「コリント人への手紙 第一 10章13節「神は真実である。あなたがたを耐えられないような試錬に会わせることはないばかりか、試錬と同時に、それに耐えられるように、のがれる道も備えて下さるのである」」
姿は見えないが、手を組み、祈るような所作で聖句を語っていることがジョルノは容易に想像できた
「あなたにとってこの試錬が「立ち向かうもの」か「逃れるもの」かは存じませんが…ひとつだけ確かなことが」
地面に叩きつけられた体を静かに起こす中、塩崎が口を開く
「私はこの試錬から逃れる気は一切ないということです…!必ず勝ちます。あなたに勝つことは…過去の固執した己自身に打ち勝つことだと理解しているからです」
「…少し前の君ならば、決して思いつかなかった策だった…
ジョルノの考え通り、それこそが塩崎の作戦
“個性”の性質上、水と日光があればすぐにツタは伸びる。大部分のツタを切り、成長させることで若いツタに生え変わらせたわけである
「君は自分の過去に勝つと言ったが…すでに君は変わることが『できている』。ぼくは大きなダメージを与えられているわけだからな…」
『ゴールド・E』に戦闘の姿勢を取らせる
「それでも………君に勝つ」
グバァァァ───!
大量のツタ、それが一斉にジョルノに襲いかかる!
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
ドバ!ドバ!ドバ!ドバ!
最初の攻防以上のパワー、そしてスピードラッシュで触手の如くうねるツタを凌いでいくが、その顔色は良くない
(このツタの量…キリがない!しかも絶え間なく襲ってくるぞ!ツタをちぎったりする隙がないッ!この
徐々にステージの端に追い詰められていくジョルノ
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
次に迫るツタ…色は緑色!
(! これは普段のツタの色!つまり!)
「無駄ァァァ!!」
危機的状況でも判断力を失っていないジョルノは、生命力に満たされたパンチでツタを殴る
しかし!
ビュォ!
「なに!!」
殴る直前、真新しいツタが新緑のツタをかばうように前に出る
ピッタァァァァ…
急ブレーキをかけた車のように急停止するゴールド・Eのパンチ。これで少なくとも、敵に塩を送るような事態は避けられた
だが、敵の攻撃が止まったわけでは決してない
ドゴォ!
「グッ…!」
2度目の痛烈な強打がジョルノを襲う
若葉のツタは細く柔らかい。ゆえに先ほどよりは強くない一撃だが、決して弱い一撃でもないのだ
「あなたを気絶させるのは難しいですが、捕まえてここから追放すれば問題ないでしょうッ」
ズシャァァ
倒れずに大地に足を踏み締めて踏ん張る。そこに追撃が来る
「「
文字通り、相手を磔にするツタがジョルノを捕らえた
バキャァアア
…誰もがそう思った瞬間だった
「……!」
(地面を砕いて、石つぶてをツタの中に…!)
『ゴールド・E』が拳で砕いて出来た大量の石を握りしめて浮かび上がる。すると、ステージ全体に広げられたツタの網…ちょうどジョルノと塩崎の中間にあたるツタの部位に向かって、満遍なく石を放り投げた
そしてその石は…オレンジと黒の派手な体色をした小さな虫に姿を変える
「こ、これはッ!?」
「『ミイデラゴミムシ』…いわゆるゴミムシの一種なんだが、この虫の生態には1つの特徴がある」
ブブブブブブッ
成長し切ったミイデラゴミムシは腹部に当たる部分を勢いよく振動させて……腹の後ろから
「それは高温の「ガス」!!例えばカエルなどの外敵から攻撃を受けると、過酸化水素とヒドロキノンの反応によって生成した、主として水蒸気とベンゾキノンから成る100℃以上の気体を爆発的に噴射する!そして生命エネルギーで最大まで成長したその虫は、それ以上に高い温度のガスを放てる!」
ブブブブ…ボッ!
「ハ!」
「植物ならギリギリ発火する温度だ」
直後、ミイデラゴミムシはジョルノの意思を感じ取り、ツタに向かってガスを噴出する!
ボォオオオ!
『ファイアァアアアア!!追い詰められていたはずがジョルノ・ジョバァーナッ、逆にツタを燃やして形成を逆転した───!!』
「その位置ならば、ツタをすぐ切り離せば炎は君に届かない。かつ、ツタへのダメージが最大限に発揮される…これで君の能力は封じた」
シュバァァ
「!」
ギュゥウウウ…
しかし、塩崎は冷静に燃え盛るツタを一箇所に束ねる。それを地面に押し付け、さらに先端のツタを隙間なくドーム状に集めると炎に被せて圧迫し始めた
『おおっとこれはァ!?まさか炎の消火を試みてるのか!?』
『隙間のないツタを覆い被せることで酸素のない密閉空間を作ったのか。炎は強く燃えるほど燃焼が激しく、酸素の消費がそれだけ多くなる。植物系統の“個性”は総じて炎熱系の“個性”に弱い…その弱点に対する克服の答えがこれというわけか…』
相澤の言う通り、ドームの中の炎は、あれだけ大きかったにもかかわらず…否、大きく激しい炎だったからこそ、すでに火種程度にまで鎮火していた
無傷ではない。痛手ではある。しかし、それでも全体の三割程度のツタしか焼け落ちてない姿を見れば、ダメージをかなり抑えられたのは明らかだった
「弱点の対策は…無論しています。私自身に降りかかった火の粉を払う程度ならば、ですが」
ビュォッ
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
ドバァァ
「く…!無駄無駄無駄無駄!!」
再び激しい攻撃を受けるジョルノは必死に抵抗するも…
ザリッ
「…………!」
とうとうステージの端まで追い詰められた
「あなたがどんな行動をしようと、必ず私のツタがあなたを掴み、そして即座にこの
掴み、投げる。その二手で塩崎の勝利は決定する
「『チェック』です、ジョルノさん…もう逃げることはできませんよ」
………ゴクリ
観客の誰もが固唾を飲む中…ジョルノは静かに語る
「いいや…茨。それは違う」
「…どういう意味ですか?」
「逃れられないのは君の方だ…すでに君はチェスや将棋でいう「
シュルル
「え…?」
その時、塩崎の首に冷たい『何か』がピッタリと巻きつく。長い体をくねらせて目の前で舌をチロチロと出すその存在を見て、塩崎は目を剥く
「まさか…「ヘビ」!?な、なぜヘビが私の」
「動くな!!」
いきなり現れて首に巻きついてきたヘビに混乱する中、ジョルノに一喝されて動きを止める
「もし少しでもツタを動かしたりヘビを引き剥がそうとする素振りを見せれば、即座にヘビが君の頸動脈を押さえて意識を奪う…」
「うう!」
「さあ、最後まで抵抗を試みるか、降参するのか…選ぶのは君の自由だ」
完全に逆転した状態で、先ほどの塩崎のように『詰み』を突きつけるジョルノ
塩崎は考える。考えて、考えて、考えを巡らせて…
「………まいりました。降参いたします」
「ベネ(良し)」
出した答えは「打つ手なし」であった
『…ウオオオオ!!めっちゃキンチョーしたー!というわけでッ!頭脳戦を制してファイナルラウンドへの切符を手にしたのはジョルノ・ジョバァーナだァアアア───!!』
パチパチパチパチパチ
静寂を破るプレゼント・マイクの絶叫に、観客席から拍手が上がった
ステージ上で塩崎がツタを縮めて腰ほどの長さまでに戻すと、ジョルノもゴールド・Eに指示を出してヘビを操り、手の上に乗せると元の物体に戻す
「! それは、私のツタ…?」
そう、ヘビは塩崎のちぎれたツタに生命力を注ぎ込んだ結果、生まれた生命だった
それを見て、塩崎は気づく。試合の序盤、ジョルノがちぎったツタを握りしめてツタの盾を殴った時、無理やり引き抜いた腕の中に握られていたツタは存在しなかった…
「そうですか…あの時すでに…」
「“個性”を考えれば、君を場外にすることは不可能に近い。だから君自身を戦闘不能にする必要があるわけだが、そうすると今度はツタの物量を乗り越えることが困難だった。だからぼくそのものを囮にして、ヘビを君のそばまで近づかせようと元々考えていたわけだが…正直、君が自分の能力をぼくの能力の天敵にしてくるとは思ってもいなかった。いかに攻撃を耐えるかが重要だった…」
説明が終わると、ジョルノは会場を後にしようとする
「ジョルノさん!決勝、頑張ってください!徹鐵さんと応援しています!」
「グラッツェ」
礼を口にしてジョルノは去っていく。塩崎もステージから出ようとした時、ふと花の香りが背中…正確にはツタから漂う
ツタを動かして見てみると、高温のガスで焦げていたはずのツタがツヤのいい濃緑に輝いており、さらにその上に紫と白の花、紫のオダマキが咲いていた
思わず塩崎は友が去っていった道を見る。そして、慈母のように穏やかな笑みを浮かべ、つぶやいた
「本当に、慈愛に満ち溢れた人です」
ジョルノ・ジョバァーナ──決勝進出
塩崎 茨──敗北