【この素晴らしい世界に祝福を!】カズマはのんびりと魔王討伐を志す様です。 作:よるくろ
「よし…行くか」
ゆんゆんの一件から数分経ち、カズマ達は食事の後片付けをしてクエストを再開した。
墓地の外側でさえもかなりの寒気を感じていたものの、中に入るとそれほど悪寒を感じなくなった。幽霊を寄せ付けない魔法的なものがあるのかとカズマは女神という対幽霊特攻最終兵器のような種族であるアクアに引っ付きながら思案した。実際はそれにも理由はあるのだが、一番の理由としては先程の一件がまだ心に響いているからだろう。
普段のクエストではかなり足を引っ張っているアクアだが、こういうクエストになるとこんなにも輝くのだ。だからこそ、アクアは普段見慣れないカズマの姿に余裕を持って和むことができる。
「(カズマさんってば怖いの苦手なのね?可愛いわねぇ)」
「…ゆんゆん。今無性に爆裂魔法を撃ちたくなっているのですが」
「奇遇ね、私も少し暴れたいかも…」
そんなカズマたちの後ろで物騒な会話をするめぐみんとゆんゆん。だがそんな二人の会話は、突然アクアが放った言葉によって中断された。
「……冷えてきたわね。ねえカズマ、今回受けたのはゾンビメーカーの討伐よね?私、そんな小物じゃなくてもっと大物のアンデッドが出るような気がするんですけど」
そんなアクアの言葉で、カズマ含めた全員が構える。仮とはいえアークプリーストの彼女の言葉はこういう場所でこそ信憑性があり、信じるに値する言葉だったからだ。
そのまま慎重に進む一同。するとなにか光っているものが前方に見えた。
「…俺とダクネスで先行して、後方にアクアがついてきてくれ。めぐみんとゆんゆんはアクアのそばについて護衛」
カズマの言葉に頷く皆はカズマの言うとおりに動き、進む。
作戦としては前衛のカズマとダクネスがモンスターの足止めを行い、その隙にアクアが浄化するというシンプルな戦法。とはいえ後方にモンスターがいないとも限らないので、万一にアクアを狙うモンスターの撃退をする係に最適な魔法職のゆんゆんともしもの時のための一撃必殺であるめぐみんを配置したのだ。
前衛の火力不足が否めないが、それでも冒険者の中で防御力が最高峰のダクネスがいる。突破されることはあろうが、そこはカズマがフォローすればいいことだ。
各々が警戒しながら配置につき進む。前方に見える光は近づくたび次第に明るくなり、遂にはその明るさの原因が目に入るまで近づいた。
その原因とは…巨大な魔法陣だった。
だがそれは、いつも見慣れているめぐみんの爆裂魔法の魔法陣とは違った。その魔法陣は辺り一体を無差別に攻撃するわけでもなく、周囲の生物にデバフをかけるわけでもなく、ただ…白く純粋な魂を天に還していた。
よくよく見れば魔法陣の外側から人魂が集い、人魂が魔法陣に入ると天へと昇る。打ち上げ花火のように魂が天へと還る光景は、地球出身のカズマからすれば幻想的な光景だった。
___綺麗だ。
思わず手を伸ばしたくなるほどの、ノスタルジックな光景にカズマは見惚れていた。いつかテレビで見たナイアガラの滝や、天空都市のマチュピチュなどの地球の世界遺産とは比べ物にならないその光景、警戒するのも忘れ、カズマはジッとそれを目に焼き付けるように見ていた。
そしてふと、その魔法陣の近くにいるローブを身につけた者が目に入った。その者は天へ還る魂達を見送っているようであり、となるとその者がこの光景を作り出した張本人なのだろう。
人の仕事を邪魔するのも忍びないと思い他の場所へと移動しようと、同じくその光景に魅入っている仲間達へ伝えようとするカズマ。背後を振り向き口を開こうとすると、突然青い影がカズマの目の前を横切った。
「ちょ、アクア!?」
そして聞こえるめぐみんの戸惑いの声。ダクネスやゆんゆんも何が起こったのか分からず戸惑っており、それはリーダーであるカズマでも分かっていなかった。
長距離ランナー顔負けの走行フォームでローブの人物に特攻するアクア。すると何を思ったのか進行を魔法陣へと変更して、あろうことか魔法陣を消そうと踏み躙り出した。
流石のカズマもそれを無視できず、注意しようとアクアを追いかけようとしたが、それはアクアの口から大声で放たれた言葉によって中断された。
「リッチーがこんなところにノコノコ現れるなんて不届きな!成敗してやる!!」
「や、やめやめ、やめてええええええ!!?誰!?誰なの!?いきなり現れて、なぜ私の魔法陣を壊そうとするのおお!!?」
「リッチーのくせに生意気よ!なによ、こんなもの!こんなもの!」
「…え?」
リッチー。別名ノーライフキングとも呼ばれるその個体はこの世界に存在する。
物理攻撃を無効化し、強力な魔力抵抗力を持ち、攻撃手段はその魔力抵抗力を上回る威力の魔法攻撃か、魔力を帯びた何らかの武器でしかダメージを与えられない。リッチー自身も強力な魔法を使い、更には触れられるだけで強力なデバフ共に生命力や魔力を奪われるといった大変危険な存在。
アクアはローブの人物をリッチーと呼んだ。カズマ自身疑う訳ではないが、だがそんなモンスターが何故こんなところにいるのかという疑問が浮かんでくる。
だがそんな疑問の答えを探そうとしても仕方がなく、更になにやら“神聖な魔力”を纏った手をリッチーに向けるアクアが鬼の形相で大声で唱えた。
「『ターンアンデット』!」
「きゃああああああ!!!」
「おいおいおいおいおいおい!!?」
見た感じ敵意を見せなかったリッチーにいきなり“弱点攻撃”をかまし出したアクアにカズマは柄にもなく大声を出しながら走り出し、アクアへと向かった。
「あ、待ってくださいカズマ!」
「ちょ、めぐみん!カズマさん待って!」
「待て!危険だぞ!」
後ろの仲間達もカズマについて行き、走り出した。
「参ったかしらリッチー!このまま姿形残さず浄化して___」
「やめんか馬鹿女神」
ズガンッ!と鞘付きの剣先でアクアの後頭部をぶん殴るカズマ。思ったより遥かに上回る威力のせいかアクアの足元が少し陥没し、アクアは膝から崩れ落ちながら後頭部を抑えて転がり出した。
それを見て少しやりすぎたかと微量の心配をするカズマだが、リッチーが無抵抗で受けた『ターンアンデット』のダメージで地面に倒れ伏したことでカズマの心配はそっちへ逸れた。
「大丈夫か?…気絶してる、早く手当て…つってもどう手当てすればいいん___」
「『ドレインタッチ』」
「ぇ」
外傷もなく気絶したリッチーにどう対処すればいいか分からずあたふたとしているカズマの首に、リッチーとはかけ離れた綺麗な手が掛けられる。そして無機質な女の声がローブの中から響き、そこからカズマの体力や魔力が急激に無くなっていく。
違う、吸い取られているのだ。それを理解することにはカズマの意識は無くなっていき、そして…
___俺、今日で何回気絶するんだろう。
何となく気絶することを察したカズマは、そのまま気を失った…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
深淵とも言える闇の中、薄暗い音が辺りから聞こえるこの空間の中でカズマは立っていた。
___夢か?
意識は微睡み、視界は真っ暗。ただ立っているという事が分かるだけの不思議な感覚に、カズマは謎の心地よさを感じていた。
___…なんだか、最高の気分だ
そこから動けない、何も見えない、だが気分がいい。そんな気持ちに身を委ねているカズマは、暗闇の中で見える一つの“黒”を見つけた。
字面にすると矛盾したそれは、カズマに近づいてくる。
逃げようとするが、逃げられない。
拒んでも、近づいてくる。
来るな来るなと願っても、カズマの願いを一蹴りにそれは近づいてくる。
やがてそれは人の形を模していき、その姿は___。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ガバッと、自分にかけられた布団ごと勢いよく起き上がるカズマ。額や背にひんやりとした涼しさが襲い、びっしょりと汗を掻いていた事がわかった。
急に起き上がって目を開いたからか、窓から刺す陽光を眩しく思って布団を頭まで被り直すカズマ。そして布団の中でこう思った。
___…洗剤がいい匂いだな、しっかり洗濯してる。
長いことベッドじゃなく藁の上で寝ていたからか、カズマの関心はベッドに向けられていた。花のような香りがカズマの鼻腔を擽り、カズマはその匂いを嗅ぎながら心を落ち着かせていた。
すると、部屋のドアがガチャリと開いた。
カズマが布団の中から顔を出すと、その“女性“はドアの前で湯気の立つ器を乗せたお盆を持って立っていた。
「あ、起きたんですね!よかった、顔色が悪いものでしたから病気ではないのかと心配で…」
まずその人物の特徴で、カズマの目に入ったのは“長いアホ毛”だった。頭のてっぺんからアーチのように曲線を描くそれは女性の感情を表すようにピョコピョコと揺れていた。
「…どうも」
「あ、これお粥です!寝起きでそんなに重い物食べれないと思ったので、軽めの物を作ってきました!」
「…ありがとうございます」
「あ、あとそれと…」
言いづらそうに、女性は少し顔を赤らめて言った。
「えっと、すいません。寝かせる場所が”私のベッド“しかなくて…“洗濯も干してもなかった”ですけど、ダニとかいませんでした?」
女性のその言葉で、カズマの顔が耳まで赤くなったのは言うことでもない。
そして、カズマが勢いよく布団を頭まで被り直すには、一秒も掛からなかった。
はい、今回はカズマさんばっか酷い目に遭いますね、誰のせいなんでしょうか()。
さて、こんな疑問を持った方がいるでしょう。何故『ドレインタッチ』をカズマに使ったのかと。
それは次回物語の中で説明しましょう。