「いきなりあんな馴れ馴れしくするとか絶対おかしいよ、」
「まあ、それはだな、……」
放課後の写真部の部室で、
俺は、昨日の木崎からの電話の内容を相田と早美都に打ち明けていた、
「そう、木崎さんは神崎くんが美咲ちゃんに取られないか心配だったんだね、」
何故だか一寸ホッとしてる早美都、
「でも、木崎さんとのお話を私達に打ち明けても構わなかったのですか?」
「木崎自身がお前に聞いてくれと頼んだんだから、背景込みで説明するのは何ら問題ないだろう、」
何だか一寸神妙な面持ちになってる相田美咲、
「それでは、私には未だ恋人としてお付き合いしたいと思っている人は居ないと、お伝えして頂けますか?」
「いいのか?」
「はい、」
俺には、木崎からの依頼には関係なく、この前から気になっている事がある、
「ところで、お前と時任は親公認の知り合いなんだろ、」
「はい、」
「それってつまり、お前達がもしも付き合いたいといえば、親は許してくれる、って、そういう事だったりするのか?」
「時任さんとは、父が口利きをして同じ高校に編入する事になったので、顔合わせで一度お会いしただけです、」
でもそれは答えになってない、
「上流階級のしきたりとかは知らないんだけど、付き合う相手はもしかして親に決められたりするのか?」
「そんなに気になりますか?」
何だか一寸上目遣いして頬を赤らめる相田美咲、
「別に、無理に聞きたい訳じゃないけど、」
「ウチは男女交際に関しては比較的自由ですよ、勿論、節度を守った上での事ですけれど、仲の良い男性のお友達と高校生らしいお付き合いをするのは止められていません、不純な行為に及ぶ事が許されないのは他のお家と同じです、」
そう言って相田美咲が作り笑いしながら俺を見る、
恐らく相田は嘘を付いている、
中学の頃相田は豊田と付き合っていて、相田の親が豊田との交際を認めずに豊田を北海道の全寮制高校とか海外留学に島流しして相田美咲との交際を邪魔していたのは事実だ、そしてそれだからこそ相田美咲はGW明けに、不純な行為に及んででも豊田を取り戻そうと考えていたのだ、
そんな相田の親がわざわざ男友達を美咲に顔合わせさせる、と言う事は十中八九、相田の親としては二人が付き合うように仕向けたい、と考えるのが妥当だろう、
家族ぐるみの付き合い、時任の家も金持ちっぽいし、家柄? もしかすると政略結婚的な何か?
「と、言う事は抜きにして、お前自身は時任の事はどう思ってるんだ?」
「時任さんはとても優しそうな人だと思いますが、何分未だよくお話しした事もないのでよく分かりません、」
「少なくとも嫌な奴ではない訳だな、」
「この学校で私に意地悪な事をするのは宗次朗くらいですよ、」
そう言いながら相田美咲はもう一度笑った、
ーーー
別に相田美咲が時任真斗に盗られるのが嫌だ、とかそう言う魂胆ではなく、俺は友達として相田美咲が望まない恋愛を強制される事が我慢できない、きっとそうなのだ、
あの日、相田美咲が酒の力を借りて零したセリフが、今でも頭の片隅にこびりついている、
「どうせキスなんかその内、嫌でもしなくちゃならなくなるんですから、……」
高校一年生の女子が、一体どんな気持ちでこんな事を言ったのか、
俺だって駆け引きとか探り合いの道具にされるのはまっぴらごめんだが、もしも少しでも俺に出来る事があるのなら出来る限りの事をやってやりたい、少なくとも時任真斗が良い奴で、相田美咲を任せられる奴であるかどうかは確認しておきたい、
この俺のモヤモヤした胸の奥の気持ち悪さは、つまりきっとそう言う事なのだ、
ーーー
23時過ぎ、明日の授業の宿題を片付けていると、携帯電話の着信音が鳴った、
「ごめんねぇ、遅くなっちゃった、」
木崎朋恵の人懐っこい声が耳に纏わり付いてくる、
「お前、何時もこんな遅くまでバイトしてんのか?」
19時過ぎに一度LINEで連絡した際に、木崎からは今バイト中なので終わったらこっちから連絡する、と返信が届いていた、
「ううん、バイト上がって、帰ってからご飯食べて、お風呂入ってきた、今上がってきた所、どんな格好してると思う?」
「知らん、どうせまた録音してんだろ、」
「えー、今日はしてないよ、」
「信じられん、」
「酷くない? 信じようよ!」
「それよりこないだの事、相田に聞いといたぞ、」
「まじ、それでわかったの?」
「相田は今好きな奴はいないってさ、神崎の事も何とも思ってないそうだ、」
「うそ!良かったぁ!」
「あ、でも、もしも神崎くんが相田さんにアプローチしたらこの先の事は分からないよね、そっちどうしよっかな、」
「それはお前がさっさと神崎に告白するしかないだろ、」
「マジか、無理ぃ、」
「ところで、こっちからも質問いいか?」
「私はどっちかってっとクリ派かな、」
「いや、そう言う情報もう良いです、」
「中だとネイル可愛く盛れないしね、」
「お前誰とでもそんな話してんのか?」
「えー、酷〜い、京もっちだけだって、」
めんどくさいからのスルー、
「時任ってどんな奴なんだ?」
「私はあんまり興味ないけど、すっごい綺麗な子だよね、」
「どういう所がモテてるんだ?」
「優しいとこ? 誰にでも親切っぽいし、一寸エロいらしいけど、」
「何だよ、エロいって?」
「スキンシップ過多? イギリス流って言うの? 直ぐに手を握ってきたりハグしたりするみたい、でもいやらしさは無いから皆やられて喜んでる感じだけど、」
「木崎は時任の事はあまり興味ないのか?」
「うーん、趣味の問題かな、私はどっちかと言うと甘やすのが好きなタイプだからね、神崎くんってさ、見た目リーダーシップでグイグイ引っ張るんだけど恋愛関係になると途端に奥手で恥ずかしがりなんだよね、そこが可愛いと言うか食べちゃいたいと言うか、でも時任くんって根っからの王子様? 全部完璧リードしてくれる、みたいな、一寸私の趣味とは違うかな、顔は綺麗だけどね、」
「成る程ね、」
「どったの? まさか京もっちも時任くん狙いとか? 良いねそれ! もち京もっちが受け? いや違うか、まさかの攻め!? なんか良くない? 嘘、具体的にどう言う所が気になってる訳? 私めっちゃ応援するし!……」
この後クラスのBL相関図について、30分間付き合わされた、
ーーー
「彼を知り己を知れば百戦危うからず」とは孫子の言葉だが、戦いに勝つ為に先ず必要なのは、何はともあれ「情報」である、
と言う訳で、俺は時任真斗を暫し観察する事にした、
2限後の休み時間、上級生女子が時任を訪ねて来る、どうやら部活の勧誘らしい、
時任は如何にも卒なく、さらっと握手する、
ところが、日本人は握手ですらスキンシップに慣れていない民族である、上級生女子は予想外の行動に、多少の動揺を隠せない、
でもまあ、アイドル顔の時任に手を握られるのはどちらかと言えば不快ではない、
続いて、君だけに見せる真直ぐな視線と笑顔、
日本人はそんな風に見つめられる事にも慣れていない民族である、上級生女子は自分だけの「特別」に再び心を揺り動かされる、
あっという間に「ああ、この子良いかも、」っていう好意的な興味が膨れ上がっているのが傍目に見てもありありと伺えてしまう、
その上、時任の所作はさり気無くてしつこくない、
べたべたと何時までも触り続けるのは「ただのエロおやじ」だが、あくまでも爽やかに、手の届く距離に自分に優しく接してくれる綺麗な男子が居る、という状況が完成する、
そして今度は女子の方からの接触が始まる、
恐る恐る、特に意味のない軽い指先の接触だが、時任はそれを嫌がる素振りも無くむしろ嬉しそうに掌を被せたりして、…
思わず上級生、ほっぺた赤くなっちゃった、……それで、後は何だか上の空?
ーーー
昼休み、廊下ですれ違う女子達に、にこやかに挨拶する時任真斗、いや、よく見ると女子の方から話しかけてくる事の方が多い、
女子からの微妙なアイコンタクトを抜け目なく拾って微笑み返し、……それですれ違い様に爽やかな一言、
それから、今度は女子が嬉しそうに笑いかける、
中には、自分から時任の背中をポンポン叩いたりして御茶目にスキンシップする女子もいる、そんな時も時任は嫌がる素振りも見せず、スキンシップにはスキンシップ返し、って、軽いハグで欧州風挨拶??迄するのか?
見ている限り時任は、滅多な事では自分の方から過剰な接触を試みず、あくまでも相手からの接触に応じて反応しているらしい、しかも絶対に相手の嫌がる事はせず、相手が求めるレベルに応じてスキンシップする、去る者は追わず、来るものは拒まず、美人不美人に関わりなく、博愛主義的な対応、
まさにまるで王子様だな、……
だとすると一体、奴の目的は何なのだろう?
男子に同じ事をしない所を見ると、やはり標的は女子らしいのは明らかなのだが、自分の方からどんどんエスカレートしてついついエロい方に破綻するとか、変に恥ずかしがって雰囲気台無しにするとかそういう気配が一切見られない、パーフェクトスマート、こう言うところが木崎の趣味に合わない、と言う事か、
それに、全ての女子に愛想良くふるまって、一体何が嬉しいんだ?
本当に奴は「博愛の戦士(女限定)」だとでも言うのだろうか?
ーーー
と、言う様な感じで一日中時任を観察していたら、
「宗次朗、なんか挙動不審だよ、」
早美都に嗜められた、