ハリー・ポッターと継ぎ接ぎの子   作:けっぺん

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※感想、評価、UA、全て日頃の力になっています。読者の皆様にこの場で感謝申し上げます。


“あの薬”

 

 

 リーマスの『闇の魔術に対する防衛術』の授業は、たちまち殆どの生徒の一番人気の授業になった。

 生徒たちの関心を惹くような題材と引き込み方は、不真面目なスリザリン生すら楽しんでいる。

 その結果、リーマスはあのアルテを元々もっと酷かったところから、“ここまで”まともにしたのでは、と噂されるようになり、そうした意味でも尊敬の目で見られるようになった。

 それはともかく、生徒たちの間でリーマスの評判が良くなっていき、アルテは目に見えてご機嫌だった。

 ローブの外からでも分かるほどに楽しそうに尻尾を振り、授業では相変わらず積極的に発言し、実技においても自主的に動く。

 去年までは色々と理由があり、あまり防衛術においては優秀とは言えなかったアルテだが、今学年はぶっちぎりの最優秀生徒とも言えた。

 新任教師をどうにかしてコケにしたいのか、ドラコたちはリーマスが通りかかった時に聞こえよがしにこう言う。

 

「あのローブのザマを見ろよ。僕の家の『屋敷しもべ妖精』の格好じゃないか」

 

 そういうと、リーマスは困った笑みでドラコに優しく忠告する。

 

「私は構わないんだが、アルテはその手の冗談が分からなくてね。こういう場ではともかく、私が止められない場所で言うのは勘弁してほしい」

 

 ドラコはハグリッドの初授業の時、アルテに本を嗾けられたことを思い出し、すごすごと引き下がった。

 特定の生徒を贔屓せず、義娘だろうと平等に接するリーマスだが、それに対してアルテは違った。

 防衛術とそれ以外の科目とでは意欲がまったく違う。

 毎度のことだがスリザリン生は一向に慣れず、その積極的な様子に防衛術の授業の度に「誰だこいつ」と思わざるを得なかった。

 赤帽鬼(レッドキャップ)の授業の時も、河童の授業の時も、必ずアルテは授業前に予習を行った。

 そしてボガートの授業後から、宿題への意欲もまた別格だった。

 あのハーマイオニーよりも分厚いレポートを提出する者など、恐らく今後も出てこないだろう。

 というか、寮の談話室にいて、寝る以外の大半の時間をアルテは防衛術の宿題に使っていた。

 

 

 ただ、ずっとリーマスの防衛術の授業に執心、という訳でもなかった。

 最初の大活劇の後、とてつもなくつまらないものになった『魔法生物飼育学』の授業だ。

 あれから自信をすっかり失ってしまったハグリッドは、毎回毎回、レタス喰い虫の世話を学ぶだけの授業へと転換してしまっていた。

 このレタス喰い虫は、魔法生物の中でもとりわけ面白みのない生き物である。

 それに、世話といってもこの虫はレタスでも食べさせておけば調子を悪くすることもなく、退屈過ぎてペットとして飼う物好きもそうそういない。

 しかしながら、アルテだけはこの授業を楽しみにしていた。

 その理由が――

 

「……アルテ、私、あんただけ別の授業やってるように見えるんだけど」

「許可は取った」

 

 自分のレタス喰い虫に適当に餌をやった後、ハグリッドが連れてきたオリオンと触れ合えることだった。

 呆れ気味のミリセントに言った通り、ハグリッドにはしっかりと許可を取っている。

 ハグリッドにとっても、アルテがとびっきりにその個体を気に入ったことは嬉しかったらしく、気のない笑いでいつも連れてきてくれていた。

 一応、先生の監督下にある状況だ。

 この授業の時間内であれば、誰に咎められる心配もなくアルテはオリオンと共にいることが出来た。

 アルテの表情が豊かであったなら微笑みを浮かべていただろう。

 そんな、リーマスの授業とは別の理由で楽しんでいるアルテ。

 ヒッポグリフに良い思い出のないドラコはそれを忌々しそうに見ていた。

 

「アルテ、ちょっといい?」

「何?」

 

 その様子は、普段のアルテを少しでも知っていれば変だと分かる。

 授業の時やそれから数日であれば、物珍しさから、と説明も付いただろう。

 だが、そうだとしたら一ヶ月以上も度々会いに来て、授業でもその度に会うようなことはない。

 ダフネは一向に収まらないアルテのヒッポグリフへの興味に、一抹の不安を覚えていた。

 

「アルテは、どうしてそんなにオリオンに会いたがるの?」

「…………」

 

 アルテは黙り込んだ。

 その沈黙は答えをどう言葉にするか悩んでいるようで、尚更にダフネの不安を助長させた。

 

「…………よくわからない」

「……」

 

 ――ダフネは何となく、アルテにすら答えの分かっていないオリオンへの感情を理解した。

 どうか自分の想像が、とんだ見当違いであってほしいと思いつつ、話をそっと切り上げる。

 あまりに厄介なことになっている親友に自覚はなく、ダフネはどうするべきかと頭を抱えた。

 

 

 

 ハロウィーンの日、ハリーは一人、ホグワーツの廊下を歩いていた。

 その日、ロンとハーマイオニーどころか、友人は殆ど全員学校内にいなかった。

 ホグズミード行きの日だ。

 許可証を得られた生徒たちは皆遊びに行っており、ハリーもマクゴナガルを説得したが、結局同行することは出来なかった。

 ロンとハーマイオニーはお菓子をたくさん買ってくる、とハリーを慰めてくれたが、やはりハリーの気は晴れなかった。

 そんな、やることもなく、ふくろう小屋でヘドウィグにでも会おうとぼんやり考えながら歩いていたハリーを、呼び止める声があった。

 

「ハリー。何をしているんだい?」

 

 声の主を探せば、すぐに見つかった。

 リーマスが自分の部屋のドアの向こうから覗いていた。

 

「ロンやハーマイオニーはどうしたね?」

「ホグズミードです」

 

 何気無く言ったつもりだったが、今の気持ちからかぶっきらぼうになってしまった。

 リーマスはそんなハリーをじっと観察している。

 

「ちょっと中に入らないか? ちょうど次の授業用のグリンデローが届いたところだ」

「何がですって?」

 

 リーマスの出した名詞の意味は知らなかったが、暇であったこともあり、少なからずハリーは興味を引かれた。

 言われるがままに部屋に入ると、部屋の隅に大きな水槽が置いてある。

 鋭い角を生やした緑色の生き物が、ガラスに顔を押し付けて百面相をしたり、細長い指を曲げ伸ばしたりしていた。

 そして、その水槽の傍にいたアルテは、いつもと違い帽子を外し、私服でリラックスしている。

 

「この水槽のがグリンデロー。水魔だよ。アルテ、説明は出来るかい?」

「湖に住む水魔。握力が強いけど、指は脆くて折れやすい。この指を片付ければ、簡単に退治できる」

「そう。これはそんなに難しくないよ。この間河童を習ったばかりだからね」

 

 何故彼女がここにいるのか、という疑問は馬鹿馬鹿しいか、とハリーは思った。

 大方ホグズミードにも興味がなく、義父と共に過ごすことを選んだのだろう。

 

「紅茶はどうかな? 私たちもちょうど飲もうとしていたところだったんだ」

「えっと……はい、いただきます」

 

 親子の時間を邪魔するのもどうかと思ったが、特別リーマスもアルテも気にしてはいないようだった。

 ぎこちなくハリーが答えると、リーマスが杖でヤカンを叩く。

 たちまち湯気が吹き出す。

 流れるように杖を振ると、机の上から埃っぽい紅茶の缶が飛んできた。

 

「ティーバッグしかないがね。お茶の葉はうんざりだろう?」

 

 ハリーを見透かしているように、リーマスは言った。

 ハリーは選択授業の一つ、『占い学』で散々な目に遭っていた。

 どうやら担当のトレローニー教授に目を付けられてしまったらしく、毎度毎度不吉な予言を言い渡されていたのだ。

 しかし、リーマスが知っているのは不思議だった。アルテは占い学を取っていない。告げ口することも出来ない筈だ。

 

「どうしてご存知なんです?」

「マクゴナガル先生が教えてくださった。気にしてはいないだろうね?」

「いいえ」

 

 マクゴナガルは気にしなくてもいいと断じた。

 それで少しは気が楽になっていた。

 それに――リーマスに臆病者だと思われたくなかった。

 紅茶を淹れたコップを渡される。縁が少し欠けていた。

 温かいカップの熱を感じながら――ハリーは疑問だったことを口にした。

 

「先生、ボガートと戦ったあの日のことを覚えていらっしゃいますか?」

「ああ」

「どうして僕に戦わせてくださらなかったのですか?」

 

 スリザリン生の授業の後、勿論グリフィンドール生も防衛術を受けた。

 その時もボガートを扱い、スリザリン生の時のようなトラブルもなく、見事退治に成功した。

 しかし、その時ハリーに近付いていたボガートの前に、リーマスは庇うように立ちはだかったのだ。

 リーマスはその問いに、少しだけ眉を上げる。

 

「……ハリー、言わなくとも分かることだと思っていたが……」

「どうしてですか……?」

「――そうだね。ボガートが君に立ち向かったら――」

 

 眉を顰め、アルテの方を見た。

 首を傾げるアルテは聞かれることは好ましくなかったが、言わなければハリーも納得しないだろう。

 

「……立ち向かったら、ヴォルデモート卿の姿になるだろうと思った」

「っ――」

 

 アルテの耳がピンと立った。

 反応したアルテをリーマスは手で制し、続ける。

 

「確かに私の思い違いだった。しかし、あの職員室でヴォルデモート卿の姿が現れるのは良くないと思った。皆が恐怖に駆られるだろうからね」

 

 その危険があったのは、アルテとハリーの二人だった。

 ゆえに、最初のスリザリンの授業でもアルテに相手させるのは避けようとしていたのだ。

 結果としてボガートは独りでにアルテに近付き、変身した。

 幸いヴォルデモートにはならなかったが、その結果は更に理解できないものになってしまった。

 

「……最初は確かに、ヴォルデモート卿を思い浮かべました。でも、僕……僕は吸魂鬼のことを思い出したんです」

「そうか――感心したよ。君が最も恐れているのは恐怖そのものなのか。ハリー、とても賢明なことだよ」

 

 それは、ハリーにとって最も新鮮で、鮮明な恐怖だった。

 リーマスはそのハリーの恐怖に、考え深げに微笑んだ。

 

「先生、あの、吸魂鬼のことなんですが――」

 

 少しだけ気が楽になったハリーが、それを言おうとした時、ドアをノックする音で話が中断された。

 

「どうぞ」

 

 リーマスが入室を許可すると、ドアが開く。

 スネイプだった。手にしたゴブレットから微かに煙が上がっている。

 アルテを一瞥し、そしてハリーの姿を見つけると足を止め、暗い目を細めた。

 

「ああ、セブルス。どうもありがとう。このデスクに置いていってくれないか?」

「ふん。親子の時間を邪魔したな」

 

 ハリーを無視し、机にゴブレットを置く。

 

「ルーピン、すぐに飲みたまえ」

「はいはい、そうします」

「一鍋分を煎じた。もっと必要とあらば――」

「多分、明日また少し飲まないと。セブルス、ありがとう」

「礼には及ばん」

 

 スネイプはニコリともせず、後退りして部屋を出て行った。

 ハリーは怪訝にゴブレットを見ていた。アルテは警戒するようにゴブレットに近付き、危険そうであればすぐに引っ繰り返してやろうという様子で、匂いを嗅いだ。

 

「大丈夫だよ。スネイプ先生が私のためにわざわざ調合してくださった。私はどうも昔から薬を煎じるのは苦手でね。これは特に複雑なんだ。アルテ、“あの薬”だよ、危険はない」

 

 リーマスはアルテにそう言うと、アルテはすぐに引っ込んだ。

 それは、真実リーマスにとって生命線になりうる薬だ。

 ごく最近開発された薬であり、非常に調合が難しく購入も容易ではない。

 財政難の続くルーピン家ではこの薬の購入はままならない。

 しかし、この仕事に就くにおいてこれは必須であり、ダンブルドアを通してリーマスはスネイプに調合を依頼していたのだ。

 

「あの薬って……?」

「体の調子を整える薬さ。この頃どうも悪くてね、この薬しか効かないんだ。これを調合できる魔法使いは本当に少ない。砂糖を入れると効き目がなくなるのは残念だが」

 

 ハリーに薬の説明をしてから、一口飲む。

 とても苦い薬らしい。顔を歪めて身震いするリーマスを、アルテは心配そうに見ている。

 その薬を、ハリーは叩き落としてしまいたかった。

 薬を飲むリーマスはより調子を悪くしているように見える。スネイプをまったく信用していないハリーには、余計そう見えた。

 実際は、飲まなければそれより悪くなるのだが、ハリーはそんなことを知らない。

 その薬を通じて、スネイプが悪だくみをしているようにしか思えなかった。

 

「……スネイプ先生は、闇の魔術にとても関心があるんです」

「そう?」

 

 ハリーは思わず口走る。リーマスは感心なさげだった。

 続けるのは躊躇われた。だが、高みから飛び降りるような気持ちで、思い切って言った。

 

「人によっては――スネイプ先生は『闇の魔術に対する防衛術』の座を手に入れるためなら何でもするだろうって、そういう人はいます」

 

 そこまで言っても、やはりリーマスは意に介していなかった。

 ハリーの言葉を聞きながら、ゴブレットを飲み干し、顔をしかめる。

 堪えていないリーマスの様子に、ハリーは唇を噛んだ。

 嫌味なだけのスネイプをリーマスは信頼しているようなのが、余計に癪だった。




※娘をダシに使うリーマス(本心)。
※ハー子よりガチなレポート。
※一人ヒッポグリフと戯れるアルテ。
※まだ分からないアルテ。
※何となく察するダフネ。
※ホグズミード<<<越えられない壁<<<義父。
※雑談でもお辞儀様の名前には反応するアルテ。
※ハリーガン無視のスネイプ。
※アルテは薬の正体を知ってます。

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