【この素晴らしい世界に祝福を!】カズマはのんびりと魔王討伐を志す様です。 作:よるくろ
カズマがヒロインっぽくて何が悪い!私は、私の推しは、佐藤カズマさんでございます…ただ、思い描くカズマさんを書いただけなんだ…。
「ルナさん、このクエストってなんですか?」
「はい、えーと…あ、これはゆんゆんさんが発行したクエストですね。ゆんゆんさんは冒険者でアークウィザードに就いてるのですが…」
「ですが?」
「その…極度の人見知りで、その性格のせいかパーティを組めていないんです。ソロでも十分強いのですが、パーティ推奨のクエストもあるためパーティメンバーを募集していたん所、未だ一人も組めておらず…といったところです。最終的に友達を金で買うような手段に陥ったわけですが…仕方ないでしょう」
なるほど、とカズマは頷く。
ゆんゆんという名前の特徴からして、その子は紅魔族なのだろう。紅魔族は変わり者が多く、悪く言えば常識のレールを大きく脱線した種族だ。その上格好良さと厨二心のハイブリッドな性格を兼ね備えた中での人見知りな性格は、その種族の中でもだいぶ異質な存在だったのだろう。故に、その紅魔族の少女には友達含め、親しい者ができなかったのだ。
だが、話を戻すが、紅魔族は基本として魔力が高く、実力者が多い。ソロでも十分強いというポテンシャルに目をつけたカズマは、友達兼仲間にできないかと思った。そうなれば、このクエストに対する答えは決まった。
「このクエスト、受けます。俺も友達が欲しかったところですし」
「あ…はい。ではクエスト用紙はこちらで預かります」
何かを察したルナはカズマからクエスト用紙を受け取る。無事クエストを受けたカズマは用紙に書いてあったことを思い出し、ギルドの二階へを向かう。
「あ、カズマさん」
「はい?」
「…重ね重ね申し訳ありませんが…ゆんゆんさんのこと、よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をしてお願いをするルナ。それを見たカズマは、さも当たり前のように言った。
「はい、任されました」
そう言って、カズマは階段を登る。ギルドの二階は一階よりも少し静かで、騒がしい事が苦手な者にはうってつけの場所だった。
「ンー…お、あれかな」
カズマが辺りを見渡すと、視界の中に少し暗い雰囲気を纏った雰囲気の少女が、露出の少し激しい女三人に絡まれているのを発見した。
他の場所には依頼主の少女と思わしき人物はいなかったので、恐らくあの囲まれている少女が依頼主なのだろう。カズマは様子を見ようと少し近づいて身を隠した。
『ねぇアークウィザードさん、アタシらクエストでちょっとヘマしちゃって報酬もらえてないの。アンタソロで活動してるからお金いっぱい持ってるでしょ?恵んでくれない?』
『えっと…あの』
『何?聞こえないんだけど』
『…どうぞ』
『やった!しゅわしゅわ飲もう!』
『さんせー』
リンチとも言えるカツアゲ行為を終え、金の入った袋を奪った三人組は、少女に感謝もせず、カズマの隠れている柱の横を通って階段を降る。
この場に残る者は今の現場を見て少女から目を逸らす冒険者と、被害者の少女、そして目撃者のカズマ。そろそろ出ても良いかと柱から姿を現したカズマは、少女の元へと歩み寄った。
そんなカズマの存在に気づいた少女は、少し怯えた目をカズマに寄越しながら身を縮こまらせた。その様子を見たカズマは、足を止める。
そして少し気まずそうに、間違っていたら申し訳ないと心の中で謝って、少女に問いかけた。
「あー、えっと。アンタが依頼主…で良いのか?」
「え?…あ、は、ひゃい!」
少女は顔を赤くして俯く。という事は、この少女がルナの言っていたゆんゆんで良いのだろう。そんな姿に苦笑しながらカズマはゆんゆんの対面にある席に座り、“とあるもの”を机の上に出した。
「え!?あの、これっ」
「あのビッチ、不用心に腰のベルトに引っ掛けてたから盗っちゃった。俺はカズマ、職業は冒険者だけど………ちょっと盗る時にお尻触っちゃったから手拭き取ってくれるか?正直エイズに感染りそうで怖い」
「あ、はい。…えいず?」
「性感染症…というか、病気。まぁちょっと危険な病気って言えば良いかな」
こくりと頷くゆんゆん。恐らく意味は分かってないがとりあえず頷いておこうという、人付き合いが苦手な者が良くするやつだろう。カズマもその辺は良く知っているため、特に気にしていなかった。
さて、場も落ち着いた事で本題に写ろうとするカズマだが、いかんせんこういう人見知りの者にどう話題を振れば良いかわからない。とりあえず無難に依頼の話を持ちかけようとしたところで、ゆんゆんが口を開いた。
「あの…と、友達になってくれますか…?」
少し遠慮がちに言ってくるのは、人見知りだからか…それとも、考えすぎな考えで、過去に断られた事がある…か。後者だったら少し厄介だなと考えるカズマは、返事を返す。
「あぁ、勿論…と言っても、こんな簡単に友達になれるって思ってないだろ?経験則で」
「えっ、あの、そんなことは!」
勢いよく立ち上がって否定するゆんゆん。するとこの空間にいる他の冒険者が驚いたように彼女に視線を向ける。ゆんゆんは大声を出しながら目立つ行動を取った事に、恥ずかしそうに座った。
「…話を続けて良いか?」
「あ、はい」
顔に赤みが残っているが、頷くゆんゆん。
そしてカズマは、「これは自論だけど…」と話し始める。
「まず名前も知らない、職業も好きな食べ物も趣味も、友達なら最低限知ってる共有を知らないとなると、それは友達じゃない。ただの顔見知りだ。そこから名前を知って知り合い。それである程度の個人情報を共有して、互いに信用できるのが友達…ってもんだろ。…まぁ俺も友達いないし、そんな俺が君にこんな言葉を送っても響かないだろうけど」
「…そんなことないです」
「え?」
「だって、他の人にここまで言われたの初めてで…今までは報酬目当てで上辺だけの友達って感じで、報酬を貰ったら他人みたいになって…結局、見聞を拡げるために故郷を出たけど、友達一人すらできないのかって勝手に絶望してた所に、…えっととにかく、ここまで話を聞いてもらえた事が嬉しかったです」
「……そっか」
カズマは少し息を吐いて、彼女に無礼だと思いつつも足を組む。背もたれにだらりと背を預け、腕の力を抜く。顔を天井に向けて、照明の眩しさに目を細めながら。
そもそもカズマにここまでのコミュニケーションを望むのは、フルマラソン三周よりも苦痛なことだったのだ。少しの自己紹介や世間話ならまだしも、自分の考えを主張することはカズマにとって大きな苦痛である。
そんなカズマの様子にポカンとする彼女に向かって、カズマは顔も見ずに口を開いた。
「あー、まぁ俺が言いたいのは、”恥ずかしがらずに主張しましょう“ってことだな。顔を知っただけの顔見知りじゃなく、互いを信頼し合える友達になりましょうってこ「ねぇアンタ、ちょっといい?」…なんでしょう?」
姿勢を戻し、カズマは眉間に皺を寄せながら後ろを振り向く。するとそこには、先程の女冒険者三人組の一人がカズマを見下した顔で見ていた。
「アンタアタシらの金盗ったでしょ、どうしてくれんの?アンタの所為でギルドにツケちゃったんだけど」
「あー、えっと、なんのことで?これは村のみんなが集めたお金で」
「しらばっくれても無駄、盗まれた時に見つけやすいよう目印が付いてんの」
カズマがチラリと袋を見ると、下の方に小さく黒いインクの染みがあった。恐らくゆんゆんからカツアゲた際につけたのだろう。意外な見落としに、カズマは内心で舌打ちをした。低俗な行為で忘れていたが、この女も冒険者なのだ。
「…だったらなんだ?俺はただ奪ったものを奪い返しただけだ。お前らの欲求に使わされる金を救済した善人だぜ?」
「ハァ?アンタの事は冒険者の間でちょっと有名になってる。雑魚職の冒険者が粋がってんじゃないわよ」
「粋がる要素のない低俗な輩はいたいけな少女に恵みを貰えないと生きていけない雑魚らしいな」
「はァ?!もう一回言ってみなさいよ!」
すると、カズマは女に腕を掴まれ、無理矢理立たされる。そしてカズマは、怯えながら心配そうな目をカズマに向けるゆんゆんに、目線を送った。
「!」
「さて…やべえかなぁ」
女性とは言え、相手は冒険者。素早さ重視な軽装で、武器は短剣という力をあまり必要としない武器だが、新参者のカズマより熟練の冒険者である女はステータスが高い。力で勝てない、その上現在は超至近距離で相手に掴まれた状態。カズマが抵抗すれば、すぐさま押さえつけられるだろう。
「(正直この状況を使って友達作りできるかなぁ…いや、無理か。痛…つか力強…腕も掴まれたし、抵抗は無理か…痛いのはやだなぁ)」
最早絶望的な状況。武器でも持ってくればと思ったが、生憎馬小屋でまだ惰眠を貪るアクアの抱き枕となっており(鞘は平たい紐で巻きつけただけの自作)、持ち出せる状況ではなかったため武器は持ってきていない。
抵抗の素振りも見せず自分を睨むカズマの顔を見て、女は何か気づいたような素振りを見せ、邪悪な笑みを浮かべた。カズマは寒気を感じる。
そしてカズマの顎を掴み、カズマの髪を手で上げる。
「…へぇ、アンタちょっと良い顔してんじゃん。最近良い男もいなかったし、丁度良いわ…ねぇ、アタシと楽しいこと「ざけんなアバズレ、地獄に堕ちろ」」
そう言って、カズマは唾を女の顔にかけた。窮鼠猫を噛むと言わんばかりの最後の抵抗にカズマはニヤリと笑いながら、「年増ざまァ」と罵った。
自分の頬に触れ、腕で拭う女。
「この…クソ餓鬼!」
ワナワナと憤怒の表情を浮かべながら手を振り上げる女を見て、カズマは咄嗟に腕を交差させて身を守った。
そして振り下ろされる拳、目を瞑って攻撃を堪えようとするカズマ。…だが、いつまで経っても衝撃は来なかった。
恐る恐るカズマが目を開けると、自分の眼前で止まる拳をゆんゆんが片手で抑えている光景が映っていた。女は純粋な戦闘職ではないとはいえ、本気で振り下ろした手を片手で止めるなんて、本当に魔法職かと冷や汗を流す。
そして、この状況を生み出したゆんゆんは、ソロで培った経験値で底上げされたステータスをフルに使って、手に力を込める。
「…これ以上私の友達に…こんな私を信頼してくれた、お友達に、これ以上手は出させない!」
ゆんゆんが思い出すのは、腕を掴まれたカズマの寄越した信頼の目線。
「ギッ、がっあああ!!!」
ギチギチギチギチッ!とゆんゆんに握られた女の拳から骨の軋みまくる危ない音が聞こえる。その痛みに耐えられず女は膝を突き、その際に手を離されたカズマは尻餅を突き、ゆんゆんを見上げた。
「わが、わかった!手、離し!」
「…」
女の言う通り手を離し、そのまま後ろに隠すゆんゆん。未だ痛む手を押さえてゆんゆんから距離をとった女は、ゆんゆんを睨みつけてこう言った。
「覚えていなさいよ…!アンタらがこれ以上冒険者続けられないような嫌がらせたくさんしてあげるから…覚悟してなさい!」
「望むところです!私は逃げも隠れもしません!カズマさんは私が護ります!」
まさかの女子から守られる発言に情けなさを感じながらゆんゆんを後ろから眺めるカズマ。すると、ゆんゆんの後ろに隠された手が震えていることに気づいた。それもそうだ、ゆんゆんはぼっちで他人に気を使う優しさを持つ少女。故に人を傷つけると言う行為をしたことがないため、初めて人に危害を加えた事の恐怖が実際にダメージを与えた手に来ている。
女が去ってからも未だカズマに背を向けて息を整えているゆんゆんの震えている手を、カズマをそっと掴んだ。
「ふぇ!?あ、あの、カズマさん!?多分きっと手汗まみれだろうから今触らない方が…!」
「…ありがとう、ゆんゆんさん。正直身の危険を感じてたから本当に助かったよ」
そう言ってカズマはゆんゆんの掌を握り、握手をする。それに「あうあう」と顔を赤くさせて唸るゆんゆんだが、座り込んだままのカズマに気づいて、カズマの手を引き上げる。
「っとと…ぉわ!?」
「えっ、きゃ!?」
すると引き上げる際に力を入れすぎたのか、カズマの体はゆんゆんに引き寄せられる形に。カズマは咄嗟のことで何も踏ん張れずゆんゆんの体にぶつかってしまったが、カズマは冒険者とはいえまだ日が浅い。身体も出来上がりきっていないカズマの体は軽く、ゆんゆんにぶつかっても高レベルのステータスによって軽く受け止められていた。
そしてゆんゆんの手は咄嗟に支えようとしたカズマの腰に、咄嗟に離れようとしたカズマはその手に阻まれて、離れようとしたカズマの上半身が倒れそうと誤認したゆんゆんの残った手がカズマの背中に周り、引き寄せる。
「う、おぉ?」
「…へっ?」
結果的にゆんゆんはカズマに抱きつく形となり、カズマは何が起こったのか分からずに下にあるゆんゆんの頭を見る。するとゆんゆんがこの状態を理解できたのか、慌てて離れる。
「しゅ、すいません!」
「ん、あぁ…いや、大丈夫だけど、ゆんゆんさんも大丈夫か?」
「は、はい」
またもや顔を赤くして俯くゆんゆん。
「…それじゃ、名前も知れたし信頼もできる。お互いに知らない事はまだあるだろうし、席に戻って話し合おうか」
「…はい!」
予想外の過程を以ってカズマはゆんゆんの友達を求める気持ちを信頼して、ゆんゆんはカズマの自分を信頼してくれるカズマを信頼すると言う形で、双方の信頼は得られた。
カズマはゆんゆんの気持ちを利用してしまった感じで少し気持ちのわだかまりがあるが。
後悔も反省もしていません。