「緑谷少年、怪我の方は大丈夫かい?」
「あ、オールマイト…はい、大丈夫です」
緑谷出久は保健室でオールマイトと会話をしていた。だが…他の人からすれば、そう言われてもまず信じないだろう
なぜなら今、緑谷に語りかけているオールマイトは、頰がこけ、ガリガリで、青白い肌色をしている。まるでガイコツのようなその姿は、筋肉オバケのオールマイトと同一人物だと言われても信じられない
しかし、この弱り切った貧弱な姿こそオールマイトの本当の姿。(普段は個性を使って膨張している)
そしてその数少ない秘密を知っている緑谷こそが……オールマイトの他者に譲渡できる個性「ワン・フォー・オール」を受け継いだ人間、平和の象徴の後継者なのだ
「ジョバァーナ少年は?」
「ジョルノくんは…すでに行きました。リカバリーガールに治療してもらって…」
それだけ言うと、2人の間に重々しい沈黙が流れる
「あのッ!」
話を先に切り出したのは緑谷だ
「最後にあいつ……死柄木が言ってたことって本当なんですか?DIOの子供って…」
緑谷の質問にオールマイトは黙りこくる。少し考え込んでから口を開く
「ジョバァーナ少年からはまだ話すら聞いていない……でも
「!! き、記憶って…」
「以前見せた古傷…」
オールマイトは白いシャツを捲り上げる。そこには痛々しい手術痕が左脇腹と
「どこから話したものか…緑谷少年、君は20年前のDIO捕獲作戦を知っているかい?」
「はい。DIOが世界的に危険なヴィランだって認知された事件…エンデヴァーをはじめとした日本有数のヒーローも参加したけど、誰1人DIOの元までたどり着けず、作戦は失敗。大規模かつ強大な組織をまとめ上げるカリスマとたやすく人の命を奪う残虐性を危険視されたんですよね。でも、その作戦ってオールマイトは参加できなかったんじゃあ…?」
疑問符を浮かべる緑谷に対し、オールマイトは中腹部の手術痕をさすりながら答える
「私の衰弱を決定づけたのは5年前つけられた左脇腹の傷だ。だが、きっかけとなったこの腹の傷は…DIOによってつけられたものだ」
「えっ!?」
20年前……ヒーローデビューしてだいたい4、5年は経った年の事だ
当時、ある凶悪ヴィランを捕まえた時に発覚したDIOの存在、そしてエジプト・カイロでの連続失踪をきっかけに、徹底包囲網によるDIO捕獲作戦が実行された
だが、私を除いたヒーローや警察関係者はカイロにたどり着くことすらできなかった。はっきり言って我々は敵を侮り過ぎたのだ。唯一、ヤツの根城までたどり着けたのは私だけだった…
カイロについた私は、翌日に備えて宿をとった……そしてその夜、部屋に向かうまでの階段の上にヤツはいた
心の中心にしのびこんでくるような凍りつく
直感的にだが理解した…
『君は…普通の人間にはない特別な“個性”を持っているそうだね?ひとつ………それをわたしに見せてくれるとうれしいのだが』
ヤツを本当に恐ろしいと思ったのはその時だった
ヤツが話しかけてくる言葉はなんと心が……やすらぐんだ。危険な甘さがあるんだ。だからこそ恐ろしい!!
私はすぐさまDIOに攻撃をした。だがヤツは悠々としており、拳が命中する瞬間、ヤツは姿を消した。瞬間移動の個性か?私はすぐにそう思い、背後に感じた気配を頼りに腕を振るった
しかし、ありのまま、あの時、起こった事を話すならば……私が振り返った時には、すでに巨大な握りこぶしほどの穴が腹に空いていた。
私は恐怖に震えた。攻撃したそぶりもなければ身じろぎひとつすらしてないにもかかわらず、私はDIOに膝をつけられていた
頭がどうにかなりそうだった…個性だとかどうとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を、味わったのだ…
「その後、なんとかヤツに1発ブチ込んで両腕を砕いてやったものの、重傷を負った私は逃げるように撤退した…私はDIOに、わけもわからぬまま敗北したのだ」
「オールマイトが、負けた…?」
信じられないように緑谷はつぶやいた。それほどまでに彼の中でオールマイトは最強の存在だった。そのオールマイトをたやすく再起不能寸前まで追い込んだDIOの強さに震える
「緑谷少年。君はジョバァーナ少年の事をどう思っているのだ?」
「ジョルノくんを…」
「私は、正直に言えば恐ろしいのだ。たしかに彼は君と同じように……
あまりの情けなさに空笑いもできないオールマイト
「ジョルノくんはヴィランになんかなりません」
「…緑谷少年?」
そんな、憧れであり今は師匠でもある男の想像以上に弱気な姿を見た緑谷は、オールマイトの目をしっかりと見る
「僕はジョルノくんが普段考えてる事も、彼の血筋も、DIOの
緑谷はオールマイトの笑顔で救けるカッコよさに憧れた。ジョルノは自分を救けてくれた男の誠実な行動に憧れた
『
でも
「友だちだから」
「あッでも!僕が勝手に友だちって思ってるだけで、ジョルノくん自身が友だちって思ってるかはまた別の話で…あの!その!」
意志の強い姿勢から一転、急にわたわたおどおどし始めた弟子の姿を見て、オールマイトはフッと笑った
(お師匠……私の弟子は想像以上に強いかもしれません。肉体が、ではなく、その「精神」が……)
今は亡き師を思い浮かべながら、彼はそう思った