかし、ハリーたちは安心したようで、ほっと胸を撫で下ろしていた。
ジュリアにとってはここからが本題だ。
「んじゃ、次はあたしの手番だな。聞かせてもらおうじゃねえか。暖炉の中にある、とってもキュートな爬虫類の卵について」
「えーと、あれはだな……」
「ハグリッド、隠し財産でもあったの? すっごく高いよね?」
「賭けに勝ったんだ、トランプをしてな。ホッグズ・ヘッド、ホグズミードにあるパブで……知らない男だったが、そいつも厄介払いできて喜んどった」
今はそういう話をしているんじゃないんだ、ロニー坊や!
ジュリアは怒鳴りたくなるのを必死にこらえて、可能な限りにこやかに口を開いた。
「んじゃあ、あたしともトランプするか、ハグリッド。ポーカー、ブラックジャック、バカラ、どれがお好みだ? 賭け金はもちろん、その卵。負けたらあたしの奨学金全額くれてやるよ。勝ったらその卵は、そうだな、1週間後には最上級の不妊治療薬になって聖マンゴ行きのフクロウ便の中だ」
もちろん、ちょっとしたトリックは使わせてもらうが。
「いかん! これがどんなに貴重なもんか……」
「でも、ハグリッド、もし卵が孵ったらどうするつもり? この家は木の家なのよ?」
ハグリッドは夢が叶ったという様子で鼻歌まじりに薪をくべた。珍しく、4人の意見は完全に一致しているようだ。厄介なことになった。ジュリアの中に奇妙なイメージが組み立てられた。ホグワーツにドラゴン。つまり、ダンジョンズ&ドラゴンズだ。この冒険でファンブルを引かないことを祈るしかない。