「こ…氷で「坂」を「作った」のか……しかも勾配50°以上はある壁と言って過言でもない坂を…その上をまるで『下り坂』を下るようなスピードで…」
「駆け上がってきているッ!!」
ジョルノが高い場所に逃れようとしたのは、追撃してくる敵を限定させる為だ。仮に道を作ったとしても、樹木の周りをグルグル回る螺旋構造の階段でなければ激し過ぎる傾斜で走る事すらままならない…そう考えていた…
「『エンジン』にこれほどのパワーがあったとはッ!最短距離で突っ切ってくるぞ!」
(木の中へ逃げる事はできない…轟の氷結で樹木ごと拘束されればポイントは確実に取られる!!ならばっ…!!)
ジョルノは穴から天辺の木の幹まで移動して、凄まじいスピードで上ってくる轟たちを見下ろす。それを確認した轟が呟く
「真正面から迎え撃つ気らしいな…」
「説明した通り!レシプロバーストは無理やり「エンジン」の回転を上げて普段以上のパワーを得る捨て身の技…10秒しか持たない上、脚がオーバーヒートして当分「エンジン」が使えなくなる…!!」
脚部のマフラーから出る煙に黒煙が混じる
「残り3秒ッ!!必ず取れよ轟くんッ!」
「ああ…!!」
静かな、しかし「取ってやるッ!」という確かな気持ちがにじみ出た返事をすると、轟はジョルノの動きに注視する
(あと3秒…)
距離が近づく
(2秒…)
ジョルノは微動だにしない
(1ッ)
ドォン!
「ハッ」
その時、ジョルノがゴールド・Eを呼び出して……樹木の幹の端をパンチで砕く
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
木屑が飛び、木粉が煙のように舞い散る
(煙幕か!?しかし距離は十分近づいている!隠れていようがおまえの『位置』は完璧にわかるッ!)
「
雄叫びと共に右手が頭部に伸び…
カッ!
瞬間、まばゆい光が轟たちの目に焼きつく
「うおあ……!?」
条件反射で目をつぶってしまった轟チーム
それが、勝負の分かれ目となった
「無駄───ッ!!」
「がッ…!」
最小限のコンパクトな動きから放たれた一撃が轟の右頬をすれ違いざまに殴り抜けた
殴られた痛みに呻き声をあげながらも、轟はうっすらと開いた目で光の正体を理解した
(『日光』…!
「轟さん!?」
八百万の驚く声が空に響く
しかし、騎馬の加速を止める術はなく、引き返すこともできない…最後の攻撃は失敗に終わった
バン!
「創造」であらかじめ作られていたパラシュートが開き、樹木を飛び越した轟チームはゆっくり落下していく
(何故だ…何故俺は…ジョバァーナに勝てねえ…)
轟の心を支配したのは、父親に勝てない時の憎悪と怒りではなく、やるせない敗北感だけだった…
一方、ジョルノも、度重なる連戦により大きな消耗を強いられていた
「ハァー ハァー …まだだ……!ぼくが「同じ立場」ならば、このタイミングこそが最良だ…!ぼくが1番消耗していて、ハチマキを取り返す時間がない、最初で最後の今こそが…」
ガシッ
すると樹木の幹に、影のような巨大な手がひっかけられ…
「───君たちの狙った好機っ!!」
麗日を除いた3人を『無重力』で浮かして、『
「ジョルノ・ジョバァーナ───ッ!!」
すると心操がジョルノに向かって大声で叫んだ。「洗脳」の“個性”をかけるために
ジョルノに対する挑発の言葉はいくつも考えていた。ジョルノがDIOの息子である(相澤とミッドナイトの反応からそう判断している)事やヴィランの子供がヒーローを目指す事、奇妙な髪型の事も含めてだ
だが、そのどれを口にしても、確固たる意志が強く、数少ない判断材料で「洗脳」を見破るかもしれない知能を持ったジョルノが、口を割るはずがないと心操は奇妙な確信をしていた
(『返事』をさせりゃあ良い!この、見ててムカつくほどまっすぐなコイツに『返事』をさせる言葉は…!)
ぐるぐると頭の中がかき回る錯覚に陥りながら…心操は大きく喉を震わせる
「俺と勝負しろオオ───ッ!!」
それは、味方である緑谷たちもすくみ上がるほど、積もり積もった感情のこもった叫びであった
「いいだろう…ヒーロー科も普通科も関係ない…」
そして、その言葉に…
「倒させてもらうッ!」
ジョルノは応えた
ドクン
「! 止まった!「成功」したッ!『ハチマキを外して、緑谷に渡せ』!!」
「今だ…常闇くん!」
「投げろ、
『アイヨ!』
騎馬から無重力状態の緑谷を「
(いける!!取れる!!)
ハチマキを奪うべく緑谷は左手を伸ばし
「!!」
「な…!?」
「バカなッ!」
「ウソ…!」
ドオオン!
「何イイイイ──────!!?」
直後、心操の絶叫が木霊した
なぜなら、動けないはずのジョルノの隣に、緑谷に殴りかかろうとするゴールド・エクスペリエンスが現れたのだから
(ダメだ…!緑谷は直進している!緑谷に「ゴールド・E」の拳はかわせない!)
(俺の「洗脳」が効かない奴が…この世にいるなんて…)
(デクくん!!)
各々が作戦の失敗を悟る…だが、緑谷だけはまだ諦めていなかった
(自力で「洗脳」を解除した!?イヤ違う!!入学してから今日まで見てきた、『ゴールド・E』の発動に肉体的キッカケはいらない…「精神力」で動かすんだッ!でもあんな、頭の中にモヤがかかって、体1つ動かせない状態で能力を使うなんて、なんて精神力なんだ…!!)
弓を撃つように右腕を引き絞り、テレフォンパンチが目にも見えぬ速さで放たれる
「ウオオオオオオオオオ!!」
緑谷も「
「無駄ァ!!」
顔を横に倒すも『ゴールド・E』の拳は正確に狙いを定め
カッ!
…その時、顔を傾けていたことで隠れていた太陽の光が、ゴールド・Eを通して相手を見ていたジョルノの視界を白く塗り潰す
ヂッ
「オラァ!!!」
バキャァ!
「ガ…!?」
『ゴールド・E』のパンチは緑谷のハチマキにかすり、逆にカウンターの一撃が命中し、ダメージのフィードバックを受けたジョルノの意識を一瞬だけ刈り取る
先ほど轟の攻撃を凌ぐことができた日光…それが皮肉にも『ゴールド・E』の拳が外れる結果を生んだのであった
ガッ
緑谷が1位のハチマキを掴むと、常闇が
「いくよ!」
麗日が指先の肉球を逆の手にもある同じ指の肉球同士触れる事で個性を解除
ギュン!
『ウオオオアアアアア〜〜〜〜〜〜〜!!!』
緑谷チームは上空50mから落下した
ピトッ フワァ
そして樹木を半分以上落ちたところで再び肉球で3人に触れ、無重力状態にした事で、4人がつぶれたザクロのように地面に落ちる事を防ぐのだった
「し、心臓に悪い…!」
「作戦を立てたのはおまえだぞ緑谷…!」
「うぷ…個性の反動が…」
「
『アイヨ』
緑谷は下がっていく景色を横目に、1000万Pのハチマキを握った感触に不思議な気持ちが湧く
(なんで勝てたのか僕でも不思議だけど…ジョルノくんに勝ったんだ…「僕が来た!」って、見せられたよ、オールマイト…!)
「なあ、緑谷…」
そんな感慨に浸っていると、唐突に心操が話しかけてくる
「今気づいたんだが…俺らのハチマキは?」
「え…」
指摘された緑谷は頭に手を当てる。そこにはたしかにつけていたはずの緑谷チームのハチマキがなかった
思わず緑谷は空を見上げる
「も…もしかして!」
そして、ハチマキを取られたジョルノは樹木の頂点で座り込み、反省していた
「完全にしてやられた…か。返事をするだけで相手を操る『個性』、緑谷くんの作戦…徹鐡たちには、本当に申し訳ないことをしてしまった…」
そんなジョルノの元に、1匹の白い蝶が飛んでくる。その蝶はジョルノの掌の上に乗るとうごめき…
「あとで彼らに謝ろう…」
『しゅうりょ───おッ!!ラストのド派手な戦いを制し、1000万Pを獲得したのは……いったい誰が予想できたのか!?』
グニュゥゥ…
『緑谷出久率いる、緑谷チ─────ムッ!!』
「心置きなく、戦えるように」
──最後の攻防でかすった時に生命力を流していた緑谷のハチマキが、蝶々結びの状態で戻った
ジョルノチーム──4位通過。持ちポイントは580P
緑谷チーム──1位通過。持ちポイントは10000355P
爆豪チーム──2位通過。持ちポイントは905P
轟チーム──3位通過。持ちポイントは590P
これにて騎馬戦終了!!いやー長かった。マジに長かった。その3くらいで終わらせようとしてたのに倍以上話数が増えたもの…
トーナメントが待ち遠しいですけど、閑話もいくつか挟む予定ですので…それでは、また次回!