【この素晴らしい世界に祝福を!】カズマはのんびりと魔王討伐を志す様です。   作:よるくろ

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【44】 先立として

 

 

 

 

「美味しいか?」

 

「はい!とっても美味しいです!」

 

…………………………(もぐもぐもぐもぐもぐ)

 

「ふわあま…美味しい…」

 

 先程の一件から少し時間が経過した教会。

 

 食堂にあたる部屋では、少女三人組がカズマお手製のパンケーキを食べていた。

 

 シンプルで見た目柔らかなパンケーキの上にバターとハチミツを乗せただけの簡単なスイーツだが、どうやらお気に召した様子。特にニーナは目を輝かせながら無言でパンケーキを口に詰め込んでいる。

 

 そんな様子をニコニコ顔で眺めているカズマ。ちょっとした気遣いをしようと、口を開く。

 

「おかわりもあるよ」

 

「「「くださいッ!」」」

 

「はーい」

 

 席を立ち、厨房の台の上に乗せられたパンケーキのタワーから皿に3枚ずつ乗せ、皿に付着したハチミツまで綺麗に食べた三人の前にある皿の上に重ねる。

 

 好物のおかわりに更に目を輝かせた三人。追加のバターとハチミツの入った小瓶を置いた後、カズマはまた三人の向かいの席へと戻る。

 

「とりあえず、今日は昼までやってもらおうかな。修理の依頼って言っても雨までに間に合えばいいし、報酬も依頼とは別に日当で渡すから」

 

「え?でもそれじゃあ余計な出費になるんじゃ…」

 

「俺の都合で依頼長引かせてるし、これくらいは当然じゃない?」

 

「そうなのかしら…こんなことなら相場とか調べれば良かったわね」

 

「…あ、じゃあ、一つ提案がある」

 

 皆の視線がウルルに集まる。

 

「要は、カズマさんの依頼の、延長分の報酬の補填が目的。だったら、カズマさんに、私達にとって利があるお願いをすればいい」

 

「…何をお願いするの?」

 

「鍛えてもらう」

 

 なるほど、とカズマは思った。

 

「レベルとか役職関係なく、冒険者としてのキャリア経験がある人の経験値は私達より絶対にある」

 

「だから、鍛えてもらう…いいんじゃない?カズマさんが承諾したらだけど」

 

「全然良いけど?」

 

 流れるようにカズマは言った。

 

「やった!じゃあ早速!」

 

「今は依頼でしょ!」

 

「はっ!そうだった!」

 

「…そうだな、じゃあ今日の依頼は昼までやって、それから君達が望むまで…といっても、上限は夕暮れまでかな。それまでだったら鍛えてもいいよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます、カズマさん」

 

「ありがとう、カズマさん」

 

 休憩を終えた少女らは、次は慎重に屋根の上で作業を行った。

 

 これなら大丈夫かと、監視目的で続けていた草むしりを中断して、カズマは昼から始まる特訓に備えて、冒険に必要な知識を教える為の準備をする。

 

 そうして、迎えた正午。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 草が一つもなくなった、教会の庭の一角。

 

 剣を構えたミオ、大楯を前方に構えたニーナ、大杖を両手に持っているウルルが、それぞれ顔を引き締めている。

 

 対して、三人の前に立つカズマは、()()を片手にエプロン姿で立っている。

 

「じゃあ、一つ、俺は二分間攻撃しない。一つ、俺はスキルを使用しない。一つ、君達のスキル及び魔法の制限は無し。この三つを踏まえて、三分間の模擬戦を行う。これでいいね?」

 

「中々舐められてますね!」

 

「そもそもなんで包丁なの!?」

 

「エプロンかわいい」

 

「舐めてはないけど、下には見てるよ。あと包丁なのは、俺の武器使うと君らの武器真っ二つにしちゃうから。で、エプロンは俺の手作りね。ありがとう」

 

「手作りなんですか!?」

 

「気にするのそっちじゃないでしょうが!!!」

 

 少しズレた所を気にするミオに、ニーナがツッコむ(ウルルは呆れてため息を吐いている)。

 

 カズマは、前衛二人の後ろで控えるウルルに声を掛けた。

 

「二人はいつもこうなのか」

 

「…うん」

 

 顔に手を当てて返事をするウルルにカズマは苦笑を返す。

 

 しかし、顔を真剣な表情へと戻して、声を固く三人に声を掛けた。

 

「じゃ、やろうか」

 

「「「っ!」」」

 

 包丁を鋒を前に突きつけるカズマ。

 

 それだけで___少女らにとてつもない重圧が降りかかった。

 

「っぐぅ…!?」

 

「これ…()()以上…!!!」

 

「モンスターと戦う際、向こうは生きる為に必死だ。自らを殺しに掛かる冒険者を、完膚なきまで、確実に死ぬまで___()()を持って攻撃する」

 

 この圧はそれの予行練習ね、と言いながらカズマは圧を緩めた。

 

「さて、これでやりやすくなったでしょ?」

 

「…行きますッッ!!!」

 

 ミオとニーナが同時に駆け出す。ウルルは後方で魔法を繰り出すタイミングを見計らいながら、詠唱している。

 

 盾持ちのニーナを最前衛とし、ミオがその後ろを着いて行く。

 

 カズマはこの後に()()来る攻撃に備える。

 

()()()()()()()()

 

「ハァッ!」

 

 ボンッ!と音を立てて、勢いの乗った盾がカズマに直撃する。

 

「…っ!(怯みもしない…!?)」

 

「で、次は()()()()()()()()ね」

 

「読まれてるっ!ミオ!下がって!」

 

「えっ!?」

 

 盾のせいで前の状況が読めていないミオが、いつもと同じ通りにニーナの左側から体重を乗せて剣を突き出す。

 

 しかし、突然のニーナの指示によって迷いが生まれ、その攻撃は大幅に軽くなる。

 

 真っ直ぐとカズマに向かった剣の鋒は…カズマの包丁の()()()()()()()()()()()()

 

「なにそれ!?」

 

「ぶっつけ。まさか成功するとは」

 

 成功したらいいなぁ的なノリでやってみたカズマだが、まさか成功するとは思っていなかったようだ。

 

「下がって…『ファイアボール』!」

 

「お」

 

 ウルルの声に反応した二人が、左右に散らばるようにカズマから遠のく。

 

 カズマへとまっすぐ飛来する複数の火の玉。

 

 それに対し、カズマは手を翳す。

 

「『ハイ・クリエイトスプラッシュ』」

 

 上位を司る『ハイ』、水を創り出す『クリエイトウォーター』、拡散を意味する、単なる魔力操作による『スプラッシュ』。

 

 前方を覆い尽くすように放たれた水の厚い膜は、飛来するファイアボールを全て掻き消した。

 

「うっそ…!」

 

「知らない、魔法!」

 

 目を輝かせたウルルから視線を外し、再度突っ込んでくるミオとニーナを見る。

 

 盾を振るうことしか攻撃手段のないニーナは右から盾を振りかぶり、ミオはシンプルに左から挟み込むように剣を振るう。

 

 まずはミオから、とカズマは包丁を握る。

 

 盾との距離を見て接触の猶予を計算し、その間にミオの剣への対処を行う。

 

 ミオの剣が間合いの範囲内へ侵入。包丁を下から振るい、押すように上へ持ち上げる。

 

 同時に膝から上の重心を一気に後方へ。ミオの剣はカズマの顔の前を通り過ぎる。

 

 ミオが避けられたと認識した時には、既にニーナの盾に攻撃を加えた後だった。

 

 ガィンッ!と音を立て、ミオの剣は弾かれる。衝撃によって剣は跳ね上げられ、ミオの体勢が崩れた。

 

 カズマは膝から上の上半身を膝の力だけで停止させ、盾が通り過ぎるのを待つ。

 

 遠心力をふんだんに使った一撃を放ったニーナの重心は完全に盾に引っ張られており、カズマが起き上がる頃には完全に隙だらけな大勢になっていた。

 

 そこにカズマは、手のひらでニーナの肩、そしてミオの胸を押し出す。

 

 二人は何も抵抗できずに体勢を崩し、地面へ倒れてしまった。

 

「きゃんっ!」

 

「おぐふっ!?」

 

「ニーナ、盾で攻撃するのは良いけど、盾に振るわれるような攻撃は感心しない。ミオ、相方の攻撃を見て、どう考えても接触しないような攻撃をしなさい」

 

「っ、はい!」

 

「えぇ!」

 

「ウルル、魔法に関心を持つのはいいけど、今は戦い。集中しなさい」

 

「はい…!」

 

 二人が立ち上がる間に良くない行動を指摘したカズマは、その場から動かずに、体内時計で測っていた二分の時間を告げる。

 

「二分経過。じゃ、動くぞー」

 

「来るよ!ニーナ、ウルル!」

 

「ミオは下がって!ウルルの側に行って!」

 

 ミオがウルルの護衛へ、ニーナは一人盾を構えてカズマへと向き直る。

 

 盾の上から顔を出して目を離さずにカズマを睨んでいたニーナだが…。

 

「っ!? 消えた!?」

 

 まるでその場に最初からいなかったかのように、ニーナの瞬きの間にカズマの姿は消えていた。

 

 次の瞬間、盾に強い衝撃が加えられた。

 

「っぐぅ!?」

 

 そして体勢を立て直す前に、二度目の衝撃。三度、四度と続けて加えられる衝撃に、ニーナは耐えきれず体勢を完全に崩してしまった。

 

 尻から地面に崩れ落ち、仰向けに倒れるニーナ。その首元に、カズマが包丁を当てがって呟いた。

 

「一人目」

 

「はぁっ!」

 

 そこにミオの一閃が襲い掛かる。

 

 カズマを狙って放たれた攻撃は余裕を持って躱されるも、回避されると確信していたミオはそのままの勢いでもう一度攻撃を繰り返す。

 

 しかしその一撃は当たらない。

 

 皮膚に触れる寸前、ミリメートル単位での身体操作にて一撃を躱したカズマ。きっとミオの目には、剣がすり抜けていったように見えただろう。

 

 振り切った姿勢のミオに一撃加えようと包丁を構えたところに、邪魔が入った。

 

「『ライトニング』!」

 

 ミオに当たらない、カズマだけを狙った魔法による狙撃。

 

 寸分の狂いがあろうともカズマに直撃するルートを奔る雷は、カズマにミオから離れる選択肢を取らせた。

 

「『ファイアボール』、『ファイアボール』、『ファイアボール』!」

 

 続けてファイアボールによる三つの波状攻撃。

 

 そんなに打つと魔力が無くなるぞ、と声を掛けようとしたカズマだが、よく見るとウルルの表情に変わりはなく、まだ余裕そうに見える。

 

「(なるほど、魔力タンク…)」

 

 迫り来るファイアボールの攻撃を単純な回避によって掻い潜り、全ての魔法を躱わす。

 

 そこに来る、ミオの気配。

 

 背後から剣を振りかぶるミオの刀身をノールックで掴んだ。

 

「えぇ!?」

 

「ほい」

 

 そのまま引き寄せ、剣から手を離さないミオを己の前に立たせる。これにてウルルを完封させる。

 

 そしてそのままミオを掴んで、ウルルの方へと投げ飛ばした。

 

「うわぁぁああ!?」

 

「え、ちょ、来ないで___」

 

 ドッシーン!と二人まとめて崩れ落ちたのを見て、カズマは告げた。

 

「三分終了ー」

 

 こうしてカズマと少女ら三人の模擬戦は、カズマの圧倒的な勝利で決着をつけた。






・ミオ
:前衛職の『剣士』。軽装とショートソードのみの装備。同じ前衛職であるニーナと一体で動き、大楯で怯んだ相手の隙をついて攻撃する。スキルはまだ覚えていない。今回カズマに手も足も剣も出なかった。

・ニーナ
:前衛職の『戦士』の派生職の『重戦士』。フルメイルと大楯のみの武装。決まって常に前衛で盾を構え、初撃は盾を構えてでの突進を行う。スキルは覚えていない。今回カズマに手も足も盾も出なかった。

・ウルル
:後衛職の『ウィザード』。純粋な人間としては珍しい大量の魔力を持つ。その量はめぐみんに匹敵するほど。普通のローブに、大きな杖を武装している。二人が敵から離れたタイミングで魔法を放ち、怯ませるか止めを指す役割。カズマが急に出した知らない魔法に脳を焼かれている。今回カズマに手も足も魔法も出なかった(魔法は出た)。
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