「八神」
土曜のお昼過ぎ、図書館へと向かおうとした私にザフィーラが声をかけてきました。普段ザフィーラが声をかけてくることはほとんどなく、いつも私からというパターンが多いのですが。
そうそう、ザフィーラはあれ以来私を八神と呼びます。「主」と呼ばれないだけいいのですが、出来れば「はやて」って呼んでほしいわぁ。
「どしたん、ザフィーラ?」
「少し離れた公園まで行くのだが、一緒に行かないか」
おぉ、これまた珍しいです。散歩のお誘いなんて少し前に一回行ったっきりで。私は足が不自由やから散歩の邪魔になってしまいますから。
「えぇの?」
「あぁ。我は気分がいいからな」
日中は守護騎士達といられる時間が少ないので、こういうお誘いは大歓迎です。こうしてはいられません。早く支度をしなくては。
「ちょぉ待ってな、すぐ車椅子に……」
「その心配はない」
外出するための車椅子の準備をしようとするとザフィーラが待ったをかけてきました。いったいなんでしょう?
「我は気分がいいと言っただろう。我の背中に乗るといい」
◇◇◇◇◇
凄い、凄い! 気分はすっかりもののけなお姫様。毛並みもふわふわで乗り心地は最高です。
たぶん私を乗せているので歩きづらいと思いますが、文句の一つも言わないザフィーラに感謝です。
「ありがとうな、ザフィーラ」
「気にするな。この程度なら何の障害にもならん」
サラッと言うザフィーラ。とってもカッコいいです。きっと近所に住んでるジェシー(犬)もフランソワ(犬)も花子(犬)もザフィーラにメロメロです。
なんて、私がザフィーラにメロメロになっているとザフィーラが歩きを止めました。海の見える大きな公園なのですが、ここは……。
「ここって今日ヴィータが行くって言っとった場所やん。ヴィータになにか用があるん?」
「……いや、ただの偶然だ」
偶然、なのでしょうか。なにかザフィーラには思惑が……はっ!?
もしかすると家で暇そうにしていた私を気遣ってヴィータの元へ運んできてくれたのかも知れません。ザフィーラは恥ずかしがり屋だから本当のことを言えなかったのかも。だとすると、とっても嬉しいです。私のことを考えてくれて。
「おおきにな、ザフィーラ」
「何のことだ?」
照れてとぼけているのでしょう。こういう男性を「クール」とか「ツンデレ」とか言うんでしたっけ? シャマルが言ってた気がします。
公園に入るとお目当てのヴィータ達を簡単に見つけることが出来ました。バドミントンに夢中になっているようでしたが、ヴィータはいち早く気が付いたようで、こちらを見ています。
「はやて! ……と、ザフィーラ。お前またなのは目当てで……」
「偶然だ」
「いや、偶然って……あたしここに行くって家で言ってたじゃ」
「偶然だ」
「……まぁいいけどさ」
何やらザフィーラ達は内緒話をしています。おそらく私のことだと思いますが、ザフィーラは私を気遣ってここへ連れてきてくれたのですから、あまり責めないであげてほしいです。
「こんにちは、はやて」
おっと、そうしてるうちになのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんも近付いてきてくれました。
「こんにちはや、皆。遊んでるとこ悪いなぁ」
「悪くなんてないわよ。それと疲れてちょっと休憩したいと思ってたからナイスタイミングだったわ」
「ふふ、私はまだまだ疲れてないよ?」
「すずかと一緒にしないでよ……なのはなんてけっこうギリギリだったわよ?」
「にゃはは……うん、かなーり疲れてました……」
「あはは……」
なのはちゃんは運動が苦手なので、運動が得意なアリサちゃん、すずかちゃんにスポーツで勝ってるところをあまり見たことがありません。体力も2人より少ないのでしょう。それでも私よりはずっと動けますが。腕相撲なら得意なんやけどなぁ。
「しかし凄いわねザフィーラ。はやてを乗っけて動きまわるなんて。私の家の子達じゃとても無理よ」
アリサちゃんの家にはたくさんワンコがいます。大きいのから小さいのまで。その中で一番大きい子でも、ザフィーラには適わないなんて、家族としては鼻高々です。
すると、ザフィーラが口を開きました。
「我は守護獣で、狼だ。犬と比べるでない」
「ぶふぉ!?」
「ぶー!?」
「うわ、きったね!」
ザフィーラが口を開けば、アリサちゃんとすずかちゃんも口を開きました。同時に唾も飛び出してヴィータにかかってしまっています。
それにしても、アリサちゃん達は何を驚いたのでしょう。ザフィーラが犬やなくて狼だったのが意外だったのでしょうか。
「どしたん、アリサちゃんにすずかちゃん?」
「えぇ!? はやてはスルーなの!? 今のスルーなの!?」
「落ち着いてアリサちゃん!」
慌てていますが、慌てる理由がさっぱりです。なのはちゃんも不思議そうに首を傾げています。
「……今の、なのはは聞こえてかった?」
「ふぇ、何が?」
「……聞いてないならいいわ」
アリサちゃんは何かを諦めたようです。いったいなんだったのでしょう。
「……さて」
ザフィーラのつぶやきと共に、体が発光しだします。どうやら変身するようです。
「ぶー!?」
「ぶふぉ!?」
……そしてやっぱりアリサちゃんとすずかちゃんは吹き出します。
「どうしたんアリサちゃん、すずかちゃん?」
「えぇ!? これもスルーなの!?」
「落ち着きなさいすずか! こんな時は素数を数えるのよ。2、4、6、8、10……」
「それ偶数だぞ、アリサ」
すずかちゃん達とヴィータが楽しそうにしているなか、人間体型になったザフィーラとなのはちゃんは挨拶中のようです。
「こんにちは、ザフィーラさん!」
「お久しぶりです、主」
そうでした、ザフィーラはなのはちゃんの家族になったのでした。ちょっとさみしいです。
「なのはは普通に受け入れてるし……魔法って隠すもんじゃないの? 私たちがおかしいの?」
「あきらめよう、アリサちゃん」
「そうね。これ以上は心臓に悪いわ」
アリサちゃんがお年寄りみたいなことを言っていますが、なにを驚いたんでしょうか。私にはわかりません。
「ザフィーラはほっといてさ、早くさっきの続きやろうぜ! はやてはあたしの応援してくれよな!」
「うん、がんばってな、ヴィータ」
そうして、またバドミントン大会が始まったのでした。私はヴィータを応援しつつ、こっそりみんなのことも応援するのでした。
ちなみに、ザフィーラはというと。
「なーのは! はいっ! なーのは! はいっ! なーのは! はいっ!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
「せかいいち、かわいいよおおおおおお!」
こうしているうちに、駆け付けたなのはちゃんのお兄さんにぼこぼこにされていました。
なのはちゃんは、顔が真っ赤でした。
王国民ザフィーラのターン。どうしてこうなった。