幸いだったのは、ロンの兄――チャーリーが違法な魔法生物の密輸に関して協力的な人物だったことだ。とうとうハグリッドの手に負えなくなったドラゴンは、ドラゴンの飼育地として有名なルーマニアに送られることになった。
しかし、問題も多い。土曜の深夜にドラゴンが入った箱を天文台まで運ばねばならない。チャーリーの友達が引き取りに来るのだ。そのためにはまた夜の散歩をしなければならない。それも、いつもとはわけが違う。法に抵触し、校則を破り、場合によってはドラゴンの幼体という危険からも身を守らねばならない。
何より最悪なのが、マルフォイにそのことを知られたことだ。盗み聞きでドラゴンのことを知ったマルフォイは、ドラゴンに手を噛まれて入院していたロンからチャーリーの手紙を盗み出した。トロフィー室のときと同じように、狡猾な罠を張っていることだろう。
それでも、ハリーたちは友達のハグリッドを見捨てる気はないようだし、ジュリアも毒と炎の竜ノルウェー・リッジバックが闊歩するホグワーツというのは少々御免被りたいので、やむを得ずドラゴン輸送作戦はスタートした。ジュリアの知識をもとにハーマイオニーがルートを組み立て、ジュリアとハリーがドラゴンの入った箱を持っていく。緊急時にはハーマイオニーが双子から仕入れた大砲の音が鳴るクラッカーでフィルチを引きつける。穴だらけの作戦だが、上手くいくことを祈るしかない。
「いいか、ハリー。あたしの鼻は万能探知機じゃねえんだ。隠し扉の向こうにフィルチがいるかもしれねえし、踊り場の影にピーブズがいるかもしれねえし、はっきり言って状況は最悪。加えてマルフォイがどこかで何かを仕掛けてきやがるのは間違いない。ああ、くそったれだ」
「落ち着いて、ジュリア」
「落ち着いてるさ、最高に冴え渡ってるね。証明してやるよ。……前方にマクゴナガルとマルフォイだ」
タータンチェックのガウンを着たマクゴナガルが、ランプを手に”オニ”のような形相を浮かべている。ハリーたちに対してではない。マルフォイに対してだ。ランプの火と同じくらい、マクゴナガルの目は燃え上がっていた。
「本当なんです、先生! ハリー・ポッターが来るんです! ドラゴンを連れて!」
「馬鹿馬鹿しいことを! スリザリンから20点減点、罰則もです! ついてきなさい、スネイプ先生を起こさねばなりません」
哀れスネイプ、マクゴナガルとパジャマパーティー。ジュリアがそう呟くと、ハリーがクスクス笑った。箱の中のドラゴンが音を立てて暴れ始めたので、ハリーはすぐに笑うのをやめた。
綿密なルート構築のおかげで、時間には余裕を持って天文台に到着することができた。今夜は新月だ。ジュリアは星座を観察して天文学の復習をし、ハリーはドラゴンの入った箱に腰かけて船を漕いでいる。
20分ほどして、4人の男たちが静かに箒で空を駆けてきた。みなどこかしらに傷痕がある。チャーリーの愉快で陽気なドラゴン仲間だ。ハリーとジュリアは4人に協力してドラゴンを牽引できるよう繋ぎ止め――暴れるドラゴンをジュリアが引っかかれてまで力づくで押さえ込むことになった――4人はハリーとジュリアに代わる代わる挨拶をすると、箒で去っていった。
今度こそジュリアはほっとして胸を撫で下ろすことができる。違法な魔法生物は”密輸業者”の手に渡った。マルフォイはマクゴナガルに連れられて地下牢行き。何も問題はない。二人は透明マントを被ると、足早に天文台を下りていった。
ジュリアは完全に油断していた。一番警戒すべき人物のことを失念していたのだ。
「くそっ、ハリー止まれ! フィルチだ!」
「え、うわっ!」
驚いたハリーが足を踏み外して灯りの下に転げ落ちた。ジュリアは手早くマントをウェストポーチに収納すると、ゆっくりハリーの隣に並ぶ。
「お前を捕まえる日を心待ちにしていたよ、ジュリア・マリアット」
ジュリアにとって久しぶりの失敗だった。それも、致命的な失敗。