ハリー・ポッターと継ぎ接ぎの子   作:けっぺん

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※秘密の部屋編。章分けを行いました。


秘密の部屋【襤褸けた切れ端】
新任教師


 

 

「教師?」

「そう。ホグワーツで『闇の魔術に対する防衛術』の教鞭を頼まれたんだ」

 

 夏休みが半分ほど過ぎた頃、夕食の席でリーマスは、大好物のステーキを頬張るアルテに切り出した。

 前年度、防衛術の教師を担当していたクィレルはハリーやアルテによってその悪事を暴かれ、退治された。

 それにより防衛術の教師に空きができ、事件が学年末であったことから後任を探すことが急がれている。

 その中で候補として、リーマスが選ばれたのだ。

 

「どうしたの?」

「……いや、断った。念願の定職だったんだがね」

 

 口の中で噛み切っていた肉を飲み込み、アルテは首を傾げる。

 

「リーマスは教えるの、上手だと思う」

 

 リーマスの教えの上手さを最も知っているのはアルテだった。

 彼によって言葉も、文字も、文化も教わった。

 最初から備わっていたもの以外の全てを教えられたと言っても過言ではない。

 それゆえに、彼が教師となることには何の不安も感じていなかったのだが、リーマス自身はそうではないらしい。

 

「わかるだろう? 体質だ。私では、碌に教師も出来ない。一ヶ月に一度定期的に休むような者がなれる職ではないんだ」

「……」

 

 体質を理由に挙げると、アルテは一気に不機嫌になった。

 リーマスがアルテと出会うより前――幼い頃から苦しめられてきた、どうしようもない特異な体質。

 それは定期的に日常生活が不可能になるほどのものであり、現在進行形でリーマスに定職がない最大の理由でもあった。

 その体質だけでリーマスが世間から迫害されているという事実を、アルテはひどく嫌っていた。

 薬を飲まなければ理性を失ってしまう期間を、アルテは例外的に共に在ることが出来る。

 だが、だからと言ってリーマスの世間からの風評を払うことは出来なかった。

 

「……学校では」

「ん?」

「生徒だった時はどうだったの?」

 

 ダンブルドアに聞いていた。リーマスは学生時代、監督生にも選ばれるほどであったと。

 つまり、学校生活を十分にこなせる理由があった筈だ。

 

「……ダンブルドアが入学を許可してくれてね。満月の日は……基本的に、ホグワーツの外にいた。何人かにはバレたけど、どうにか卒業まで切り抜けたんだ」

 

 己の体質を知ってなお、親友として在ってくれる者たちがいた。

 彼らのおかげでリーマスは一人の人間として、ホグワーツを卒業することが出来た。

 だが、教師という立場ではそうはいかないのだ。

 

「……そんな顔をするんじゃない。次の教師こそはまともである筈だ。アルテにとって、私より良い教師になるさ」

「…………そうなるとは思えない」

「へえ。どうしてだい?」

「……何となく」

 

 露骨に不機嫌さを醸すアルテを、苦笑しながらリーマスは撫でる。

 彼女の直感は良く当たる。そんなアルテが、そう言い切ってくれたことは嬉しく思うも、やはり自分には務まらないと思った。

 ――とはいえ、リーマスは後に思う。この年に、この話を受けておけば良かったと。

 それ程までに、今年の防衛術担当教師は――なんというか、()()であった。

 しかし、後に幾ら悔いても、この一年をやり直すことは出来ない。

 この一年、たった一人の教師によって齎されるアルテの数多の災厄を――覆すことなど出来ない。

 

 

 

「そう、とどのつまり、ロックハート様っていうのは英雄なのよ! あれだけの偉業を成し遂げるなんて、人間業じゃないわ!」

「あー……落ち着いてミリセント。ロックハートが凄いのはよく知ってるから」

 

 新学期までもう数えるほどとなった頃、アルテはダフネらに誘われ、ダイアゴン横丁に買い物に来ていた。

 二年生用の教科書やら、授業に必要な道具など、入学時ほどではないがそれなりに量にある買い物となる。

 二年生からは自分の箒の持ち込みが許可されており、この機会に買い替える者もいることから、ある意味一年生より忙しい者もいるだろう。

 そんな中、スリザリンの女子四人組であるアルテたちは、教科書を揃えにフローリシュ・アンド・ブロッツ書店へと向かっていた。

 その道中に、ミリセントがロックハートなる人物の偉業を熱弁しているのには理由があった。

 今年『闇の魔術に対する防衛術』に使われる教科書だ。

 

 泣き妖怪バンシーとのナウな休日 ギルデロイ・ロックハート著

 グールお化けとのクールな散策  ギルデロイ・ロックハート著

 鬼婆とオツな休暇        ギルデロイ・ロックハート著

 トロールとのとろい旅      ギルデロイ・ロックハート著

 バンパイアとバッチリ船旅    ギルデロイ・ロックハート著

 狼男との大いなる山歩き     ギルデロイ・ロックハート著

 雪男とゆっくり一年       ギルデロイ・ロックハート著

 

 これだけの本が一年間の教科書として選定され、清々しいまでにロックハート色に染まっているのだ。

 そんなロックハートのファンであるらしいミリセントを、ダフネは若干引きながら抑えている。

 

「……誰?」

「ロックハートのこと? ……まあ、大層な武勇伝を持つ魔法使い、ってところね。で、手柄を本にしてベストセラー。有名人な筈だけど、知らない?」

「知らない」

 

 教科書のリストを眺めながら呟いたアルテに、パンジーが呆れ顔で答える。

 彼女もロックハートのファンでこそあるらしいが、ミリセントほどではないようだ。

 アルテから見てもミリセントの瞳は輝いていて、相当熱が入っているように見受けられた。

 その熱狂ぶりはよくわからないアルテではあるが、そんな彼女の興味を少なからず惹く様なタイトルも一つあった。

 自主的に本を読む気はないが、それくらいならば――そんな風に、この時点のアルテは思っていた。

 

 

 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店は去年の比ではないくらいに混みあっていた。

 人が溢れるほどの混雑ぶりに、元々人混みが嫌いな上に前年度の学年末パーティの一件から更に苦手意識を増していたアルテは思わず踵を返そうとしたが、ダフネたちの説得で人を掻き分けながら中に入る。

 どうやら、今日に限ってこの書店では何やらイベントが行われているらしい。

 そのイベントというのも――

 

「ロックハート様! ロックハート様がいるって! サインが貰えるわ!」

「ミリセント! お願いだから落ち着いて!」

 

 そう、件のギルデロイ・ロックハートのサイン会である。

 主に魔女から絶大な人気を誇る彼がサイン会を開くともなれば、この書店のような小さな店舗では小さすぎる。

 ファンはキャーキャーと黄色い声を上げながら、そしてそうではないらしい客は非常に迷惑そうに、眉間に皺を寄せながら買い物をしていた。

 教科書の棚にようやく辿り着いたアルテたちは、もう一度人混みに飛び込んで会計へ向かう。

 その時、人混みの向こうから一際大きな歓声と拍手が聞こえてきた。

 

「――皆さん、ここに大いなる喜びと誇りをもって発表いたします。この九月から、私はホグワーツ魔法魔術学校にて、『闇の魔術に対する防衛術』担当教授職をお引き受けすることになりました!」

 

 その、ロックハートのものと思しき大声に反応したのは、彼のファンだけではなかった。

 そうでない、教科書を買いにきただけの生徒たちも、驚愕や嫌悪、様々な表情で声のした方に目を向ける。

 

「……本当に? ロックハートが教師って」

「まあ、相応しいんじゃない? クィレルもいなくなって、あの武勇伝を基に授業やってくれるんなら大歓迎よ」

「……」

 

 ダフネにも、ロックハートという伝説的な人物への憧れは多少なり持っていた。

 故にこそ信じがたい。そんな彼が、ホグワーツに教師としてやってくるなど。

 いつの間にかサインを求める人垣の中で声が枯れんばかりに叫んでいるミリセントを呆れながらも、パンジーはようやくまともな授業を受けられると期待していた。

 そしてアルテは――目を細め、ほんの小さな敵意をロックハートに向けていた。

 彼女はロックハートに対し、強く「リーマスの代わり」という印象を持っている。

 だというのにリーマスは、彼を、己より良い教師になると言い切っていた。

 リーマスが言うならば間違いない。だが、アルテ自身が嫌な予感を持っているのも事実。

 ジレンマのような感覚が気持ち悪くなり、アルテは顔を横に大きく振って思考を切り替える。

 ――ふと、知っている顔があった。

 

「いい気分だったろうね、ポッター。有名人のハリー・ポッター。ちょっと書店に行くのでさえ一面大見出し記事かい?」

 

 ロックハートに捕まり、彼の高説に上手く使われていたハリーを揶揄う声。

 ドラコだ。ちょうど同じ時間に本を買いに来たらしい彼は、愉快そうにハリーを笑っていた。

 

「ほっといてよ。ハリーが望んだことじゃないわ」

「おや、ガールフレンドが出来たじゃないか、ポッター!」

 

 ハリーを庇ったのは、赤毛の特徴的な少女だった。

 アルテは彼女を見たことがない。恐らくは新入生だろう。

 彼女も揶揄いの材料にしてドラコが一層付け上がった時、人混みを掻き分けて本を一山抱えたロンとハーマイオニーが出てきた。

 

「ウィーズリーじゃないか。そんなに買って大丈夫かい? 君の両親はこれから一か月は飲まず食わずだろうね」

 

 ドラコが発端となり、当然のように口喧嘩が始まる。

 すっかり興味を無くし、アルテは手早く会計を済ませた。

 ダフネ達と一緒に書店の入り口まで来ると、未だにドラコやハリーたちはそこにいた。

 ――いや、それどころではない。

 喧嘩、否、罵り合いは彼らの父親を巻き込んだものとなっていた。

 

「なんと……満足に給料も支払われないのでは、わざわざ魔法使いの面汚しになった意味がないですな?」

「魔法使いの面汚しがどういう意味かについて、私たちは意見が違うようだが」

「然様ですな。……こんな連中と付き合っているようでは。もう落ちるところまで落ちたと思っていたんですがね」

 

 今にも相手に飛び掛からんとする、ドラコとロンの父親。

 入り口付近で繰り広げられる口論に、思わず立ち止まったダフネたち。

 そして――アルテは空気を一切読まず、その真ん中を歩いていった。

 

「アルテ!」

 

 ハリーに呼び止められ、振り向く。

 傲慢な魔法使いでさえ通らないだろう二人の間を躊躇なく抜けていったことで、辺りの視線を一点に受けていた。

 

「久しぶりね、アルテ! 夏休みはどうだった?」

「普通」

 

 剣呑とした雰囲気が霧散し、ホッと息をついたハーマイオニーが駆け寄ってくる。

 ロン達の母、モリー・ウィーズリーはフレッドとジョージに聞く。

 

「誰なの?」

「アルテ。スリザリンの、今年二年生」

「去年ロンたちと学校守ったすげー姐さん」

「あの子が? スリザリンだったの?」

 

 ロン達の父――アーサー・ウィーズリーとドラコの父――ルシウス・マルフォイは呆気に取られ、そして複雑そうに顔を歪めた。

 アーサーは、ロンや双子によく名前を聞いていた少女が、スリザリン生であったこと。

 ルシウスは、ドラコに聞かされていた寮優勝の功労者が、魔法族の面汚しや、あろうことか『穢れた血』と仲が良いらしいこと。

 二人の間で話を始めるアルテたちを眺めていたが、やがてルシウスがハーマイオニーたちに割って入るように、アルテの前に立った。

 

「息子が世話になっているようだね、アルテ嬢」

「世話してない」

「言葉の綾、挨拶というものだよ。当然の礼儀は覚えておきたまえ――ルシウス・マルフォイだ。以後、お見知りおきを」

「……アルテ・ルーピン」

 

 その、己をじっとりと観察するような視線に例えようのない不快感を覚えつつも、アルテは名乗り返す。

 言葉を向けられ、意識を向けてみて、何となく感じるものがある。

 本人でないことが明白である以上、飛び掛かるようなことはないものの――肌を刺すような、ヴォルデモートの気配。

 

「ミス・ルーピン……話はよく聞いているよ。満足に箒一つ乗りこなせないが、魔法薬をはじめ幅広く活躍しているらしい。……七変化の成り損ないのようだね?」

「……だったら何?」

「いや、いや。欠陥持ちの七変化というのは聞かないからね。ともすれば、亜人と同じような扱いを受けかねんが……精々、人前でその帽子を外さないことだ。将来を不利にしたくないのなら」

 

 嫌味なのか助言なのかわからない言葉を受け、一層アルテの苛立ちは増す。

 自分の耳や尾が良いように言われることに気分を害したりはしないが――それでも相性というものがある。

 少なくとも、アルテは目の前のルシウスという男が、気に入らなかった。

 

「お、お久しぶりですルシウスさん!」

「おや……君はミス・グリーングラスだね。そちらはミス・ブルストロードとミス・パーキンソンか。ご両親は――」

 

 傍から、一目で不機嫌になっていると分かるアルテを庇うように、ダフネがルシウスに声を掛けた。

 ダフネら三人の家も、マルフォイ家も、名高い純血の家系だ。

 当然面識はあるらしく、アルテに対しどこか棘のある言葉で接していたルシウスも、最低限の敬意を含んだ態度に変化する。

 ダフネたちがルシウスの気を引いている間に、アルテは逃げるように書店を出た。

 ハリーたちはまだ、話をしたいと思っていたが、一刻も早く立ち去りたかったアルテは彼らを一瞥すらすることはなかった。

 

「……」

 

 外に出て、書店の壁に背中を預けたアルテは一息つく。

 たかが本を買うだけで、無駄に疲れたし、無駄に苛々した。

 しかし熱も冷めやらぬうちに、またも声が掛けられる。

 

「人気者だね」

「知らない」

 

 追って出てきたらしい、濁ったブロンドの髪を伸ばした、色白の少女は何故かアルテの隣に背中を預けた。

 

「あんた知ってるよ。アルテ・ルーピン。これまで話をした上級生、皆あんたの事を話してた」

「そう」

 

 どうでも良かった。

 学年末パーティのように自分自身に実害が出るようであればともかく、辺りで名前も知らない生徒たちが際限なく騒いでいるだけならば関係ない。

 

「あたしはルーナ・ラブグッド。今年からホグワーツに入るの」

「そう」

「寮はどうなるんだろう。アルテはスリザリンって聞いたけど。あたしはスリザリンに入る予感はしないな。レイブンクローとか?」

「知らない」

「不愛想だね、アルテって」

「そう」

「『そう』と『知らない』しか話せなかったりする?」

「別に」

 

 ――とんでもない程の粘り強さだった。

 少女――ルーナが言うように、アルテは不愛想である。

 その上基本聞き手(聞いているかも不明な時が多いが)で、長々と話しても大抵一言しか返さないことから、手応えを感じずにすぐ話を切り上げる生徒も多い。

 平時、他愛もない話をそれなりに続けられるのは、ホグワーツでは一年経ってもダフネら三人くらいであった。

 だというのに、ルーナは屈しない。どころか嫌な顔一つせず、アルテに話しかけ続ける。

 

「賢者の石を守ったって本当?」

「守ってない」

「ハリー・ポッターってどんな感じ?」

「知らない」

「スリザリン寮の優勝に貢献したって聞いたよ」

「知らない」

「ダンブルドアから貢物を貰ったって噂は本当?」

「知らない」

「次にあんたは『知らない』って言う」

「知らない」

 

 二人とも本気でやっているのかふざけているのか分からない会話だった。

 傍目から見れば、『そもそもこの二人が何故会話……らしきことをしているのか』すらはっきりしないだろう。

 何が面白いのか、ルーナはクスクスと笑い出す。そして鞄を漁り、ランチボックスからサンドイッチを一切れ取り出した。

 

「あげる。また学校でね、アルテ」

 

 ルーナはアルテにサンドイッチを押し付けると、よたよたと駆けていった。

 結局何をしに来たのか、アルテにはさっぱり理解できなかった。

 首を傾げていると、ようやくダフネたちが書店から出てくる。

 

「はぁ……ルシウスさんってば話長いのよね。何かと偉そうだし」

「……って、アルテ。どしたのそのサンドイッチ。誰から貰ったの?」

「知らない」

「何で知らない人から食べ物貰ってるのよ! って食べちゃ駄目だってば!」

 

 貰ってしまったものは仕方ないと、アルテはパンジーが止めるのも構わずにサンドイッチを齧る。

 そしてたっぷりとマスタードが塗られたハムサンドに悶絶したアルテは、辛いものも嫌いになった。




※教職を断るリーマス。ある意味戦犯。
※直感で何かを察するアルテ。
※ロックハート厨ミリセント。
※一冊に興味を示すアルテ。
※いわれのない理由で既に印象の悪いロックハート。
※何となくルシウスがムカつくアルテ。
※期待の新入生ルーナ・ラブグッド。
※会話のドッヂボール。
※嫌がらせなのか素なのか分からない置き土産。
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