【この素晴らしい世界に祝福を!】カズマはのんびりと魔王討伐を志す様です。   作:よるくろ

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 時間はいっぱいあるのに、何故か早く書いてしまう…きっと私の指がワーカーズハイに陥っているのでしょう。
 


【28】 アンナ=フィランテ=エステロイド

 

 

 

 困ったような顔で膝の上で眠る“少女”を撫でながら、背中で泣きながらカズマに抱きつくゆんゆんに声を掛ける。

 

 

「もう落ち着いたか?」

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 

 懺悔するように謝罪の言葉を繰り返すゆんゆん。目を覚ました時からこんな感じだ、恐らく取り憑かれている間の記憶は、そのままゆんゆんの記憶に刻まれているのだろう。

 

 そんな彼女にカズマはため息を吐き、その隣でカズマの膝で眠る“少女”にタオルケットを掛けるアクアが口を開いた。

 

 

「あの悪霊は、元々善良な霊だったわ。冬将軍に殺されて、たまにある魂だけの存在になってこの世を彷徨うただの霊。しかも生前の自我を持った更に珍しい魂になってる」

 

「…善良ならなんたって俺に突っかかってきてんだよ」

 

「あの霊は、冬将軍と戦ったカズマに惚れたのよ。ほらあるでしょ?強い男に惹かれるって」

 

「…冒険者のうちは女性関係とか作るつもりなかったんだけどなぁ」

 

「手遅れね(無慈悲)。で、そんなカズマに惹かれた彼女はカズマのパーティメンバーであるゆんゆんに取り憑いた。そこまでは、彼女の思い通りだったわ」

 

 

 そこでアクアはカズマの背中で“硬直”したゆんゆんを見る。そして…

 

 

「まぁ…ゆんゆんの異常なまでのカズマへのこう___」

 

「ダメえええええええええ!!!!」

 

「もがっ」

 

 

 アクアの口から紡がれようとした言葉がゆんゆんの恐ろしい素早さ&瞬発力によって口どころか誤って小指が鼻の穴に入ったアクアは高レベルのステータスをふんだんに使った膂力に抗えず、無呼吸で小指による鼻の痛みに耐えながらゆんゆんを引き剥がそうとしていた。

 

 対するゆんゆんの顔は耳や首まで真っ赤に染まっており、紅魔族特有の赤い目はパトランプよりも光っている。

 

 そんな二人の攻防を眺めているカズマの元に、門前で別れためぐみんがやってきた。

 

 

「ただいま戻りました…って、どうしたんですか?そんなボロボロで。あっちも喧嘩してますし…」

 

「悪霊に襲われた」

 

「あ、理解しました。…で、不動産屋でこの屋敷のことを調べたのですが、この屋敷にはアンナ=フィランテ=エステロイドという少女の霊がいるようです。確かここの当主と働いていたメイドの子で、隠し子としてこの館で過ごしていたらしいです」

 

「あー…小説とかでよくありがちなやつか」

 

「ですです。それでその子は幽閉されていたんですが、当主である父は病死、メイドである母は行方知れずでそのまま一族は廃れて滅んだようです。まぁつまるところ…アンナという少女は幽閉されたまま衰弱死したこの館の地縛霊のようなものですね」

 

「へぇ………」

 

『私も初めて知ったわ』

 

「そうなんですか。貴方も………?」

 

『こんにちわ』

 

 

 めぐみんはカズマの膝の上でまっすぐと自分を射抜く目線に気付き、顔を青くする。何故かというと、その“少女”は半透明で、その少女の周りには霊である証拠の人魂のようなオーラが浮かんでいるからだ。

 

 めぐみんは悲鳴をあげそうになるが、カズマがそれを防ぎ、少女___アンナはカズマの膝から起き上がりながらカズマの腰に抱きついた。

 

 

『私、お兄様とアクア様に会うまでは一人ぼっちだったの。貴方、お友達になってくれる?』

 

「むぐぐ……は、はぁ…わ、私でよければ…ってお兄様?」

 

『やった!嬉しいわ!お兄様、私お友達ができたわ!』

 

「はいはい…良かったな」

 

 

 カズマの横腹に頬擦りするアンナの頭を撫でながら、カズマはやつれたような顔でため息を吐く。脳裏で思い出すのは、この少女との初対面の瞬間であった…。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 アクアがゆんゆんの身に起こった事象をカズマに説明しようと、口を開いた時、それはそこにいた。

 

 金髪のショートヘアーに伴って赤が映えるカチューシャ、ブラウンのワンピースの胸にある黒いリボンは風に揺られて靡き、古くから貴族の証と言われている、カズマの目を真っ直ぐと見つめる碧眼。

 

 それらを総合的に見れば、普通の可愛らしい女の子と言えるだろう。だがカズマはある一点、普通の人間からはかけ離れている所がある。

 

 それは“透けている”こと。良くありがちな服だけ、など、内臓が、などではない。断じてない。

 

 “透けている”のだ。服も肌も、半透明な少女の後ろにある壁の全体像がよく見える。だがカズマは、自身の目を覗き込むように見てくる少女の目から目を離せなかった。

 

 

「…」

 

『…』

 

 

 すると、少女…アンナはニコリと微笑んで、口を開いた。

 

 カズマはよく映画などで見るバグったような声色などで話しかけてくるのかと身構えるが、そんなことはなく。普通の女の子らしい可愛らしい声で話しかけてきた。

 

 

『こんにちわ♪』

 

「……こ、こんにちは?」

 

『私、アンナ。冒険者様達のお話を聞くのが好きなの!貴方達って冒険者なんでしょ?お話を聞かせて頂戴?』

 

 

 聞けば、カズマが霊と戦っている間にアクアがアンナの説得をしている時、自分達が冒険者だという旨を伝えた途端、目を輝かせて『冒険者様なの?!』と先程までの怯えようが嘘のように明るくなったらしい。

 

 

「…良いよ、俺も話し相手が欲しかったところだ。どんな話が聞きたい?」

 

『えっとね、大きいカエルの話がいいわ!ミッシェルが言っていたのだけど、屋敷くらい大きいカエルがいるんでしょう?』

 

「あぁ、それはジャイアントトードっているモンスターだな___」

 

 

 それからカズマは、アンナの聞きたい話をいくつも聞かせてあげた。流石に自分の知らないモンスターの話は話せなかったが、それでもアンナには十分すぎるほど楽しいお話だったようで、気がついた時にはアンナはカズマの膝の上で話を聞いていた。

 

 随分懐かれたな、とカズマは思った。

 

 急に話を止めたカズマを不思議そうな顔で見上げて話の続きを待っているアンナの頭を撫でて、カズマは次の話題を考えた。すると頭を撫でられているアンナは、次の言葉を呟いた。

 

 

『…お兄様』

 

「うん?」

 

『…貴方のこと、お兄様って呼んでもいいかしら?』

 

 

 上目遣いでそう聞いてくるアンナに、カズマは頷いた。別に困ることでもないし、この少女が満足するならばという意味を込めてだ。アンナはパッと花が咲いたような笑顔を浮かべて、嬉しそうにカズマの膝から浮遊して小躍りするようにくるくる舞っていた。

 

 

『私、お兄様なんて初めてできたわ!お父様にも言いたかったけど、眠っちゃったままだし…お母様にもずっと会えていないわ、どこに行ったのかしら』

 

「お前……そういうことか」

 

『?』

 

「…えぇ、寝室でこの子の父親を見つけたけど…未練もなく成仏していたわ」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、カズマは床に思いっきり拳を叩きつけた。

 

 

「こんな子供を放っておいて…何も未練もない…?ふざけるなよ、こんな子供を孤独にしておいて、何も未練がない?成仏しただと?ふざけるなよ…!」

 

『どうしたのお兄様?お顔が怖いわ、綺麗なお顔が暗くなっているわ』

 

「っ…すまん、怖がらせるつもりはないよ。ただ…」

 

「カズマの怒りも御もっともよ。実際私も骨に一撃入れてやったもの。女神の拳だから魂にまで響いたはずよ?」

 

 

 憤怒の表情を浮かべるカズマの頬にアンナは手を添える。半透明でも実体はあるのか触られているような感覚がして、アンナの手の温もりが伝わるような感じがした。

 

 カズマはアンナの手を見ながら、手に手を重ねて添えた。

 

 

『私、お兄様の怒る顔を見たくないわ。悲しそうな顔も、苦しそうな顔も。私、お兄様の笑顔が見たい、嬉しそうなお顔がみたいの。だから、そんなに怒らないで、私とお話ししましょ?』

 

「………ごめん」

 

『お兄様は悪くないわ。悪いのはお兄様を怒らせるヤツらよ、お兄様は何も悪くないもの』

 

「…ごめんな、…ごめんな」

 

 

 健気な少女のこの優しさは、どこからきているのだろうか。普通なら自分の娘を放置していた父親と母親に憎しみが宿るはずだが、この少女は憎悪も何もない、純粋で無垢な優しさの塊のまま魂となっている。

 

 カズマはアンナの頭と身体を包み込むように抱きしめて、頭を撫でた。生者の温かみか、それとも優しさか、アンナは撫でられはじめは気持ちよさそうにしていたが、何故か目から涙が溢れ始めて…、

 

 

『えぐっ…ひぐっ………うえええぇぇ……』

 

 

 嗚咽を抑え込むように、我慢するように。カズマの肩を濡らしながら、服をぎゅっと握って離すものかと言わんばかりにしがみついている。

 

 生まれてから死ぬまで、死んでから魂だけになって今まで、人の温もりを感じたことのなかったアンナの心は、今、満たされた。

 

 やがて泣きつかれたアンナは眠りにつき、カズマはアンナを膝の上に戻して壁に背中を預けた。カズマの目にも涙の跡が付いており、すんと鼻音を鳴らしながら壁に後頭部を押し付けた。

 

 ゆんゆんが目を覚ましたのは、それから数分も経たない後のことだった…。

 

 






 人の温もりを知らず、家族の愛情すら与えてもらえなかった女の子、アンナ。バッドエンドでは終わらせたくないですよね…
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