【この素晴らしい世界に祝福を!】カズマはのんびりと魔王討伐を志す様です。   作:よるくろ

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【6】閑話休題は、筆も体も休めるのだ。

 

 

 めぐみんのカズマによる歓迎の言葉が終わった後、めぐみんの腹部からグロロロォ…と地獄の底から呻くような音が聞こえた。彼女は顔を真っ赤にして、帽子を深く被り込んだ。

 その様子にふふふっとカズマが笑うと、めぐみんは羞恥心による為か、紅魔族特有の紅の目を光らせてカズマを睨み付けるが、カズマはそれでも笑い続け、机の上で組んでいた腕に顔を伏せた。

 

「ふふっ…ひ、久しぶりにこんな笑った…」

「〜〜〜っ、後で覚えておくことですねっ、いくら命の恩人だとしても出るとこでますからね!?」

「ねぇねぇカズマ、新商品のカエルのハンバーグ頼んでみても良いかしら!私ハンバーグ食べたことないの!」

「はいはい、じゃあ俺も食べたいから二品お願いな、めぐみんはどうする?」

「えっと…じゃあ私も、できれば唐揚げも欲しいです」

「うん、じゃあ唐揚げも頼む」

「はーい!すいませーん!」

 

 許可を貰ったアクアが近くを通る従業員に声を掛ける。アクアの注文を承った従業員は一礼しながらギルドの厨房へと赴き、その中へと入っていった。

 それを見届けたカズマは机の上で組んでいた腕に顔を埋めて、モゾモゾと気に入った体勢を見つけ、完全休息態勢に入った。

 そんなカズマの行動を見るものはおらず、めぐみんはアクアと話していた。

 

「えっと、これからよろしくお願いします。私はめぐみんと言います」

「ふふっ、そんな畏まらなくてもいいのよ。仲間でしょう?」

「!、はい!」

 

 元気よく返事を返すめぐみん、それを聞いたアクアは微笑み、腕の中でカズマは笑みを浮かべていた。

 

 そのうちアクアの頼んだ料理がいつもより割かし多く盛られた料理が従業員の掌の上から運ばれ、机に置かれる。

 久々に目にすることができた大盛りの料理に目を赤く輝かせためぐみんはまだかまだかとアクアと起き上ったカズマに目を向ける。

 

「さぁ、いただいちゃいましょうか」

「はい!」

「それじゃ…手を合わせて」

 

 カズマの音頭でアクアは手を合わせ、めぐみんも意図はわかっていないようだが手を合わせている。無論この世界の文化には“いただきます”の挨拶がない事を知っているアクアはめぐみんに「カズマが言う言葉を真似して挨拶してね?」と教える。コクリと頷くめぐみんを見てカズマは言葉を続ける。

 

「いただきます」

「「いただきます!」」

 

 挨拶を済ませた瞬間、大盛りに盛られたから揚げの山の五分の一が一瞬にして消えた。アクアの動体視力でも影も見えないほどの速さ。その犯人は、カズマの隣でリスのように口にから揚げをため込んで食べているめぐみんだった。

 その眼は先ほどよりも輝いており、ギルドの照明魔道具よりも眩く輝いているような気がする。

 アクアもカズマもその速さに唖然としており、口いっぱいのから揚げを飲み込んだめぐみんは言う。

 

「食事は戦争です!」

 

 から揚げの山はものの数分で無くなった。めぐみんはカズマの残したから揚げに目が向いており、カズマがそれを渡すと嬉しそうな顔でから揚げを頬張っていく。

 

「すごい食べるな…こりゃ今夜の食事代が不安になるな」

「まぁ、あの笑顔を見たらその心配も消えるわよ。今日のクエストで頑張ればいいもの」

「…、まぁ確かに。幸い今日は近場のパン屋が三割引きセールだし、長時間のクエストに挑むのもいいかもしれないな」

「そうね…、なんかカズマさん主婦になってきてない?目の付け所が主婦そのものよ?」

「誰が主婦だ」

 

 会話の間もめぐみんの暴走機関車のような暴食は衰えを見せず、追加されたから揚げも次々とくらっていく。そして皿の枚数が二十枚に到達するというところで、めぐみんの胃は満たされたようだ。

 

「ふぅ……満足ですぅ…」

 

 満面の笑みで机に倒れ伏すめぐみん、カズマはめぐみんの頬や口周りについていたソースや食べかすなどを布でふき取る。めぐみんは顔を赤くしてお礼を言い、恥ずかしそうに起き上がる。

 

「さて、腹も膨れたことだしクエストに行くか。ジャイアントトードのクエストを晩飯までやる予定だけど、いけるか?めぐみん」

「はい!我が爆裂魔法の力を見せてあげましょう!」

 

 杖を強く握って意気込むめぐみん。先端に取り付けられた装飾用の赤い球がきらりと輝き、まるでめぐみんの決意に呼応しているようだった。

 

~~~~~~~~~~~

 

 場所は打って変わり、クエストを発注したカズマ一行はジャイアントトードの蔓延る平原へと来ていた。一見、見渡す限りの平原には巨大なカエルなど一匹も見当たらないが、ジャイアントトードは水分を吸収するために地中の水分を求め地面に潜っているのだ。

 

「よし、まずはめぐみんの爆裂魔法とやらの鑑賞会と行こうか。威力がどんなものかを知りたい」

「はい!ではいきます!」

 

 カズマたちの前にめぐみんが歩み出て、杖を構える。するとめぐみんの体から淡い紅色の魔力が滲み出し、それは杖の先端へと収縮していく。

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。 覚醒のとき来たれり。 無謬の境界に落ちし理。 無行の歪みとなりて現出せよ! 」

 

 カッと魔法陣が輝きだし、グルグルと台風のように回る。実際に周りはめぐみんから放出される魔力が台風のような奔流となり、少し離れているカズマとアクアに自らの力の一端を見せつけている。

 

「踊れ踊れ踊れ、 我が力の奔流に望むは崩壊なり。 並ぶ者なき崩壊なり。 万象等しく灰塵に帰し、 深淵より来たれ!」

 

 圧縮された魔力の前に魔法陣が現れ、めぐみんが杖を振ると足元にもそれは現れる。段々とそれは紅く燃えるような輝きを出し、そして___、

 

「これが人類最大の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃魔法___!」

 

 

「エクスプロージョン!!!!」

 

 

 

 爆裂した。標的も何もいない平原は一瞬で原爆を落とされたような惨劇を繰り広げ、上空に大きなキノコ雲を作り出した。

 

「…ははっ、これは、凄い」

「ちょっとー!ふ、吹き飛ばされるー!」

 

 足にしっかりと力を入れて、バサバサと爆風に靡く髪を抑えながらカズマはその威力に冷や汗を流しながら感心する。アクアはカズマの腰にしがみついて風に飛ばされる寸前の洗濯物のようになっているが。

 

 しばらくして爆裂魔法によって生み出された影響が完全に消え、改めて爆心地を見るカズマ。そこには大きなクレーターがあり、その目の前でめぐみんが倒れていた。

 

「だ、大丈夫?」

「も、問題ありません…。ば、爆裂魔法は強大にして最強と謳われる魔法ですが、その反面消費魔力が激しく、今の私では一発打てば行動不能になります…」

「…まぁ、ノーリスクであんなのが出来るわけないか…」

 

 カズマは溜息を吐くと、腰に携えた無銘の剣を抜く。シャリ…という音だけでカズマが抜剣したのが分かったのか、めぐみんは顔を青くしてもがく。

 

「ま、まさか要らないからと言って殺すわけでは無いでしょうね!?流石にこんな若い美少女を切り捨てるなんていくらなんでも非人道的な」

「何を勘違いしているのかわかないけど…このデカイのが美少女だって言うなら俺は迷わず脳外科に行く事をお勧めする」

 

 なんと背後には、爆裂魔法の衝撃で目を覚ましたであろうジャイアントトードがカズマ達を見下ろしていた。カズマはそれに目を向けると、ジャイアントトードが行動するより先に素早く身を動かした。

 

 ジャイアントトードは打撃には強いが、斬撃に弱い。その理由としては、その身に付いた脂肪と、そこから分泌される脂の含んだ粘液だろう。

 

 それに苦しめられたことのある(アクアによって)カズマはそんな苦い思い出を切り捨てるようにカエルの手足を繋げる部分、関節の裏を切る。神経や腱の収束しているその部分は筋肉や骨を動かし支える役割を担っている為、めぐみんという餌に気を取られていたジャイアントトードは崩れるトランプタワーのように崩れ落ちた。

 

 姿勢の低くなったお陰で刺しやすくなったカエルの頭に、カズマは剣を刺す。するとカエルはビクンと身体を痙攣させると、動かなくなってしまった。

 

 この手際にはめぐみんも称賛の声をあげており、カズマに絶賛の声を送った。

 

「凄いですカズマ!一切の無駄な動きも無かったです!」

「寝る時とかぼーっとしてる時、コイツらの攻略法考えてるから…楽に倒せる方法だったら、腱を切ったほうが早いかなと」

 

 若干照れながら解説するカズマに、めぐみんは「ふおぉ…!」と目を輝かせながら変な声を出す。恐らく、日常生活の中でも戦いの思考をしているカズマをカッコいいと思っているのだろう。所謂、勝利の為に日常までも戦いを思わんとするというシチュエーションも紅魔族の琴線に触れるのだろう。

 

「…あれ、そういえばアクアはどうしたのですか?」

「さっきまで俺の腰にしがみついてたけど…あっ」

「え?…あっ」

 

 見ると、アクアは遠くの方でカエルに食われていた。カエルがアクアを飲みこんでいる最中のようで、上を向いているカエルの口からはアクアの足がはみ出ている。

 

「く、食われてんじゃないよ!」

 

 柄にもなく大声を出しながら、カズマはアクア救出のために、剣を片手に走った…。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 その夜、カズマは溜息を吐きながら温泉に浸かっていた。妙に日本を思い出させる部分に少しの洋が混じったような風景を見ながら。

 

 あの後アクアを助けている間にめぐみんも食われ、そしてめぐみんを助けている間にアクアも食われるといういたちごっこを繰り返し、カズマはヘトヘトになりながらもギルドへと帰り着いた。

 

 無事報酬は貰ったものの、めぐみんとアクアはすぐさまギルド近くの大浴場へと向かった。女性として汚れたままでいるのは、女性としてのプライドが物理的にも精神的にも汚れるからだ。

 

 カズマも向かおうとすると、ルナさんから引き止められる。カズマは疑問に思うも話を聞くと、貴族街近くにある建物の裏手に、貴族冒険者専用の温泉がある事を伝えられる。

 

『本当は駄目なんですけど、カズマさんは実質一人で戦っているようなものだと他の冒険者達から聞いています。本当はパーティーの移籍を勧めるべきなのでしょうが…まぁ、めぐみんさんの事を考えればその案は駄目でしょう。ですので、パーティーリーダーであるカズマさんが心休まる場所を用意させていただきました!これが通行証です、ごゆっくり!』

 

 と金色で縁取られたカードを渡され、なすがまま言われた通り温泉へと行ったカズマは通行証を受付に渡し、色々な洗面用具を渡されながら一つの入口しかない“赤と青の半々に分かれている暖簾”を潜り、脱衣所へと入った。

 

 日本の銭湯とあまり変わりない脱衣所で服を脱ぎ、受付に渡された洗面用具を持って浴場へ入り、カズマは身を清め、浴槽へと入浴した。

 

 話はそこから始まる。

 

「…お、誰か来た」

 

 静寂な一人の空間で寛いでいると、脱衣所の扉が開く音が聞こえた。

 

 カズマはこれから入ってくるであろう者の為に独占していたど真ん中のスペースから退き、湯気が最も篭っている奥へと行く。やはり引きこもり故の特性か、人の目線の気にならない場所に行く習性はまだ身についているようだ。

 

 奥はかなり熱いが、日本の銭湯と同等レベルの熱さな為問題はなかった。

 

 やがてガラリと浴場のドアが開き、カズマは湯気で見えなかったがかなり高身長であると影でわかった。後ろにある頭を乗せる為に作られたであろう木で作られた枕に頭を乗せ、目を瞑る。

 

 もし見つかったりでもしては挨拶を交わさないといけない面倒くささから逃れる為に、仮眠を取ることにしたようだ。もしこの状態で見つかっても相手は気を遣ってそっとしておくだろう。尤も、それは相手がコミュ障だった場合なのだが。

 

 へばりついた前髪を払い、持ってきたタオルを目に乗せる。するとカズマは微睡みに飲まれていき、意識は深くなっていく。カズマが寝息を立てるのは、数秒もかからなかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ふぅ…やはり、クエスト後のひとっ風呂はいいものだな」

 

 ちゃぷんと音を立てながら、今日の疲れを水に流す金髪の女性。名をダクネスというが、それは本名ではない。だがこの貴族冒険者専用の銭湯にいるということは、少なくとも貴族なのだろう。

 

 一番温い場所で疲れを癒していたが、少し温度に物足りなくなったのか、少し奥へと進んだ。奥には源泉が流れている為、奥の方が熱いのだ。

 

 段々と熱くなるお湯に少しの“興奮”を覚えながら進むダクネス。

 

「あぁ、いい。日頃の疲れを流しながら、熱さによる痛み…いい!」

 

 誰もいないと思っているのか、一人大声を出すダクネス。だがそれに反応する者が一人。

 

「ん……」

「っ!?」

 

 「まさか人がいたのか!?」と心臓をバックンバックンさせながら声のした方へ顔を向ける。すると湯気で隠れていた為全体はわからなかったが、髪の長い“女性(カズマ)“がいる事を視認したダクネス。しかもその女性は寝ており、顔の部分にタオルが乗っている。

 

「…ふ、ふぅ…あ、寝ていたのが幸いだったか。どこの貴族かは知らんが、このままではのぼせてしまうかもしれん…起こすか」

 

 状態を確認したダクネスは自身の性癖がバレなかったことに安堵し、次に女性がのぼせてしまう事を心配し、近づく。するとその人物が、カズマであるとようやく認識した。

 

「んな!?さささ、サトウカズマ!?何故ここに!?というか貴族だったのか!?」

 

 荒唐無稽な思考に辿り着きそうになっている騒ぐダクネスの声に気付いたのか、ちゃぷ…と音を立てて目の上のタオルを取ると、ボーッとした目を声のする方へ向けた。

 

 当然ダクネスがいるが、カズマはそんなことを気にせずに片手を少し上げて挨拶する。するとまたもや目は閉じられ、片手はちゃぷんと音を鳴らして沈んでいく。

 

 タオルを巻いているが、それでも異性に肌を見られるという羞恥心に駆られ頬を染めるダクネスだが、眠たげなカズマを目にして少々冷静になる。

 

「え、えっと…だ、大丈夫か?」

「んー…お構いなくぅ」

 

 と言うが、カズマの頭は段々とずり落ちており、もう少しで湯船に落ちそうなところでダクネスがキャッチした。そのまま足裏も持ち上げ、お姫様抱っこをするダクネスは予想外の軽さに驚くも、半目で虚空を見つめるカズマを運んで脱衣所へと入る。

 

 肌と肌の触れ合う感触にダクネスはドキドキと緊張する。その緊張を誤魔化すように邪念を払うように心を無にしながら運ぶ。

 

「…」

 

 無言でカズマを長椅子の腕に寝かせ、せっせと持ってきた着替えを身につけるダクネス。そして今度はカズマを起こそうと、先程寝かせた長椅子の方へ向いたのだが…。

 

 どういうわけか、カズマは洗われたジャージを身につけて長椅子の上で寝ていた。ダクネスが着替えている間に着替えていたのか、だがそれにしては布の擦る音が聞こえなかったなと不審に思うダクネスだが、時計を見て閉店時間を思い出し、カズマをもう一度起こそうとする。

 

「起きろ、サトウカズマ。こんなところで寝ていては風邪を…って、髪がまだ乾いていないではないか。本当に風邪をひくぞ全く…」

「んー…」

 

 目は瞑っていても意識はまだ浅く微睡んでいるのかダクネスの声に反応するカズマだが、一向に起きる気配がない。仕方ないと溜息を吐き、自分が持ってきた予備のタオルでカズマの髪を乾かすダクネス。手際は悪いが、それでも何処かしら慣れているのは気のせいだろうか。

 

「…はぁ、こういう事をする相手はクリスだけだと思っていたが、まさか『爆裂の母』相手にする事になるとはな…」

 

 『爆裂の母』。名前からして物騒な名前であるが、これはカズマの二つ名である。由来、というかこの名がカズマについた理由は、今日の昼前頃の出来事が原因である。

 

 カズマのパーティーメンバーになっためぐみんを、“ギルドで“慰める姿が聖母のように見えたという事で、めぐみんを爆裂と称した上で『爆裂の母』という二つ名がついた。

 

 尤も、その名を発案した者はカズマとめぐみんのやりとりに号泣していたのだが…。因みにその様子を見ていたルナさんもその者に負けないくらいの涙量を流していたりする。

 

「…よし、乾いたな。後はどう起こすかだが…仕方ない、一度宿に連れて行くか。朝になれば起きるだろう」

 

 そこらへんの変態もびっくりな案。勿論ダクネスは性癖も何も関係ない人助け感覚で言っているのだが、いかんせん内容がぶっ飛びすぎている。

 

 まず初対面の相手を宿に連れ込むのもおかしいが、それよりも朝になるまで置いておくというのも大問題である。

 

 ダクネスは女性で、カズマも男だ。逆であるなら違和感はないが、犯罪的には問題である。ダクネスは人助け感覚のようだが、心の底にある性癖はこう叫んでいる事だろう。

 

 

 

『何も抵抗できない睡眠中に付け込んで夜這いをしてくるかもしれないから連れて帰ろう!ハァハァ、早く宿に帰って夜這いされたい!』

 

 

 

 と。まぁ変態もドン引きなド変態であるダクネスは無意識のうちに性癖の声に従い、カズマを宿に連れ込もうと再びお姫様抱っこをする。受付から訝しむ様な視線を受けながら自分とカズマの分の通行証を受け取り、銭湯を出た。

 

「っと…やはり寒いな…」

「んっ…母さん…?」

 

 寝ぼけているのか、そんな事を宣うカズマの言葉にダクネスは動揺する。見てわかる通り半分寝ているカズマは、思考能力が低下しているようだ。

 

「だだだ誰が母さんだ!?」

「寒い…」

 

 反論するダクネスを無視して、目を瞑るカズマは肌に感じる外の寒さの中でダクネスというあったかい物を見つけ、ダクネスの首にキュッと捕まる。近くなった距離と嗅ぎ慣れていない異性の匂いに緊張するも、先ほどの様に心を無にしながら、自分の宿へと帰る。

 

 約数十分。ようやく帰り着いたダクネスは歩いただけなのにも関わらず精神的疲労が溜まっており、若干やつれた様な顔をしている。それもカズマの所為だとジト目で見るが、当の本人はダクネスの首に抱きつきながら眠るばかり。ようやく慣れてきたこの状態にダクネスは溜息を吐きながら、宿へと入った。

 

 預けていた部屋の家具を店主から受け取り、宿の二階にある自分の部屋へ直行するダクネス。ドアを開け放つと、暗い自室がお出迎えしてくれた。

 

 そして精神的疲労と一日の疲れで疲れ果てていたダクネスは、カズマを抱き抱えたままベッドに寝転び、微睡んだ意識を底に沈めたのだった…。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 チュンチュンと囀りを響かせる小鳥が、とある宿の一室、小窓の縁に留まる。その囀りにダクネスは意識を目覚めさせ、寝ぼけた目で天井を見ながらムクリと起き上がった。

 

「…あぁ、そういえば昨日…ん?」

 

 昨日までの記憶を思い出しながら、ダクネスはふと手に当たる絹のような感触に目を向ける。すると、そこにはカズマが丸まって眠っていた。

 

___…これが、朝チュン…!

 

 かなり見当違いな状況把握を致したダクネスは、まだ半覚醒状態の意識でカズマを起こそうと体を揺する。

 

「…ん、…ふわ…?」

 

 そしてカズマも起き、欠伸をしながら起き上がる。目をしぱしぱさせながら周りを見て、ここが馬小屋ではないことを把握する。

 

 そして、カズマが判断した答えは…。

 

「………夢か」

「ぉい!?起こしたのに寝るとは何事だ!?」

 

 流石のダクネスも、カズマの行動に意識を完全に覚醒させた。

 

 そのあとダクネスにがくがくとゆさぶられながら起きたカズマはダクネスに宿へ泊めてもらったことへの謝罪と感謝の意を示した後、ついでだから一緒にギルドへ行こうとダクネスを誘った。

 

 幸い、昨日は寝巻きに着替えずインナーで眠っていたため、鎧を着込むだけで支度を済ませたダクネスはこれを了承したのだった。

 

「そういえばダクネスさん、宿に泊めてもらったことには感謝してるけど、俺を拐ったことはまだ言ってないね」

「さ、拐ったとか誤解されるようなことを言うな!あれは仕方なくだな…」

「でも眠ってる俺を自分の泊まってた宿に連れ込んだわけだし…」

「うぐ……何が狙いだ…?」

「ギルドまで歩くのめんどくさいからおぶって?」

「はぁ…しょうがない、ほら」

 

 しゃがんだダクネスの背に跨るカズマ。ダクネスが起き上がると、カズマの視線は大きく高くなった。

 

「おぉ…こんな高い視点初めてだ」

「気に入ってもらえたなら何よりだ。…全く」

 

 少し不服な顔をするダクネスと、少し楽しそうなカズマ。だが今のダクネスの口角が、少し上がっていたのは、誰も知るよしもない…。

 

 

 

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