ハリー・ポッターと継ぎ接ぎの子   作:けっぺん

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四人の代表選手

 

 

 翌日は土曜日だった。

 アルテたち四人は何となくで、玄関ホール近くにいた。

 引かれた年齢線を越えようとする、十七歳未満の生徒は出てこなかった。

 老け薬などを用意すれば、挑戦は出来るかもしれない。

 そんな生徒さえ出てこなかったのは、それよりも確実な方法が提示されたからだろう。

 ホールの一角に出来た人だかり。

 その中心にいたのは、アーテー・アーキメイラだった。

 

「初めまして! フレッド・ウィーズリーです!」

「ジョージ・ウィーズリーです! ホグワーツ、グリフィンドールです!」

 

 ゴブレットに名前を入れた上級生たちも、その年齢に満たない生徒たちも、試合に挑む意欲を持つ者は殆どがアーテーに声を掛けていた。

 前者は、ゴブレットに選ばれなかった場合の保険として。

 後者は、彼女から推薦されるという参加の唯一の可能性を高めるため。

 己が如何に選手に相応しい生徒であるかをアピールしているのである。

 

「あら、双子なのね。選手に選ばれるのは一人だけよ?」

「分かってます!」

「優勝したら、賞金は山分けにするんです!」

 

 積極的に話し掛ける生徒たち一人ひとりに微笑みかけ、その評価らしきものを手元の紙に記しているアーテー。

 アルテたちは特に参加を希望してはいないため、それを遠巻きに眺めているだけだったが、それでも彼女の人の好さが見て取れた。

 

「あれがエリスの母親ねぇ……似てなさすぎない?」

 

 アーテーを眺めながら、ミリセントが言う。

 それは生徒たちが少なからず思っていたことではあった。

 親子というにはエリスとアーテーはあまりにも似ていない。

 

「事情があるんだろうけど……それを言うなら、他の二人もよね」

「お兄さんと妹さんって言ってたね……何処にいるんだろ」

 

 昨日大広間にやってきた兄妹だという二人は、あれから姿を見せていない。

 どうやらアーテー以外はこの対抗試合に積極的に関わっている訳ではないらしい。

 

「今話してるのはウィーズリーの双子で……これまでゴブレットに名前を入れたのは?」

「ワリントンが入れてたわね。それからグリフィンドールのジョンソンに、ハッフルパフのディゴリーでしょ――」

 

 その中でも、名前を入れた後アーテーに声を掛けなかったのは、四人の知る中ではセドリック・ディゴリーくらいか。

 それほどまでに、皆代表として選抜されることを望んでいるのだ。

 

「うーん……誰もかれもパッとしないわね。ボーバトンとダームストラングは全員入れてたんだっけ?」

「うん。元々全員、代表候補として来ていたみたいだし」

「推薦枠がホグワーツ以外から出るのは避けてほしいわね……かといって、あの人が何を基準にしているか知らないけど」

 

 単純にホグワーツに優勝が齎される可能性を増やすためにも、アーキメイラの推薦枠は是非ともホグワーツが獲得したいところだ。

 しかし、当然ながらアーテーと話しているのはホグワーツ生だけではない。

 それに、アーテーが何をもって推薦する生徒を決定するのかも不明だ。

 ああして声を掛けている生徒だけを候補としているという訳でもないだろう。

 

「推薦なら十七歳未満もアリなんでしょ? ならアルテって線もあるんじゃない? 去年の成績、かなり良かったし」

「やる気はない」

「まあそうだよね……」

 

 相変わらずのアルテ。脱狼薬の材料を購入して余りある賞金は惹かれるものがあるが、それでも参加したいとは思わない。

 今自分が持つ、どの目的にも直接関係のない試合だ。

 そんなことに一年間縛られるなど御免だった。

 

 

 

 その日の夜、ハロウィン・パーティは例年より盛大に行われた。

 甘味に満たされている訳ではない豪華な料理の数々。

 しかし、それらに完全に心を奪われているのはアルテくらいであった。

 何故ならば、これから試合を戦うべき代表選手が発表される。

 たった一枠ながら、誰しもが選手となりうる可能性がある枠が存在するだけに、誰もが気が気でなかった。

 

「さて、ゴブレットはほぼ決定したようじゃ。わしの見込みでは、あと一分ほどじゃの」

 

 その皿が一頻り片付いた頃、ダンブルドアが立ち上がった。

 誰が代表となるか談義をしていた生徒たちが一瞬にして静まり返る。

 

「さて、代表選手の名前が呼ばれたら、その者は大広間の一番前に来るがよい。そしてあちらの部屋に入るよう。そこで最初の指示が与えられるであろう」

 

 ダンブルドアは教職員テーブルの後ろの扉を示して言う。

 そこに招かれるべき生徒は四人。

 その内三人が、今、ゴブレットにより決定される。

 ダンブルドアが杖を大きく一振りすると、大広間の蝋燭が全て消える。

 真っ暗な部屋の中で、ゴブレットの炎が明々と輝いている。

 静寂の中、ゴブレットの炎が一際大きく燃え上がり、火花が飛び散り始める。

 そして炎の舌先から焦げた羊皮紙が一枚飛び出し、ダンブルドアがそれを捕らえた。

 生徒たちが――特にゴブレットに名前を入れた者たちが、固唾を飲む。

 ゴブレットの明かりで紙を照らし、そこに書かれた名をダンブルドアが読み上げる。

 

「ダームストラングの代表選手は――ビクトール・クラム!」

 

 大広間中が大歓声と拍手に包まれる。

 その男が代表に選ばれるのを望んでいたのは何もダームストラングだけではない。

 クィディッチの世界的名選手である彼は他校の祝福も受けつつ、立ち上がった。

 

「ブラボー、ビクトール! わかっていたぞ! 君がこうなるのは!」

 

 拍手の音にも関わらず全員に聞こえるほどの大声でカルカロフが吠える。

 どうやらクラムはカルカロフが目を掛けている生徒らしい。

 前かがみでダンブルドアの方へと歩き、そして隣の部屋に消えていくクラムを最後まで祝福していた。

 そして再び静まり返ると同時、もう一度炎が大きくなる。

 

「ボーバトン代表選手は――フラー・デラクール!」

 

 レイブンクローの席にいた、ボーバトン生の中でも一際美しい少女が立ち上がった。

 シルバーブロントの豊かな髪をサッと振って後ろに流し、テーブルの間をすべるように進んでいく。

 しかしながら、クラムと違い大歓迎とはいかないらしい。

 他のボーバトン生の中には失意で泣き出す生徒までいる。

 フラーが立ち去ると、選ばれなかった生徒たちのすすり泣く声以外の音が消え去る。

 そして三度、ゴブレットが燃え上がった。

 かの杯によって選ばれる最後の生徒。

 巻き上がった紙をダンブルドアが取り、読み上げるまでの時間は異常に長く感じられた。

 

「――ホグワーツの代表選手は、セドリック・ディゴリー!」

 

 その時のハッフルパフのテーブルの歓声は凄まじかった。

 生徒たちは総立ちになり、足を踏み鳴らしながら叫ぶ。

 セドリックは爽やかな笑みを浮かべながらその中を通り抜け、隣の部屋へと向かっていく。

 あまりにも拍手が長々と続いたため、ダンブルドアが話し出すまでに暫く間を置かなければならないほどだった。

 

「結構、結構! それでは最後の選手を発表してもらうとしよう!」

 

 ダンブルドアの隣にアーテーが歩み出る。

 手には何も持っていない。

 読み上げるまでもなく、選ぶべき生徒は決まっているらしい。

 もう一度、大広間が静まり返る。

 

「炎のゴブレットと同じく、私たちも推薦する生徒を一人、決定しました。この生徒ならば、必ず対抗試合の四人目として相応しく、皆様を楽しませることでしょう。どうか皆様、盛大な拍手を」

 

 蕩けるような微笑みで生徒たちを見渡すアーテー。

 また、アルテは彼女と目があった気がした。

 ――いや、今回は気のせいではない。視線が交差した一瞬、アーテーが笑みを深めたのを、アルテは見逃さなかった。

 

「推薦選手は、ホグワーツ――」

 

 その一言で、二校の生徒は露骨に落胆した。

 これで二校は、先の代表選手のみが頼みの綱となる。

 そしてホグワーツ生は誰が呼ばれるかと、今一度息を呑む。

 

「スリザリン、四年生――――」

 

 

 

 ――アルテ・ルーピン。

 

 

 

 その名が呼ばれ、拍手が巻き起こったのは、数秒遅れてからだった。

 そして拍手もセドリックのように、万雷の喝采とはいかない。

 スリザリン、かつ色々な意味で悪名高いアルテ・ルーピンだ。

 迷いなく歓声を送っているのはスリザリンの四年生以下くらいであり、当の本人に至っては怪訝そうに目を細めていた。

 

「アルテが……!?」

「やったじゃない、アルテ!」

「ほら! 前!」

 

 パンジーたちに促され、そして自分に向けられる拍手があまりに煩わしくなったのか、至極面倒そうにアルテが立ち上がる。

 歩いている間も視線を受け続けるのは、ひどく鬱陶しかった。

 アーテーの前まで歩いていき、非難の意を込めて睨みつけるが、対する彼女は笑みを返すばかり。

 

「では、こっちへ。行きましょう」

 

 アルテの非難を無視し、背中に手を置いて連れ添い隣の部屋に向かう。

 扉を開け、部屋まで繋がる小さな通路まで来ると、アルテは立ち止まり、もう一度アーテーを睨みつけた。

 

「ん? どうかした?」

「選手になるつもりはない」

 

 拒絶を受けても、アーテーの表情は僅か崩れることすらなかった。

 その表情を変えないまま、コテンと首を傾げ、問いかける。

 

「辞退すると?」

「そう」

「ふぅん……確かに。貴女に関しては例外的に選手としての魔法契約は結ばれていないけど……」

 

 であれば問題ない、とアルテは踵を返そうとした。

 その背中に掛けられる、囁くような言葉も、無視するつもりだった。

 

「――――ヴォルデモート」

「ッ」

 

 その、何よりも己が執着する名前に、アルテは咄嗟に振り返る。

 左右の頬に冷たい手が置かれた。

 鼻が触れ合うほどの近さに顔が迫る。

 その何処までも深く続くような瞳が、まっすぐアルテに向けられる。

 

「ヴォルデモートを殺したい。誰が手を出すよりも早く、自分がその首に手を掛けたい。そう思わない? 思うわよね? そうでしょう?」

「ッ――」

「だけど今の貴女では足りない。どれだけ運が良くても、今の貴女では殺せない」

 

 否定しようと思った。

 しかし、出来ない。

 その瞳が力不足を暴き自覚させるようにアルテを覗き込む。

 自分の全てを知っている、そしてその上で動いていたような物言い。

 己を見透かす眼前の女性に、彼女が口にした敵の名に――この日初めて、アルテは息を呑んだ。

 

「だから、私が貴女を強くしてあげる」

 

 それが本懐かの如く、アーテーはより笑みを深める。

 

「この試合を通して、貴女がヴォルデモートと戦えるまでに。貴女が持つべき武器を、この一年で教えてあげる」

「……何故、わたしに?」

「――それはね」

 

 一瞬、その目が大きく開かれた。

 それを伝えたくて仕方がなかった――そういう風に、アルテには見えた。

 

「貴女が、他のどんなモノよりヴォルデモートを殺すべき存在だから」

 

 ――己の望みを、その時初めてアルテは肯定された。

 

「ヴォルデモートを殺すことだけが貴女の存在意義。ならば、今の話にならない貴女に――無価値の貴女に価値を与えてあげる」

 

 誰もかれもが否定する。

 しかしそれでも、自分にはそれしかないと思っていたことを。

 闇の帝王を殺すことこそを生きる理由として定めているアルテを、初めて他者が理解した。

 

「辞めたければ辞めればいいわ。だけどそうすれば、貴女は最後まで無価値のまま。成したいことも霧散して、貴女は貴女を認められなくなる」

「ッ」

「それは嫌でしょう? なら、行きましょう。戦いましょう。一年後、貴女は間違いなく、ヴォルデモートに手を伸ばせるモノになっているわ」

「……」

 

 答えはしなかった。

 しかし、大金よりも、地位よりも、あまりに甘美な誘惑だった。

 アルテに抗う術などない。それが例え大法螺だとしても、初めての己の理解者の言葉を、断る理由が生まれてこなかった。

 その、決意の色を見て取ったのだろう。

 アーテーは顔を離し、手を再びアルテの背中に置いて、選手たちの待つ部屋へと誘う。

 

 ――かくして。

 強さを求め、その先の、たった一つの命を刈り取るため。

 他の誰とも違う、唯一の理由をもって、アルテ・ルーピンは第四の選手となった。




※四人の代表選手(正規)
※面接の自己アピール的なヤツ。
※お約束。
※選ばれて尚拒否るアルテ。
※アーテーママのカウンセリング。
※初めての理解者。
※参戦決意。
※空気のハリー。多分今頃ゴブレットが紙吐き出そうとしてる。

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