ハリー・ポッターと継ぎ接ぎの子   作:けっぺん

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確執

 

 

 汽車に吸魂鬼が入り込んでくるというハプニングこそあったものの、その後は特に何事もなくホグワーツに辿り着いた。

 汽車を降りてからアルテとリーマスは合流し共に歩いた。リーマスは二十年近くも前に通っていたホグワーツの変わらない風景を懐かしそうに見渡していた。

 そうして、大広間まで辿り着くと、中に入る前にリーマスに声が掛かった。

 

「――おや、誰かと思えばルーピンではないか」

 

 普段からの陰湿さがあるものより更に低い、スネイプの声。

 それには、例えばハリーに向けるもののような、憎しみが籠っていた。

 

「やあ、久しぶりだねセブルス。相変わらず元気なようで何よりだ」

 

 それに対し、リーマスもどこか普段とは違う声色で返す。

 

「相変わらずなのはそちらも変わらんようだ。顔色が悪いが、厄介な病でも患っているのかね?」

「記憶が正しければ君は知っていた筈だがね? そうでなければ流石に私も不安なのだが」

「これは失礼。それでどうしたのかね? こんなところに子連れで来るなど。ここは娯楽施設ではないのだが」

「知っているとも。私も仕事で来たのさ」

 

 大広間の前で繰り広げられる、どこか棘のある言葉のぶつけ合い。

 後からやってきた生徒たちは、その横を怯えながら抜けていく。

 

「なんと。就職難と聞いていましたがね。庭師ですかな?」

「残念、教師さ。席が空いてしまったとのことでね」

「それはそれは。定期的な癇癪を抑える方法を教えるのであれば、しかと教えてやっていただきたい生徒は山ほどいますぞ」

 

 せめて三メートルずれてやってほしいと、通り抜ける生徒たちは思わずにはいられなかった。

 大抵の生徒は、元より威圧的で敬遠されやすいスネイプが新任の教師をいびっている図に見えている。

 しかしながら新任の方も負けていない。寧ろ、スネイプに真っ向から張り合っている。

 

「残念ながらそういう授業をするつもりはないな。そういう君は魔法薬学と聞いたよ。うちの娘が大変優秀だと書いてくれていたね?」

「そうとも。厄介な病持ちの父親を“どうにか”する薬も、この分ならば作れるようになるでしょうな?」

「それは助かる。この子の手を煩わせるのも気が引けるが、出来るようになったならば是非ともお願いしたいところだよ。どうかそこまでこの子を育ててほしいものだ、スネイプ教授」

「流石にこの場で首を縦には触れませんな。君にとっては当たり前すぎて何のありがたみもない薬やもしれんが、あれには大変なセンスが要る。果たしてそれほどにセンスのある生徒かどうか……」

「おやおや、まさかセブルス・スネイプともあろう者が二年も経って生徒の才能を見定められないこともないだろう?」

 

 そして、大広間に入るに入れない生徒たちが増え始める。

 ようやくそれに気付いたのか、スネイプは憎らしげな目をリーマスと、それからアルテに向けた後、鼻を鳴らして大広間へと入っていった。

 そこで初めて扉が開いたように、溜まっていた生徒たちが入り込んでいく。

 

「……アルテの前で言い合うことでもなかったか。悪かったね、アルテ」

「何が?」

「いや、気にしていないならいい。さあ、席に着きなさい。私は向こうのテーブルだ」

 

 リーマスも、継ぎ接ぎのローブをはためかせて上座のテーブルへと向かっていく。

 アルテも足早にスリザリンのテーブルに向かう。既にダフネやミリセント、パンジーは座っており、アルテの席を取っていた。

 

「アルテ、大丈夫だった? なんかスネイプ先生とルーピン先生、言い合ってたけど」

「大丈夫」

「ん? ルーピン先生?」

「もしかして、アルテのお義父さん?」

 

 アルテの代わりにダフネが頷いて、汽車で一緒だったことを説明する。

 リーマスは、上座のテーブルで両隣の先生たちと話している。

 それを離れたところから、スネイプが睨んでいる。

 土気色の顔を歪めている今のスネイプの表情は、誰もが恐怖を抱くようなものだった。

 

「……ビックリするほどスネイプに睨まれてるけど」

「なんかあったの? アルテ」

「仲悪かったって」

 

 一年目の終わり、アルテはクィレルから聞いていた。

 ちら、ともう一度リーマスの方を見る。

 自分に向けられるスネイプの視線はどうでも良かったが、リーマスに敵意が向くのは好ましくなかった。

 ダフネたちは気が気ではなかった。

 あの二人の過去に何があったかは知らないが、アルテにとって義父が大きい存在であるということは分かる。

 どちらに非があるにせよ、下手したらスネイプがアルテの晩御飯になりかねない。

 

「あ、組分け始まるみたいね。今年はダフネの妹がいるんだっけ」

「うん。まああまり不安はないけど」

 

 ダフネもアステリアも、純血を尊ぶグリーングラス家としては異常なまでにはみ出し者だ。

 彼女たちの両親は不安で仕方がないらしいが、ダフネは少なくとも、自分がスリザリンに入れたのだからアステリアも大丈夫だろう、と思ったのだ。

 今年はマクゴナガルではなくフリットウィックが縦に長い羊皮紙の名前を読み上げ始める。

 最初の生徒がグリフィンドールに選ばれ、彼らのテーブルからの喝采で迎えられる。

 スリザリンも順調に新入生を獲得していき、やがてその名が読み上げられた。

 

「グリーングラス・アステリア!」

 

 名前を呼ばれ、アステリアが駆け足で椅子まで向かう。

 そして、緊張した面持ちで帽子を被る。

 不安はない――と言っていたダフネだが、身を乗り出して息を呑んでいる。

 

「――スリザリン!」

 

 そして希望通りの寮に選ばれると、立ち上がって拍手した。

 花のような笑顔でダフネに駆けてくるアステリア。

 ダフネの隣の席に座ると、周りの上級生たちに挨拶をし始める。

 そんな純真さをミリセントたちは微笑ましく思う。

 アルテも空腹感を覚えながらも、その様子を見ていた。

 

 

 

 最後の生徒の組分けが終わると、椅子がフリットウィックによって片付けられ、ダンブルドアが立ち上がる。

 その少し前に、マクゴナガルがハリーとハーマイオニーを連れてひっそりと大広間にやってきていた。

 ダンブルドアは生徒たちを見渡し、にっこりと笑う。

 

「おめでとう! 新学期おめでとう! 皆に幾つかお知らせがある。一つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でボーッとなる前に片付けてしまう方がよかろうの」

 

 咳払いをして皆の注目を集め、続ける。

 

「ホグワーツ特急での捜査があったから皆も知っての通り、我が校はただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりディメンターたちを受け入れておる。魔法省の御用でここに来ておるのじゃ」

 

 ダフネは汽車での出来事を思い出し、身を震わせた。

 吸魂鬼を見た者は彼女たちだけではないらしい。少なくない人数が、あの黒い影と相対した時の感覚を思い出し、顔を青ざめさせている。

 

「吸魂鬼たちは学校への入口という入口を固めておる。あの者たちがいる限り、誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。悪戯や変装に引っかかる代物ではない――『透明マント』さえ無駄じゃ」

 

 その付け加えた言葉が誰に向けられているかは明らかだった。

 ハリーとロンはチラリと目を見交わす。

 

「言い訳やお願いを聞いてもらうのも出来ぬ相談じゃ。あの者たちが皆に危害を加えるような口実を与えるでないぞ」

 

 ダンブルドアの顔つきは深刻だった。

 それほどまでに、彼が真剣であると誰しもが理解する。

 吸魂鬼に学校を守らせるほどの事態――その理由は一つくらいしか見つからない。

 十中八九、シリウス・ブラックなのだろう。

 

「楽しい話に移ろうかの」

 

 そして、そんな重苦しい空気を振り払うように、もう一度ダンブルドアは微笑んだ。

 

「今学期から、嬉しいことに新任の先生を二人お迎えすることになった。まずルーピン先生。ありがたいことに、空席になっている『闇の魔術に対する防衛術』の担当をお引き受けくださった」

 

 まず九割方の二年生以上の生徒には動揺が走った。

 色々な意味で大問題児である“彼女”の関係者だと、すぐに分かった。

 何故ならば彼になんの疑いも持たず惜しみない拍手を送っている数人の生徒――一緒のコンパートメントにいた者たちだ――に、しっかりとアルテが含まれていたからである。

 それだけで周りの生徒たちがざわつくほどの事態だった。アルテが手を叩いているところ自体、初めての光景だったからである。

 次第にパラパラと、気がそこに無いような拍手が起こる。

 一張羅を着込んだ先生たちの間で、リーマスは一層みすぼらしく見えた。

 そんな、明らかに周りの先生たちから浮いた新任教師を見て、生徒たちは思う。

 ――今年の防衛術も碌なことにならない、と。

 せめて、昨年の毒にも薬にもならなかった無駄な時間よりはマシになってほしいと願うばかりだった。

 

「そして、ケトルバーン先生は『魔法生物飼育学』の先生じゃったが、残念ながら前年度末をもって退職なさることになった。手足が一本でも残っているうちに余生を楽しまれたいとのことじゃ」

 

 ケトルバーンは現在のホグワーツ教職員の中でも古株だった。

 向こう見ずな性格から一方の手と足を失っており、着任中に六十二回も謹慎を受けている。

 性格を除けば、教え方はまともな教師であり、慕う生徒も結構いたために、惜しむ声は多かった。

 魔法生物飼育学は三年からの選択科目だ。

 ゆえに、今年の三年生にとって新任の教師は非常に重要だ。

 

「後任としては、嬉しいことに他ならぬルビウス・ハグリッドが現職の森番役に加えて教鞭を執ってくださることになった」

 

 グリフィンドールからの拍手は割れんばかりだった。

 一方でスリザリン席からの拍手は殆どない。

 夕日のように真っ赤になった毛むくじゃらのハグリッドは、嬉しそうに顔を綻ばせている。

 

「……ホグワーツの人材不足も深刻ね」

 

 ミリセントの呟きに、パンジーも頷く。

 それはひっそりと防衛術の新任教師にも向けられた言葉だった。

 アルテは友人でこそあるが、変り者であるという評価は健在だ。

 そんな彼女の義父というだけで、まともな人物ではないことは疑いようがない。

 どういう経緯でリーマス・ルーピンという男が選ばれたのかは不明だが、もしかするとアルテの目付け役というだけでは――とは思わずにはいられない。

 

「さて、これで大切な話は皆終わった――さあ、宴じゃ!」

 

 ダンブルドアの宣言で、テーブルに並べられた空っぽの皿の上に山ほど料理が現れた。

 それに驚く新入生たち。スリザリンの席に座る者たちもそれは同様だった。

 そして、料理が現れたのを認識するかしないかという速度で、アルテが手を伸ばす。

 スリザリン生の間では見慣れた光景だった。

 

「相変わらず早いな、アルテ……」

「まあ、これを見ないとパーティも始まった気しないよね」

 

 近くに座っていたドラコが呆れた様子でそれを見ていた。

 スリザリン席のパーティはこれで幕開ける。

 ご満悦のアルテに、いつの間にか現れて世話を焼くルーナ。

 彼女が当たり前のようにスリザリン席にいるのを、最早二年生以上は誰も疑問に思わない。

 そのためか、アルテの隣の席は必ず片方空いているし、何ならスリザリンとレイブンクローの“一部男子”の間では決してこれを邪魔するべからずという了解まで成り立っている。

 

「……ねえ、お姉ちゃん」

「ん? どしたの、アステリア」

「あのルーナって人、二年生だよね? あとレイブンクローだよね?」

「うん。いつもの事だし、気にしないでいいよ」

 

 アルテの親友であるダフネ公認。

 それは、ルーナがこのポジションに収まるにおいて大きなバックアップだった。

 ――どうにもルーナの様子は保護者というより飼い主にしか見えないのだが、現状誰も声に出して突っ込むことはない。

 そんな中で辺りの生徒たちはチラチラと先生たちのテーブルを見る。

 リーマスが気付いていないようで、安心した。あまり本当の保護者に見られるべき光景ではない、と判断したのだ。

 相変わらずの空気で三年目の学生生活は始まった。

 その一年は二年次と比べ、アルテにとっては別物のように素晴らしいもので――

 

 ――そして、彼女の人生の中でも大きな重要性を占めるほどの年となる。




※スネイプVSルーピン。
※スネイプ「校長は我輩に何か恨みでもあるのか」
※嫁フォイの組分け。
※惜しみない拍手を送るアルテ(SSR)。
※突然のルーナ(いつもの光景)。
※一部の野郎共の間で取り交わされた(アルテとルーナへの)不可侵協定。
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