ハリー・ポッターと獣牙の戦士   作:海野波香

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グリフィンドール的態度

 夜の談話室に誰もいないのは幸運だった。今や4人は全校の嫌われ者で、4人が密談をしているのを夜更かしして監視しようなどという奇特な人物はいない。ハリーは少しずつ、考えを話し始めた。

 

 

「僕が奴より先に石を手に入れる。それしかない」

 

「気は確かかハリー! 『例のあの人』は君を殺そうとしてるんだぞ!」

 

 

 ハリーの覚悟はすでに決まっているようだった。蛮勇とも違う、好奇心とも違う、静かな、静かな炎が揺らめいている。だからこそ、ロンの怒声にハリーは怒鳴り返した。

 

 

「だからなんだって言うんだ! 奴の復活を阻止して殺されるか、奴が復活してから殺されるかだろう! どっちがいいかはわかりきってる! ジュリアがマントを隠しておいてくれたのは運がよかった。僕は今から、行く」

 

 

 ロンが立ち上がった。ゆっくりと、彼の瞳にも火が灯る。彼は友誼の人物だ。ジュリアにとってのハーマイオニーがそうであるように、きっと彼にとってのハリーも、見捨ててよい命ではないのだろう。

 

 彼はガンダルフでもなければ、アラゴルンでもない。しかし、サムワイズになることはできる。ロンはハリーの友として、この死出の旅に供をする覚悟を決めた様子だった。

 

 

「……4人でマントに入れるかな」

 

「君こそ気は確かか、ロン! 僕は死にに行くんだぞ!」

 

 

 次に声を上げたのはハーマイオニーだ。

 

 

「あら、私たちがいなかったら、どうやって石まで辿り着くつもりなの?」

 

 

 表面上の道理は通っていた。ホグワーツの教師たちが仕掛けた罠を突破するには、ハリーとロンだけでは心許ないどころではない。ハーマイオニーの知恵と知識、そして杖捌きはほんの少しであっても彼らの支えとなる。

 

 しかし、ハーマイオニーは自分の力が役に立つからという理由だけで出しゃばりのお節介を焼いているわけではない。彼女もまた友人のため、揺らぐことのない気持ちを固めたのだ。

 

 ジュリアは思考する。まだ引っかかりがあった。クィレルは危険な魔法生物について独学で学んでいた。神話や伝承は魔法生物の宝庫だ。加えて、クィレルは半純血で、読書家だった。オルフェウスの冥界下りくらい知っていてもおかしくない。なら、なぜドラゴンの卵をハグリッドに与えてまで聞き出したのか。

 

 クィレルはヴォルデモートに脅迫されていた。そして、あるとき折れた。つまり、それまでは折れなかった。クィレルはヴォルデモートに抵抗していたのではないか。三頭犬の対処法を知らなかったのは、クィレルではなくヴォルデモートだったのではないか。

 

 スネイプの言葉を思い出す。クィレルは閉心術を完璧に使いこなしていた。忘却呪文でも、闇の魔術でもなく、閉心術を。誰に対してだ。ヴォルデモートに対してではないのか。

 

 すべては憶測だ。しかし、クィレルは孤独に苛まれ、会話を楽しみ、別れを惜しむ、静かな、知恵に満たされた瞳の人物だった。

 

 あの人を助けたい。ジュリアは立ち上がった。

 

 

「行くぞ。時間はもうねえんだ」

 

「――行かせるもんか。また外に出るんだろ」

 

 

 柱時計の影から現われたのは、ロングボトムだった。ヒキガエルを抱え、膝を震わせている。ずっと聞いていたのだろうか。

 

 彼は勇敢だ。ハリーとジュリアをマルフォイから救うために深夜のホグワーツをさまよった。禁じられた森でハリーが救難信号を打ち上げたとき、震えながらも杖を抜いた。そして今、「友人を止める」という「友人の役目」を果たそうとしている。

 

 怒鳴ろうとしたロンを抑えて、ジュリアは前に出た。

 

 

「ロングボトム。……いや、ネビル」

 

「僕、君たちの話を聞いてても、なんもわからなかった。でも、危ないことをしに、寮を出るつもりなのはわかった。だから、僕、僕……君たちを止める」

 

「ネビル、あたしたちはな、攻めの手を指すんじゃねえんだ。守りの手を指すために……いや、守りの手で指されるための捨て駒になる」

 

 

 ようやくジュリアは気づいた。

 

 この盤の指し手はジュリアたちではない。ダンブルドアとヴォルデモートだ。それも、ハンデつき駒落ちつきのイージーゲーム。ダンブルドアはヴォルデモートを殺さねばならないが、ヴォルデモートは賢者の石さえ手に入ればいい。ダンブルドアは守りを固めたが、ヴォルデモートは少しずつ駒の隙間を縫う道を見つけていった。

 

 そして、今夜は守りの指し手が不在だ。攻め手はこれをいいことに自分だけ手番を進め続けている。幸いなのは、これが魔法使いのチェスだということだろうか。今、駒たち――ハリーたちは自分で思考して動いている。だから、ジュリアもまた自ら動き、そして最後には捨て駒にならなくてはならない。

 

 なんとも犬っころにはお似合いの結末じゃないか。ジュリアは笑った。

 

 

「あたしは守りにいくんだ、ネビル」

 

「……ジュリアはいつだって、守ってくれる。僕のことも。飛行術の時だって、禁じられた森の時だって」

 

 

 ジュリアにとってこれは意外だった。確かに、ジュリアはネビルを助ける機会があった。飛行術の初授業で落下したネビルをジュリアが受け止めた時、ジュリアは目の前で同級生の死人が出ることを不快に思ってやれることをやった、それだけだ。禁じられた森で暗闇の中ネビルを先導したのは、自分が禁じられた森に馴染んでおきたかったから。それだけだ。だというのに、この少年は、ジュリアに感謝の感情を抱いている。

 

 ネビルはヒキガエルを落とすと、拳を構えた。震えている。しかし、視線はまっすぐだった。

 

 

「だから、今度は僕が守らなきゃいけないんだ。僕がジュリアたちを止める! だって、ジュリアたちは僕の――」

 

「……ステューピファイ」

 

 

 一年間ずっと訓練してきた赤い閃光がネビルを貫く。ジュリアはネビルを気絶させた。崩れ落ちる彼の体を受け止め、ソファに寝かせる。強張ったネビルの顔を、ジュリアは直視できない。

 

 

「悪いな。だが、その先は今のあたしたちに聞く資格はねえよ。……行くぞ」

 

 

 ジュリアはホルスターに杖を収め、肖像画を押し開けた。

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