【この素晴らしい世界に祝福を!】カズマはのんびりと魔王討伐を志す様です。 作:よるくろ
『ワープ』の性質は変わりましたが、スキルとしてはまだ『ワープ』として扱われている状態です。
まだもう一段階変化があるので、そこから『転移』に変わります。
…まぁいつになるかは分かりませんが。
「なん___!?」
ベルディアの声が驚愕に満ち溢れている。
それもそうだろう。たった今斬り殺そうとしていたカズマを見失い、その上決して浅くはないダメージを与えられたのだ。満身創痍であったカズマに。
カズマは今起こった現象に戸惑いを隠せないでいた。いつのまにか『ワープ』を使い、いつのまにかベルディアの身体に傷を付け、いつのまにか剣を構えてベルディアを見据えている。そう、“いつのまにか”。
今の一連の行動に、カズマの意思はなかった。むしろ、今死を覚悟していたところなのだ。生きる意思や勝つ決意なども全て投げ捨てており、諦めていた。
だが今はこうやって剣を手に取っている。身体をベルディアに向けている。ベルディアに勝とうとしている。理由は何であれ、今カズマは無意識に勝利への渇望を曝け出していたのだ。
「…何が起きたかは知らないが…俺の体に傷をつけたことは褒めてやろう」
再起動したベルディアが落ちていた頭を拾い上げ、脇に抱える。
「だが…次は油断しない。手加減しない、本気で貴様を殺す。負けはしない、何故なら私は魔王軍幹部。魔王様を守る守護者で、貴様ら魔王様の危険因子である冒険者を駆除する者なのだから___!」
「………俺だって、油断なんざしねえ…!本気でお前をぶっ倒す!」
初動は、同時だった。
剣と剣同士が火花を散らし合いながらぶつかり合い、弾き合う。両者が繰り出す剣戟はやがて衝撃波を生み出し、周囲の壁にヒビを入れている。
ベルディアが脇に抱える頭を上に放り投げた。また監視カメラのような使い方をするのだろうと、カズマは突きを放ちながら考える。
「(頭がスッキリしてる…こんな手を動かしてんのに、ハッキリと別のこと考えられる)」
クリアになる脳内がカズマの能力を格段に上げる。膂力や肉体構造は変わっていないものの、反射神経や動体視力などの脳に直結する器官などが格段にパワーアップしていた。
証拠に、両手で剣を持ち剣速が速くなったベルディアの連撃についていけている。力で弾かれているものの、それを補う動体視力でベルディアの剣を見極め、段々と受け流すことに成功してきている。
ベルディアの頭が自然落下し、ベルディアの手に収まる。耐え凌いだ、いや、“まだだ”。
ベルディアの頭がまた打ち上げられ、剣戟がまた繰り出される。カズマはそれを剣で受け流しながら、ベルディアに反撃をするために隙を窺っていた。
「クク…」
ふと、ベルディアが笑みを漏らす。激しい音のぶつかり合いの中でギリギリ聞こえたカズマは何かあると思い『ワープ』で距離をとった。
だが追撃もせずに、ベルディアは剣を杖のように床に突き立て…まるで、嬉しそうに高らかに笑った。
「ハッハッハ!面白い!面白いぞサトウカズマ!先ほどまで子ウサギだった貴様が一瞬で獅子に早変わりした!面白い、俺とここまで張り合える猛者は王都にも、転生者の中にもいなかった!」
もう一度言うが、ベルディアは魔王軍幹部だ。王都を攻め落とす為に軍を率いて攻撃したり、カズマと同じく魔王討伐を志す転生者との戦いも多々あった。
だが戦場では蹂躙するだけ、転生者との戦いでは剣での戦いなどロクに出来ず、ベルディアが本来欲する剣と剣での戦いなどは微塵もできなかった。
その中で出会ったのが、カズマだ。最初は自分の子供を守る子ウサギのような存在であったのに、この戦いの中で強く成長し、獅子へとなりえた。ベルディアはそれが嬉しくて堪らないのだ。
剣と剣同士の死闘。どちらかの剣が劣れば死ぬ戦いを、“元聖騎士”のベルディアは求めていたのだ。
そしてカズマも同様…この闘いに、快楽に似た不思議な感情を心の内に出していた。
「これから俺の全てをお前にぶつける!お前もぶつけろ、サトウカズマ!」
「…はは、正直お前をさっさとボコボコにして帰ろうかと思ったんだが…気が変わった!殺し合おうか、命尽きるまで!」
そこからは、更に過激な戦闘となった。
カズマは『ワープ』…いや、『ワープ』とは少し違った、“黒いエネルギー”がカズマの居た位置で散り、カズマの現れた場所からまた黒いエネルギーが散り出す。
それではワープする位置がバレるのではないかと思ったが、ベルディアにはこの黒いエネルギーは見えていないようだ。
ただ、ベルディアはカズマの『ワープ』に変化が起きたのを察したようだ。何故なら、先程まで“視えていた魔力の動き“が見えなくなったからだ。
「ハッハッハ!」
「フハハハハハ!」
「「ハハハハハハハハハハハ!!!」」
狂気的なまでにヒートアップしている両者の闘いは、もうすぐ終末に差し掛かる。カズマの剣に、ヒビが入ったからだ。
それに気付かないカズマはベルディアの剣をもう一度剣を合わせて___その場に銀色の破片を散らせた。
好機とみたベルディアは今度こそカズマを仕留めようと剣を振りかぶった。
カズマは刀身の無くなった剣の柄を手放してベルディアの剣に手を当てて、”ベルディアの剣を消した“。
「なっ!?」
「『ワープ』の応用、”物質の転移“。そして、転移した物質は転移先の物質を”押し出して“顕現する。…楽しかったよ、”
「___あぁ、俺も…満足したっ!」
ベルディアの身体が”ドサリ“と地に伏せる。胸を貫いているベルディアの剣が床に押し出されたことでベルディアの身体から抜け出し、”カランッ“という音を立てて床に倒れた。
ベルディアの身体は紫色の粒子となって何処かへ飛び去り、この場にはベルディアの頭とカズマだけが残った。
「…あれは?」
「魔王様の元に還ったんだ。俺達魔王軍幹部は倒されると魔王様の糧になり、強さとなる。全てを受け渡して、魔王様の為に最期まで役に立つのだ。…まぁ尤も、それほどまで忠誠を誓うのは俺を含めてごく僅かだがな」
「そうか………ということは、お前らを倒し続けたら魔王は強くなるのか?」
「あぁ。俺達魔王軍幹部が全員倒されれば、魔王様は世界を揺るがす絶対の力を手に入れる。聞いた話だが、魔王様は力を抑制する為に魔王軍幹部全員に自身の力を分割して受け渡していらっしゃるらしい。そうしなければならないほど、魔王様の力は強大なのだ」
ゴクリを生唾を飲むカズマ。幹部のベルディアでさえ、魔王の一部なのだ。これだけ死力を尽くして倒したベルディアが、魔王の足元にも及ばないのだ。
魔王は一体どれ程の強さなのだろうと、カズマは思う。無意識のようだが、少し笑みが溢れていた。
「…ふはは、やはりお前も俺と同じ、強い敵と戦いたい狂い者か。…約束通り、小娘にかけた魔法は解いてやろう。そして、いいかよく聞けサトウカズマ。俺が倒されたということは、魔王様は本腰を入れて世界を征服しにくるだろう。魔王様は自身を倒す”勇者“を欲している、お前がその勇者になることを、俺は願おう。…さらばだ」
「あぁ…また、今度は酒でも交わすかい?」
「…ふっ…あぁ、楽しみにしておこう___」
その言葉を遺して、ベルディアの頭は紫色の粒子となり、身体と同じように何処かへ飛び去った。きっと、ベルディアの言う通り魔王の元へ還っているのだろう。
カズマはその場に残ったベルディアの剣をその場に突き刺して、その場を後にした。…だがカズマは気付かなかった。
___ベルディアの剣から出る黒きオーラが、カズマが持っていた柄だけの剣に吸い込まれていき、そしてその剣が徐々に再生していく光景を…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
とある部屋の一室の中。
蝋燭一本だけがその空間内を照らす中に、ひとりの男が分厚い本を片手に安楽椅子でゆったりと読書をしていた。
「…む、ベルディアが…やられたのか」
“紫色の粒子”がその男に吸い込まれる。
男は悲しげな声色でベルディアの死を嘆いた。
「…もう、酒を飲み交わせないのか…女子のパンツを覗くことも、そんなバカなことを一緒にできなくなったのか……」
赤い火を灯していた蝋燭が、急速に溶け始めた。いつのまにか赤い炎は紫色に染まっており、部屋の明るさは一層明るくなった。
そして、男の風貌もその明るさによって明らかになる。
鮮やかで暗い鮮血色の肌、黒く豪華な衣装に身を包んだその身体は生物に於いて極限にまで昇華されている。極め付けには、その額から生える“黒く長い角”。
魔王。周囲の生物からはその名で恐れられており、人類の敵として頂点に立つ絶対の王。
「ベルディアよ、安らかに眠れ。そして必ず我が、お前の仇を討ってやろう。そして___」
王は、これから遠くない未来に来るであろう勇者を、まるでデート前に恋人を待つ男性のように笑みを浮かべながら…
「___人間も勇者も、そして女神も全て殺し…
深紅の眼を光らせて、手に持っていた分厚い音を握りつぶした…。
魔王の詳細が分からなかったので自己制作しました…。