襲撃の翌日から、アルテが一人で廊下を出歩くことはなくなった。
というのも、ダフネたちが断固としてそれを許さなくなったからである。
どんなに小さなことでも三人のうち誰かが同行する。そもそも継承者が出現した状況で、そうでなかったのがおかしかったのである。
この日なら大丈夫だろうと彼女を一人にしたクィディッチの日に襲われたことで、誰かの同行は徹底して行われるようになった。
スリザリン寮の近くで行われる、魔法薬学の授業に行くためであっても、だ。
アルテやコリン・クリービーが襲撃されてから、一ヶ月あまり。
――アルテへの疑いの目が減ることはなかった。
コリンの襲撃がアルテの直後であったため、アルテを疑う者たちからすれば露骨に過ぎたのだ。
アルテは相変わらず関心がないようだったが、ダフネたちは共謀者という目が自分たちにも向けられているので非常に居心地が悪かった。
それでもアルテから離れようとしない。向けられる視線などどうでもいい。次にアルテが襲撃されるような可能性を、少しでも減らすため。
功を奏しているのか否か、その後襲撃があることはなく、十二月の第二週にまでなった。
生徒から犠牲者が出たからか、学校の雰囲気は良くない。
何処か陰鬱とした空気の中、その日の魔法薬学の授業は始まった。
スネイプの授業はいつもと変わりない。彼の近寄りがたい雰囲気の前では、誰もかれもがアルテを疑っている暇がなかった。
だからと言って、四人組の中でこの授業が得意といえるのはアルテくらいであり、何事も平均以上にやってのけるダフネもあまり気を抜いていられない授業であるのだが。
「相変わらずだね、アルテ。どうして魔法薬が得意なんだい? なんというか……どうにも君がこの授業が得意な理由を、未だに分からないんだけど」
授業は『ふくれ薬』を作る授業だった。
さほど難しいものでもない。スネイプのお気に入りであるドラコは余裕があるようで、ハリーとロンにふぐの目玉を投げつけながらアルテに話しかけてくる。
ハリーたちから仕返しが返ってくることはない。そんなことをすればスリザリン贔屓のスネイプがどうするかなど目に見えているからだ。
問われたアルテは、鍋に目を向け薬の変化を見ながら素っ気なく答える。
「やることが決まってるなら間違いようがない」
「それが苦手な人が多い要因なんだけどね……」
アルテとペアになっているダフネの成績は、アルテによって引き上げられている面があった。
理論がはっきりしている科目ほど、アルテは滅法強い。
ドラコが比較的得意であるのは父親仕込みなのだが、アルテのそれは天然だった。
「苦手な連中はとことん苦手なんだろうさ。……アイツらとかな」
ドラコは呆れた様子で近くの大鍋を見た。
ゴイルの大鍋は明らかに失敗な、どす黒い色の染まっている。
最初の段階で煮込みすぎだ。そして、ゴイルは失敗に気付いているかすら分からない顔だった。
あの分では、塗ってしまえばその部位が倍には膨れ上がってしまうだろう。
「……ねえ、マルフォイ」
「ん? なんだよグリーングラス」
「ゴイルってさ、そもそも字読めてる?」
「君、時々言うよな……」
ダフネから飛び出した辛辣な言葉に、ドラコは苦笑いしながらも否定しきれなかった。
何をやっても碌な成果になった試しのない彼や、もう一人の取り巻きであるクラッブ。
正直ドラコは彼らが何故進級できたのか、不思議でならなかった。
ゴイルの大鍋から視線を戻す。
アレを気にしていて自分が失敗したら、それこそばかばかしい。
「こっちに迷惑が掛からなければいいよ。例えばあの鍋が爆発とかしなけれ――」
「ッ」
「きゃっ!?」
「ごふっ!?」
仕上げに掛かろうとしたドラコは、突然アルテに腹を蹴り飛ばされた。
更にアルテはダフネを抱え上げ、アルテは跳んだ。
ドラコは壁まで吹っ飛ばされアルテもそこまで駆けていく。
「何するんだアル――」
ドラコが怒鳴りかけた瞬間、ゴイルの大鍋が派手に弾けた。
教室中に雨のように飛び散った薬が降り注ぐ。
飛沫が掛かった部位がみるみるうちに膨れ始めた。顔に浴びたゴイルは腫れ上がり、大皿のようになった目を両手で覆って右往左往している。
あちこちから悲鳴が上がる。事前に離れたアルテたちはどうにか逃れたが、あの場にいたままであればゴイルと大差ない量を浴びていただろう。
「静まれ! 静まらんか!」
スネイプが怒鳴っても、被害を受けた生徒たちは収まらない。
「薬を浴びた者は『ぺしゃんこ薬』をやるからここへ来い」
教室の半分ほどの生徒たちが一斉に進み出る。
薬を貰っている生徒たちを見ながら、ドラコは起き上がる。
「……あのさ、アルテ。あの場から離してくれたのはありがたいけど、蹴飛ばすのはやめてくれないか」
「手は四つもない」
にべもなくアルテは返した。
両手はダフネを抱えるのに使っている。
いつかのような人数オーバーだった。
薬を配り終えたスネイプが、爆発したゴイルの大鍋の底をさらう。黒焦げの縮れた花火の燃え滓が現れた。
「これを投げ入れた者が誰か分かった暁には我輩が間違いなくそやつを退学にさせてやる」
スネイプはハリーを見据えながら、低い声で言った。
彼がやったという確証はない。いつも通りの私怨による疑いだろう。
「あ、アルテ、ありがとう。でも、も、もう下ろしてくれて大丈夫だから」
「――ん」
「役得じゃないの、ダフネ。授業終わったらそのまま寮に連れてってもらったら?」
「そうそう。お願いしていい? アルテ」
「別に構わない」
「ちょっと、ミリセント! パンジー!」
煽る二人に声を張るダフネ。
言い合ってる意味の分からないアルテは、首を傾げた。
その後も囃し立てた二人によってそのまま寮に戻るという罰ゲームは実行され、顔を真っ赤にしながら、ゴイルのように顔を覆うダフネとそれを無表情のまま抱きかかえて寮に運ぶアルテの姿は教室中の生徒の目に晒されることになった。
その一週間後、玄関ホールを歩いていたアルテたちは掲示板に張られた羊皮紙を目にとめた。
『決闘クラブ』開催の報せだ。
継承者とスリザリンの怪物の恐怖に怯えていた生徒たちにとっては嬉しい報せだった。
生徒たちを襲う継承者が決闘に応じるとは思えないが、魔法使いと戦うすべを学べるとあって乗り気な生徒は多かった。
ダフネたちも参加した。アルテも「行かないともっと疑われる」と歯に衣着せないパンジーに言われ、引きずられるように大広間にやってくる。
大広間の長いテーブルは全て取り払われ、金色の舞台が出現していた。
集まった生徒は殆ど学校中の生徒といっても良いかもしれない。
ざわざわと食事の時間以上の盛り上がりを見せる大広間。しかし肝心の先生がまだやってきていなかった。
「一体誰が教えるんだろうね」
「ダンブルドア……な訳ないか。フリットウィックとかは? 若い頃、決闘チャンピオンだったって話よ?」
「まあ、先生なら誰でもそれなりには教えられるんじゃない? アイツじゃなければ」
「……」
パンジーはあえて誰かとは言わなかったが、他の三人が思い浮かべた人物は同じだった。
もしそうならば人選ミスも甚だしい。アルテはその顔を思い出しただけで不機嫌そうに眉を顰めた。
数分後、堂々とした姿で現れたのは、深紫色のローブを着こなしたギルデロイ・ロックハートだった。
黄色い声が響く。一方で落胆や呻き声も大きい。
大ファンである筈のミリセントは喜びこそあったが、それ以上に嫌な予感がしていた。
新学期が始まってこれほど経てば、流石に何かしらの違和感を抱き始めるロックハートファンも少なからずいた。
授業は殆ど本に書かれた己の武勇伝を自慢げに語るだけ。
しかもスリザリン二年生のそれは、授業の九割が『狼男との大いなる山歩き』についてだった。
防衛術らしい授業とは言えないそれに、生まれている不信感は決して少なくない。
ロックハートが観衆に手を振っている間に、アルテは踵を返した。
「帰る」
「ちょ、ちょっとだけ待とうアルテ! ほら、なんかスネイプも出てきたから!」
ダフネにしがみ付かれ、渋々その場に残るアルテ。
ロックハートの後ろにつくように現れたスネイプに場は少し静まり返っている。
「皆さん、さあ集まって! 集まって! 私がよく見えますか? 私の声が聞こえますか? 結構結構!」
アルテは大あくびをした。既に興味がなさそうだった。
「校長先生から、私がこの小さな決闘クラブを始めるお許しをいただきました。私自身が、数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要が生じた場合に備え、皆さんをしっかり鍛え上げるためです! 詳しくは私の著書を! 『狼男との大いなる山歩き』がおすすめですよ!」
高らかに演説しながら、ロックハートはアルテにウィンクする。
アルテは見てすらいない。
ロックハートはそれに気付いていないようで、満足そうに頷いてからスネイプを見た。
「助手のスネイプ先生を紹介しましょう。先生が仰るには決闘についてごくわずかにご存知らしい。訓練を始めたり短い模範演技をするのに、勇敢にも手伝ってくださるとのことです。ご心配なく、私と彼とが手合わせした後でも、魔法薬の先生はちゃんと存在します!」
よくもまあ、ここまでスネイプ相手に煽れるものだとダフネは感心していた。
スネイプの上唇がめくれ上がっている。それにすら気付かないロックハートの胆力はある意味恐ろしい。
ロックハートとスネイプは杖を持って、向き合い一礼する。
ロックハートはくねくねと腕を振り回しながら大袈裟に、スネイプは不機嫌そうに小さく。
それから、杖を剣のように突き出して構える。
「御覧のように、私たちは作法に従って杖を構えています。三つ数えて最初の術を掛けます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」
少なくともスネイプはそうには見えなかった。
歯をむき出しにしたスネイプは、三つ数える前に致命的な呪いでも叩き込みそうな勢いだ。
「一――二――三――!」
「エクスペリアームス、武器よ去れ!」
短く、無駄のない動作でスネイプの杖が振られ、赤い閃光が走った。
直撃したロックハートは舞台から吹っ飛び、壁に激突して滑り落ちた。
ドラコや数人のスリザリン生から歓声が上がる。
フラフラとロックハートは立ち上がり、よろめきながら壇上に戻る。そして何事もなかったかのように手を大きく振る。特徴的なカールの髪が逆立っていた。
「さあ、皆わかったでしょうね! 今のが武装解除の術です。御覧の通り、私は杖を失いました。ああ、ミス・ブラウン、ありがとう」
一人のグリフィンドール生がロックハートに落ちた杖を差し出す。
ロックハートが笑いかけると、その生徒は感激したように目を潤ませた。
「スネイプ先生、生徒たちにあの術を見せたのは素晴らしいお考えです。ですが、遠慮なく一言申し上げればあまりにも見え透いていました。止めようと思えば、いとも簡単だったでしょう。生徒に見せた方が教育に良いと――」
最後まで言い訳が続くことはなかった。
殺気だったスネイプに、流石に言葉を止め再び生徒たちを見渡した。
「模範演技はこれで十分! これから皆さんのところへ下りていって二人ずつ組にします! スネイプ先生、お手伝い願えますか?」
二人は生徒たちの群れに入り、組を作っていく。
スネイプは最初、ハリーとロンの所へやってきた。
「名コンビもお別れの時が来たようだ。ウィーズリー、フィネガンと組みたまえ。ポッターはマルフォイ、君だ。かの有名なポッターを君がどう捌くのか拝見しよう」
スネイプは薄ら笑いを浮かべながら、ハリーとロンを引き離した。
同じようなニヤニヤとした笑いで、ドラコが歩いてくる。
その後スネイプはハーマイオニーに目を向ける。
二年生の中では優秀な成績を収めている生徒だ。同級生の中で、彼女に確実に勝てるだろう生徒は一人だった。
スネイプは広間を見渡し――その生徒がいないことに気付く。
よりによってクラブに参加していないらしい。顔を歪めたスネイプは、仕方なくもう一人、可能性のありそうな生徒を見定める。
その生徒が勝つのもどうにも癪ではあるが――背に腹は代えられない。
「ミス・グレンジャーはミス・ルーピンと組みたまえ」
彼女こそ、何を起こすか分からないジョーカーだ。
ハーマイオニーは意を決したように息を呑んだ。
アルテは表情を変えることなく、ハーマイオニーと向き合う。
「よろしくね、アルテ」
「ん」
ミリセントやパンジーはハーマイオニーを睨んでいたが、そちらを彼女自身は一瞥もしない。
やがて全員を組み終えると、ロックハートは大袈裟に腕を振りながらアルテに近付いていく。
「さあ、まずは互いに一礼――ですがその前に!」
ロックハートはアルテの頭に手を置いた。
――アルテは、彼を全力で無視していた。
ダフネやミリセント、パンジーは近くにおらず、何もできなかった。
次の瞬間の暴挙を誰も予想出来ず、誰も止めることも出来ず。
ただ己の気の向くままに、ロックハートはこれまで誰もやらなかったことを実行した。
「決闘時の脱帽はマナーですからね! 大丈夫! 貴女の力強い美しさは誰に見せても恥ずかしくはありません!」
ほぼ全員の生徒が注目する中で、アルテの帽子を剥ぎ取ったのである。
しんと、大広間が静まり返った。
知らない殆どの者は口をあんぐりと開き、知っている者も突然の出来事に絶句している。
ロックハートが高らかに掲げた手には、アルテのロシア帽が握りしめられている。
そして、露わになったアルテの帽子の中身。跳ね放題になった白銀の髪と、その中にあってピンと立つ尖った耳。
アルテが一年以上も隠し続けた、人ならぬ部分。
スネイプも流石に口をパクパクさせ、アルテ以上に何を仕出かすか分からないロックハートの唐突な暴挙に言葉を失っていた。
当のロックハートは暫し目をパチクリさせ、
「……ドラマティック」
意味不明な呟きを零した。
ようやく気付いたアルテが、一つ舌打ちをしてロックハートから帽子を奪い返す。
集まる視線を一切無視し、再び帽子を深く被る。
「……相手と向き合え! 一礼だ!」
その変えようがないと思われた空気を破ったのはスネイプだった。
杖から爆竹のような火の玉を出し、生徒たちを喝を入れたのだ。
生徒たちが飛び上がるように相手と向き合う。
動揺していたハーマイオニーも頬を両手で叩き、集中しなおす。
当の本人であるアルテはやや不機嫌そうな表情で、ハーマイオニーに目を向ける。
そして同時に、小さく頭を下げた。
ハーマイオニーが杖を構える。きっちりと伸ばされた腕は、ぎこちないながらもアルテを真っ直ぐ見据えている。
対して、アルテは右手に短い杖こそ持っているが殆ど自然体だった。
僅かに背を向け、前に屈んでいるが、よく見なければ分からないほど。
侮っている、という訳ではない。真剣そのものだ。アルテと対面し、視線を交わしているハーマイオニーが、それを一番知っている。
辺りの生徒たちは、相手と向き合っているようでアルテたちの対面を見ていた。
先程明らかになった衝撃の事実に対する疑念、どんな戦いが繰り広げられるかという興味、ハーマイオニーへの心配。
様々な思惑の中心で睨み合う両者。その片やをボーっと見つめるロックハートに呆れ果て、スネイプが号令を掛ける。
「我輩が三つ数える。それを合図に相手の杖を取り上げろ、いいな? 一、二、三……!」
ハーマイオニーが杖を振る。
動作には無駄がない。先のスネイプ顔負けの素早さだ。
「エクスペリアームス、武器よ去れ!」
紅の閃光はアルテを吹き飛ばすことなく、最低限の威力で右手から杖を弾き飛ばした。
浮き上がるアルテの杖。自分に向かって飛んでくるそれを受け止めようとハーマイオニーは視線を動かし――
「ッ」
「え?」
ほんの少しの余所見の間に懐まで走り寄ってきていたアルテに瞠目した。
「きゃあ!?」
振り上げられた足が、ハーマイオニーの指先から杖だけをさらっていく。
大きく仰け反ったハーマイオニーはそのまま尻餅をつき、指先から弾いたハーマイオニーの杖と飛んできた己の杖、二つをアルテは掴み取った。
「取り上げた」
「あ、アルテ! ずるいわ! ちゃんと魔法を使いなさいよ!」
「魔法で取り上げろなんて言われてない」
詭弁もいいところだった。
魔法使い同士の戦いでは、杖を奪えば大半が決着する。
だが、それも状況次第ということだ。奪った側が油断していれば取り返すことは出来るし、その隙に更に攻撃することさえも可能となる。
決闘というルールの定められた戦いにおいても同じ。制限された手札で何を武器にし、どのように勝つかは己次第なのだ。
釈然としない様子で立ち上がるハーマイオニーに杖を返す。
周囲を見渡せば、大広間は混沌に包まれていた。
スネイプが意図的にグリフィンドールとスリザリンを組ませたからだろう。まともな決闘の形で終わったのは数組で、残る殆どは杖の奪取と関係ない呪文の掛け合いやひどいものは杖も何もない殴り合いにまで発展している。
ハリーとドラコは互いをくすぐり回す呪文で相手に徹底的に嫌がらせをし、流石にスネイプの目に留まった。
「やめんか馬鹿者!」
二人を叱責する声で、ようやく辺りが少しずつ静まっていく。
呆れ果てたスネイプは壇上に上がって言った。
「……術も知らぬ状態で決闘も何もない。まずは非友好的な術の防ぎ方について教えよう。マルフォイ、ポッター、壇上に上がれ。君達に手本となってもらう」
慌てて上がっていくハリーとドラコ。
二人が壇上で向き合うと、スネイプがドラコに近付いていく。
そして何か、一言二言呟くと、ドラコの数歩後ろに下がった。
再び決闘の様式で二人が杖を構え――ハリーが手札を考えているうちにドラコが動いた。
「サーペンソーティア、蛇出でよ!」
杖先から飛び出したのは閃光ではなく、一匹の蛇だった。
一メートル程度の蛇は壇上に落ちると、何故この場所に突然現れたのかと困惑し周囲を見渡す。
それは傍から見れば噛みつくべき獲物を探しているようにも見え、近くにいた生徒たちは慌てて離れていく。
魔法を使われたハリーにもどうしたらいいか分からないようでたじろいでいる。
その様を何処か楽しそうに見ていたスネイプは、やがて満足したのかドラコの前に出てきた。
「やはりポッター如きでは対処できんか。どれ、我輩が追い払ってやろう」
それでスネイプが蛇を消し去り、ハリーに恩を売って屈辱を味わわせることでこの茶番は終了。
何となく、この場の面々はそんな展開だろうと考えていた。
しかし、ここでも予想外が発生する。
ここに来て、ボケっとアルテを見ていたロックハートが復活したのだ。
「いいえスネイプ先生! 私が対処しましょう!」
いつの間にかスネイプの独擅場になっていると思ったのか、両手を広げながら壇上に上がってくるロックハート。
スネイプもドラコもハリーも目を見張り、突然の出来事に対処が遅れた。
そうしているうちに、ロックハートは杖を大きく、ぐにゃぐにゃと振り、思い切り蛇に向かって振り下ろした。
蛇は数メートル跳ね上がり、すっかり激昂して落ちてくる。
当然だ。訳も分からないまま呼び出され、困惑している間に思いっきり吹き飛ばされたのだ。人だろうと蛇だろうと怒るだろう。
そして――ロックハートの何らかの強烈な感情に突き動かされたのか、蛇は一人の少女に向かって落ちてきた。
「アルテッ!」
辛うじて叫ぶことが出来たダフネ。
しかし、アルテは避けることが出来ない。
咄嗟に出来たのは、手でその胴体を掴み取るという、あまりにも危険過ぎる行動。
一歩間違えばアルテに魔法が直撃する可能性も高く、下手に杖を振るう訳にもいかない。
数秒後には、その細い手に絡みつかれ、その牙を突き立てられる。
誰しもが想像できた末路を――アルテは己自身で跳ね除けた。
『――落ち着いて、ください。害する、つもりは、ありません』
――
――その他、この場の全ての人間には、口を動かして発されたとは思えないシューシューと吐息を零すような音に聞こえた。
アルテに掴まれた蛇は敵意がなくなったようにぶら下がり、床に放られても再度高揚する気配を見せず、じっとアルテを見ていた。
そうしている間に、スネイプが杖を振るった。蛇が黒い煙を上げて消えていく。
静まり返っていた。誰もかれもがアルテから離れていく。
それは、先程まで近くにいたハーマイオニーも同じだった。彼女は無意識なのかもしれないが、その表情には怯えがあった。
向けられる敵意が、恐怖が、増したのを感じた。
疑心が確信に変わる。スネイプは今までアルテに向けたことがないような、鋭く探るような目つきで睨み据えている。
訳も分からず、アルテは首を傾げた。
ダフネが、パンジーが、ミリセントが走り寄ってくる。
そしてアルテの腕を引っ張って、大広間の外へと連れ出した。
ミリセントはその手を震わせていた。外へ出るや否や、アルテを己に向きなおらせる。
「あんた、疑われてる自覚あるの!? 今の状況でパーセルタングを話すなんて、正気!?」
ミリセントの激情の理由を測れないアルテ。
ダフネもパンジーも、絶望的な表情で彼女を見ている。
アルテは継承者ではない。だが、先の咄嗟の行動は、彼女を継承者だと確信させるものだった。
「……パーセルタング?」
「蛇語よ! サラザール・スリザリンの継承者だっていう何よりの証拠になるの! あんたがそうじゃないってのは知ってる! けどこれであんた疑ってる連中には間違いないって思われたのよ!」
今までにないミリセントの剣幕に、僅かにアルテは目を見開いていた。
スリザリンのシンボルが蛇であることの理由は、サラザール・スリザリンが蛇語使い――パーセルマウスだったからに他ならない。
パーセルマウスは彼の継承者として疑われるに足る最大の能力だ。
ただでさえ継承者として一番疑われていたアルテは、自分から更に疑いを深める要因を曝け出してしまったのだ。
「……どうすんのよ。どうにかして、あんたの疑いを晴らさないと。じゃないと、ほんとに危ないじゃない……!」
しかし、これだけ深まった疑念を晴らす方法など、そう簡単に見つかる筈もない。
それどころか、状況は更に悪化する。
アルテの二つの大きな秘密が学校中に露見した翌日。
――ハッフルパフのジャスティン・フィンチ-フレッチリーとグリフィンドール憑きのゴースト、『ほとんど首無しニック』が石になって発見された。
それを最初に発見したハリーなど、最早疑いの目に掛かっていないも同然だった。
決闘クラブでの出来事の腹いせだろうと判断され、アルテ・ルーピンはごく一部を除いたほぼ全ての生徒の敵になったのである。
※しれっと毒吐くダフネ。
※天丼キック。
※アルテの運送サービス。
※ロックハートが出てきたので帰ろうとするアルテ。
※ダイナミック脱帽。耳バレ。
※ドラマティック。
※おい、魔法使えよ。
※エクスペリアームス(物理)。
※へびの とびはねる! 蛇語バレ。
※貴重なアルテの敬語(蛇語)。
※一夜でアルテの特大の秘密を二つバラす天災天才、ロックハート。
※ハリー「何か知らないけど助かった気がする」