ダンジョンで妖精王に出会うのは間違っているだろうか   作:さなわかた

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3話 情けない!

「……ん」

 

 僕は、いつも通り早い時間に起きた。隣を見ると、神アルテミス様が幸せそうに寝ている。そう、僕は神様と1つのベッドで一緒に寝ている。僕たちのホームである廃教会の地下にはベッドが一つしかないから、もともと僕がソファーの上で寝て神様一人でベッドで寝てもらおうと思っていたけれど、神様がそれでは僕が辛いだろうから一緒に寝ようって言ってきたんだ。それでも僕は断ろうとしたんだけど、神様が、ベル…ダメ?と上目遣いで頼んできたんだ。そこまでされてしまっては僕は断ることができない。だからこうして一緒に寝ている。僕は、神様を起こさないようにそっとベッドから出た。今日で何回目だろうか?だいぶ上手に出られるようになった。それじゃあ、今日もダンジョンに行くとしよう。あの人に振り向いてもらえるぐらい強くなるために。

 

「神様、行ってきます!神様も郊外でのモンスター討伐頑張ってくださいね」

 

 僕は小さな声でそうつぶやいてダンジョンに向かった。

 

「見つけた…私のオリオン…。ふふっ」

 

 神様がそんなことを言ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅぅぅ~」

 

 僕のお腹が鳴った。そういえば朝食食べていなかったな。僕はとぼとぼ歩きながらへそのあたりをさする。このままではダンジョン探索に集中できそうにない。僕の昨日とさっきまでの決断はなんだのか?本当に情けない。仕方がないから、とりあえず朝食を食べてから行こう。

 

「・・・・ッ⁉」

 

 ばっ、と振り返る。

 立ち止まって、自分の背後を見たが誰もいない。

 

 嫌な感じがする。誰かに視られた感じだ。それも僕の心を無遠慮に覗き見して、まるで物を値踏みするかのような視線。しかしどこを見ても不審な影などは見当たらない。おかしいな…。僕の勘違いかな…?

 

「あの・・・」

「ッ!」

 

 後ろからのかけられた声にすぐさま反転して、身構えた。のだが…。

 

 そこにいたのは薄鈍色の髪をしたヒューマンの少女だった。

 明らかに無害な一般女性に僕はなんて真似をしてしまったんだ…!

 

「ご、ごめんなさい!びっくりしちゃって、つい…」

 

 僕はすぐさま謝った。

 

「こちらこそ驚かせてしまって、ごめんなさい。それで、あの…これ、落としましたよ?」

 

 彼女は悪くないのにもかかわらず、律義に謝ってきた。そして、出してきた手にあったものは魔石だった。

 

「魔石?昨日全部換金したはずなんだけど…」

 

 僕はいつもゲットした魔石は腰につけている巾着に入れている。口もしっかり締めているから零れ出ないはずだし、第一魔石は昨日全部換金したはずだ。でも冒険者じゃない人が魔石なんて持っているはずないし…。なんかの拍子に魔石がポケットの中に入り込んで、それが今落ちたのだろうか?いや、きっとそうに違いない。とりあえず、彼女にお礼を言わなきゃ。

 

「すいません、ありがとうございます」

「冒険者の方ですよね?こんな早くからダンジョンに行かれるんですか?」

「ええ、まぁ」

 

 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。

 

「あはは・・・」

 

 わがままな僕のお腹は元気よく鳴った。いきなりのことで彼女はきょとんとしていたが、すぐにぷっと笑みを漏らした。そして、

「うふふ。お腹がすいているのですね。大したものではありませんが」

と言って、僕にお弁当を渡してくれた。気持ちはうれしいけれど、これは彼女のものだ。見ず知らずの僕が受け取っていいものじゃないし、彼女にも大きな迷惑をかけてしまう。気持ちだけもらっておこう。だから、その旨を伝えると、

「気にしないでください。私の方はお店の方が始まったら賄が出ますから。その代わり、今夜の夕食はぜひ当店へ。約束ですよ!?ダメ…ですか!?」

と言いくるめられてしまった。上目遣いまでされては僕はわかりましたとしか言えなかった。どうやら僕は女性の上目遣いにめっぽう弱いみたいだ。

 

 彼女は、豊穣の女主人というところで働いているそうだ。そういえば、まだ名前を聞いていなかった。

 

「僕の名前はベル・クラネルです。えっと、貴女の名前は?」

「シル・フローヴァといいます。今日の夜、よろしくお願いしますね?」

「はい。ではまた、夕食のときに伺いますね」

 

 僕はそう言って改めてダンジョンへと足を進めた。

 

 今日はたくさん稼がなきゃ。

 僕はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンに潜る前にギルドに寄った。理由としては、昨日ミノタウロスと遭遇した時にもらったナイフが壊れてしまったからだ。あの人は槍を使っていたなと思って、僕は槍をもらうことにした。僕もあの人のように強い槍使いになりたい。手痛い出費だが、素手では心もとないし、槍使いになりたい理由ができてしまったから仕方ないと割り切って、槍を買った。槍が壊れてしまった時の予備として一応ナイフも買った。

 

 意外と軽い。これならば僕の強みである敏捷を殺さずに済む。少しずつ慣らしていこう。

 槍を受け取った後、僕はダンジョンに潜り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3層、4層と足を進めていってだいぶ槍に身体が慣れてきた。槍を振り回してゴブリンを薙ぎ払い、槍で突いてコボルトを倒していく。槍はリーチが長いのでナイフよりも楽に攻撃できる。これが槍の長所だろう。事実、単位時間当たりのモンスターの討伐数がかなり多くなった。ただ、僕の槍捌きは完全に素人のものだ。動きが洗練されていない。とりあえず、倒したモンスターの魔石を回収していく。お、ラッキー。ドロップアイテムをゲットできた。しかし、こんなことでいつになったらグロキシニアさんに追いつけるのだろうか?エイナさんは積み重ねが大事だって言っていたけれど…。

 

『ピキピキッ』

「うっ。この数は…」

 

 いきなり壁からコボルトが10体前後出てきた。ダンジョンは生きているとよく聞く。まさにその通りだ。どうやらダンジョンは僕に休みを与えてくれないみたいだ。それでも数が多すぎるっ。だけど。

 

―お願い、ベル君。戦って欲しいっス!-

「や、やってやりますぅぅぅぅぅーーー!!」

 

 僕はコボルトに向かって地面を蹴飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は夜。僕は豊穣の女主人に向かう前に一度ホームに戻った。神様も誘って一緒に行こうかな?すると、1枚の手紙が置いてあった。

『ベルへ。

 今日は少し遠くまで行ってモンスターを狩ってくるので帰るのは夜遅くになると思います。だから、申し訳ないけれど夕飯は一人でお願いします。

神アルテミスより』

と書いてあった。神様と一緒に豊穣の女主人で夕飯を食べたかったけれど仕方がない。また今度一緒に行くとしよう。僕は豊穣の女主人へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここが豊穣の女主人か。朝はまだ開店していなかったから分からなかったけれど結構賑わっているみたいだ。人が多くて入りずらいな。

 

「あ、ベルさん。来てくれたんですね」

「はい。えっと、朝お弁当ありがとうございました」

 

 店の前でなかなか入れず困っていたところ、朝会った彼女、シルさんが声をかけてくれた。シルさんはそのまま店のカウンター席まで僕を案内してくれた。そして、僕が席に着いたとたんに『ドサッ』という音を立てて大盛り、いや山盛りのパスタが置かれた。

 

「あんたがシルの知り合いかい?冒険者ってわりにかわいい顔しているねぇ」

「ほっといてください」

 

 カウンターから体の大きなドワーフの女将が料理を出してきた。僕は小声でそう言いながら、この夕食でかかるお金を数え始める。

 

「これが300ヴァリス、飲み物が200ヴァリス、所持金はドロップアイテムのおかげで4400あるけれどファミリアのためにも蓄えておきたいし槍の分でお金使っちゃったから…『ドサッ』ふぇぇ・・・」

「足りないだろう。今日のおすすめだよ」

「いや頼んでないですって!」

「シルから聞いてるよ。なんでも大食漢だそうじゃないか。じゃんじゃん金を使ってくれ!」

 

 そう言って巨大な魚の丸焼きを出してきたドワーフの女将は厨房へと戻っていった。だいたい僕は大食漢じゃないし…。シルさんなんてこと言ってるんですか!えっと、今日のおすすめは…850ヴァリス・・・。

 

 

「どうです?楽しまれてます?」

「圧倒されています…」

「ふふっ。ごめんなさい。私の今夜のお給金に期待できそうです」

「ヨカッタデスネ」

 

 シルさんは小悪魔か何かかと思えてきた。いや、朝から分かっていたことか…。

 

 ん!でもこのパスタなかなかおいしいな。ふつう、300ヴァリスではこんなおいしいものは食べられないだろう。今度絶対神様と一緒に食べに来よう。

 

 

 

 

 僕がパスタを食べ続けていると、突如十数人ぐらいの団体が豊穣の女主人にやってきた。予め予約していたのだろうか、ぽっかりと開いていた中央のテーブルに座り始めた。入ってきた全員から強者の気風(オーラ)を感じる。道化師(トリックスター)のエンブレムを見て納得がいった。オラリオ三大最強派閥の一つロキ・ファミリアだ。あの金髪の女の子がオラリオで一番人気の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインさんか。周囲の客も彼女に目を奪われているのが窺える。でもやっぱりグロキシニアさんの方が可愛いしかっこいいと思うな。

 

 

「ロキ・ファミリアさんはうちのお得意様なんです。彼らの主神ロキ様がいたくここを気に入られたみたいで」

 

 

 なるほど。ここはロキ・ファミリアの方々がよく来る所なのか。じゃあ、グロキシニアさんたちアテナ・ファミリアはどこによく通っているんだろう。あ、でも確かホームが豚の帽子亭っていう酒場っだったはずだ。今度行ってみようかな。でも行ってどうする?もしグロキシニアさんが接客だったらどうしよう。頭が真っ白になりそうだし、話すこともないし…。でも行ってみたいし、会いたいし…。どうしよう。

 

 

 

 

 

「アイズ、そろそろ例のあの話、みんなに披露してやろうぜ!」

 

 狼人(ウェアウルフ)の青年が大きな声でそう言った。何の話だろう?

 

「帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の一匹、グロキシニアが5階層で始末しただろ⁉そんでほれ、そん時いたトマト野郎の、いかにも駆け出しのひょろくせーガキが逃げたミノタウロスに追い詰められてよ!そいつ、勝てねークセにミノタウロスに歯向かってよ、案の定吹っ飛ばされてんの!そんでグロキシニアが倒したミノタウロスの血を浴びて真っ赤なトマトみたいになっちまったんだよ!」

 

 ・・・ッ!!5階層、ミノタウロス。間違いない、僕のことだ。ロキ・ファミリアの人たちにも笑われている。

 

「それでだぜ。そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまって、妖精王ともあろう妖精(ひと)は助けた相手に逃げられてやんの!情けねーたらねーぜ!」

 

 …僕だけでなくグロキシニアさんまで馬鹿にされている。…僕の所為で。

 

「いい加減にしろベート!そもそも17階層でミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。恥を知れ!それにグロキシニアには逃がしたミノタウロスの討伐を手伝ってくれた。彼女のおかげで犠牲者が出なかったのだ。彼女に感謝どころか馬鹿にするのは私が許さない!」

 

「ああん⁉俺はありのままの事実を言っているだけだ。それにゴミをゴミと言って何が悪い!」

 

 何も言い返せない。…僕にもっと力があれば。

 

「アイズ!お前がもしもあのガキに言い寄られたら受け入れるのか⁉そんなはずねーよな‼自分より弱くて軟弱な雑魚野郎にお前の隣に立つ資格なんてありゃしねー!他ならないお前自身かそれを認めねー‼雑魚じゃ釣り合わねーんだ、アイズ・ヴァレンシュタインにはなー‼()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 ・・・ッ!!!

 

 その瞬間、僕は椅子を飛ばして立ち上がり、周囲の視線も振り払って外に飛び出た。そしてダンジョンに向かって地面を蹴飛ばした。

 

 

 

 

 

 畜生!畜生!!畜生っ!!!

 

 

 

 僕は目から雫を垂らしながら、無様をさらしながら走る。

 

 

 

 

 

 

 あの狼人(ウェアウルフ)の言うとおりだ。

 

 情けない!

 

 グロキシニアさんが馬鹿にされた。それも僕の所為で。

 

 情けない!

 

 それに対して僕は何も言い返せなかった。

 

 情けない!

 

 そして、何もしなくても何かを期待していた。

 

 それが本当に情けない!!自分が許せない!!そして何より悔しい…!

 

 

 

 やらなければ…、何かを成さなければ!そこに立つことさえ許されないんだ!!

 

 

 

 …!ウォーシャドウ⁉初心者殺しとも呼ばれるモンスター。でも関係ない。どんな敵が来ようと今の僕には倒すという選択肢しか持ち合わせていない。グロキシニアさんの隣に立ちたいのなら。こんなところで挫けるわけにはいかないんだ!!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「はぁ、はぁ。こ、ここは何階層だ?」

 

 僕はあれからがむしゃらにモンスターを倒していった。予備で持ち合わせていたナイフはもうボロボロ。僕の身体もボロボロ。もうそろそろホームに戻るとするか。神様怒ってるかな…?

 

「あれ?」

 

 足が動かない。そして僕は倒れてしまった。だんだん意識が遠のいていく。霞んでいくぼくの視界には金髪の少年が映っていた。

 

 

 

 

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