魔法科高校の野生人(仮題) 作:虚弱な溶原性細胞
「アマ...ゾン?」
「食人衝動を持った生命体。 未知の細胞である【アマゾン細胞】から作られた存在だ」
「食人衝動?」
「人を食いたくなるんだとさ。 それによって連中は栄養を得ているらしい。 更に言えば今の警察組織は連中を知らないし、世界の何処を探そうが連中に関する情報がない」
「そんな...」
翼はショックを受けている2人を前に何も言い出す事をしなかった。
「そして...こいつが連中を狩っている訳だ」
「じゃあ、さっきみたいな闘いを今までもやってきたってこと?」
「正確には2年前、マスターの友人だった俺の祖父が死んでからだ」
「それ以来、日本では不可解な事件が起きているだろ?」
「なら、昨日の不審死事件も...?」
「それだけじゃない。 3ヶ月前の横浜、先月の新宿で起きた事件にも関係があると俺は睨んでる。 そうしたら実際に3ヶ月前の事件現場の近くにアマゾンが現れたんだ。 関係がないという方がおかしいだろ?」
店を沈黙が包み込む。
2人の顔は血の気が失せており、気分が悪そうに見えた。
「おふたりさんよ。 あまり気分の良い事じゃないのはわかるが、しっかりと聞いてくれ。 じゃないと、これからの君達が危ないんだ。
「...どういう事です?」
「今回は偶然翼が近くにいた事で事なきを得たが、アマゾンというのは一度決めた獲物を諦める事はない。 今回遭遇したアマゾンが死なない限り、君達や家族が危ないんだ」
「そんな...」
「だから君達にこれを渡しておこう」
マスターはそう言うと、持って来ていた2つの小ぶりの手持ちケースの蓋を開ける。 中に入っていたのは拳銃型の特化型CADだ。
「これは?」
「アマゾンは反魔法の表皮を持つ。 このCADにはそれを貫通してダメージを与える【圧裂弾】という対アマゾン用の魔法術式がインストールされている。 アマゾンに襲われた時はこれで対抗してほしい」
「でも、これだけで倒せないんじゃ...」
「その点については問題ない。 【圧裂弾】の術式を起動した時点で翼に連絡がつく様になっている」
「なら、安心ですね」
話がひと段落ついたので、彼は店を出ようとするとマスターに呼び止められた。
「今日はこれからどうするつもりだ?」
「奴も逃してしまいましたし、帰ることにします。 少し疲れました」
「なら彼女らを横浜を出るまで送ってやれ。 アマゾンもいた事だし、まだ危ないからな」
「わかりました」
————————
「気分は大丈夫か?」
「あんまり良くないかも...」
「私もです...」
自分の命が狙われるという事を知ってか、彼女達はあまり気分が優れない様だ。
「仕方ないか...」
「いえ...」
「翼、アマゾンと闘っていた時の姿って、なんなの?」
雫から出た質問に翼は返答するかを一瞬迷った。 だが彼女達にこれから3年間騙し通せるとは思えないと判断した。
「...あまり言いたくは無いけどね。俺はかつてアマゾンと人間の間の存在だったらしい」
「翼さんが、ですか...⁉︎」
「うん。だけど物心がついた時から自分が人間だと思ってたし、一応生物学上は人間だ」
「じゃあ、『だった』って言うのは?」
「俺は赤ん坊の時に、爺さんに引き取られたんだと。 そんで爺さんの助けで人間の理性の支配下にアマゾンの力を組み込んだ」
「なら公園にいた時に、ハンバーガーを凄い勢いで食べてたのは...」
「【食人衝動】から解放された事への代償、かな。 必要とするエネルギーや栄養を食人で補わない代わりに、その栄養相応の量を食べる事が必須になってね」
「そう言う事ですか...」
「まあ一応、理性を保った状態でアマゾン化も出来るけどね」
翼自身、これまで生きてきた中で食人衝動に駆られた事は一度も無い。
「っと、着いたね」
「そうですね...今日はありがとうございました!」
「ありがとう」
「取り敢えず身の回りは気をつけてくれ。 いつ奴が襲ってくるかはわからない。 一応横浜来ない限りは大丈夫だと思うけど、何かあった時は連絡してくれ」
「...そう言えば連絡先、交換してない」
「あっ...」
完全に失念していた。 そう思うと懐から端末を取り出し、連絡先をメモに記入する。
「これが俺の連絡先だ」
「なら後でこちらから連絡を入れるから、翼も登録しておいてね」
「了解だ」
そう返すと2人は駅の中へ入っていく。
「それじゃ、今度会うのは入学式かな?」
「そうですね。翼さん、入学式に」
「またね、翼」
2人が改札へ入っていくのを確認すると、翼は駅前に止めてあったバイクに乗ると帰宅の途についた。
———————
アマゾンに襲われる事もなく、無事に帰宅した2人はその夜、雫からという形で連絡を取っていた。
「ねぇ、ほのか」
『どうしたの、雫?』
「翼のこと、どう思う?」
『そんな質問するなんて、めずらしいね?』
ほのかは雫のそんな質問に首を傾げる。
『今日会ったばっかりだったけど、優しい人かな』
「そっか...」
ほのかの返答に、雫は何処かほっとした表情を見せた。
『...雫、もしかして翼さんに惚れちゃった?』
「!?」
『黙っててもそんな顔じゃわかっちゃうよ?』
「そ、そんなこと!」
『ない、って?』
「くぅ...!」
さすがは親友と言ったところだろうか。
雫は必死で反論するが、ほのかはそれを許さない。
『...でも、雫の気持ちもわかるよ』
「えっ?」
『命の危機に助けてくれたんだもんね。 惚れない方がおかしいと思うよ?』
「なら、ほのかは?」
『私はなんか...こう...そう! 雫の気持ちが【恋】なら、私の気持ちは【親愛】、かな』
「それって同じじゃ...」
だが言葉に出す事で雫は気づいた。
自分が今日初めて会った【水澤翼】という存在を何も知らないのに、恋をしていると言う事に。
『私は雫を応援してるよ? 』
「うん...」
『翼さんの事は今日初めて会ったから知らない事の方が多いけど、これから3年間は一緒に学校生活をするんだから、振り向かせるチャンスはいっぱいあるよ!』
「うん!」
翼の事をもっとたくさん知りたい。
雫はそう思うとほのかとの連絡を終え、ベッドへ寝転がる。
「高校、楽しみだなぁ...」
そう言うと、睡魔へ引き込まれていった。