ハリー・ポッターと獣牙の戦士   作:海野波香

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静かな決心

 ジュリアは一年間を思い返す。ハーマイオニーに聞かせるべき話はどれだろうか。まず、冤罪を晴らすことから始めよう。ジュリアはスネイプの信頼が回復することを期待して、彼についての話題を選んだ。

 

 

「まず、あたしはスネイプ先生が犯人だとは思ってなかった。少なくとも、早々に候補から消した。確定したのは、ハリーのデビュー戦の時だ」

 

「クィレルが呪いをかけた時ね」

 

「そ。でも、まだクィレル先生が犯人だって確信は持てなかった。これはスネイプ先生も言ってたけど、証拠がなかった。黙ってた理由の1つがこれだ」

 

 

 ジュリアはかぼちゃジュースを一口飲んで、まったりとした甘さで喉を潤してから、話を続けた。

 

 

「マグル学の教授だった男が、修行と称して当時荒れてたはずのアルバニアに行き、性格が変わって、力を得て、闇の魔術に対する防衛術の教授として帰ってきた。しかも、ハリーの箒に呪いをかけてるのをあたしは自分の目で見た。最有力候補だ」

 

「そうね、私も反対呪文を唱えてたスネイプより先にクィレルを見つけてたら、クィレルを疑ったと思うわ」

 

「それから、ニコラス・フラメルのことをハグリッドが漏らして、ハーマイオニーたちが動き出したから、あたしはスネイプ先生に賢者の石について相談した。個人授業のときにな」

 

「そこからもう繋がってたのね。ジュリアって、スパイの才能あるわよ」

 

「そう褒めんな。それから、クィレル先生はヴォルデモートの部下で、賢者の石を狙っている、そんな感じのスネイプ先生とダンブルドアの断定に近い推理を受けて、あたしはクィレル先生と話をしてみた」

 

 

 ハーマイオニーがかぼちゃジュースの瓶を取り落としかけた。

 

 

「ジュリア、それって危険よ。詳しくはまだ勉強してないけど、相手の心を読む魔法があるって、本で読んだわ」

 

「あたしもすっかり頭から抜け落ちてた。スネイプ先生に拳骨落とされたよ。反省した。でも、まあ、収穫はあった。……ちょっと想像してみてくれ。レイブンクローに組み分けされたけど魔法が苦手な落ちこぼれで、読書とマグル学しか取り柄のない、友達のいない奴。そいつが、口の上手い闇の魔法使いに出会ったら」

 

「……たぶん、闇の魔法使いは唆すんでしょうね。力さえあれば仲間ができる、そんな感じで」

 

「あたしもそう思う。あの人は、強くなりたかったって言ってた」

 

 

 ジュリアはかぼちゃジュースをもう一口飲んだ。甘ったるさが心地よい。

 

 

「あたしさ。あの人のこと、今でも憎めねえんだ。忘れようとはしてるんだけどな。ずっとひとりぼっちで、ようやく力が手に入ったと思ったら、悪いやつに脅されて、同僚や校長からは警戒されて。それでも、あの人は教師をやり続けた。すげえと思う」

 

「そう、そうね。……でも、クィレルはヴォルデモートの部下で、ハリーを殺そうとしたわ」

 

「あの人は加害者で、同時に被害者だったんだと思う。罪があるからって被害が消えるわけじゃねえ、そうだろ?」

 

 

 ハーマイオニーもかぼちゃジュースを飲んで、それからゆっくりと頷いた。

 

 

「私もその理屈は正しいと思うわ。罪を償うことができれば、だけど」

 

「ダンブルドアは、クィレル先生の行いを許されない罪だと考えたんだろうな。だから、クィレル先生を見捨てた」

 

「ダンブルドアが?」

 

「これは完全に憶測でしかねえけど、まあ、そんなに外れてはいねえと思う。ヴォルデモートが死んでない以上、ハリーには経験が必要だ。そして、事件には犯人が必要だ。クィレル先生はそこに収めるのにちょうどよかった」

 

「それは……それは、残酷だわ。でも、クィレルは自分から闇の魔術に手を染めたのかもしれない」

 

「そこはわかんねえなあ。でも、あの人が根っからの悪人じゃなかった証拠をあたしは持ってる。殺しちまったけど」

 

 

 ジュリアは最後の戦いを思い出した。ジュリアが喉笛を切り裂いたとき、大きなトロールは何を思っていたのだろうか。鋭く、恐ろしく、勇ましい目だった。魔法界で愚鈍の喩えに用いられるトロールが、あのような眼光を見せるとは。

 

 

「あたしが最後に戦ったトロールに、クィレル先生は名前をやった。ミーク。アルバニア語で友達って意味だ」

 

 

 ハーマイオニーは沈黙している。やはり、考えるときに沈黙するのは親子共通の癖のようだ。

 

 癖。ジュリアはクィリナス・クィレルという人物の癖も、個性も、ほとんど知らないうちに、会えなくなってしまった。さよならを言うこともできなかった。

 

 

「あの人を助けたかったよ。あたしが助けるなんておこがましい話だし、結局なにもできなかったけどな。あの人は灰になって、あたしは友達まで殺しちまった」

 

「ジュリア……」

 

「だからってのもおかしいが、あたしだけでも、あの人のことを弔う。あんまりにも、哀れじゃねえか。……あたしが隠してたのはそんなとこだな。ハリーたちは言っても信じなかっただろうし、もし信じてたらあの人を甘く見て返り討ちに遭ってたと思う。だからスネイプ先生がスケープゴートになってハリーたちを引きつけた。あたしはその協力をしてた。悪かったな、黙ってて」

 

 

 かぼちゃジュースを飲み終わってしまった。帰りのホグワーツ特急で買ったボトルはまだ残っているが、なんとなく開ける気分ではない。ジュリアは空き瓶を手に握ったまま、しばらく沈黙を肌で感じていた。

 

 表の通りをバイクが駆け抜けていく音。秒針が流れる時間を刻む音。グレンジャー・デンタルクリニックのドリルが虫歯を削る音。静かだった。

 

 

「ねえ、ジュリア」

 

「何だ」

 

「私、強くなりたい。ジュリアの隣に並びたい」

 

「そうか」

 

 

 ハーマイオニーもかぼちゃジュースを飲み終わった。

 

 ジュリアはどう答えればいいのかわからなかった。ハーマイオニーを危険に晒したくない。自分が守りたい。しかし、どうあがいても自分の手に負えない事態はやってくる。そして、ジュリアもまた、ハーマイオニーの隣に並びたいと思っている。

 

 ジュリアは考えて、考えて、とりあえずの答えを出した。

 

 

「マクゴナガル先生は闇の勢力と戦った魔女だそうだ」

 

「想像はつくわね」

 

「フリットウィック先生は昔、決闘チャンピオンだったそうだ」

 

「それは……意外かも」

 

「まあ、そういうわけで、ホグワーツの層はなかなか厚い。個人授業、頼んでみるのもありなんじゃねえか?」

 

「……スネイプは?」

 

「スネイプ先生はハーマイオニーが苦手なんだとよ」

 

「なによ、それ」

 

 

 ハーマイオニーがジュリアにもたれかかってきたので、ジュリアも負けずとハーマイオニーに体を預けた。温かかった。

 

 

「絶対追いつくわ、ジュリア」

 

「待ってる」

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