ブラウニーズ・アクト   作:廓然大公

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Day2 二号機の憂鬱

 二日目、気が付いた時、目の前に広がってたのは知らない、いいや知りたくはなかった光景が広がっていた。あまりに広くそして大きな敷地に建てられた西洋風の城、その名をチェイテ。そして突き刺さるように鎮座する逆さ向きのピラミッド、そしてダメ押しとばかりに上に乗せられた日本風の白、姫路城。

そう、彼の目の前にはかの悪夢のチェイテピラミッド姫路城が聳え立っていた。

 

「まったく、頭痛がする」

「あら、英霊も風邪をひくのですか。用心したほうがよろしい」

傍らに聞こえたのは自分をここへといざなったメカエリチャン二号機が立っていた。

「本来ならばカルデアスもシバも整備している状況でレイシフトはできないはずなのだがな」

「それはあくまでマスターの問題です。人間がレイシフトするならば考慮しなければなりませんが英霊ならばそう難しことでもありません。小川マンションの時もいつの間にかサーヴァントたちがマンションの部屋に引き込まれていたように細工をすれば機器なしでもレイシフトは出来ます」

「なるほど」

「それに私はもともとここの領主ですのでここならば転移はたやすいこと。サーヴァント一騎くらいは手荷物程度の者です」

「それは随分とありがたい配慮だといっておこうか」

「その言葉はもらっておきましょうか」

そういって歩き出した彼女へとついていく。いつもならば常夜に思えるこの町ではあるものの今広がっているのは雲一つない綺麗な青空だった。時刻は正午を少し回ったころだろう。輝く太陽、澄み切った空、そして聳え立つチェイテピラミッド姫路城。この場所はチェイテ城から少し離れた雑木林の端ではあるもののこの町にいればあのチェイテピラミッド姫路城はどこからでも見えてしまう。方向を間違えることはないもののいつ何時も視界に入るあの名状しがたき城にしょってどこか正気が失われていくような感覚も得てしまう。さらにはハロウィンの一軒で城の傍らには少し前を歩く二号機を大きくしたような巨大な守護神像も屹立していた。

「私も詳しいわけではないが百面ダイスでも振ったほうがいいのかもしれないな」

「守護神です、決して邪神などではありません肝に銘じておいてください」

体は前を向いたまま首だけを後ろに回し視線をこちらへと向け注意してきた。

「首を回すなんてことをしていればさらにそれらしくなるぞ」

「それもそうですね」

そういいながら彼女は首を戻すと少しだけ勇み足となっていた歩調を並び歩くように少し遅くした。

「昨日試運転をしましたがやはり大幅なパワーアップに成功したと考えています。個人的計測値によれば握力やスピードなどこれまでの1.12倍の出力となったようです」

彼女は自分の背丈よりも大きなその金色の手を器用に振りながら歩いていく。本来ならば歩くだけでも引きずるような代物、それを一日で動かせるようになったという事実に少しばかり驚いていた。

「確かに日常生活を送る分にはいささか、いいえ多大なる不合理な点も観られました。これで一般的な幸福を得ようとするのならばそれは不可能といえるでしょう」

オブラートに包むことのない彼女の抜身の言葉は確かにその身を切るほどに辛辣で、しかしその分誠実でもあった。

「しかし、その分私ならばその役目は十二分に果たすことができる。この城、この町、そしてカルデアを害する敵に万雷の鉄槌を下す守護神としての役目には適切と判断します」

「あくまで今回は入れ替わっただけ、それが正式採用されたというわけではないことは忘れていないだろうな」

「肯定です。これで成功した場合パッションリップに要請し貸与、または精密な計測を行い、その複製を新たな武装として導入することも視野に入れています」

「彼女に対してあまり強引な行動を行うのならば私としてもいささか賛成はできんのだがね。克服していたとしても他人にコンプレックスへ介入されることは皆気分を害するだろう」

少しだけ語気の強くなった言葉に二号機も声に感情を載せることなく言った。

「あくまで仮定の話です」

横に立つ彼女、しかし間に挟んだ爪は大きく、どこか少女の表情は遠く見えた。

「二号機様、お帰りなさいあとで見に行きます」

「あ、二号機様、いいオイル入ったんです、終わったら見てってください」

「二ごーきさま、がんばってー」

チェイテ城下の町の通りを抜ければ口々に彼女へと声をかけるものであふれていた。ハロウィンも近づき、事ここの町ではクリスマスよりも盛大に祝われる祭り。その準備だろうか。収穫期として忙しくもあるものの、祭りの前、収穫祭を祝う実りの秋、そんな心地の良いせわしなさが流れているようだった。

「それにしても人気があるのだな」

「私が人気があるのではありません。この地に残りこの町を導いている初号機が人気があるのです。私はその二号機であることにすぎません」

民衆からの声に一つ一つ応えてはいるもののその言葉はどこか他人事にも聞こえた。

「上位互換がいる場合、下位の性能をもつものは決して人気にはなれないのです。与えられるのは判官びいきから生じる哀れみのみです」

淡々と言い放った彼女に表情はなく、ただ事実として、言い聞かせるように語った。

「それで、ここに来た目的は何か聞いてもかまわないか」

「直ぐに分かるわ」

彼女はそれ以上話す気はないのか少しだけ速足になるといくつかの小道を抜けたどり着いたのは賑わいを見せている大通り。しかし、それはチェイテ城へと向かう目抜き通りとも少しは離れていた。

「あ、二号機様だ」

「頑張ってくださいね」

「今日こそ大番狂わせだ」

人であふれかえるその大通り、しかし彼らは二号機を見つけると口々に声援や歓声を上げ、そしてそれはゆっくりと大きな二号機コールとなっていく。彼女はそれにこたえるようにわずか手を振り返しいつの間にか人が分かたれ大きく開かれた道の中央をゆっくりと歩いていく。それにつかず離れずついていくと、見えてきたのは大きな丸い壁だった。小さな門を敷き詰めたような、大きく、ゆるくカーブしていく石積みの構造物。一つの視界に収めるには大きすぎるそれは本来ならばこの場所にあるはずもない、いいや本来の所在地であるはずのローマにすらあるはずのない巨大な構造物。

闘技場、コロッセオがその姿を見せていた。

そして何よりその中央にたらされた大弾幕、そこには

『決戦!メカエリチャン初号機VSメカエリチャン二号機』

そう書かれていた。

 

「というわけでメカニックの英霊、チューンをお願いするわ」

控室につくと二号機はそう切り出した。聞くところによればどうやら今日は今シーズンの最終戦。これまですべての試合はドローとなりこの最終戦によってどちらがメカエリチャンを名乗るにふさわしいかが決定される。しかし、一昨年、そして昨年と開催してから今年で三回目、これまでの二年とも初号機にその名を奪われている。それ故に今年こそはと意気込んでいるらしい。

「このままではコンパチ、リデコ、2Pカラーといわれてしまうのも時間の問題。クリスマス商戦には新製品は出されず、ちょっとした拡張アイテムでお茶を濁されてしまう。良くてVシネになってもその知名度はいまいち。性能的には変わらないはずなのに」

「なるほど」

彼女がその手を使いたかった理由、それは初号機との決戦のため、性能の全く変わらない初号機との差をつけるためだったらしい。

「パッションリップの承諾も得ていますので」

「ならば私から言うことはないのだが」

「だが、とは」

「いいや、なんでもないさ。それよりもメンテナンスをするのだろう、手を」

彼女は少しだけ不服そうな視線を向けるがその言葉を追うことはなくゆっくりとその黄金の腕をさしだした。

 

じきに始まりの鐘が聞こえる。

 

 

 始まりはただの与太話だった。

オリジナルがどこかで聖杯を拾って、ハロウィンを作り上げて

その次の年には異国の女王と勇者の喜劇

そしてできた混沌ともいうべき新たなる特異点、チェイテピラミッド姫路城。

オリジナルのエリザベート・バートリーより良い治世を、良い生活を、良いハロウィンを。

それ故に作られたメカエリチャン初号機。

そして自分はその彼女を模して作られた二号機。

量産品。

廉価品。

オリジナルから遠く離れ、目的すらも見失ったガラクタ。

あくまで二号機。

カルデアへと赴き、得難いものを得た。経験を、知識を、そして思いを。

しかし、ここへと戻ればただの二号機。故郷を擦った守護神ですらなく、善政の機械領主と同じ顔を持つ模造品。同じ性能を持つはずのそれでも買うことのできないジャンク。

 体が熱を帯び、頭の端で無数のアラートが鳴り響く。排熱がやられ、冷却がうまくいかない。彼女の蹴りをいなしながら外装をパージして投げつける。一瞬のスキを突くも発射された弾頭を返される。小さく舌打ちをしてそのまま大きく距離を取る。背中の排熱ファンが損傷した、しかし外装を外したおかげでまだ熱暴走までは時間が出来た。既に互いに羽根はなく、塗装も大きく剥げている。向こうは左手を失い、こちらは腹部に大きな穴が開いている。傷は無数で稼働限界も五分といったところ。まったく同じ性能であるからこそわかる自分とそして相手の状態。だからこそ察してしまう。今回も又最後にはあいつが勝つ。またしても。今回も。

歓声は遠く

風景は彼方

勝利は見えず

でも

金の爪が見える。

 

「だからって、負けらんないのよっ」

 

 胸の炉に火を入れる。

あの時もらった回路を走らせる。

分かっている、感じている。こんなものはただの臍を曲げた子供のような癇癪だと。力の足りない自分への憤りだと。他人と比較する矮小な嫉妬だと。

変わることはできない、考え直すことはできない、この思いを捨て去ることなんてできない。

ならば、この思い全てを持ったまま彼女を超えるだけ。

ひねくれたこの心を持ったままそれでも歩くだけ。

何の解決にもならない。

それでも。

ふと笑みがこぼれる。

理論的なことではなく物理的なことではなく。

もらったのは不器用な友人たちの応援だけ。

「理論的じゃないわね」

「ようやく理解したのね」

彼女も又少しだけ笑ったように言った。

「受けきって見せなさい、鋼鉄天空魔嬢・ブレストゼロ・エリジェーベト」

こぶしを強く握った。

「無垢黄金魔嬢・ロマンシア・エリジェーベト」

雌雄は決した。

 

「何がロマンシア。エリジェーベトだ。そんな宝具あるわけないだろうが」

「ちょっと空気に流されただけです。それに宝具についてあなたには言われたく会いません。日本人なら日本語で名前をつけなさい」

傷だらけになった彼女を最低限整備していく。せめて決戦後の後夜祭には出られる程度には。

「それを言われると痛いがね」

彼女は良く晴れ、そしてくれていく空を眺めていた。

「よくそのままの手で挑んだものだ」

「仕方ないじゃない、これで挑戦を放棄したらあの子、それでも落ち込むじゃない」

今は彼女の意思によって動く黄金の爪ではあってもその機能は使えない。つまり今の手は大きく鋭いだけの爪。本来の持ち主でなければその力の二割程度、それはつまり本来の腕より格段に低い性能であったということ。

「つまり今の君は圧倒的に性能で負けてる初号機へと挑んだわけだが」

「どうでもいいわ」

彼女は言った。

「いつかあの子たちにもこの景色を見せたいわね」

暮れ行く夕日は夜の帳を呼び、そして柔らかな人の明かりを連れてきた。

輝く銀の旗を靡かせながら。

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