「宗次朗、部活行こ、」
「悪い、今日は休む、」
放課後、俺は早美都の誘いを断って鞄を引っ掴むと、……
帰りの挨拶もそそくさに教室を後にする、それで、
「有人!」
何時ものおちゃらけ遊び人グループと駄弁りながら下足室に向かっていた鎌塚有人を追い掛ける、
「よう、宗次朗、どったの?」
「お前、時任と遊びに行ったって、本当なのか?」
と言う事を風の噂に聞いた、
「ああ、このメンツでサイゼ行ったけど?」
「今から一寸、時間あるか?」
有人、暫し宙を仰ぎ見て、怪しげな含み笑いで俺を見て、
「良いよ、そう言や俺も宗次朗に話があったんだ、」
ーーー
鎌塚有人は同中である、
つまり俺の黒歴史の立会人その人なのであるが、中学時代はそれ程親しかった訳では無く、中学時代は今程おちゃらけた感じでは無い真面目な生徒だった、要するに高校デビューと言う奴だ、
有人が何時も連んでいる面子は、佐脇俊哉、鈴木遼、中川清の三人、
彼らの専らの活動内容は佐脇のバイト先の女子を接点とした合コンで、ビジョンは薔薇色のハーレム生活、目標は一年生の間に彼女を作ってやりまくる事、らしい、
俺と有人は自宅最寄駅近くのファーストフードレストランに入って、
「時任って、どんな奴なんだ?」
「一寸紳士っぽいのがウザいけど明るいし、良い奴だと思うぜ、」
俺はドリンクバーでコーラをチョイス、有人は怪しげなミックスジュースを調合、
「なんでまた時任と飯行く話になったんだ?」
「ぶっちゃけ、あいつと連んだらナンパとか成功率上がりそうじゃん、あいつも女子と話すんの好きそうだったし、仲間に入らないかって誘った訳だ、」
「それで、」
「まあ、あんまりそう言うの興味ないって、」
軟派な遊び人、と言う訳では無さそうで一寸安心、
「他にどんな話したんだ?」
「クラスのメンツの話とか、学校近くで遊べる所の情報交換とか、そん位かな、」
成る程、
「あいつって、今付き合ってる彼女いるのかな?」
「そこ迄は聞かなかったけど、合コン興味ないって言ってたからそうかもな、」
「そうなんだ、」
「もしかしてお前、そっち系に転向したのか?」
「は?」
「いや、失恋し過ぎで女子との恋愛諦めて男に走ったとか?」
どいつもこいつも、
「そんな訳無いだろう、」
「いや、相田さんと連んでて正気保ってる時点でお前もう男として終わってんじゃねえの?」
「どう言う意味だよ、」
「あんな完璧美少女が側にいたら普通手出すだろ、相田さんもお前の事満更でもなさそうだし、」
「何意味不明な事言ってんだよ、」
「それにお前最近木崎とも仲良いじゃん、どうやったら美少女と仲良くなれんのかコツを伝授してくれよ、」
「別に仲良い訳じゃない、初めから恋愛対象になってないから向こうも警戒しないで話しかけてくるだけの事だ、」
「それじゃ意味無いしな、」
「でもじゃあ、なんで時任の事なんか聞いてくるんだ?」
「いや、一寸気になっただけだけど、」
「なんで?」
「特に意味はないって、」
「それでわざわざ呼び出すとか無いだろう、隠すなって、」
「別に隠してないって、」
「まあ、周りがどんなに反対しようと俺は面白いから応援するけどな、」
「だから違うって、」
「でも、なんかあいつも怪しい所あんだよな、」
「どう言う意味?」
「あいつ今モテモテじゃん、隙さえあれば女子の方から話しかけてくるし、その気になりゃ誰とでもやりたい放題じゃん、」
「言い方、……」
「でもあんまり深く突っ込んで行かないっていうか、何時も挨拶位で浅く躱してるっていうか、なんか皆んなのアイドルっぽいんだよな、もしかしたら本当は女子に興味ないとか、女子よりも男が好きとか、」
「いや、そこはやっぱ彼女がいるって考えるのが妥当だろう、」
「まあ、女子ん中じゃ今その話題で持ちきりだけどな、多分、木曜の鍋パで質問コーナーとかやんじゃ無えの?」
「時任も来んの?」
「時任の歓迎会みたいなもんだから来るんじゃね?」
「そっか、」
「それでさ、こっちの方の要件なんだけど、良いかな?」
「何?」
「今度相田さんとの食事会とか設定してくんない?」
この後相田美咲に関する質問攻めで30分間付き合わされた、
ーーー
大体の予備知識的情報が把握できた所で、やはり一度直に本人と話をしてみる必要がありそうだと言う結論に至る、
誰に聞いても親切でイージーゴーイングな良い奴と言う印象なので、世間話に誘ってもいきなり頭ごなしに拒否られるとか引かれる、と言う事は無さそうだけれど、
幸いな事に今日時点では未だどのグループにも属していないので誘いやすといえば誘いやすいのだけれど、
実際なんて言って誘えば良い? どんな話をすれば良い?
此処はやはり正攻法で、不慣れな転校生に手を差し伸べる的な話しかけで、で良かったら友達にならないか、とか聞いてみるのが常套手段の様な気がする、
それでもし相田と時任が友達になって、お互いに惹かれあって恋人になったりしたら、……
ーーー
なんか一瞬いきなり思考停止した、
でもそれは一番良い結末かも知れなくて、
時任真斗が噂通りの良い奴で、相田の親も公認で、相田美咲も時任の事をもっとよく知れば好きになるかも知れなくて、あいつら二人がくっつくのがきっと一番良いに決まっている、
美男美女で、高嶺の花同士で、木崎の言う通りに二人がくっついてラジカルが安定すれば、残された皆んなは身の丈にあった学園ライフを送れる筈なのだ、
でも、なんかしっくりこないというか、直感的に腑に落ちないと言うか、
何か時任真斗には裏がある様な気がする、それがどう言う根拠なのかと言えば、それは単に俺のやっかみなのかも知れないのだけれど、
友達として、相田美咲を時任に盗られるのが嫌とかそう言う事では無くて、……
ーーー
幾ら考えても悶々と思考停止するだけで上手いアイデアが浮かばないので、もう当たって砕けろ、的に話しかける事にする、
「宗次朗、部活行こ、」
「悪い、今日も休む、」
放課後、俺は早美都の誘いを断って鞄を引っ掴むと、……
早美都が俺のシャツの裾を引っ張って来た、
「ねえ、何か隠し事してない?」
「別に、してない、」
「嘘、昨日も鎌塚くんとどっか行ったでしょ、」
まるで浮気を怪しむ彼女みたいに (彼女いた事ないけど)上目遣いで俺の事を睨み付ける早美都、
「ちょっと、中学の同窓会の件で、話があって、」
「本当に?」
眉間に皺を寄せて思いっきり怪しんでる、
「本当だ、」
「分かった、じゃあ、その代わりに今週末付き合ってよ、」
???
どう言う脈絡?
「別に良いけど、何すんの?」
「映画行かない?」
「なんか面白いのやってんのか?」
「一寸見たいのがあるんだ、午後とか大丈夫?」
「大丈夫だけど、」
「じゃあ、約束だよ、」
「分かった、」
と、言う感じで漸く早美都から解放されて、
俺は未だ廊下で女子に囲まれていた時任真斗に近づいて行って声を掛けた、
「時任、ちょっと良いか、」
時任、最初は一寸驚いた風に俺を見て、それから爽やかな笑顔で、
「良いよ、そう言えば僕も君に聞きたい事が有ったんだ、」
ーーー
30分後、JR東海道線上り、
最初俺たちは学校近くのショッピングモールのフードコートで話をしようとしたのだけれど、気が付くと周り中は興味津々に俺達を取り巻く女子達で溢れていて、これでは話もし辛いという事で時任の家に向かう事にした、
いきなり家に押しかける事になるとは思わなかった、
茅ヶ崎駅から海に向かって15分程歩いた所にある全身真っ黒な格好いいデザインの一戸建て、一階が全部ガレージになっていて、中はがらんどうだけれど高級外車とか大型バイクとか並べたらサマになりそうな雰囲気、奥の階段から二階に上がると今度は洒落たレストランかショットバーみたいな広いスペースにカウンターテーブルと部屋の隅には大きなソファー、
いや、生活感ゼロだろ、
「何か飲む?」
「いや、」
「リカーコーヒーでいい?」
「あ、うん、」
要らないと言ったつもりなのに御構い無しにウォルナットのでかいキッチンカウンターの向こう側に行って、何やら理科の実験器具みたいなのでサイフォンし始める時任真斗、
「それで、僕と話したかった事って何かな?」
やがてホンワカと珈琲の薫りが部屋に充満してきて、でも、……
何を聞けば良い?
一寸ノープラン過ぎたと今になって後悔する俺、
「学校、慣れたか?」
「お陰様で、みんな親切だしね、」
そう言ってニッコリ笑う時任真斗は、改めてしげしげ見ると滅茶苦茶美形!
俳優かモデルと言っても何ら差し支えないレベルの顔貌スタイル、背の高さは180cm位だろうか、175cmの俺よりも明らかに高い、それで細身の身体に鳩胸で綺麗な長い手足、サラサラの軽いウェイブがウルフカットにまとめられている、まさに少女漫画に出てきそうな超絶美形男子、
「あんまり他の男子と一緒に居る所を見なかったから、何か困ってる事が無いかと思って、」
「心配してくれたんだ、ありがとう、今の処特に困ってる事は無いよ、」
「こっちで友達は、出来たのか?」
「クラスメイトは皆んな友達だと思っていたけど、日本じゃ違うのかい?」
「まあそうだけど、それよりもっと親密と言うか、英語だとベストフレンドって言うのかな、色々腹を割ってなんでも言い合える信用できる友人って奴だ、」
「親友って奴だね、そう言う関係は一生の内に一人でも見つかれば良いんじゃ無いのかな?」
「まあ、そうかもな、」
以上会話終了、……それでフラスコからカップに移し入れた珈琲に、何やら茶色の小瓶からトロリとした液体を零し入れる時任真斗、
「どうぞ、」
「サンキュ、」
ひとくち口を付けると確かに珈琲なんだけどそれは何だか甘い、そして不思議な熱を帯びた液体、
「僕は君の事をなんて呼べば良いのかな?」
「何でも、京本でも、宗次朗でも、」
「じゃあ宗次朗、君は僕の事を心配してくれているみたいだけど、それは単なる親切心と言う訳では無さそうだね、」
「それは、……」
「僕の事を色々と聞いて回っていたみたいだけれど、理由を聞いても良いかな?」
もしかしなくてもバレていたらしい、
つまりそれなりに頭の切れる男、だと言う事か、
だとしたら下手な言い訳で誤魔化すよりも直球勝負で聞いた方が賢明と思われ、
「時任は相田と知り合いなんだろう、相田の事はどう思ってるんだ?」
「美咲の事だね、とても魅力的な女性だと思うよ、」
「相田と付き合うつもりなのか?」
「先の事は分からないけど、付き合えたら素敵だろうね、」
言いながら時任はショットグラスに茶色の小瓶の液体を注ぐと一口に飲み干す、
「そう言う宗次朗は美咲の事をどう思ってるんだい?」
「相田は俺にとっては大切な友達だ、」
「そうは見えないけどね、今日僕を呼び出したのは僕と美咲の関係が気になったからだろう、君の方こそ美咲に対して恋愛感情を持っているんじゃ無いのかい?」
「生憎、俺は恋愛が嫌いなんでな、それは有り得ない、」
「そう言えば、失恋王とか呼ばれているそうだね、」
コイツ、俺の事なんか眼中に無いと高を括っていたのだが、惚けた顔して何処まで知ってるんだ? もしかして一枚上手?
「そこまで知ってるなら分かるだろう、俺はアイツと友達以上の関係になろうとは思わないよ、」
「そう、なら良いんだ、今以上を望んでも手に入れる事は叶わないからね、最初からそれをわきまえていれば、後で辛い思いをしなくても済む、」
「どう言う意味だ?」
「実を言うと少し心配だったんだ、君が美咲のそばにいて仲良くしているのは一目で分かったからね、もしも君が美咲と恋人になれると勘違いしている様なら、説得して諦めさせ様と思って此処に呼んだんだよ、」
「それは、お前の意思なのか? それとも相田の父親からの指示なのか?」
「美咲に悪い虫が付かないか気にかけておいて欲しいと周一郎さんから頼まれたのは事実だよ、けど、君は悪い虫なのかい?」
「さあな、俺は相田の味方で居たいと思ってるだけだ、」
矢張り、コイツは相田父の息のかかった人間だと考えた方が良いだろう、
「俺はもしもお前がこの先、相田と付き合う様な事になるのなら、お前が相田にとって相応しい男なのかを確かめておきたいだけだ、」
「全くお節介な人だな、そういうのは日本では普通なのかい?」
「さあな、」
「君が心配しなくても美咲は美咲なりの恋愛をして彼女に相応しい結婚をするだろう、それを傍で見ているのが辛いなら今の内に美咲から離れる事を勧めるよ、」
そう言うと時任真斗は、甘い微笑みを浮かべて見せた、