「またね、優衣ちゃん」
優衣「ありがとう、またね!肉屋のおばちゃん!」
私がお肉のお代を手渡した後におばちゃんが手を振ってくれる。私はそれに返すように、お礼を言って、手を振る。
ヒューー(風の音)
「んっ…」
風が私の肩に掛かった髪を靡かせる。わたしは手を耳のあたりに持って行き風で靡く髪を抑えながら晴天の空を見上げる。
奈々さん…お母さん達を助けてから3週間、私が家族になってから1ヶ月が過ぎていた。わたしは今、お母さんに頼まれたお使いを終えて帰るところだ。あれから私は、黒崎家の娘として平和に過ごしている。
朝早くに起きて、良太さん…お父さんの手伝いを行なって、お昼頃には私は先に家へ帰り、お父さんは飲食店の食べ物の余りなどを貰いに行く。食べ残し等は発酵させて土に含ませるといい肥料になるらしい。私が先に帰ると、お母さんと一緒に家事の手伝いを行う、今もこうしてお使いをこなしてるところだ。
優衣「ただいま〜!」
優衣は引き戸を開けながら、家へ帰ったことを伝える。草履を脱いで、台所へ向かい、膝を付いて床の保存室の扉を開く。中から少し寒いぐらいの冷気が出てくる。私はその中に今日買ったものを仕舞っていき、仕舞い終え顔を上げると、縁側から奈々が優衣の方に向かってきて、優衣を抱き締める。
奈々「おかえりなさい、優衣ちゃん」
優衣「ただいま、お母さん」
優衣の顔は奈々の丁度胸のあたりに埋まり、顔をひょこっと上に向けて告げる。奈々が、優衣の肩を掴み、顔の真正面に据えると「お使い、ありがとうね」と微笑み頭を撫でながら、声を掛ける。優衣も「エヘヘ…」と照れながら小さく頷く。
奈々「それで、頼みごとって何なの?」
優衣はお使いに行く前に、頼みごとをしていた。
奈々は母親として甘やかしてばかりは良くないと思ったのか、お使いを条件に聞いてあげることにしていた。しかし、優衣は普段わがままなど言わず、いつも2人を手伝ってくれている。だから、お使いをしなくても極力、優衣のわがままやお願いは叶えようと思っていた。
優衣「えっとね、お料理を教えて欲しいなぁ〜って…駄目…かな?」
奈々「え?…そんな事でいいの?」
優衣「う、うん、今日お父さんに畑で、お母さんの喜ぶ事聞いたら、お母さんにお料理を教えて欲しいって言ったら喜ぶって、それに、私もお母さんと一緒にお料理したかったから…」
優衣は両手の人差し指と人差し指を胸の前で指先同士を突きながら、顔を下に向けて言った。最後の言葉を出し終えるのと同時に上目遣いで奈々の方を見る。そのお願いに構えていた為か、拍子抜けなお願いのため呆けて質問した。結局の所、優衣はただ奈々の喜ぶ顔が見たかっただけであった。その意図の中には確かにお願いもあったが、奈々にとっては嬉しさと喜びで優衣をまた強く抱き締め、快く了承した。
奈々「駄目なんて事ないわ。お母さん、とても嬉しいわよ」
優衣「良かった〜!ありがとう、お母さん!」
奈々「ええ、宜しくね、優衣ちゃん」
嬉しいと言ってくれた奈々を見て、優衣は笑顔を見せながらお礼を言う。
それから、奈々は料理に使う材料を取り出す。取り出した材料の中から優衣に野菜を渡し、包丁の扱い方を教えていった。優衣の背中に回り背後から優衣の手に重なるように奈々の手を重ねていく。
奈々「右手は包丁をしっかり握って、左手は猫の手にして材料をしっかり抑えて」
優衣「こ、こう?」
奈々「そうそう。そしたら、均等になる様に上から垂直に切っていって」
優衣「う、うん!」
緊張しながらだが、優衣の手さばきは中々なものだった、まるで、前までは毎日料理にしたかの様に慣れている。そんな姿を後ろから見た奈々は驚いていた。普通、料理が初めての人は均等に切る事はおろかトントントンとリズム良く切ることすら出来ないはずだが、優衣はいとも簡単にこなす。
優衣「…よし!出来た!…どうだった?」
奈々「…すごいわ。この調子ならすぐに料理できる様になるわよ!」
優衣「エヘヘ〜」
優衣は上を向いて奈々に自分の出来栄えを確かめる。奈々がそれに対してあたまを撫でながら褒めた。優衣は気持ち良さそうに、目を細めてそれを受け入れる。
それからは、奈々が教えた事に忠実に従っていき、どんどん技術を吸収していく、身体が覚えている事を思い出していくかのようにーー
***
奈々「よし、あとは煮込んで、お父さんの帰りを待つだけよ!」
優衣「うん!」
優衣は取り皿を棚から人数分取り出して、居間の卓袱台に持って行く。そんな時に丁度、良太が家に帰ってきた事を知らせる玄関の戸を開ける音がする。優衣と奈々は顔を向けあい、優衣はパァっと笑顔を見せてから、玄関の方へ駆けていく。
優衣「お帰り!」
良太「ぐえっ!た、ただいま…」
良太が家に上がる為に草履を脱ぐ為にしゃがみこむ。そこに駆けてきた優衣が後ろから首を絞める様に抱きついた。
良太「優衣、ギブギブ…」
良太は首をしめている優衣の腕に手で軽く叩いて、苦しそうに手を解く様促す。それに気づいた優衣は手を解いてから離れて腰の後ろに手をまわしてから「ごめんなさい!」と謝ると、良太が頭を撫でながら「大丈夫だ」と受け答えをした。
優衣「今朝のことだけど、上手くいったよ!」
良太「そうか!そいつは良かったな。」
優衣は良太に、大成功と言わんばかりの笑顔を向けながら料理のことを報告した。良太は今朝話したことが上手くいって良かったと思いながら、優衣の頭を撫で続けた。そこに奈々も玄関に現れ、2人の姿を見ながら微笑む。
奈々「お帰りなさい!」
良太「ああ、ただいま。実はな、2人にお客さんを連れてきているんだ」
奈々・優衣「お客さん?」
奈々が霊華が来たと思い、優衣は霊夢が来たと思っていた。しかし、良太のその呼び方には疑問があったのか、2人は首を傾げた。霊華と霊夢なら2人とも知っているから、普段通り呼べばいいのにと…
良太「2人とも入って来てくれ」
玄関の外にいるお客さんを良太が呼ぶ。ガラガラっと音を立てて玄関に2人の女性が入ってきた。
慧音・紫「こんにちわ、お邪魔します」
優衣「あ!ゆかーーっんぐ!」
紫が慌てて優衣の口を手で塞いだ。勢いよく伸びた手は優衣の口から出る言葉に対して寸での所で止めることが出来たが代償にパァンといい音が鳴った。
慧音「紫、知り合いなのか?」
紫「ち、ちょっとね…」
紫は慧音の問いに半目になりながら答えて、優衣の方に振り向く。
紫「優衣ちゃん、私と会ったことは内緒にしてて、話は私に合わせて欲しいの」
紫が優衣に小声で話す。優衣はそれに対して小さく頷いた。それに安堵したように、紫は優衣の口から手を離してあたまを撫でながら、謝る。
紫「ごめんなさいね、痛かった?」
優衣「ううん、ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよ」
優衣と紫の行動に呆気に取られた良太と奈々は目が点になって状況を理解しようとしているが、?しか出てこない。
紫「この子ことは、霊華から聞いてるのよ、私は人里でお使いしてるこの子にお店の場所を教えてただけよ」
ね、優衣ちゃん?と紫は優衣に顔を向けた。
優衣「う、うん。道で迷子になってた所を紫おねーちゃんに教えてもらってたの」
優衣が両親に向かって、表情を作りながら、2人は知り合いだと話す。そこで漸く、ハッとなる奈々。
奈々「そ、そうだったの?ごめんなさい、うちの子がお世話になったみたいで…」
紫「別に構わないわ、素直なとてもいい子でしたから」
紫が優衣の頭にポンっと手を乗せて、奈々たちにそう言うと、優衣は少し恥ずかしそうに「えへへ〜」と頰を染めながら、笑顔を見せる。
良太「まあ、とりあえず…自己紹介しないか…?」
未だに状況が読み込めない、良太は慧音と紫に自己紹介するように促した。紫たちは奈々と優衣に2人並んで向き直し、自己紹介をした。
紫「私は、八雲 紫よ。慧音の仕事のサポートをしてるわ」
慧音「私は
奈々「初対面ですけど、慧音さんのことは、人里の噂と霊華から聞いています。とってもいい、先生だとか」
軽く2人と握手を交わした奈々は、どうぞと2人を居間に案内する。丁度、晩御飯も出来る頃なので、2人に食事を誘った。
奈々「折角ですから、夕飯を一緒に如何ですか?あの人、お客さんなんて滅多に連れてこないから…」
紫「お誘いは有り難いけど「私も手伝ったんだよ!」…頂きます…」
慧音「フフッ、紫はあの子には甘いのだな…。そうだな、私も厄介になっても構わないか?」
奈々「もちろんです!」
優衣が紫の膝下に顎を乗せて、丁度膝枕のうつ伏せの様な体勢になりながらニコニコした笑顔で紫の言葉を遮った。紫は優衣の顔を見て、遠慮したらこの子が悲しむと咄嗟に判断し、誘いを受けた。それを慧音が珍しい一面でも見るかの様に見つめ、口を覆い失笑する。