『ジョルノの母親』はとても美しい女性であったけれども、決して良い母親ではなかった
海外でジョルノを産んだ母親はその後、日本に住んでいたが
「子供ができたからって、自分の自由がなくなるなんてまっぴらだわ」
そう言って、幼いジョルノを置き去りにして彼女は、よく夜の街に遊びに出かけた
寝ていて夜、目を醒ますと母親が家にいない。1〜2歳の子供にとってそれは、どんな恐怖と絶望なのだろう………ジョルノは暗闇の中で泣いても無駄なので、ただひたすら震えていただけだった
ジョルノが4歳の時、母親は結婚した。相手はイタリア人で、日本に住んではいたが、以後、ジョルノはイタリア人となった
しかし、この男は母親の見ていないところで、よくジョルノを殴りつけた!
「人の顔色ばかりチラチラのぞきやがって、イラつくガキだぜ!」
これは逆だった……他人の顔色ばかりうかがう性格にしたのは、明らかにこの男が原因だった
そしてジョルノのこうした態度は、街のガキどもが鬱憤を晴らすのにもっとも好まれる性格だった。いじめにいじめ抜かれた彼は、自分がこの世のカスだと信じるようになり、このままではジョルノが心のネジ曲がった人間に育っていく事は、誰が見ても明らかだった
しかし、ある事件がキッカケで、ジョルノは救われる事になる───
「0P敵だァアアア───ッ!!」
「あんなデカイなんて聞いてないぞォ──ッ!!」
「チクショー、逃げろ!!!」
0P敵は想像以上に大きく強大で、その姿を見ただけでほとんどの受験生が敵わないと察して逃げ始めた
「クソッ、まだロクにロボを倒せてねェのによーッ!!」
試験継続が困難になるレベルの0P敵の登場に鉄哲は焦りを感じた。しかしここで逃げる訳にはいかない、ヒーロー科に入れないと逃げはしないが、同時にあれほどの巨体で踏み潰されれば死ぬのではないかという恐怖で前に進めもしなかった
「ど、どうすれば…!」
進む事も退く事もできず立ち往生する中…
ダッ!
ジョルノは0P敵の方へ唐突に走り出した
「な、なんだとォォー!!?」
それが鉄哲には自殺願望に見えて他ならなかった。硬化系の“個性”を持つ自分でさえ死の危険があるのならば、ジョルノが踏み潰されれば間違いなく死ぬ!
だというのに、鉄哲はジョルノに追従するようにすでに走り出していた
(何をやってんだよォー俺はッ!?)
自分の衝動を理解できない鉄哲だが、ジョルノが立ち止まった先でそれ以上の衝撃を見る
「君、大丈夫ですか!」
「ウゥ……ふ、不覚です…」
それは逃げ遅れた受験生だった。キリストのイエスのような清さを感じさせる女子生徒で、“個性”によって生まれつき変質していた茨の髪の大部分と左足が瓦礫の下敷きになったため姿勢を崩し、動けないでいた
(まさかッ!
やがて鉄哲が辿り着くと、ジョルノはゴールド・Eを呼び出して瓦礫を砕く
「無駄無駄無駄無駄!」
瓦礫がコナゴナに砕けると半分の髪が動けるようになった茨の女子生徒は、その半分の髪で残りの瓦礫をどかした
「ありがとうございます。救けていただいて感謝します…」
「悪いけど時間がない。…君に頼みがあります」
「アンッ?」
唐突にそう言われた鉄哲は疑問符を浮かべるが、ジョルノは気にせず言う
「君には彼女を連れて先に逃げてほしい。左足首が捻挫しているんだ。茨の髪で移動する事もできるだろうけど、彼女の疲労具合を考えれば遅くなる。君が適任なんです」
「はぁ!?なんで…」
「この試験には
鉄哲は抗議しようとするが、ジョルノが被せて言った言葉に耳を疑った。女子生徒も同じくだ
「おそらく人を救けたりすれば得られる…名付けるなら「レスキューP」といったものが……この試験がヒーローの素質を見る試験なら、むしろそっちが重要だ。君が彼女を連れて逃げれば充分合格圏に入れると思う」
「ほ、本当にそんなモンが…!?」
この時、鉄哲の中にジョルノを疑うという発想はなかった。根拠が薄いのにハッキリと断言するジョルノの姿には、信じるだけの何かがあったのだ
「でもなんで俺だッ!!お前の使ってる幽霊で運ぶ事だって出来んだろーがッ!!まさか物持てねーのかよ!!」
しかし鉄哲はバカではない。ジョルノの『ゴールド・E』の方がはるかに適任だということが分かっていた。だから鉄哲がそれを聞くと、ジョルノは数瞬黙ったあと、真っ直ぐ鉄哲の目を見た
「このジョルノ・ジョバァーナには『夢』がある」
「ゆ、夢?」
唐突に語るジョルノに首をかしげる鉄哲。ジョルノは鉄哲たちに背を向け、0P敵を見る
「ぼくは必ずヒーローになって夢を実現させる……その為にも、
「!!」
鉄哲はジョルノに対する認識が間違っていたと痛感する
自分の信じるものの為に強大な敵だろうと立ち向かうジョルノ……それは鉄哲の知る限り、誰よりもヒーローに近い背中だった
「待てジョルノ!!」
だから鉄哲はジョルノの名前を叫んだ
「あんなデッケェーのをお前だけでどうやって倒す気だよ!俺にもやらせろッ!0Pを一緒にやればよォ〜、結果的に救けることになるから「レスキューP」ってのも狙えんだろッ!!」
「…「レスキューP」に関してはぼくの推測でしかない。それに君の勝手な行動で彼女を危険に晒すわけには…」
「私もお伴します」
2人を危険から遠ざけようと鉄哲を説得するジョルノを止めたのは、救助した女子生徒だった
「私の“個性”は“ツル”。貴方達の救けようとした心に報いたいのです。手伝わせてください」
「そういうことだ!今更NOなんて言わせねェ!」
「……全く君達は…」
ジョルノは柔らかい表情で微笑んだ。彼と彼女の気持ちを信じることに決めたのだ
「俺の名前は鉄哲 徹鐵!徹鐡って呼べ!!」
「
「ジョルノ・ジョバァーナ。徹鐡、さっき君に言った頼みの内容を変えさせてもらいますッ!!」
即席チームを組んだジョルノは、2人に作戦を伝える
すると鉄哲、ジョルノ、塩崎の順で列を組み、0P敵と相対する。0P敵が3人を捕捉し、巨大な腕を振り下ろす!
「来ます!!徹鐡ッ!塩崎ッ!
「おう!!」
「覚悟は決めましたッ!!」
迫り落ちてくる鉄の塊、しかし3人に恐怖はなかった
「『ゴールド・E』!!」
ジョルノは『ゴールド・エクスペリエンス』で近くの壊れた仮想敵の残骸を叩く。そしてゴールド・エクスペリエンス越しにエネルギーを流し込む
「生まれろ…生命よ…生まれろ、新しい命よ…」
ドクン ドクン ドクン ドクン
『ゴールド・E』が流したエネルギー…生命に満ちたそれは残骸中に循環する
グオオオオオ
やがて鉄クズは金属の硬度と光沢をなくし、生命に満ちた十数本の巨大な樹木に変化する
「ほ、本当にロボットが『樹』にッ!!」
「なんと神秘的な…」
それを2人が見ている中、樹木は螺旋状に伸びていき巨大なバネを形成する。樹木のバネが0P敵の拳とぶつかり合い、樹は折れることなくバネを小さくしていく
「トネリコの樹は幹は細いが弾力がある。枝がテニスラケットの素材に使われることからその有用性が理解できる……」
しかし、トネリコの螺旋樹木は勢いを弱めるだけで動きを完全に止めることはできない
「だがいくら樹を重ねても、これほどの硬さと質量の物体を止めることはできない……だからこそ「彼の存在」が必要だッ!」
「来いやぁぁぁっ!!!」
全身を“スティール”で硬化させ、塩崎の“ツル”のクッションに乗り鉄哲は衝撃に備える
ガッギイイイインッ!!
「ゴァッ!!?ぐ、ぐ、ぐぅぅぅ…ッ!!」
『1番の要は徹鐡、君の「能力」だ。ぼくや塩崎の“個性”ではあの質量から来る攻撃を防ぐ事は決して出来ない。全ては君にかかっているッ』
「こんッ、じょオオォォォォッ!!」
自分を信じて作戦を立ててくれたジョルノの気持ちに応えたい。その一心で鉄哲は雄叫びをあげて踏ん張り続ける
ガギィィ……
根性で耐え続けた鉄哲は、0P敵の拳を止め切った
「いきます!ジョバァーナさん!!」
塩崎はすぐさまツタでジョルノを敵の頭より高い位置に移動させると、そのまま空中に放り投げた
0P敵の顔の前を逆さに落下していくジョルノは言う
「ロボットを破壊してて気づいたんだ……どの仮想敵のロボもポイントの高さに応じて胴体や手足の硬さが変わるが、頭部だけはどのロボも1番
ジョルノと0P敵の顔面が、1メートルにも満たない距離に近づいた時
「それは逆に『弱点』となるッ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ!!!」
ゴールド・エクスペリエンスの目にも留まらぬラッシュが0P敵の顔面をグシャグシャに破壊していく。やがてジョルノの推測通り内部にあった発電機もボロボロに破壊され、電力の供給源がなくなった巨大ロボは完全に沈黙した
空中に放り出されたままのジョルノは落下を続け
ガッシィ!
同じようにツタで高所まで登ってきた鉄哲に途中で捕まえてもらった
『終〜〜〜了〜〜〜〜〜〜〜!!!』
直後、ホイッスルと共にプレゼント・マイクの声が試験会場中に響いた
「随分ムチャしやがったな!ジョルノ!」
「…
「おう!」
今度はその言葉がお礼だと分かった鉄哲は、元気にそう返した
『ゴールド・エクスペリエンス』
テントウムシをモチーフにした人型の幽体を操る個性。パワーは人並み(自動車をスクラップにする程度)だが、スピードは他の追随を許さないほど早い。射程距離は10メートル(でも基本的に2メートル以内を維持する)
生命を作り出す能力があり、手で触れた物に生命エネルギーを流す事で動植物を生み出す事ができる