少しずつジュリアとグレンジャー夫妻との関係は再構築されていった。ジュリアはまた前のように朝の挨拶をできるようになったし、キッチン周りの家事をしながらアリソンおばさんと談笑できるようになったし、ダンおじさんの日曜大工やドライブに付き合うこともできるようになった。
そうして、穏やかながら慌ただしい時間が流れていき、いよいよ9月がやってきた。2年生の始まりだ。ダンおじさんの車に乗ったジュリアとハーマイオニーは、新年度への期待に胸を膨らませていた。
「真っ先にマクゴナガル先生とフリットウィック先生に個人授業のお願いをしにいかなくっちゃ。それに、まだ読んでない本が沢山、沢山あるし……それから、彼の授業も!」
「いくつか確認しておくぞ、ハーマイオニー。初日は組み分けと歓迎会だからさっさと飯食って寝る。閲覧禁止の棚には近づかない。彼という代名詞はロックハートのみを指すわけじゃねえから紛らわしい」
「わかってるわよ……でも、こう、わかるでしょ?」
「ダンおじさん、どうやらお嬢さんの初恋だぞ。それもべた惚れ」
ダンおじさんは笑いながらハンドルを切った。
「なに、歌手に憧れるようなものさ。私も若いころは……いや、なんでもないよアリソン、なんでもないとも」
ジュリアは知っている。アリソンおばさんには隠しているが、ダンおじさんはマドンナよりシンディ・ローパー派なのだ。どうやら誰もが、そしていくつになっても通る道らしい。ハーマイオニーのロックハート・ハートロック・シンドロームに関しては当面諦めるしかなさそうだ。
昨年度の試験について、ハーマイオニーがいかに簡単であったかを饒舌に語り、ジュリアがぶつくさと文句をこぼし――相変わらず、パイナップルにタップダンスをさせる実技試験だけは納得がいかなかった――、そうこうしているうちにキングズ・クロスに着いた。
相変わらずホームは人で(正確には、それに加えてフクロウやらヒキガエルやらで)ごった返している。当然ながらマグルには奇異の視線を向けられるが、多くの魔法族は気にしていないようだ。人酔いしないうちに、ジュリアとハーマイオニーはグレンジャー夫妻に挨拶を済ませた。
「手紙を送ってちょうだいね。危ないことは先生に許可を取ってから。お友達と仲良くするのよ?」
「大丈夫よ、ママ。ジュリアはどうか知らないけど」
「おいおい、あたしだって大丈夫さ。約束する」
「二人が大丈夫だと言うなら大丈夫だろう。さ、いってらっしゃい」
行ってきますのハグをして、ジュリアとハーマイオニーは9と3/4番線に駆け込んだ。こちらもひどい混雑だ。幸いだったのは、鞄のおかげでジュリアもハーマイオニーも大きなカートを押す必要がないということ。ジュリアはハーマイオニーの手を引いて群衆の隙間をすり抜け、早々にコンパートメントを確保した。
ハーマイオニーは早速ロックハートの著書を鞄から取り出したし、ジュリアも2年生用の『基本呪文集』で目星をつけておいた呪文の練習を始めた。予習できる環境にあるなら予習しておくに限る。そして、呪文学で扱う魔法の中でも初歩的なものは、少なくとも変身術よりは事故の危険性が低い。
しばらくの間、ジュリアはコンパクトミラーに空中でワルツを踊らせるという複雑な挑戦をしていた。半開きになったコンパクトミラーはなんとか空中で食いしばっていたし、回転もしていたが、ワルツというより墜落寸前のヘリコプターだ。どうにもジュリアは優雅だったり繊細だったり、そういった魔法に適していないようだった。
そうしているうちに、ホグワーツ特急は発車した。静かだ。悪い環境ではなかったが、何かが不足しているとジュリアは感じた。
「ハーマイオニー」
「今いいところなの、ジュリア」
「ハーマイオニー、ハリーとロンがいねえぞ」
「きっと他のコンパートメントにいるのよ。ほら、ネビルとか、フレッドとジョージとか。……いるわよね?」
しかし、それほど経たずにネビルも、フレッドとジョージもハリーとロンを探していることがわかって、捜索隊が結成された。双子曰く、マグル側のホームまでは一緒だったらしい。隠れ穴からウィーズリーおじさんの車でキングズ・クロスまで来て、ぎりぎりに滑り込んだそうだ。しかし、捜索隊はついに結論を出した。ハリーとロンは車内にいない。
「どうするよ、俺たちだって乗り遅れたことは流石にないぜ」
「ああ、一番悪くても最後尾の手すりには掴まってた」
「あれは最高にスリリングな登校だったな、マジで」
「ハリーがヘドウィグを飛ばすわよ、たぶん。まさか最後尾の手すりにはいないでしょうし」
あの賢いフクロウがマクゴナガルのところまで飛んでいって、彼女が説教しながら2人を連れて姿あらわしし、ホグワーツに連れていく。それがベターだし、そうなってほしいとジュリアは思っていた。
しかし、数時間後、ジュリアは腹を抱えて笑うことになる。
ようやく魔法界入りです。お待たせしました。