ハリー・ポッターと継ぎ接ぎの子   作:けっぺん

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襲撃

 

 

 ホグワーツ魔法魔術学校は、偉大なる四人の魔法使いによって創設された。

 後に誕生することになる寮の名は、彼らのセカンドネームに因んでいた。

 ――ゴドリック・グリフィンドール。

 ――ヘルガ・ハッフルパフ。

 ――ロウェナ・レイブンクロー

 ――サラザール・スリザリン。

 四人とも当然、主義主張は異なっていたが、取り分け“学校にどのような人材を生徒として迎え入れるか”についてはサラザールとそれ以外の三人でキッパリと意見が分かれていた。

 サラザールは純血主義のため、半純血、まして『穢れた血』の入学など許さないと断言したことで、三人と対立する。

 最終的にサラザールは学校を去ることになるのだが、その際ホグワーツの何処かに己の真の継承者しか開くことのできない『秘密の部屋』を作ったという。

 その中に在る者は、恐怖。

 いずれ真の継承者が現れた時、その者は秘密の部屋から恐怖を解き放ち、サラザールが相応しくないと考えた生徒を追放するという。

 知る人ぞ知る昔話だ。ホグワーツに入学する前の子供でも、知っている者は少なくない。

 ミセス・ノリスが襲われて数日も経った頃には、この昔話も含めて事件のことはすっかりと学校中の噂になっていた。

 現れたスリザリンの継承者。先の事件は警告に過ぎない。

 これから、マグル生まれの生徒たちは無差別に襲われるのではないかと、生徒たちの不安は高まっていた。

 生徒たちの間で、事件は知れ渡った直後から継承者の候補と考えられていたのは四人の生徒。

 ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてアルテである。

 そのうち、ロンとハーマイオニーは早々に外された。

 ロンは純血の家系ではあるが、純血主義ではない。寧ろ純血主義の代表格とも言えるマルフォイ家と真っ向から対立している。

 ハーマイオニーはそもそもマグル生まれである。継承者というよりも、寧ろ継承者に襲われる危険性の高い人物だった。

 よって、候補となるのは二人だが、今は満場一致でアルテだとされている。

 元から注目を浴びやすかったが、その視線はどちらかというと面白い見世物を見る、という感覚が強かった。

 その視線はたった数日で一気に切り替わり、スリザリンへの敵意全てをアルテが集めていると言っても良い状態になっている。

 

「……ねえ、本当に大丈夫? アルテ」

「何が?」

「いや、何がって……貴女、学校で一番疑われてるのよ? 継承者だって」

「どうでもいい」

 

 そんな状況ですら、アルテはいつも通りだった。

 ダフネら三人以外のスリザリン生も、間違っても標的にされたくないのか露骨に距離を取っている。

 継承者が襲うのは『穢れた血』。しかし、見せしめに石にされたフィルチの猫のように、彼女が気に入らなければ純血の名高い家系だろうとその毒牙に襲われかねない。

 どうやら現状、ほんの少しでもアルテが『継承者ではない』と考えているのは、ダフネ、ミリセント、パンジーの三人だけのようだった。

 その理由は単純明快。いつも一緒にいることからの信頼感である。

 猫が襲われた事件こそ、彼女は一人で行動していた。

 だが彼女がフィルチに言った通り、食べようとするのであれば石にするなんてまどろっこしい方法をアルテは取らない。

 『穢れた血』狩りなどもっとあり得ない。そんな今のホグワーツで行うにはきりがないような面倒ごとをアルテが行う筈がない。

 確かに『穢れた血』は気に入らないし、継承者がそれを掃除してくれるなら反対はしない。

 継承者を否定はしていないが、それ以上にアルテが継承者扱いされている状況の方が、ダフネたちにとって悩みであった。

 

「まったく……ポッターたちも薄情よね。賢者の石の事件でアルテの世話になったってのに、庇いもしないんだから」

「世話してない」

 

 彼女たちがもう一つ気に入らないことこそ、それであった。

 ハリーという、アルテよりよほど発言力がある、継承者候補の一人。

 彼も事件翌日などは多少疑いの目を向けられていたが、それもほんの一日のことだった。

 当然だ。グリフィンドールのハリーとスリザリンのアルテ。どちらがスリザリンの継承者であるかと聞かれれば、そんなこと考えるまでもないだろう。

 ダフネたちが、何もハリーを疑っているという訳ではない。

 もしもハリーが継承者であるならば、『穢れた血』であるハーマイオニーを傍に置いておくとは考えにくい。

 だとしても――いや、そうであるからこそ、ハリーはアルテを庇うべきだと、ダフネたちは考えていた。

 アルテは断固として世話してないと言っているが、彼女がいなければ駄目だったと考えているのは他ならぬハリーである。

 彼がダンブルドアに進言すれば、それこそ一発だろう。

 だというのに、状況はいつまで経っても好転しない。

 アルテが気にしない性格でなければ、とっくに倒れていてもおかしくない。現に本人ではないダフネたち三人の気が滅入りそうだった。

 

 

 

 しかしながら、彼女たちにも幾分か癒しとなる時間が存在した。

 クィディッチの、グリフィンドール対スリザリンの試合である。

 前年度はグリフィンドールに敗れたスリザリンチームではあるが、それゆえに今年度の闘志は例年以上であった。

 彼らが勝ちを確信する理由の最たるものは、箒である。

 チーム全員が、最新式のニンバス2001を手にし、チームの力はこれまでないほどに高まっている。

 彼らに箒を与えたのは、今年からシーカーとしてチームに入団したドラコである。

 シーカーとしての実力より箒を買い与えたことによりチーム入りを許されたようなものではあるのだが、ドラコも飛行を得意と豪語するだけの実力はある。

 ハリーの箒は彼らに一世代劣るニンバス2000である。シーカーが同時にスニッチを見つけた時、物を言うのは箒の差だ。

 そんなことからスリザリン寮は試合が始まる前から盛り上がり、当日は朝から会場に殆ど全員が駆けつけていた。

 ダフネたち三人も例外ではない。このクィディッチの時間だけは、あの腹立たしい事件のことを忘れられるのだ。

 

 ――その頃アルテは、自室で眠りについていた。

 いつもの事だ。クィディッチにまるで興味を示さないアルテは、授業が休みであるのを良いことに昼過ぎまで眠っている。

 無論、寝ているアルテの色々と不味い姿をダフネたちがそう簡単に放ったままにする筈がない。

 アルテが着替えるまで決して外に出さず、そして自分たち以外の何者も中に入れず、更には中を見ることすら出来ない。

 グリーングラス、ブルストロード、パーキンソン。三つの純血の家系が、それぞれ娘の要望で用意した魔法道具の力である。

 正直プライバシーの保護の観点からすると行き過ぎた代物であり、夜の闇横丁にて非合法の品を扱うボージン・アンド・バークス店に置かれていても不思議のない道具だ。

 これが平然と学校で使用されているのはアルテの秘密を守るため、という名目からであり、そうであるならば教師側も首を縦に振らざるを得ない。

 そんなことから、この道具によってアルテは休日、快適な睡眠を手に入れていた。

 未だにクィディッチのルールすら理解していないアルテにとっては、この日はいつもよりよく眠れる休日に過ぎない。

 グリフィンドールが勝とうとスリザリンが勝とうと、まったくもってどうでも良かった。

 そんな彼女の快眠は、この部屋にはいない何かの声によってぶち壊されることになる。

 

 

『…………す……殺し……や……』

 

 

 その声がどれだけ遠かろうとも、ここまでの殺気を向けられれば目を覚まさざるを得ない。

 一気に覚醒したアルテは布団を放り投げ、跳ぶように立ち上がって辺りを見渡す。

 

『……引き裂……つ裂きに……』

「……」

 

 誰もいない。地下牢にあることから昼間も薄暗いスリザリン寮の一室だ。

 他の三つのベッドは空であり、壁に掛けられた時計を見ればまだクィディッチの試合が始まったばかり。

 スリザリンチームの試合というのだから、寮生の大半は競技場に集まっている。

 その声は、少し前――ハロウィーンの夜に聞こえてきたものと同じだ。

 殺気は、無差別に向けられているのかもしれない。

 一つ間違いがないのは、自分も例外なくその対象であるということ。

 行動に迷いはなかった。危険だという意識は毛頭なく、相手が此方に来るというのなら立ち向かうまで。

 怯えるという選択肢はない。向けられる殺意に対する返答は、同等の殺意のみ。

 素早く服を着込む。ローブは邪魔ではあるが、仕方ない。帽子をルーナの一件の癖から深く被り、部屋を出る。

 外は静かだ。いつもなら騒がしい談話室も、声一つしない。

 だが、誰もいないという訳でもないらしい。

 

「……」

 

 談話室のソファに腰かけ本に視線を落としているエリス・アーキメイラ。

 彼女もクィディッチにはさほど興味を持っていないらしい。

 訝し気な視線を向けたアルテだが、それも一瞬。彼女が何処にいようとどうでもいいと、横を通り抜けようとした時、エリスが口を開いた。

 

『何処に行くんです?』

「関係ない」

 

 いつものように、短く返す。

 相変わらずのアルテに肩を竦めたエリスは、本を閉じてアルテに目を向けた。

 

「継承者であると疑われている状況で一人出歩いては、余計に疑われますよ?」

「どうでもいい」

「大人しくしているのが良いでしょう。何処かへ用事があるなら、グリーングラスたちが戻ってきてからで良いのでは?」

 

 エリスなりの心配であるらしいのだが、アルテにとってそれでは遅すぎる。

 忠告を無視して部屋を出ていくアルテ。

 彼女が扉を閉めた後、残されたエリスはその扉を暫く見つめ、やがて首を横に振った。

 

 

 

 声は前回より早く、聞こえなくなった。

 同じように三階の廊下を歩くアルテは、声は聞こえなくなったものの殺気だけは感じている。

 這うような音は聞こえない。

 ミセス・ノリスが石になっていた場所に行ってみるも、何もなかった。

 文字も既に先生たちによって消され、いつもの廊下と変わりない。

 ここに来れば何かがある、と思っていたのだが、当てが外れたようだった。

 

「……」

 

 件の廊下を通り過ぎ、窓際の廊下を歩く。

 快晴だ。クィディッチは屋外で行う競技、まさに絶好の天気と言えよう。

 やはり生徒は殆どが見物に行っているらしい。

 休日だというのに外を見ても、誰も校庭を歩いていない。

 ――気付けば、向けられている殺気も消えていた。

 徒労だった、と嘆息する。

 仕方ない、戻って寝直そうと踵を返そうとした瞬間だった。

 

 

「――オブスキューロ、目隠し」

 

 

「ッ――」

 

 聞き覚えのない女子の声が聞こえ、アルテの視界が真っ黒に染まる。

 視界を奪う呪文――直感で判断したアルテは、己の記憶を頼りにその場を離れようと走る。

 しかし、何者かの詠唱は早かった。

 

「ペトリフィカス・トタルス、石になれ」

 

 突如として体が動かなくなり、アルテはその場に崩れ落ちた。

 耳は聞こえるが、鼻は動かせない。言葉を発することも出来ず、体がそれこそ石になったようだった。

 抗おうと力を込めながら、アルテは察する。

 ミセス・ノリスを石にした魔法は、これなのではないか、と。

 これは金縛り呪文であり、猫を石にしたのはこの魔法によるものではない。

 だが、状況――何事にも抵抗できないということは変わらない。

 

「……いや、まったく。困るんだよ。君じゃないんだ」

 

 腹に蹴りが叩き込まれる。

 口からその分空気が零れるだけで、咳き込むことも、痛みに歯を食い縛ることも出来ない。

 

「ディフィンド、裂けよ」

 

 同じ呪文が立て続けに唱えられた。

 腕に、足に、脇腹に鋭い痛みが走っていく。

 切り傷の痛みによく似ていた。痛みの範囲が広い。なのに、止血に手を回すことも出来ない。

 

「ただ、いい機会だからね。アレをけしかけるのだけは勘弁してあげるよ。その代わり、別の見せしめになってもらうけどね。君みたいなのが増えたら一層面倒になる」

 

 ディフィンド、と再び唱えられる。

 視界の奪われた目に、耐え難い激痛が走る。

 クィレルに二度掛けられた魔法とはまた違う、たった一つだからこそ鮮烈な痛み。

 痛みに次ぐ痛み。しかし、声一つ上げることが出来ない状態。

 それでも気を失わないアルテは、その状況に、感じたことのないものを感じていた。

 

「さて。見つけてもらえないのもかわいそうだ。今は皆外にいるんだね。なら――レダクト、粉々」

 

 果てしない闇。目を失うという、“無”しか見えなくなる状態。

 こうして視界がなくなることで、アルテは初めて“無”というものを理解していた。

 いずれ、己が至るべき場所。

 ヴォルデモートという敵を殺した後、存在意義の無くなった自分が辿り着く場所。

 自分の到達点としてある、当たり前のものである筈なのに。

 ――それを酷く、恐ろしく感じていた。

 壁が崩れる音など、聞こえなかった。

 それよりも。当然のものを何故か、恐ろしく感じてしまうことが理解できなくて、アルテは痛みすら忘れてパニックになっていた。

 自分はそこまでが役割である筈なのだ。それを恐ろしく感じる理由など存在しない。

 ではこの恐怖は一体何なのか。それではまるで自分という存在を、否定して――

 

「二度と余計なことに足を踏み入れるな、と忠告するよ。ステューピファイ、麻痺せよ」

 

 解答が出せないままに、アルテの意識は沈んでいった。

 失神呪文の衝撃で吹っ飛び、アルテは校庭に投げ出される。

 襲撃犯の正体を知ることも、謎の声の正体を知ることもないまま、アルテは校庭に落ちた。

 金縛りの術が解けて、芝が赤く染まりだす。

 クィディッチの競技場からは、歓声が聞こえていた。

 

 

 

 試合終了後、ダフネたちは少し気を落とした状態で校舎へと戻っていた。

 試合は惜しくもグリフィンドールの勝利。

 ハリーは自分をしつこく追跡するブラッジャーに腕を一本折られつつも、執念でスニッチを掴み取ったのだ。

 

「うぅん、今回のはマルフォイがチキンだったよねぇ。もうちょっと粘っていれば先を越せたのに」

「ドラコは悪くないわ! スニッチの場所が悪かったのよ!」

「ポッターがおかしいのよ。腕を犠牲に勝ちに行くなんて正気じゃないわ」

 

 口々に感想を述べながら帰途につくダフネたち。

 今頃競技場ではハリーの応急処置が行われていることだろう。

 敗北したスリザリン生たちは早々に帰り、もう寮に戻っている者もいる筈だ。

 

「アルテ、まだ寝てるかな?」

「流石に起きてるでしょ……あら、何あの人だかり」

「ちょっと……悲鳴上がってるけど……また継承者が何かやらかしたんじゃ」

 

 早くアルテのもとに戻りたかったダフネたちだが、校舎の前に人だかりが出来ているのを目にする。

 何やら悲鳴も上がっており、その光景には好ましくない思い出があった。

 あんな感じの輪の中で、アルテが後継者だと疑われる現場が作られていた。

 何があったのかは知らないが、継承者が犠牲者を出したのでは、という悪い憶測が生まれる。

 示し合わせるでもなく、ダフネたちはその人だかりに向かっていった。

 彼女たちに最初に気付いたのは、スリザリン二年生のセオドール・ノットだった。

 ダフネたちを見るとノットは目を丸くして、走り寄ってくる。

 

「お、お前ら……」

「ノット、何があったの? 継承者の犠牲が出た?」

「あ……いや……あぁ、そうなんだろうけど……おい、落ち着けよ、取り乱すな、こっち来い」

 

 ダフネたちは首を傾げる。

 切れ者で知られるノットがここまで取り乱すような事態は珍しい。

 余程珍しい光景でも広がっているのかと――彼女たちは呑気に考えていた。

 

「――ぇ?」

 

 そして、輪の中にいた者を目にする。

 誰かのものではなく、己の血でローブを赤く染めるアルテの姿を。

 体中につけられた切り傷。最たるものは、両目を横薙ぎに切り裂いていた。

 この場にいた生徒たちの誰かが、止血の魔法だけは使ったのだろう。血はそれ以上流れることはないが、一目で重体だとわかった。

 しかし、息はか細かった。流れたものが多すぎたのか、痛みでそれほど憔悴しているのか。

 誰もそれ以上近付こうとしない。継承者の最有力候補がこんな状態になっている。

 もしかすると、彼女の罠なのではないか、と疑っているのだろう。

 現に――傍の芝には、血で記された文字が書かれている。

 それはアルテを容疑者から外さんとするような文章だった。

 

 

 これは警告である。何者も、継承者を騙るべからず。

 以後に現れし不届き者の末路は、この者より悲惨になることだろう。




※気にしないアルテ。
※ポッターにどうにかしてほしい保護者三人。
※保護者がクィディッチ見物に行っている間自室で寝ている全裸のアルテ。
※純血の三家によるセキュリティ。
※全裸でも警戒は怠らないアルテ。
※あれだけ言われたのに一人で出歩いて襲撃されるアルテ。
※目隠し→動きを封じる→蹴り→体を裂いていく→ついでに目も潰す→三階から落とす。
※初めての感覚にパニクるアルテ。
※多分正視に耐えない状態で発見されるアルテ。
※Q.ロックハートがハロウィーンでアルテに迫るとどうなる?
 A.継承者として疑われ、なりすまし行為で垢BANされてこうなる。
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